デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

文字の大きさ
62 / 89

第六十一話 東へ、風の吹く場所へ

しおりを挟む
王都の喧騒を背に、ノアたちの乗る頑丈な馬車は東へと続く街道を進んでいた。窓から見える景色は、洗練された石造りの街並みから、次第にのどかな田園風景へと移り変わっていく。穏やかな風が、馬車の窓から心地よく吹き込んできた。

「最初の目的地は、風霊山脈。ここから馬車で二週間ほどの距離にある」

ルナが広げた地図を指さし、旅の計画を説明する。その顔は、店の経営者ではなく、冒険の計画を練るパーティリーダーのそれだった。

「問題は、山脈そのものが人々の信仰の対象であり、部外者を容易く受け入れない閉鎖的な土地だということだ。まずは麓の街で情報を集め、接触の方法を探る必要がある」
「風の呪いを継ぐ一族……。古文書によれば、彼らは風を読み、天候さえも操る力を持つと言われている」

エリオが、分厚い本から顔を上げて補足した。

「ですが、その力を持つ者は、常に一族の中で孤立し、孤独な運命を辿るとも記されています。強すぎる力は、いつの時代も人を遠ざけるものなのかもしれません」

その言葉に、クロエとノアは、どこか自分たちの過去を重ねるように黙り込んだ。

「どんな人でも、きっと分かり合えますよ」

そんな空気を察したかのように、王都の邸宅から持ってきた茶器で、アンナがお茶を淹れてくれた。彼女がいないのは寂しいが、彼女が守る場所があるからこそ、安心して旅ができる。

旅は、順調に進むかに見えた。王都から三日ほど離れた、最初の宿場町を過ぎた頃。馬車が森の中の街道に差し掛かった時だった。

「止まれ!」

鋭い声と共に、道の両脇から十数人の武装した男たちが姿を現した。彼らの装備は統一されており、その目には明確な殺意が宿っている。ただの追い剥ぎではない。

「……来たか」

ルナが、つまらなそうに呟いた。

馬車が急停止し、クロエが音もなく扉を開けて外に降り立つ。彼女は、男たちを冷然と見下ろし、大剣の柄に手をかけた。

「何の用だ。我々は急いでいるのだが」
「その首を貰い受けに来た、呪術師ノア!」

リーダー格の男が、憎悪に満ちた声で叫んだ。

「貴様は、勇者アレス様を陥れた国賊だ! その汚れた命、ここで絶ってくれる!」

彼らは、失脚したアレスを信奉する過激派貴族に雇われた、腕利きの傭兵団だった。ノアを悪だと盲信し、自分たちの行いを正義だと信じて疑っていない。

「くだらない」

クロエは、一言だけ吐き捨てた。

「ノア様に刃を向ける前に、自分の愚かさを知るがいい」

次の瞬間、クロエの姿が消えた。赤い閃光が、傭兵団の中を駆け抜ける。悲鳴を上げる暇もなかった。傭兵たちは、手にしていた武器を弾き飛ばされ、強烈な峰打ちを受けて次々と地面に崩れ落ちていく。

「な、なんだこいつは!? 化け物か!」

リーダーの男が、恐怖に顔を引きつらせる。その時、彼の部下の一人が、懐から取り出した魔道具を起動させた。地面から土の槍が何本も隆起し、馬車を直接狙う。

「させん!」

馬車の中から、エリオの声が響いた。彼が指先で魔法陣を描くと、土の槍は馬車の寸前で風の障壁に阻まれ、砂となって霧散した。

「そんなおもちゃで、僕たちの船に傷一つつけられると思うなよ」

エリオの援護を受けたクロエは、もはや無敵だった。彼女は残った傭兵たちをあっという間に無力化し、リーダーの男の喉元に大剣の切っ先を突きつけた。

「さて」

馬車から降りてきたルナが、震える男の前にしゃがみ込む。

「依頼主は誰だ。正直に話せば、命だけは助けてやってもいい」

その冷たい瞳に射抜かれ、男は観念したように依頼主の名を白状した。やはり、アレスに心酔する地方貴族の一人だった。

「アレス……。あの男の亡霊は、思ったよりもしつこいようだな」

ルナはため息をつき、捕らえた傭兵たちを近くの街の衛兵に引き渡すよう手配した。

戦闘は、あっという間に終わった。だが、ノアの心には、重いものが残っていた。

「僕のせいで、また争いが起きてしまった……」

馬車に戻ったノアが、俯きながら呟く。

「お前のせいじゃない」

ルナがきっぱりと言った。

「これは、お前の力を巡る戦いだ。お前が望むと望まざるとに関わらず、これから何度も起きることだろう。それに、いちいち心を痛めていては、身が持たんぞ」

その言葉は厳しかったが、その通りだった。自分の存在そのものが、争いの火種になる。その事実から、もう目を背けることはできない。

「僕は……戦います」

ノアは、顔を上げた。その瞳には、新たな覚悟の光が宿っていた。

「僕が前に進むことで、誰かが傷つくのなら、それ以上の速さで、もっと多くの人を救えばいい。僕のこの力で」

その決意に、仲間たちは力強く頷いた。

馬車は、再び東へ向けて走り出す。彼らの旅路には、光だけでなく、濃い影もまた付きまとう。だが、彼らの心はもう揺るがない。

【ノアの箱舟】は、確かな意志を持って、風の吹く場所へと進み始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!

黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――勇者パーティーの【鑑定士】リアムは、戦闘能力の低さを理由に、仲間と婚約者から無一文で追放された。全てを失い、流れ着いたのは寂れた辺境の村。そこで彼は自らのスキルの真価に気づく。物の情報を見るだけの【鑑定】は、実は万物の情報を書き換える神のスキル【神の万年筆】だったのだ! 「ただの石」を「最高品質のパン」に、「痩せた土地」を「豊穣な大地」に。奇跡の力で村を豊かにし、心優しい少女リーシャとの絆を育むリアム。やがて彼の村は一つの国家として世界に名を轟かせる。一方、リアムを失った勇者パーティーは転落の一途をたどっていた。今さら戻ってこいと泣きついても、もう遅い! 無能と蔑まれた青年が、世界を創り変える伝説の王となる、痛快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...