デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

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第六十六話 風の仲間と新たな旅立ち

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風霊山脈の麓の街フウガは、活気を取り戻していた。風の巫女ミオと街の人々の間にあった長年のわだかまりは解け、彼女は山の祠と街を自由に行き来するようになった。ミオがもたらす穏やかな風は、畑に恵みを与え、人々の心を和ませた。

「本当に、この街を離れるのかい、ミオちゃん」

街の長老が、寂しそうにミオに尋ねる。

「はい」

ミオは、強い決意を込めて頷いた。彼女の髪には、ノアが作った『凪の髪飾り』が、風に揺れてキラキラと輝いている。

「私は、この力を、私と同じように苦しんでいる人たちのために使いたい。それに、ノアさんたちと一緒に、世界の真実を見届けたいんです」

その成長した姿に、長老は何も言えず、ただ温かく彼女の背中を押した。

旅立ちの朝。

【ノアの箱舟】の一行は、五人になっていた。

「改めて、よろしくな、ミオ」
「はい! ルナさん!」

ルナとミオは、すっかり打ち解けていた。ミオの持つ天候を読む力や、風に乗って遠くの情報を集める能力は、旅の計画を立てる上で非常に有用だと、ルナは高く評価していた。

「ミオ、馬車の揺れが酷かったら、風の力で少し浮かせろ。そうすれば楽になる」
「わ、分かりました、エリオさん!」

エリオは、ミオの持つ『原初の呪い』に、研究者として尽きない興味を抱いているようだった。

クロエは、黙ってミオの頭を優しく撫でた。力に苦しんだ者同士、言葉にしなくても通じ合うものがあった。

「さあ、行こうか。次の目的地へ」

ノアの合図で、一行は頑丈な馬車に乗り込んだ。フウгаの街の人々が、いつまでも見えなくなるまで、手を振って彼らを見送っていた。

馬車が走り出すと、ミオは窓の外を見つめ、少しだけ不安そうな顔をした。

「私、本当に皆さんの役に立てるでしょうか……」
「当たり前だろ」

ノアは、即座に答えた。

「君のその力は、これから僕たちの旅にとって、何よりも強い追い風になる。それに、君がいるだけで、僕たちの心はすごく和むんだ。それだけでも、十分すぎるくらいだよ」

ノアの真っ直ぐな言葉に、ミオは頬を赤らめ、嬉しそうに俯いた。

新たな仲間が加わった馬車の中は、以前よりもずっと賑やかで、明るい空気に満ちていた。

一行が目指すのは、遥か南。灼熱の太陽が照りつける、巨大な砂漠地帯。そのどこかに、『土の呪い』を継ぐ者がいるという。

その頃、王都アルカディアでは、宰相が国王アルトリウスに報告をしていた。

「ノア・アークライト一行、無事に『風の呪い』の継承者と接触。仲間として迎え入れた模様です」
「うむ。順調なようだな」

国王は、満足げに頷いた。

「しかし陛下、よろしいのですか。彼らに、これほど自由に動かれては……。彼らの力が、我らの想定を超える速度で増大していくのは、危険も伴います」

宰相の懸念も、もっともだった。

「構わん」と国王は言った。「今は、彼らを信じるしかない。魔王軍の動きも、日に日に活発化しておる。もはや、我らだけの力で対抗できる段階は過ぎた。彼らこそが、この国の、いや、この世界の最後の希望なのだからな」

その言葉通り、魔王軍の侵攻は、各地で激化していた。特に、ノアたちが向かう南方砂漠地帯では、謎の地殻変動や、砂漠の魔物たちの異常な凶暴化が報告されていた。

そして、もう一つ。

辺境の砦に送られた元勇者アレスの元に、彼を信奉する過激派貴族から、密かに連絡が届いていた。

『アレス様。我らは、決してあなた様を見捨ててはおりません。ノアの奴は、今や王家にまで取り入り、英雄として祀り上げられております。奴を打ち破り、あなた様の栄光を取り戻すには、もはや人の力では足りませぬ』
『南方砂漠に、古くから伝わる『禁断の力』が眠る遺跡がございます。それは、人を人でなくす代償と引き換えに、神にも等しい力を与えるとか……。ご決断を』

手紙を読んだアレスの瞳に、昏く、そして狂的な光が宿った。彼は、手紙を炎で焼き尽くすと、夜の闇に紛れて、砦から静かに姿を消した。彼の心は、もはや復讐心だけに支配されていた。栄光を取り戻すためなら、彼は悪魔に魂を売ることさえ厭わないだろう。

光と影。希望と絶望。

それぞれの思惑が、灼熱の砂漠地帯へと集束していく。

【ノアの箱舟】の新たな冒険は、穏やかな風と共に始まった。だが、その先に待ち受けているのが、全てを飲み込む灼熱の砂嵐であることを、彼らはまだ知らない。
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