デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

文字の大きさ
77 / 89

第七十六話 集いし力の協奏曲

しおりを挟む
「さあ、お仕置きの時間だ」

ルナの冷徹な宣言が、浄化された大聖堂に響き渡る。形勢は完全に逆転した。神殿の聖なる力はノアの仲間たちの追い風となり、逆に魔将軍キャンサーの動きを鈍らせていた。

「小賢しい人間どもが! 我が力、侮るなよ!」

キャンサーは、もはや防御を捨て、やけくそになったかのように巨大なハサミを振り回す。だが、その攻撃はあまりにも大振りで、今の仲間たちの敵ではなかった。

「ジン、クロエを飛ばせ!」

ルナの指示が飛ぶ。

「応!」

ジンは床に両手を突き、キャンサーの足元から巨大な岩の柱を突き上げた。それは攻撃ではない。クロエのための、跳躍台だった。

クロエは、その岩柱を駆け上がると、天高く舞い上がる。

「ミオ、風を!」
「はい!」

ミオが操る上昇気竜が、クロエの体をさらに押し上げ、彼女はキャンサーの頭上を取った。

「そこだ!」

クロエが急降下する。その狙いは、キャンサーの弱点である、頭頂部の甲殻の継ぎ目。

「させるか!」

キャンサーは、背中にある無数の小さな腕から、粘液質の弾丸を乱射する。だが、その弾丸はクロエに届かない。

「『風の盾(ウインド・シールド)』!」

ミオが作り出した風の障壁が、全ての粘液弾を防ぎきった。

「エリオ!」
「見えている!」

エリオは、キャンサーの関節部分を狙い、的確に氷の魔法を撃ち込む。

「『氷結弾(アイス・バレット)』!」

関節を凍らされたキャンサーの動きが、一瞬、完全に停止する。

その、ほんの一瞬の硬直。クロエにとっては、永遠とも言える時間だった。

「もらった!」

彼女の大剣が、重力と風の力を乗せて、キャンサーの頭頂部に深々と突き刺さった。

「ギシャアアアアアアアアア!!」

キャンサーの絶叫が、大聖堂を揺るがす。致命傷だった。だが、魔将軍は、それでも倒れない。

「道連れだ……! この神殿ごと、海の底へ沈めてくれる!」

キャンサーの体から、制御を失った最後の魔力が暴走し、自爆しようと光り始めた。そのエネルギーは、島一つを消し飛ばすほどの規模だった。

「まずい! 伏せろ!」

誰もが、死を覚悟した、その時だった。

「……僕の海で、好き勝手はさせない」

静かだが、凛とした声が響いた。声の主は、泉の中央で囚われていた、『水の呪い』の継承者だった。

彼は、いつの間にか意識を取り戻し、その蒼い瞳で、暴走するキャンサーを静かに見据えていた。彼を縛っていた魔力の鎖は、泉が浄化されたことで、とうに力を失っていた。

青年が、そっと手をかざす。すると、聖なる泉の水が、巨大な龍の形となって立ち上り、自爆しようとするキャンサーの体を、優しく、しかし抗いがたい力で包み込んだ。

暴走していた魔力は、水の龍に触れた途端、その力を中和され、穏やかな光の粒子となって霧散していく。

「な……なぜだ……。我が力が、消えていく……。魔王、様……ばんざ……」

キャンサーは、最後の言葉を言い終える前に、水の龍の中で完全に浄化され、跡形もなく消え去った。

後に残されたのは、静寂と、泉の上で穏やかに佇む、一人の青年の姿だけだった。

戦いは、終わった。

青年は、ゆっくりと泉から降り立つと、ノアたちの前に進み出て、深々と頭を下げた。

「助けてくれて、ありがとう。君たちが来なければ、僕はこの海の汚染源になるところだった」

その声は、水のように澄み渡っていた。

「僕は、カイ。『水の呪い』を継ぎ、この神殿を守る者だ」

カイと名乗った青年は、状況を全て理解していた。彼の持つ力は、他者の魔力の流れを感じ取り、それを浄化する能力に長けていたのだ。

「君が、ノアだね」

カイは、消耗しきって座り込んでいるノアの前に膝をつくと、その手にそっと触れた。カイの手から、清らかな水の力が流れ込み、ノアの傷ついた魂を優しく癒していく。

「君の力、感じたよ。とても温かくて、そして、とても悲しい呪いだ」
「……ありがとう」

ノアは、カイの力に、自分と同じ『原初の呪い』の気配を感じ取っていた。

こうして、五人目の継承者が、仲間となった。

カイが仲間に加わったことで、事態は大きく進展した。彼の持つ『水の呪い』の浄化能力は、他の継承者たちの力の在り処を、より鮮明に感じ取ることができたのだ。

「……感じる。あと、三人」

カイは、目を閉じ、世界の魔力の流れに意識を集中させた。

「一人は、燃えるような、情熱と破壊の力……『火の呪い』。それは、極東の火山地帯に。一人は、全てを無に帰す、静かで恐ろしい力……『闇の呪い』。それは、世界のどこにも存在しない、影の世界に」
「そして、最後の一人……」

カイは、そこで言葉を詰まらせ、悲しげな表情を浮かべた。

「……分からない。その力は、あまりにも弱々しくて、まるで消えかけている灯火のようだ……。『光の呪い』。その気配だけは、感じるのに」

火、闇、そして光。

残された三つの力。世界の命運をかけた【ノアの箱舟】の旅は、ようやくその全体像を現し始めていた。

新たな仲間と、新たな目的地。彼らは、傷ついた体を休ませると、浄化された聖なる島アクア・サンクタムを後にし、次なる冒険の舞台、極東の火山地帯へと、その船を進めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。 絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。 辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。 一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」 これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...