デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

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第六十八話 砂漠の遺跡と大地の呻き

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灼熱の太陽が、容赦なく大地を照りつける。見渡す限り続く砂の海を、ノアたちの一行はサンドウォーカーに揺られながら進んでいた。ノアが作った『清涼のマント』がなければ、とっくに熱中症で倒れていただろう。

「ミオ、遺跡の方角は変わらないか?」

ルナが、砂埃から顔を守りながら尋ねる。

「はい。このまま真っ直ぐです。ですが……近づくにつれて、大地の呻きが、どんどん強くなっています。とても、苦しそうです」

ミオは、風から伝わってくる大地の悲鳴に、自分のことのように顔を歪ませていた。

数日が過ぎた。水も食料も、まだ余裕はある。だが、絶えず続く過酷な環境は、確実に彼らの体力を奪っていた。

その時だった。

「来るぞ!」

クロエの鋭い声が響く。次の瞬間、一行の足元の砂が、巨大な渦を巻いて盛り上がった。

「サンドワームだ! しかも、でかい!」

砂の中から現れたのは、家ほどもある巨大なサンドワームだった。その巨大な口が、一行を丸呑みにしようと迫る。

「散開!」

ルナの号令で、全員がサンドウォーカーから飛び降りる。

「こいつは私がやる!」

クロエが、大剣を構えてサンドワームへと躍り出た。だが、サンドワームは硬い甲殻に覆われており、彼女の斬撃を弾き返す。

「硬い……!」
「クロエ、下手に近づくな! 奴の狙いは、振動だ!」

エリオが叫ぶ。サンドワームは、砂の中を自在に移動し、相手の足元から奇襲をかけるのが得意な魔物だ。

その時、ミオが杖を天にかざした。

「風よ! 砂を舞い上げ、彼の者の目をくらませて!」

ミオが巻き起こした砂嵐が、サンドワームの視界を奪う。その隙に、エリオが魔法を詠唱した。

「『大地束縛(アース・バインド)』!」

地面から岩の鎖が伸び、サンドワームの巨体を縛り上げる。だが、それも長くは持たない。サンドワームは、凄まじい力で鎖を引きちぎろうともがいている。

「ノア!」

ルナが叫んだ。ノアは、この瞬間のために準備していた呪物を、懐から取り出した。それは、巨大な音叉のような形をした、金属の棒だった。

ノアは、それを力強く地面に突き立てた。

「【呪物錬成】! 響け、『不協和音の音叉』!」

ノアが魔力を込めると、音叉は人間には聞こえない、特殊な周波数の音波を放ち始めた。その音波は、大地を伝わり、サンドワームの体内に響き渡る。

振動を感知する器官が、完全に麻痺させられたサンドワームは、苦しみにもだえ、方向感覚を失った。

「今だ、クロエ!」

好機を逃さず、クロエが跳躍した。彼女の大剣が、もがき苦しむサンドワームの、甲殻の隙間、唯一の弱点である喉元の柔らかい部分を、正確に貫いた。

巨大なサンドワームは、断末魔の叫びを上げることもなく、ゆっくりと砂の中へと崩れ落ちていった。

「……ふう。危なかったな」

ノアは、安堵のため息をついた。だが、エリオの表情は険しいままだった。

「今のサンドワーム、異常だった。本来なら、もっと知性が低いはずだ。まるで、何者かに操られているかのように、的確に僕たちを狙ってきた」

その言葉通り、彼らの周囲の砂漠には、いくつもの巨大な魔物の気配が潜んでいた。まるで、古代遺跡への道を阻む、番人のように。

数々の戦闘を乗り越え、一行はついに、砂漠の中心部に聳え立つ、巨大な遺跡へとたどり着いた。それは、砂に半分埋もれた、巨大なピラミッドのようだった。風化し、崩れかけてはいるが、その威容は、かつての文明の偉大さを物語っている。

「ここが、異変の中心……」

ミオが呟く。遺跡全体から、大地の呻きが、地響きとなって伝わってきた。

遺跡の入り口は、巨大な岩で塞がれていた。だが、その岩には、まるでサンドワームがこじ開けようとしたかのような、無数の傷跡が残っている。

「誰かが、先に入っているな」

クロエが、鋭い視線で入り口を見つめる。

その時、ノアの足元で、彼が作った『道しるべのランタン』が、チカチカと不規則な光を放ち始めた。それは、近くに強力な呪いの反応があることを示していた。

そして、その呪いの反応は、二つあった。

一つは、遺跡の奥深くから感じる、大地のように雄大で、しかし苦しみに満ちた『土の呪い』の気配。

そして、もう一つは。

「……この気配、まさか」

ノアの顔から、血の気が引いた。それは、彼がよく知る、歪んだ執着と憎悪に満ちた、あの男の気配だった。

「アレス……!」

老婆の予言は、的中した。この遺跡で、ノアは再び、過去の亡霊と対峙することを、運命づけられていたのだ。
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