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第七十三話 嵐の中の協奏曲
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セイレーンが巻き起こした巨大な水の竜巻が、天を突くようにシーサーペント号へと迫る。それは、船ごと全てを飲み込み、海の底へと引きずり込もうという、圧倒的な破壊の奔流だった。
「ひるむな! 船の針路はそのまま!」
老船長が、魂の限りを込めて叫ぶ。船乗りたちも、覚悟を決めて自分の持ち場についていた。
「ジン! 足場を!」
ルナの的確な指示が飛ぶ。
「任せろ!」
ジンは船の甲板に両手を突き、大地の力を解放した。シーサーペント号の周囲の海面から、巨大な岩の壁が何枚も隆起する。それは、即席の防波堤だった。
水の竜巻は、岩の壁に激突し、凄まじい水しぶきを上げてその勢いを弱める。だが、完全に防ぎきることはできない。
「ミオ!」
「はい!」
ミオは、杖を天にかざした。
「風よ! 彼の者の渦を、逆巻く流れで打ち消して!」
ミオが操る暴風が、水の竜巻の回転とは逆方向に吹き荒れる。二つの巨大な力がぶつかり合い、海はさらに荒れ狂うが、竜巻の勢いは目に見えて衰えていった。
「エリオ!」
「分かっている!」
エリオは、竜巻の中心、セイレーン本体へと狙いを定める。
「『雷槍(ライトニング・スピア)』!」
彼の指先から放たれた雷の槍が、嵐の中を一直線に飛翔する。水と雷。相性は抜群のはずだった。
だが、セイレーンは嘲笑うかのように、水のベールでその身を守る。雷の槍は、水のベールに触れた瞬間、その威力を吸収され、霧散してしまった。
「くっ……! 魔法が通じない!」
エリオの顔に、焦りの色が浮かぶ。
その時だった。
「道は、開けた!」
赤い閃光が、甲板を蹴った。クロエだ。彼女は、ジンが作った岩の壁を足場にして、人間離れした跳躍力でセイレーンへと迫る。
『愚かな剣士め! 我が聖域に、触れることすらできぬわ!』
セイレーンが嘲笑い、クロエの周囲の水が、無数の水の矢となって襲いかかる。
だが、クロエの動きは、その水の矢よりも速かった。彼女は空中で身を翻し、全ての矢を紙一重でかわすと、セイレーンの懐へと肉薄する。
「終わりだ!」
クロエの大剣が、セイレーンの心臓をめがけて振り下ろされた。
しかし、その一撃は、セイレーンの寸前で、見えない水の壁に阻まれた。彼女の周囲には、常に絶対防御の結界が張られているのだ。
『無駄だと言ったであろう!』
セイレーンは、弾き返されたクロエに向かって、強力な水流を放った。クロエは、空中で体勢を立て直すことができず、なすすべもなく吹き飛ばされる。
「クロエ!」
仲間たちの悲鳴が響く。
だが、クロエは海に落ちなかった。彼女の体は、吹き飛ばされた先で、ふわりと風に受け止められた。ミオが、咄嗟に風のクッションを作って、彼女を救ったのだ。
「……助かった、ミオ」
「お互い様、です!」
クロエは、ミオの風に乗って、船の甲板へと無事に戻った。しかし、状況は芳しくない。セイレーンの絶対防御を破る手段がなかった。
「どうすれば……」
誰もが、次の攻め手を失っていた。その時、皆の背後から、静かな声がした。
「僕に、考えがある」
声の主は、ノアだった。彼は、先ほど自分が呪いをかけた『目覚めの鐘』を、じっと見つめていた。
「あの鐘の音は、彼女の精神に作用する呪いを打ち破った。なら、同じように、彼女の物理的な防御も、音の力で破れるかもしれない」
「音で、結界を破る……? そんなこと、可能なのか?」
エリオが、信じられないという顔で問う。
「やってみる価値はある」
ノアは、クロエに向き直った。
「クロエ。君の剣を、貸してくれるかい?」
ノアは、クロエの大剣を受け取ると、その黒い刀身に、そっと手を触れた。
「【呪物錬成】」
彼が込めたのは、新たな呪い。それは、『共鳴の呪い』。特定の周波数の音に反応し、その振動を何倍にも増幅させて、斬撃に乗せるという、特殊な呪いだった。
「クロエ。僕が鐘を鳴らす。その音と、君の剣が共鳴する。その一瞬だけ、君の斬撃は、あらゆる防御をすり抜ける『音の刃』になるはずだ。タイミングは、一度きりだ」
それは、絶対的な信頼がなければ成り立たない、究極の連携技だった。
「……分かりました、ノア様」
クロエは、ノアの瞳をまっすぐに見つめ、力強く頷いた。
「あなたの鳴らす音、信じています」
彼女は、呪いをかけられた大剣を再び手にすると、深く息を吸った。
「ジン! もう一度、足場を!」
「ミオ! 彼女を、風で送り届けてくれ!」
ノアの指示に、仲間たちが一斉に動く。
ジンが作り出した岩の塔を駆け上がり、ミオが起こした突風に乗って、クロエは再びセイレーンへと飛翔する。
『また来たか、懲りぬ小娘め!』
セイレーンが、嘲笑いながら水の結界を最大まで展開する。
その瞬間を、ノアは見逃さなかった。
「今だ!」
ノアは、渾身の力で、『目覚めの鐘』を打ち鳴らした。
ゴオオオオオオンンン!!!
聖なる音の波動が、嵐の海に響き渡る。その音に、クロエの大剣が、キィィン、と高く共鳴した。刀身が、目に見えないほどの高速で振動し、音の刃と化す。
クロエは、その一瞬に、全てを賭けた。
「はあああああっ!」
彼女の斬撃が、セイレーンの水の結界に触れた。
パリン!
ガラスが砕けるような、甲高い音と共に、今までどんな攻撃も弾き返してきた絶対防御の結界が、あっけなく砕け散った。
『な……に……!?』
セイレーンの顔が、驚愕と不信に染まる。
そして、音の刃と化した大剣は、勢いを殺すことなく、セイレーンの胸を、深く、そして静かに切り裂いた。
嵐が、止んだ。
まるで、指揮者を失ったオーケストラのように、荒れ狂っていた風と波が、ぴたりと静まり返る。
セイレーンは、信じられないという顔で、自分の胸の傷を見つめていた。
『……我が歌が、破られ……我が結界が、砕かれるとは……。その音……温かい、な……』
彼女の体は、ゆっくりと光の粒子となり、海の中へと溶けていった。その最後の表情は、怒りではなく、どこか安らかなものに見えた。
後に残されたのは、嘘のような静けさと、雲の切れ間から差し込む、一筋の光だけだった。
ノアたちの、完全な勝利だった。
「ひるむな! 船の針路はそのまま!」
老船長が、魂の限りを込めて叫ぶ。船乗りたちも、覚悟を決めて自分の持ち場についていた。
「ジン! 足場を!」
ルナの的確な指示が飛ぶ。
「任せろ!」
ジンは船の甲板に両手を突き、大地の力を解放した。シーサーペント号の周囲の海面から、巨大な岩の壁が何枚も隆起する。それは、即席の防波堤だった。
水の竜巻は、岩の壁に激突し、凄まじい水しぶきを上げてその勢いを弱める。だが、完全に防ぎきることはできない。
「ミオ!」
「はい!」
ミオは、杖を天にかざした。
「風よ! 彼の者の渦を、逆巻く流れで打ち消して!」
ミオが操る暴風が、水の竜巻の回転とは逆方向に吹き荒れる。二つの巨大な力がぶつかり合い、海はさらに荒れ狂うが、竜巻の勢いは目に見えて衰えていった。
「エリオ!」
「分かっている!」
エリオは、竜巻の中心、セイレーン本体へと狙いを定める。
「『雷槍(ライトニング・スピア)』!」
彼の指先から放たれた雷の槍が、嵐の中を一直線に飛翔する。水と雷。相性は抜群のはずだった。
だが、セイレーンは嘲笑うかのように、水のベールでその身を守る。雷の槍は、水のベールに触れた瞬間、その威力を吸収され、霧散してしまった。
「くっ……! 魔法が通じない!」
エリオの顔に、焦りの色が浮かぶ。
その時だった。
「道は、開けた!」
赤い閃光が、甲板を蹴った。クロエだ。彼女は、ジンが作った岩の壁を足場にして、人間離れした跳躍力でセイレーンへと迫る。
『愚かな剣士め! 我が聖域に、触れることすらできぬわ!』
セイレーンが嘲笑い、クロエの周囲の水が、無数の水の矢となって襲いかかる。
だが、クロエの動きは、その水の矢よりも速かった。彼女は空中で身を翻し、全ての矢を紙一重でかわすと、セイレーンの懐へと肉薄する。
「終わりだ!」
クロエの大剣が、セイレーンの心臓をめがけて振り下ろされた。
しかし、その一撃は、セイレーンの寸前で、見えない水の壁に阻まれた。彼女の周囲には、常に絶対防御の結界が張られているのだ。
『無駄だと言ったであろう!』
セイレーンは、弾き返されたクロエに向かって、強力な水流を放った。クロエは、空中で体勢を立て直すことができず、なすすべもなく吹き飛ばされる。
「クロエ!」
仲間たちの悲鳴が響く。
だが、クロエは海に落ちなかった。彼女の体は、吹き飛ばされた先で、ふわりと風に受け止められた。ミオが、咄嗟に風のクッションを作って、彼女を救ったのだ。
「……助かった、ミオ」
「お互い様、です!」
クロエは、ミオの風に乗って、船の甲板へと無事に戻った。しかし、状況は芳しくない。セイレーンの絶対防御を破る手段がなかった。
「どうすれば……」
誰もが、次の攻め手を失っていた。その時、皆の背後から、静かな声がした。
「僕に、考えがある」
声の主は、ノアだった。彼は、先ほど自分が呪いをかけた『目覚めの鐘』を、じっと見つめていた。
「あの鐘の音は、彼女の精神に作用する呪いを打ち破った。なら、同じように、彼女の物理的な防御も、音の力で破れるかもしれない」
「音で、結界を破る……? そんなこと、可能なのか?」
エリオが、信じられないという顔で問う。
「やってみる価値はある」
ノアは、クロエに向き直った。
「クロエ。君の剣を、貸してくれるかい?」
ノアは、クロエの大剣を受け取ると、その黒い刀身に、そっと手を触れた。
「【呪物錬成】」
彼が込めたのは、新たな呪い。それは、『共鳴の呪い』。特定の周波数の音に反応し、その振動を何倍にも増幅させて、斬撃に乗せるという、特殊な呪いだった。
「クロエ。僕が鐘を鳴らす。その音と、君の剣が共鳴する。その一瞬だけ、君の斬撃は、あらゆる防御をすり抜ける『音の刃』になるはずだ。タイミングは、一度きりだ」
それは、絶対的な信頼がなければ成り立たない、究極の連携技だった。
「……分かりました、ノア様」
クロエは、ノアの瞳をまっすぐに見つめ、力強く頷いた。
「あなたの鳴らす音、信じています」
彼女は、呪いをかけられた大剣を再び手にすると、深く息を吸った。
「ジン! もう一度、足場を!」
「ミオ! 彼女を、風で送り届けてくれ!」
ノアの指示に、仲間たちが一斉に動く。
ジンが作り出した岩の塔を駆け上がり、ミオが起こした突風に乗って、クロエは再びセイレーンへと飛翔する。
『また来たか、懲りぬ小娘め!』
セイレーンが、嘲笑いながら水の結界を最大まで展開する。
その瞬間を、ノアは見逃さなかった。
「今だ!」
ノアは、渾身の力で、『目覚めの鐘』を打ち鳴らした。
ゴオオオオオオンンン!!!
聖なる音の波動が、嵐の海に響き渡る。その音に、クロエの大剣が、キィィン、と高く共鳴した。刀身が、目に見えないほどの高速で振動し、音の刃と化す。
クロエは、その一瞬に、全てを賭けた。
「はあああああっ!」
彼女の斬撃が、セイレーンの水の結界に触れた。
パリン!
ガラスが砕けるような、甲高い音と共に、今までどんな攻撃も弾き返してきた絶対防御の結界が、あっけなく砕け散った。
『な……に……!?』
セイレーンの顔が、驚愕と不信に染まる。
そして、音の刃と化した大剣は、勢いを殺すことなく、セイレーンの胸を、深く、そして静かに切り裂いた。
嵐が、止んだ。
まるで、指揮者を失ったオーケストラのように、荒れ狂っていた風と波が、ぴたりと静まり返る。
セイレーンは、信じられないという顔で、自分の胸の傷を見つめていた。
『……我が歌が、破られ……我が結界が、砕かれるとは……。その音……温かい、な……』
彼女の体は、ゆっくりと光の粒子となり、海の中へと溶けていった。その最後の表情は、怒りではなく、どこか安らかなものに見えた。
後に残されたのは、嘘のような静けさと、雲の切れ間から差し込む、一筋の光だけだった。
ノアたちの、完全な勝利だった。
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