デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

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第六十一話 東へ、風の吹く場所へ

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王都の喧騒を背に、ノアたちの乗る頑丈な馬車は東へと続く街道を進んでいた。窓から見える景色は、洗練された石造りの街並みから、次第にのどかな田園風景へと移り変わっていく。穏やかな風が、馬車の窓から心地よく吹き込んできた。

「最初の目的地は、風霊山脈。ここから馬車で二週間ほどの距離にある」

ルナが広げた地図を指さし、旅の計画を説明する。その顔は、店の経営者ではなく、冒険の計画を練るパーティリーダーのそれだった。

「問題は、山脈そのものが人々の信仰の対象であり、部外者を容易く受け入れない閉鎖的な土地だということだ。まずは麓の街で情報を集め、接触の方法を探る必要がある」
「風の呪いを継ぐ一族……。古文書によれば、彼らは風を読み、天候さえも操る力を持つと言われている」

エリオが、分厚い本から顔を上げて補足した。

「ですが、その力を持つ者は、常に一族の中で孤立し、孤独な運命を辿るとも記されています。強すぎる力は、いつの時代も人を遠ざけるものなのかもしれません」

その言葉に、クロエとノアは、どこか自分たちの過去を重ねるように黙り込んだ。

「どんな人でも、きっと分かり合えますよ」

そんな空気を察したかのように、王都の邸宅から持ってきた茶器で、アンナがお茶を淹れてくれた。彼女がいないのは寂しいが、彼女が守る場所があるからこそ、安心して旅ができる。

旅は、順調に進むかに見えた。王都から三日ほど離れた、最初の宿場町を過ぎた頃。馬車が森の中の街道に差し掛かった時だった。

「止まれ!」

鋭い声と共に、道の両脇から十数人の武装した男たちが姿を現した。彼らの装備は統一されており、その目には明確な殺意が宿っている。ただの追い剥ぎではない。

「……来たか」

ルナが、つまらなそうに呟いた。

馬車が急停止し、クロエが音もなく扉を開けて外に降り立つ。彼女は、男たちを冷然と見下ろし、大剣の柄に手をかけた。

「何の用だ。我々は急いでいるのだが」
「その首を貰い受けに来た、呪術師ノア!」

リーダー格の男が、憎悪に満ちた声で叫んだ。

「貴様は、勇者アレス様を陥れた国賊だ! その汚れた命、ここで絶ってくれる!」

彼らは、失脚したアレスを信奉する過激派貴族に雇われた、腕利きの傭兵団だった。ノアを悪だと盲信し、自分たちの行いを正義だと信じて疑っていない。

「くだらない」

クロエは、一言だけ吐き捨てた。

「ノア様に刃を向ける前に、自分の愚かさを知るがいい」

次の瞬間、クロエの姿が消えた。赤い閃光が、傭兵団の中を駆け抜ける。悲鳴を上げる暇もなかった。傭兵たちは、手にしていた武器を弾き飛ばされ、強烈な峰打ちを受けて次々と地面に崩れ落ちていく。

「な、なんだこいつは!? 化け物か!」

リーダーの男が、恐怖に顔を引きつらせる。その時、彼の部下の一人が、懐から取り出した魔道具を起動させた。地面から土の槍が何本も隆起し、馬車を直接狙う。

「させん!」

馬車の中から、エリオの声が響いた。彼が指先で魔法陣を描くと、土の槍は馬車の寸前で風の障壁に阻まれ、砂となって霧散した。

「そんなおもちゃで、僕たちの船に傷一つつけられると思うなよ」

エリオの援護を受けたクロエは、もはや無敵だった。彼女は残った傭兵たちをあっという間に無力化し、リーダーの男の喉元に大剣の切っ先を突きつけた。

「さて」

馬車から降りてきたルナが、震える男の前にしゃがみ込む。

「依頼主は誰だ。正直に話せば、命だけは助けてやってもいい」

その冷たい瞳に射抜かれ、男は観念したように依頼主の名を白状した。やはり、アレスに心酔する地方貴族の一人だった。

「アレス……。あの男の亡霊は、思ったよりもしつこいようだな」

ルナはため息をつき、捕らえた傭兵たちを近くの街の衛兵に引き渡すよう手配した。

戦闘は、あっという間に終わった。だが、ノアの心には、重いものが残っていた。

「僕のせいで、また争いが起きてしまった……」

馬車に戻ったノアが、俯きながら呟く。

「お前のせいじゃない」

ルナがきっぱりと言った。

「これは、お前の力を巡る戦いだ。お前が望むと望まざるとに関わらず、これから何度も起きることだろう。それに、いちいち心を痛めていては、身が持たんぞ」

その言葉は厳しかったが、その通りだった。自分の存在そのものが、争いの火種になる。その事実から、もう目を背けることはできない。

「僕は……戦います」

ノアは、顔を上げた。その瞳には、新たな覚悟の光が宿っていた。

「僕が前に進むことで、誰かが傷つくのなら、それ以上の速さで、もっと多くの人を救えばいい。僕のこの力で」

その決意に、仲間たちは力強く頷いた。

馬車は、再び東へ向けて走り出す。彼らの旅路には、光だけでなく、濃い影もまた付きまとう。だが、彼らの心はもう揺るがない。

【ノアの箱舟】は、確かな意志を持って、風の吹く場所へと進み始めた。
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