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第六十七話 灼熱の砂漠とオアシスの街
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風霊山脈を後にしてから、一月以上が過ぎた。ノアたちの馬車は、緑豊かな土地を抜け、次第に乾燥した大地へと足を踏み入れていた。空気は熱を帯び、草木は姿を消し、どこまでも続く赤茶けた大地が広がっている。
「これが、ザハラ大砂漠……」
ミオが、初めて見る光景に息を呑んだ。彼女が操る風も、ここでは熱風となり、肌を焼く。
「ここからは、普通の馬車では進めん。麓の街で、砂漠用の乗り物と装備を整えるぞ」
ルナが、手慣れた様子で指示を出す。
一行は、砂漠の入り口にあるオアシスの街「アズラク」に到着した。アズラクは、白い壁の家々と、青いタイルで装飾されたドーム型の屋根が特徴的な、美しい街だった。砂漠の民らしい、日に焼けた肌と、色鮮やかな衣装を纏った人々が行き交い、独特の活気に満ちている。
だが、その活気の裏に、ノアはどこか張り詰めたような、不安の空気を感じ取っていた。
宿に落ち着いた一行は、早速情報収集を開始した。街の中心にある酒場は、砂漠を旅する商人や冒険者たちの情報交換の場だ。
「よう、見かけねえ顔だな。旅の人かい?」
カウンターで、ターバンを巻いた屈強な男が、ノアたちに声をかけてきた。
「ええ。少し、この先の砂漠について教えていただきたくて」
ルナが、愛想よく応じる。
「砂漠、ねえ。やめといた方がいいぜ。最近、この辺りはどうも物騒でな」
男は、酒を呷りながら言った。
「サンドワームの活動が、異常に活発になってるんだ。それに、夜になると、どこからともなく不気味な唸り声が聞こえてきたり、地面が揺れたりすることもある。まるで、この砂漠自体が、何かに怒っているみたいだ」
その話は、他の客たちからも聞かれた。この街の人々は、砂漠に起きている異変に、得体の知れない恐怖を感じているようだった。
「大地が、怒っている……?」
ノアは、その言葉に引っかかりを覚えた。『土の呪い』の継承者と、何か関係があるのかもしれない。
その夜。宿屋の一室で、ノアたちの作戦会議が開かれていた。
「どうやら、この砂漠のどこかに、異変の中心があることは間違いなさそうだな」
ルナが、地図を広げる。
「問題は、この広大な砂漠のどこを探すかだ。闇雲に探しても、水と食料が尽きるだけだぞ」
「風に乗って、探ってみます」
ミオが、目を閉じて意識を集中させた。彼女の髪飾りが淡く光り、その意識は風となって、砂漠の隅々へと広がっていく。
しばらくして、彼女ははっと目を開けた。
「……分かりました。この砂漠の中心部、古代遺跡があると言われている場所に、巨大な魔力の渦を感じます。それは、まるで大地そのものが、苦しみ、呻いているような……」
「ビンゴだな。次の目的地は、その古代遺跡だ」
ルナが、地図に力強く印をつけた。
翌日、一行は砂漠を旅するための準備を整えた。乗り物は、ラクダに似た、砂漠の環境に強い大型の生物「サンドウォーカー」。そして、ノアが全員のために、特別な呪いの装備を作った。
「『清涼のマント』だ。これを着ていれば、砂漠の灼熱の太陽から身を守り、体感温度を少しだけ下げてくれる。代償として、これを着ている間は、無性に冷たいものが飲みたくなるけど」
そのユーモラスな代償に、皆の緊張が少しだけ和らいだ。
準備を終え、一行が街の門から出発しようとした時だった。一人の老婆が、彼らの前に立ちはだかった。老婆は、この街の占い師のようだった。その皺だらけの顔には、深い叡智と、そして警告の色が浮かんでいた。
老婆は、他の仲間には目もくれず、真っ直ぐにノアを見つめた。
「……お前さん、大きな使命を背負っているね」
その言葉に、ノアたちは息を呑んだ。
「砂漠の中心へ行くというのなら、止めはしない。だが、気をつけることだ。そこには、大地を癒す者と、大地を喰らう者がいる。そして、もう一人……自らの魂を大地に売り渡し、人ならざる力を得ようとする、哀れな影もまた、そこを目指している」
老婆の言葉は、謎めいていた。だが、ノアには、その「哀れな影」が誰を指しているのか、嫌な予感として感じ取っていた。
「お前さんのその優しさが、世界を救う力にもなれば、全てを破滅させる引き金にもなる。決して、道を見誤るでないよ」
老婆はそれだけ言うと、人混みの中へと姿を消していった。
残されたノアたちの心には、老婆の言葉が重くのしかかる。大地を癒す者、『土の呪い』の継承者。大地を喰らう者、おそらくは魔王軍の幹部。そして、もう一つの影。
様々な思惑が渦巻く灼熱の砂漠。そこは、新たな仲間との出会いの場であると同時に、過去の因縁との、避けられない再会の舞台にもなろうとしていた。一行は、それぞれの覚悟を胸に、広大な砂の海へと、その歩みを進めた。
「これが、ザハラ大砂漠……」
ミオが、初めて見る光景に息を呑んだ。彼女が操る風も、ここでは熱風となり、肌を焼く。
「ここからは、普通の馬車では進めん。麓の街で、砂漠用の乗り物と装備を整えるぞ」
ルナが、手慣れた様子で指示を出す。
一行は、砂漠の入り口にあるオアシスの街「アズラク」に到着した。アズラクは、白い壁の家々と、青いタイルで装飾されたドーム型の屋根が特徴的な、美しい街だった。砂漠の民らしい、日に焼けた肌と、色鮮やかな衣装を纏った人々が行き交い、独特の活気に満ちている。
だが、その活気の裏に、ノアはどこか張り詰めたような、不安の空気を感じ取っていた。
宿に落ち着いた一行は、早速情報収集を開始した。街の中心にある酒場は、砂漠を旅する商人や冒険者たちの情報交換の場だ。
「よう、見かけねえ顔だな。旅の人かい?」
カウンターで、ターバンを巻いた屈強な男が、ノアたちに声をかけてきた。
「ええ。少し、この先の砂漠について教えていただきたくて」
ルナが、愛想よく応じる。
「砂漠、ねえ。やめといた方がいいぜ。最近、この辺りはどうも物騒でな」
男は、酒を呷りながら言った。
「サンドワームの活動が、異常に活発になってるんだ。それに、夜になると、どこからともなく不気味な唸り声が聞こえてきたり、地面が揺れたりすることもある。まるで、この砂漠自体が、何かに怒っているみたいだ」
その話は、他の客たちからも聞かれた。この街の人々は、砂漠に起きている異変に、得体の知れない恐怖を感じているようだった。
「大地が、怒っている……?」
ノアは、その言葉に引っかかりを覚えた。『土の呪い』の継承者と、何か関係があるのかもしれない。
その夜。宿屋の一室で、ノアたちの作戦会議が開かれていた。
「どうやら、この砂漠のどこかに、異変の中心があることは間違いなさそうだな」
ルナが、地図を広げる。
「問題は、この広大な砂漠のどこを探すかだ。闇雲に探しても、水と食料が尽きるだけだぞ」
「風に乗って、探ってみます」
ミオが、目を閉じて意識を集中させた。彼女の髪飾りが淡く光り、その意識は風となって、砂漠の隅々へと広がっていく。
しばらくして、彼女ははっと目を開けた。
「……分かりました。この砂漠の中心部、古代遺跡があると言われている場所に、巨大な魔力の渦を感じます。それは、まるで大地そのものが、苦しみ、呻いているような……」
「ビンゴだな。次の目的地は、その古代遺跡だ」
ルナが、地図に力強く印をつけた。
翌日、一行は砂漠を旅するための準備を整えた。乗り物は、ラクダに似た、砂漠の環境に強い大型の生物「サンドウォーカー」。そして、ノアが全員のために、特別な呪いの装備を作った。
「『清涼のマント』だ。これを着ていれば、砂漠の灼熱の太陽から身を守り、体感温度を少しだけ下げてくれる。代償として、これを着ている間は、無性に冷たいものが飲みたくなるけど」
そのユーモラスな代償に、皆の緊張が少しだけ和らいだ。
準備を終え、一行が街の門から出発しようとした時だった。一人の老婆が、彼らの前に立ちはだかった。老婆は、この街の占い師のようだった。その皺だらけの顔には、深い叡智と、そして警告の色が浮かんでいた。
老婆は、他の仲間には目もくれず、真っ直ぐにノアを見つめた。
「……お前さん、大きな使命を背負っているね」
その言葉に、ノアたちは息を呑んだ。
「砂漠の中心へ行くというのなら、止めはしない。だが、気をつけることだ。そこには、大地を癒す者と、大地を喰らう者がいる。そして、もう一人……自らの魂を大地に売り渡し、人ならざる力を得ようとする、哀れな影もまた、そこを目指している」
老婆の言葉は、謎めいていた。だが、ノアには、その「哀れな影」が誰を指しているのか、嫌な予感として感じ取っていた。
「お前さんのその優しさが、世界を救う力にもなれば、全てを破滅させる引き金にもなる。決して、道を見誤るでないよ」
老婆はそれだけ言うと、人混みの中へと姿を消していった。
残されたノアたちの心には、老婆の言葉が重くのしかかる。大地を癒す者、『土の呪い』の継承者。大地を喰らう者、おそらくは魔王軍の幹部。そして、もう一つの影。
様々な思惑が渦巻く灼熱の砂漠。そこは、新たな仲間との出会いの場であると同時に、過去の因縁との、避けられない再会の舞台にもなろうとしていた。一行は、それぞれの覚悟を胸に、広大な砂の海へと、その歩みを進めた。
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