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第四十四話 謁見の間での決闘
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謁見の間に、張り詰めた空気が満ちる。国王や重臣たちが見守る中、勇者アレスと赤髪の少女クロエが対峙していた。
「面白い。この俺の相手を、その女一人に任せるというのか、ノア」
アレスは、クロエを侮りきった目で見た。辺境で一度不覚を取ったとはいえ、それは油断していただけ。聖剣の力を本気で解放すれば、負けるはずがない。彼はそう信じていた。
「この小娘に、俺の聖剣が止められるかな?」
「試してみれば、分かることでしょう」
クロエは、表情一つ変えずに答えた。その落ち着き払った態度が、アレスの神経を逆なでする。
国王アルトリウスが、静かに玉座から手を上げた。それが、開始の合図だった。
「思い知るがいい!」
アレスは叫び、最初から全力を出した。聖剣がまばゆい光を放ち、その姿が何重にも分身したかのような高速の連撃を繰り出す。勇者流剣術、奥義『光芒連斬』。常人であれば、その一太刀すら目で追うことはできない。
謁見の間の貴族たちから、驚嘆の声が上がる。やはり勇者は勇者だ、と。
だが、クロエは動かなかった。
彼女は、嵐のように襲い来る光の斬撃を、まるで予測していたかのように、最小限の動きでいなしていく。黒い大剣が、まるで彼女の体の一部のように滑らかに動き、アレスの剣戟を全て受け流し、弾き、逸らしていく。
カキン、キィン、と軽やかな金属音が響くだけで、クロエは一歩もその場から動いていない。
「な……ぜ……!?」
アレスの顔に、焦りの色が浮かぶ。彼の渾身の奥義が、まるで子供の遊びのようにあしらわれている。観客席の貴族たちの驚嘆は、いつしか不信と困惑に変わっていた。
「どうした、勇者。もう終わりか?」
クロエが、初めて口を開いた。その声は、冷たく、そして圧倒的な強者の余裕に満ちていた。
「だ、黙れ!」
アレスは自らを鼓舞するように叫び、さらに大振りの一撃を繰り出した。力の限りを込めた、渾身の一振り。だが、それはあまりにも隙だらけだった。
クロエはその大振りな攻撃を、柳のようにするりとかわす。そして、アレスの体勢が崩れたその一瞬を、彼女は見逃さなかった。
クロエの大剣が、空気を切り裂く音もなく、アレスの聖剣の柄を正確に打ち据えた。
ゴッ!
鈍い衝撃音と共に、アレスの手から聖剣が弾き飛ばされる。光り輝いていた聖剣は、力なく回転しながら謁見の間の大理石の床を滑り、虚しい音を立てて止まった。
時が、止まったかのような静寂。
アレスが我に返った時、彼の喉元には、冷たい黒い大剣の切っ先が、寸分の狂いもなく突きつけられていた。
「……動けば、斬る」
クロエの静かな声が、彼の心臓を凍らせた。
アレスは、膝から崩れ落ちた。その顔は蒼白で、何が起きたのか理解できていないかのように、ただ呆然としている。
謁見の間は、水を打ったように静まり返っていた。国王も、宰相も、居並ぶ重臣たちも、皆言葉を失っていた。人類の希望である勇者が、身元も知れぬ辺境の少女に、赤子の手をひねるように敗れ去ったのだ。
クロエは、切っ先をアレスの喉元から静かに離すと、何事もなかったかのように大剣を背中の鞘に納めた。そして、ノアの後ろにすっと戻り、忠実な護衛としての位置に戻る。その一連の動作には、一切の無駄も、感情の昂りもなかった。
謁見の間の全ての視線が、今や勇者ではなく、ノアとその仲間たちへと注がれていた。畏怖、驚愕、そして何よりも強い興味。
国王アルトリウスは、しばしの沈黙の後、その口元に深い笑みを浮かべた。それは、予想を遥かに超える玩具を見つけた子供のような、純粋な好奇心と独占欲に満ちた笑みだった。
「……面白い」
玉座から響いたその一言が、この国の力関係が、今この瞬間、大きく塗り替えられたことを告げていた。
「面白い。この俺の相手を、その女一人に任せるというのか、ノア」
アレスは、クロエを侮りきった目で見た。辺境で一度不覚を取ったとはいえ、それは油断していただけ。聖剣の力を本気で解放すれば、負けるはずがない。彼はそう信じていた。
「この小娘に、俺の聖剣が止められるかな?」
「試してみれば、分かることでしょう」
クロエは、表情一つ変えずに答えた。その落ち着き払った態度が、アレスの神経を逆なでする。
国王アルトリウスが、静かに玉座から手を上げた。それが、開始の合図だった。
「思い知るがいい!」
アレスは叫び、最初から全力を出した。聖剣がまばゆい光を放ち、その姿が何重にも分身したかのような高速の連撃を繰り出す。勇者流剣術、奥義『光芒連斬』。常人であれば、その一太刀すら目で追うことはできない。
謁見の間の貴族たちから、驚嘆の声が上がる。やはり勇者は勇者だ、と。
だが、クロエは動かなかった。
彼女は、嵐のように襲い来る光の斬撃を、まるで予測していたかのように、最小限の動きでいなしていく。黒い大剣が、まるで彼女の体の一部のように滑らかに動き、アレスの剣戟を全て受け流し、弾き、逸らしていく。
カキン、キィン、と軽やかな金属音が響くだけで、クロエは一歩もその場から動いていない。
「な……ぜ……!?」
アレスの顔に、焦りの色が浮かぶ。彼の渾身の奥義が、まるで子供の遊びのようにあしらわれている。観客席の貴族たちの驚嘆は、いつしか不信と困惑に変わっていた。
「どうした、勇者。もう終わりか?」
クロエが、初めて口を開いた。その声は、冷たく、そして圧倒的な強者の余裕に満ちていた。
「だ、黙れ!」
アレスは自らを鼓舞するように叫び、さらに大振りの一撃を繰り出した。力の限りを込めた、渾身の一振り。だが、それはあまりにも隙だらけだった。
クロエはその大振りな攻撃を、柳のようにするりとかわす。そして、アレスの体勢が崩れたその一瞬を、彼女は見逃さなかった。
クロエの大剣が、空気を切り裂く音もなく、アレスの聖剣の柄を正確に打ち据えた。
ゴッ!
鈍い衝撃音と共に、アレスの手から聖剣が弾き飛ばされる。光り輝いていた聖剣は、力なく回転しながら謁見の間の大理石の床を滑り、虚しい音を立てて止まった。
時が、止まったかのような静寂。
アレスが我に返った時、彼の喉元には、冷たい黒い大剣の切っ先が、寸分の狂いもなく突きつけられていた。
「……動けば、斬る」
クロエの静かな声が、彼の心臓を凍らせた。
アレスは、膝から崩れ落ちた。その顔は蒼白で、何が起きたのか理解できていないかのように、ただ呆然としている。
謁見の間は、水を打ったように静まり返っていた。国王も、宰相も、居並ぶ重臣たちも、皆言葉を失っていた。人類の希望である勇者が、身元も知れぬ辺境の少女に、赤子の手をひねるように敗れ去ったのだ。
クロエは、切っ先をアレスの喉元から静かに離すと、何事もなかったかのように大剣を背中の鞘に納めた。そして、ノアの後ろにすっと戻り、忠実な護衛としての位置に戻る。その一連の動作には、一切の無駄も、感情の昂りもなかった。
謁見の間の全ての視線が、今や勇者ではなく、ノアとその仲間たちへと注がれていた。畏怖、驚愕、そして何よりも強い興味。
国王アルトリウスは、しばしの沈黙の後、その口元に深い笑みを浮かべた。それは、予想を遥かに超える玩具を見つけた子供のような、純粋な好奇心と独占欲に満ちた笑みだった。
「……面白い」
玉座から響いたその一言が、この国の力関係が、今この瞬間、大きく塗り替えられたことを告げていた。
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