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第六十五話 風を編む髪飾り
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風の巫女ミオを迎え入れた一行は、フウガの街で一番大きな鍛冶場を借り、早速彼女のための呪物製作に取り掛かった。
「君の力は、その感情と深く結びついている。だから、常に心を落ち着かせてくれるような、お守りのようなものがいいね」
ノアは、ミオの魔力の質を慎重に分析しながら言った。クロエの腕輪やエリオの指輪のように、力を直接制御する装置ではない。彼女の心の波を穏やかにし、風との対話を助ける、より繊細なアプローチが必要だと、彼は判断した。
「何か、君にとって大切なものはあるかい? 思い出の品とか」
ノアの問いに、ミオは少し考えてから、首にかけていた小さな革袋を差し出した。
「これは、私が巫女になる前に、母様から貰ったものです。中には、私が生まれた時に生えていた、最初の髪の毛が……」
それは、彼女が唯一持っていた、家族との繋がりを示す品だった。ノアは、その革袋から放たれる、温かく、そして少し寂しげな魔力を感じ取り、静かに頷いた。
「これを使おう。君のお母さんの想いが、きっと君を守ってくれる」
ノアが素材として選んだのは、風霊山脈の山頂でしか採れないという、虹色に輝く『風切り鳥』の羽と、魔力を安定させる性質を持つ月長石(ムーンストーン)。そして、ミオの髪の毛。
「髪飾りを作ろう。君の髪を飾る風が、常に君の味方でいてくれるように」
ノアは、ミオの腰まで届く長い髪を見つめながら、そう提案した。
工房に、ノアの集中した気配だけが満ちる。今回は、槌音の響くような錬成ではない。彼は、一本一本の羽を、まるで糸を紡ぐように、月長石と、ミオの髪の毛と共に編み上げていく。
その指先から放たれる【呪物錬成】の黒い靄は、禍々しさよりも、むしろ星空のような神秘性を帯びていた。それは、ノアの力が、対象への深い理解と共感によって、その性質を変化させている証拠だった。
エリオが、補助魔法で工房内の気流を完全に停止させ、微細な作業を助ける。クロエとルナは、工房の外で、興味深げに集まってきた街の人々を制し、ノアが集中できる環境を守っていた。
数時間後。一つの美しい髪飾りが完成した。
虹色の羽は、風を受けるたびに七色に輝き、中央に据えられた月長石は、穏やかな蒼い光を放っている。そして、その根元には、ミオの髪の毛が、黒い呪いの紋様と一体化するように、優雅な曲線を描いていた。
「『凪の髪飾り』だ」
ノアは、完成した髪飾りを、ミオの手にそっと乗せた。
ミオは、おそるおそる、その髪飾りを自分の髪に着けた。
その瞬間。
彼女の周りで常に小さく渦巻いていた風が、ぴたりと止んだ。まるで、荒々しい獣が、主の腕の中で安心しきって眠りについたかのように。
「……静か」
ミオは、呆然と呟いた。生まれて初めて感じる、完全な凪。風の声が、聞こえない。だが、それは寂しいことではなかった。風と自分が、完全に一つになったような、不思議な一体感があった。
「試してみて」
ノアに促され、ミオは広場へと出た。彼女が、そっと手をかざす。
すると、彼女の指先に、一羽の小さな鳥の形をした、優しいそよ風が生まれた。風の鳥は、楽しそうにミオの周りを飛び回り、彼女の頬をくすぐるように撫でた。
「すごい……! 風が、私の言うことを聞いてくれる……!」
ミオは、子供のようにはしゃいだ。彼女が笑うと、街全体に心地よい春風が吹き抜ける。彼女が驚くと、悪戯っぽい突風が人々の帽子をさらう。彼女の感情は、もう破壊の力ではなく、街を彩る豊かな表情となっていた。
その光景を見ていた街の人々から、どよめきと、そして温かい拍手が沸き起こった。彼らを長年恐れさせていた巫女の力が、こんなにも優しく、美しいものだったと、誰もが知ったのだ。
「ありがとう……! ありがとう、ノアさん!」
ミオは、ノアの元へ駆け寄ると、満面の笑みで感謝の言葉を述べた。その笑顔は、この街に吹く、どんな風よりも輝いて見えた。
その夜、フウガの街では、何十年ぶりかの盛大な宴が開かれた。風の巫女と街の人々が、初めて同じ輪の中で笑い、語り合う。その中心には、ノアたちの姿があった。
「さて、と」
宴の喧騒から少し離れた場所で、ルナがノアに尋ねた。
「風の継承者は、見事仲間に引き入れたな。で、次の『呪い』の手がかりは、彼女から何か聞けそうか?」
ノアは、楽しそうに街の人々と話すミオを見つめながら、静かに頷いた。
「ええ。彼女の持つ『風の呪い』が、別の力の気配を、遥か南の方角に感じ取っているそうです。それは、大地を揺るがすような、力強い……『土』の気配だと」
新たな手がかり。次の目的地。
【ノアの箱舟】の旅は、確かな一歩を踏み出した。風の力をその身に宿した新たな仲間と共に、彼らは次なる冒険の舞台、灼熱の砂漠と、そこに眠る大地の呪いへと、その舵を切ることになる。
「君の力は、その感情と深く結びついている。だから、常に心を落ち着かせてくれるような、お守りのようなものがいいね」
ノアは、ミオの魔力の質を慎重に分析しながら言った。クロエの腕輪やエリオの指輪のように、力を直接制御する装置ではない。彼女の心の波を穏やかにし、風との対話を助ける、より繊細なアプローチが必要だと、彼は判断した。
「何か、君にとって大切なものはあるかい? 思い出の品とか」
ノアの問いに、ミオは少し考えてから、首にかけていた小さな革袋を差し出した。
「これは、私が巫女になる前に、母様から貰ったものです。中には、私が生まれた時に生えていた、最初の髪の毛が……」
それは、彼女が唯一持っていた、家族との繋がりを示す品だった。ノアは、その革袋から放たれる、温かく、そして少し寂しげな魔力を感じ取り、静かに頷いた。
「これを使おう。君のお母さんの想いが、きっと君を守ってくれる」
ノアが素材として選んだのは、風霊山脈の山頂でしか採れないという、虹色に輝く『風切り鳥』の羽と、魔力を安定させる性質を持つ月長石(ムーンストーン)。そして、ミオの髪の毛。
「髪飾りを作ろう。君の髪を飾る風が、常に君の味方でいてくれるように」
ノアは、ミオの腰まで届く長い髪を見つめながら、そう提案した。
工房に、ノアの集中した気配だけが満ちる。今回は、槌音の響くような錬成ではない。彼は、一本一本の羽を、まるで糸を紡ぐように、月長石と、ミオの髪の毛と共に編み上げていく。
その指先から放たれる【呪物錬成】の黒い靄は、禍々しさよりも、むしろ星空のような神秘性を帯びていた。それは、ノアの力が、対象への深い理解と共感によって、その性質を変化させている証拠だった。
エリオが、補助魔法で工房内の気流を完全に停止させ、微細な作業を助ける。クロエとルナは、工房の外で、興味深げに集まってきた街の人々を制し、ノアが集中できる環境を守っていた。
数時間後。一つの美しい髪飾りが完成した。
虹色の羽は、風を受けるたびに七色に輝き、中央に据えられた月長石は、穏やかな蒼い光を放っている。そして、その根元には、ミオの髪の毛が、黒い呪いの紋様と一体化するように、優雅な曲線を描いていた。
「『凪の髪飾り』だ」
ノアは、完成した髪飾りを、ミオの手にそっと乗せた。
ミオは、おそるおそる、その髪飾りを自分の髪に着けた。
その瞬間。
彼女の周りで常に小さく渦巻いていた風が、ぴたりと止んだ。まるで、荒々しい獣が、主の腕の中で安心しきって眠りについたかのように。
「……静か」
ミオは、呆然と呟いた。生まれて初めて感じる、完全な凪。風の声が、聞こえない。だが、それは寂しいことではなかった。風と自分が、完全に一つになったような、不思議な一体感があった。
「試してみて」
ノアに促され、ミオは広場へと出た。彼女が、そっと手をかざす。
すると、彼女の指先に、一羽の小さな鳥の形をした、優しいそよ風が生まれた。風の鳥は、楽しそうにミオの周りを飛び回り、彼女の頬をくすぐるように撫でた。
「すごい……! 風が、私の言うことを聞いてくれる……!」
ミオは、子供のようにはしゃいだ。彼女が笑うと、街全体に心地よい春風が吹き抜ける。彼女が驚くと、悪戯っぽい突風が人々の帽子をさらう。彼女の感情は、もう破壊の力ではなく、街を彩る豊かな表情となっていた。
その光景を見ていた街の人々から、どよめきと、そして温かい拍手が沸き起こった。彼らを長年恐れさせていた巫女の力が、こんなにも優しく、美しいものだったと、誰もが知ったのだ。
「ありがとう……! ありがとう、ノアさん!」
ミオは、ノアの元へ駆け寄ると、満面の笑みで感謝の言葉を述べた。その笑顔は、この街に吹く、どんな風よりも輝いて見えた。
その夜、フウガの街では、何十年ぶりかの盛大な宴が開かれた。風の巫女と街の人々が、初めて同じ輪の中で笑い、語り合う。その中心には、ノアたちの姿があった。
「さて、と」
宴の喧騒から少し離れた場所で、ルナがノアに尋ねた。
「風の継承者は、見事仲間に引き入れたな。で、次の『呪い』の手がかりは、彼女から何か聞けそうか?」
ノアは、楽しそうに街の人々と話すミオを見つめながら、静かに頷いた。
「ええ。彼女の持つ『風の呪い』が、別の力の気配を、遥か南の方角に感じ取っているそうです。それは、大地を揺るがすような、力強い……『土』の気配だと」
新たな手がかり。次の目的地。
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