デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

文字の大きさ
64 / 89

第六十三話 赤き剣士、風の山へ

しおりを挟む
朝、クロエは一人、風霊山脈の登山道へと足を踏み入れた。麓の街の人々は、彼女の無謀な挑戦を、遠巻きに心配そうに見送っていた。

「クロエ、これを」

見送りに来たノアが、彼女に一つの小さな耳飾りを手渡した。それは、風を切る鳥の羽を模した、銀細工の美しい耳飾りだった。

「『風切り羽のピアス』だ。風の抵抗を少しだけ和らげてくれる。気休め程度かもしれないけど、お守りだと思って」
「ありがとうございます、ノア様。必ず、良い知らせを持って帰ります」

クロエは、ノアの作ってくれたお守りを耳に着けると、力強く頷き、山道へと消えていった。

山道は、想像以上に険しかった。吹き付ける風は、まるで意思を持つ生き物のように、クロエの行く手を阻もうとする。足場は悪く、一歩踏み外せば谷底へと真っ逆さまだ。普通の人間なら、登り始めてすぐに音を上げるだろう。

だが、クロエは違った。彼女は、ノアから貰った『瞬足の具足』の力を使い、まるで山を駆け上がるかのように、軽々と険しい道を進んでいく。風切り羽のピアスが、彼女の耳元でヒュンと音を立て、体にかかる風圧を巧みに逸らしていた。

(この風……。ただの自然の風じゃない。誰かの、拒絶の意志を感じる)

クロエは、肌を刺す風の中に、巫女ミオの「来るな」という心の叫びを感じ取っていた。だが、彼女は足を止めない。その叫びが、かつての自分の心の叫びと、あまりにも似ていたからだ。

山の中腹まで来た時、風はさらに勢いを増し、暴風へと変わった。木々が根こそぎ倒れ、岩がゴロゴロと転がり落ちてくる。天候までもが、クロエを排除しようと牙を剥いていた。

「ちっ、手荒い歓迎だな!」

クロエは舌打ちし、大剣を抜いた。彼女は、飛んでくる岩を最小限の動きで斬り捨て、暴風の中を突き進む。

その時、彼女の目の前に、風が渦を巻いて集まり、鋭い刃のような形を成した。風の刃『ウインドカッター』。それは、自然現象ではない。明らかに、誰かが意図して生み出した魔法だった。

「ようやく、お出ましか!」

クロエは、風の刃が飛んでくる方向、山頂へと続く道の先を睨みつける。そこに、一人の少女の姿があった。

風に煽られても少しも揺らがない、不思議な衣を纏った少女。その手には、鳥の羽で飾られた杖が握られている。年の頃は、クロエと同じくらいだろうか。その瞳は、深い不信と警戒心で、氷のように冷え切っていた。彼女こそが、風の巫女ミオだった。

「何者だ、お前は。なぜ、この聖なる山を汚す」

ミオの声は、風の音に混じり、冷たく響いた。

「私はクロエ。お前に、話があって来た」
「話などない。すぐに立ち去れ。さもなくば、この山の風がお前を八つ裂きにするだろう」

ミオが杖を振るうと、さらに多くの風の刃が生まれ、クロエへと襲いかかる。クロエはそれらを全て大剣で弾き返しながら、ゆっくりとミオへと近づいていった。

「私も、お前と同じだった」

クロエは、戦いながら語りかけた。

「強すぎる力を持って生まれ、それを制御できずに、たくさんのものを傷つけた。仲間からも見捨てられ、ずっと一人だった」
「黙れ! 私とお前を、一緒にするな!」

ミオは叫び、さらに強い風を巻き起こす。だが、その風は、どこか乱れていた。クロエの言葉が、彼女の心の壁を、少しずつ揺さぶっている。

「一人でいるのは、楽かもしれない。誰も傷つけずに済むからな。だが、それはただの逃げだ。本当は、誰かと繋がりたいと、心のどこかで叫んでいるんじゃないのか?」
「うるさい、うるさい、うるさい!」

ミオの感情が昂るにつれて、彼女の周りの風は、制御不能の暴風と化していった。山全体が、彼女の荒れ狂う心の叫びに呼応するように、鳴動を始める。

「これ以上、私に近づくな!」

ミオの体から、竜巻のような巨大な風の渦が放たれた。それは、山をも吹き飛ばさんばかりの、圧倒的な破壊の力。

だが、クロエはその暴風の渦に向かって、一歩も引かなかった。彼女は、大剣を鞘に納め、無防備な姿で、まっすぐにミオを見つめた。

「……お前のその痛み、私には分かる。だから、受け止めてやる」

クロエは、両腕を広げた。その小さな体で、荒れ狂う風の全てを受け止めようというのだ。

「馬鹿な……! 死ぬ気か!?」

ミオが、驚愕に目を見開く。

暴風が、クロエの体を飲み込もうとした、その瞬間。

クロエの耳元で、ノアが作ったピアスが、キィン、と甲高い音を立てて輝いた。それは、ただ風の抵抗を和らげるだけの道具ではなかった。ノアはそこに、ささやかな、しかし強力な呪いを一つ、込めていたのだ。

『風よ、この者を友と認めよ』と。

荒れ狂っていた風は、クロエの体に触れる寸前で、まるで意思を持つかのように、彼女を優しく避けていく。風は、彼女を敵とは見なさなかったのだ。

暴風が過ぎ去った後には、無傷で立つクロエと、信じられないものを見たかのように、呆然と立ち尽くすミオの姿だけがあった。

「なぜ……。私の風が……」
「言ったはずだ。お前の痛みは、分かると」

クロエは、ゆっくりとミオの元へ歩み寄ると、その冷たい手を、そっと握った。

「もう、一人で苦しむな。私たちが、いる」

その温かい感触と、力強い言葉に、ミオの心の壁が、音を立てて崩れ落ちた。彼女の瞳から、ずっと堪えていた涙が、とめどなく溢れ出した。それは、風霊山脈が、数十年ぶりに流した、悲しみの雨のようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。 絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。 辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。 一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」 これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...