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第四十二話 王都への旅立ち
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近衛騎士が捧げ持つ、国王からの召喚状。その厳かな存在感が、【ノアの箱舟】の穏やかな空気を支配していた。店内にいた客たちは、ただ事ではないと察し、息を殺して成り行きを見守っている。
「……分かりました。お受けいたします」
ノアは、一瞬の戸惑いの後、静かに、しかしはっきりと答えた。ここで断れば、王命に背くことになる。それは、この店や街そのものに、王家の矛先を向けることになりかねない。それだけは、避けたかった。
「賢明なご判断です。では、一週間後に出立の準備を。王都からは、正式な迎えの馬車を差し向けます」
近衛騎士はそう告げると、再び恭しく一礼し、店を後にした。彼の姿が見えなくなると、店内の緊張の糸がぷつりと切れ、客たちの間で大きな動揺が広がった。
「ノアさんが、王都へ……?」
「おい、本当なのか!?」
その日の夜、店の二階にある居住スペースでは、緊急の作戦会議が開かれていた。テーブルの中央には、国王の印が押された召喚状が置かれている。
「どう考えても、罠だ」
ルナが腕を組み、厳しい表情で切り出した。
「勇者アレスが王都に戻り、ノアのことを悪しざまに報告したに違いない。表向きは褒賞、裏ではその力を探り、危険と判断すれば排除するか、あるいは王家の管理下に置くつもりだろう」
その的確な分析に、皆の表情が引き締まる。
「だったら、行かなければいいじゃないですか! ここにいれば、私たちがノア様を守ります!」
クロエが、憤然として声を上げた。だが、ルナは静かに首を振る。
「それは最悪手だ。王命を拒否すれば、反逆と見なされる。そうなれば、国を挙げてこの店を潰しに来るだろう。今の我々では、国軍相手に防衛するのは不可能だ」
「じゃあ、どうするんだ……」
エリオが、不安げに呟く。ノアは、自分のせいで仲間たちを窮地に追い込んでしまったと、唇を噛み締めた。
「行くしかない。だが、ただ行くだけではない」
ルナの瞳が、鋭い光を宿した。
「これは、罠であると同時に、またとない好機でもある。王や貴族どもに、我々の価値を直接見せつける絶好の機会だ。彼らに『【ノアの箱舟】は敵に回すより、味方につけた方が遥かに有益だ』と、骨の髄まで理解させてやる」
彼女の言葉には、絶対的な自信が満ち溢れていた。
「私とクロエが同行する。私が交渉役、クロエが護衛だ。エリオ、あなたも来い。王都の中央ギルドには、辺境にはない貴重な文献がある。『原初の呪術師』についての情報が、見つかるかもしれん」
「……分かった」
エリオも、決意を固めた。
「私は、この店を守ります」
今まで黙っていたアンナが、静かに言った。
「私には、戦う力はありません。でも、この場所は、皆が帰ってくるための大切な場所です。私が、この箱舟の灯りを守っています。だから、安心して行ってきてください」
彼女の優しい言葉に、皆の心が一つになった。行く者と、残る者。それぞれの覚悟が決まった瞬間だった。
旅立ちの日までの一週間、ノアたちは準備に追われた。ノアは、アンナと、店の留守を頼む冒険者たちのために、いくつかの特別な呪物を作った。店の防衛機能を高めるための仕掛けや、緊急時に外部と連絡を取るための道具など、彼の持てる技術の全てを注ぎ込んだ。
そして、出発の朝。
店の前には、見送りのために、多くの街の人々が集まっていた。ギルドマスター、老英雄ダリウス、道具を買って人生が変わった人々。その誰もが、名残惜しそうに、そして誇らしそうにノアたちを見つめていた。
「ノア殿、気をつけてな。王都の連中は、腹に一物も二物も抱えた狐ばかりだ」
ダリウスが、ノアの肩を叩く。
「何かあれば、いつでもこの街に帰ってこい。ここが、あんたの故郷だ」
ギルドマスターの言葉に、街の人々が力強く頷いた。
「必ず、戻ってきます」
ノアは、胸に込み上げる熱いものを感じながら、皆に約束した。
王家から差し向けられた豪奢な馬車に、ノア、ルナ、クロエ、エリオの四人が乗り込む。アンナは、馬車の窓越しに、ノアの手をぎゅっと握った。
「信じて、待っています」
「……ああ。行ってくる」
御者の合図と共に、馬車がゆっくりと動き出す。街の人々の声援が、遠ざかっていく。ノアは、窓から見える境界都市バザールの街並みを、その目に焼き付けた。
自分が守り、そして自分を守ってくれた、大切な場所。
馬車は、東へと向かう。その先にあるのは、栄光か、それとも陰謀渦巻く闇か。今はまだ分からない。
だが、ノアの心に恐れはなかった。隣には、信頼できる仲間たちがいる。そして、帰るべき場所がある。
彼の新たな物語の舞台は、王都アルカディアへ。辺境の英雄の伝説は、今、王国の中枢へとその歩みを進め始めた。
「……分かりました。お受けいたします」
ノアは、一瞬の戸惑いの後、静かに、しかしはっきりと答えた。ここで断れば、王命に背くことになる。それは、この店や街そのものに、王家の矛先を向けることになりかねない。それだけは、避けたかった。
「賢明なご判断です。では、一週間後に出立の準備を。王都からは、正式な迎えの馬車を差し向けます」
近衛騎士はそう告げると、再び恭しく一礼し、店を後にした。彼の姿が見えなくなると、店内の緊張の糸がぷつりと切れ、客たちの間で大きな動揺が広がった。
「ノアさんが、王都へ……?」
「おい、本当なのか!?」
その日の夜、店の二階にある居住スペースでは、緊急の作戦会議が開かれていた。テーブルの中央には、国王の印が押された召喚状が置かれている。
「どう考えても、罠だ」
ルナが腕を組み、厳しい表情で切り出した。
「勇者アレスが王都に戻り、ノアのことを悪しざまに報告したに違いない。表向きは褒賞、裏ではその力を探り、危険と判断すれば排除するか、あるいは王家の管理下に置くつもりだろう」
その的確な分析に、皆の表情が引き締まる。
「だったら、行かなければいいじゃないですか! ここにいれば、私たちがノア様を守ります!」
クロエが、憤然として声を上げた。だが、ルナは静かに首を振る。
「それは最悪手だ。王命を拒否すれば、反逆と見なされる。そうなれば、国を挙げてこの店を潰しに来るだろう。今の我々では、国軍相手に防衛するのは不可能だ」
「じゃあ、どうするんだ……」
エリオが、不安げに呟く。ノアは、自分のせいで仲間たちを窮地に追い込んでしまったと、唇を噛み締めた。
「行くしかない。だが、ただ行くだけではない」
ルナの瞳が、鋭い光を宿した。
「これは、罠であると同時に、またとない好機でもある。王や貴族どもに、我々の価値を直接見せつける絶好の機会だ。彼らに『【ノアの箱舟】は敵に回すより、味方につけた方が遥かに有益だ』と、骨の髄まで理解させてやる」
彼女の言葉には、絶対的な自信が満ち溢れていた。
「私とクロエが同行する。私が交渉役、クロエが護衛だ。エリオ、あなたも来い。王都の中央ギルドには、辺境にはない貴重な文献がある。『原初の呪術師』についての情報が、見つかるかもしれん」
「……分かった」
エリオも、決意を固めた。
「私は、この店を守ります」
今まで黙っていたアンナが、静かに言った。
「私には、戦う力はありません。でも、この場所は、皆が帰ってくるための大切な場所です。私が、この箱舟の灯りを守っています。だから、安心して行ってきてください」
彼女の優しい言葉に、皆の心が一つになった。行く者と、残る者。それぞれの覚悟が決まった瞬間だった。
旅立ちの日までの一週間、ノアたちは準備に追われた。ノアは、アンナと、店の留守を頼む冒険者たちのために、いくつかの特別な呪物を作った。店の防衛機能を高めるための仕掛けや、緊急時に外部と連絡を取るための道具など、彼の持てる技術の全てを注ぎ込んだ。
そして、出発の朝。
店の前には、見送りのために、多くの街の人々が集まっていた。ギルドマスター、老英雄ダリウス、道具を買って人生が変わった人々。その誰もが、名残惜しそうに、そして誇らしそうにノアたちを見つめていた。
「ノア殿、気をつけてな。王都の連中は、腹に一物も二物も抱えた狐ばかりだ」
ダリウスが、ノアの肩を叩く。
「何かあれば、いつでもこの街に帰ってこい。ここが、あんたの故郷だ」
ギルドマスターの言葉に、街の人々が力強く頷いた。
「必ず、戻ってきます」
ノアは、胸に込み上げる熱いものを感じながら、皆に約束した。
王家から差し向けられた豪奢な馬車に、ノア、ルナ、クロエ、エリオの四人が乗り込む。アンナは、馬車の窓越しに、ノアの手をぎゅっと握った。
「信じて、待っています」
「……ああ。行ってくる」
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自分が守り、そして自分を守ってくれた、大切な場所。
馬車は、東へと向かう。その先にあるのは、栄光か、それとも陰謀渦巻く闇か。今はまだ分からない。
だが、ノアの心に恐れはなかった。隣には、信頼できる仲間たちがいる。そして、帰るべき場所がある。
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