デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

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第六十二話 風霊山脈の麓の街

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刺客の襲撃という波乱はあったものの、ノアたちの旅はその後、比較的順調に進んだ。街道沿いの宿場町で休息を取りながら、馬車はひたすら東を目指す。

車窓から見える景色は、豊かな平野から、次第に険しい山々が連なる山岳地帯へと移り変わっていった。空気も、心なしか澄み渡り、常に強い風が吹き抜けている。

「見えてきたぞ。あれが、風霊山脈だ」

ルナが、地図と前方の景色を交互に見比べながら言った。

馬車の窓から、天を突くようにそびえ立つ雄大な山脈が見えた。その山肌は、まるで神々が削り出したかのように険しく、山頂付近は常に分厚い雲と、渦巻く風に覆われている。古くから人々の畏怖と信仰を集めてきたというのも、頷ける光景だった。

やがて一行は、山脈の麓にある街「フウガ」に到着した。フウガは、山から吹き下ろす強い風を避けるように、谷間に寄り添うようにして作られた街だった。石造りの家々はどれも背が低く、屋根には風車が取り付けられているのが特徴的だ。

街は、山岳民族らしい、素朴で屈強な人々で賑わっていた。彼らは、よそ者であるノアたちを、警戒するでもなく、かといって歓迎するでもなく、ただ静かに、そして探るような視線で見ている。

「さて、まずは情報収集だな」

宿に荷物を置くと、ルナは早速行動を開始した。彼女は、持ち前の交渉術で、街の長老やギルドのマスターと接触を図る。エリオは、街の小さな資料館に籠り、この土地に伝わる伝承や歴史を調べ始めた。

「私は、街の見回りでもしてくる」

クロエは、用心棒としての役目を果たすべく、街の様子を窺いに出た。

一人になったノアは、街の広場にあるベンチに座り、風に吹かれながら人々を眺めていた。この街の人々は、誰もが風と共に生きているように見えた。子供たちは、風を読んで凧を揚げ、職人たちは、風の力で鞴を動かし、鉄を打つ。風は、彼らの生活の一部なのだ。

その時、一人の少年が、ノアの隣にちょこんと座った。年の頃は十歳くらいだろうか。その瞳は、この土地の空のように澄み切っていた。

「旅の人かい?」
「ああ、そうだよ」
「どこから来たんだい?」
「ずっと西の方から」

他愛のない会話。だが、少年はふと、遠くの風霊山脈を見上げ、寂しげな表情を浮かべた。

「あの山には、近づいちゃいけないんだ。『風の巫女』様が、怒るからね」
「風の巫女?」

ノアが聞き返すと、少年は頷いた。

「うん。山には、風の神様がいて、その声を聞ける巫女様がいるんだ。でも、巫女様は、すっごく気まぐれなんだって。機嫌が悪いと、嵐を起こして、街をめちゃくちゃにしちゃうんだ。だから、誰も山には近づかないんだよ」

少年の話は、エリオが調べていた伝承の内容と一致していた。『風の呪い』の継承者は、この土地では『風の巫女』と呼ばれ、畏れられているらしい。

「でも、おじいちゃんは言ってた。昔の巫女様は、もっと優しくて、風の恵みを街に与えてくれてたって。今の巫女様になってから、山は荒れることが多くなったんだ」

そう言って、少年は悲しそうに俯いた。

その日の夕方。宿屋に集まったノアたちは、それぞれが得た情報を共有した。

「分かったぞ。この土地の『風の呪い』の継承者は、代々『風の巫女』として、山頂の祠に一人で暮らしているらしい」とルナが切り出した。

「そして、現在の巫女は、ミオという名の若い娘だ。彼女が巫女になってから、山は荒れ、麓の街との交流も断絶してしまった。街の者たちは、彼女を恐れている」
「古文書によれば、風の巫女は、その身に宿る強大すぎる風の力を制御するため、厳しい修行を強いられるとあります」とエリオが続けた。「おそらく、そのミオという娘は、力を制御できずに苦しんでいる。それが、山の天候を不安定にしている原因でしょう」

強すぎる力。制御できない苦しみ。そして、周囲からの孤立。それは、クロエやエリオが経験してきたことと、全く同じだった。

「……その子の気持ち、分かる気がする」

クロエが、ぽつりと呟いた。

「私が行って、話してみる。同じ力に苦しんだ者同士なら、分かり合えるかもしれない」

クロエの申し出に、ノアも頷いた。

「そうだね。僕も行こう。彼女の力を制御するための道具を、僕なら作れるかもしれない」

だが、ルナは厳しい顔で首を振った。

「馬鹿を言え。今の彼女は、精神的に不安定で、外部の人間を極度に警戒しているはずだ。大人数で押しかければ、パニックを起こして、それこそ手がつけられない嵐を呼ぶかもしれんぞ」
「じゃあ、どうするんだ?」
「まずは、一人で行かせる」

ルナは、クロエをじっと見つめた。

「クロエ。お前が、一人で山に登れ。そして、彼女の信頼を勝ち取ってこい。お前ならできる。力に苦しむ者の痛みは、お前が一番よく知っているはずだからな」

それは、大きな賭けだった。だが、ルナには確信があった。今のクロエならば、その大役を果たせると。

クロエは、一瞬驚いた顔をしたが、すぐにその瞳に強い決意の光を宿した。

「……分かりました。やってみます」

【ノアの箱舟】の仲間を代表し、一人の剣士が、風荒ぶる聖なる山へと、たった一人で挑むことになった。彼女のその一歩が、新たな仲間との出会いの扉を開く、重要な鍵となるのだった。
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