デバフ専門の支援術師は勇者パーティを追放されたので、呪いのアイテム専門店を開きます

夏見ナイ

文字の大きさ
79 / 89

第七十八話 極東の火山列島

しおりを挟む
【シーサーペント号改め、ノアの箱舟号】と船乗りたちに勝手に名付けられた呪いの船は、大海原を順調に進み続けた。カイの水の力は航海に絶大な効果を発揮した。彼は海の機嫌を読み、最も安全で速い航路を見つけ出し、時にはイルカの群れを呼び寄せて、船を先導させることさえあった。

一月以上の航海の末、一行の視界に、黒い煙を上げる島々の連なりが見えてきた。

「あれが、極東火山列島『アーク・イグニス』だ」

ルナが、海図を指し示しながら告げた。その名の通り、大小様々な火山が活動を続ける、灼熱の島々。海は熱水で湯気を立て、空気には硫黄の匂いが満ちている。

「すごい熱気ですね……」

風を操るミオが、額の汗を拭う。彼女の風ですら、ここでは熱風にしかならない。

「火の呪いの気配を、強く感じます。まるで、この列島全体が、一つの巨大な心臓のように脈打っているかのようです」

カイが、目を閉じて魔力の流れを探る。

船は、列島で最も大きな島にある、唯一の港町「カグツチ」に入港した。カグツチの街は、黒い火山岩を切り出して作られており、家々の屋根からは常に蒸気が立ち上っている。人々は、日に焼けた屈強な体つきで、その目には炎のような力強い光が宿っていた。

だが、街の様子はどこかおかしい。人々は皆、何かを恐れるように足早に行き交い、その表情は硬く、こわばっていた。

「どうやら、ここも問題を抱えているようだな」

ルナは、早速情報収集を開始した。酒場で話を聞くと、この街の事情が少しずつ見えてきた。

カグツチの街は、代々、火山の噴火を鎮める『火の巫女』によって守られてきたという。だが、数ヶ月前から、島の中心にある活火山『ゴウエンザン』の活動が、異常なほど活発化している。

「今の火の巫女様は、まだお若い。先代様が急に亡くなられてな。まだ、山の怒りを鎮めるだけの力が足りんのかもしれん」

酒場の主人が、不安げに語った。

「毎日のように、地面が揺れる。山の頂からは、不気味な赤い光が見える。このままでは、大噴火が起きて、この街も島も、全て溶岩に飲み込まれちまう」

街の人々は、大噴火の恐怖に怯えていたのだ。

「火の巫女……。おそらく、彼女が『火の呪い』の継承者だろう」

エリオが結論づけた。

「力を制御できずに、火山を活性化させてしまっている。風霊山脈のミオと、同じパターンだな」

「だったら、話は早いじゃないですか! 私が、また行って話をつけてきます!」

クロエが、意気揚々と名乗りを上げる。だが、ノアは静かに首を振った。

「待って、クロエ。今回は、少し様子が違う気がする」

ノアは、街の中心にある、ひときわ大きな屋敷を見つめていた。その屋敷からは、他の場所とは比較にならないほど、整然とした、しかしどこか冷たい魔力の流れを感じる。

「あの屋敷は?」
「ああ、あれは、この島を治めるシノノメ家のお屋敷だ。火の巫女も、代々シノノメ家から選ばれるんだとよ」

酒場の主人の言葉に、ルナが眉をひそめた。

「一族で、力を継承しているのか。厄介だな。閉鎖的で、プライドが高い連中が多い。外部の人間が、簡単に介入できるとは思えん」

その時、宿屋の扉が乱暴に開かれ、鎧をまとった数人の兵士たちが踏み込んできた。彼らの鎧には、炎と刀を象った、シノノメ家の家紋が刻まれている。

「貴様らか。よそ者の冒険者というのは」

隊長らしき男が、威圧的な態度でノアたちを見下した。

「我が主、シノノメ・リョウマ様が、お前たちに会いたいと仰せだ。ついて来い」

その口調は、招待ではなく、命令だった。

一行は、シノノメ家の屋敷へと案内された。屋敷の中は、質実剛健ながらも、厳格な空気に満ちていた。案内された道場で待っていたのは、鋭い目つきをした、壮年の侍だった。彼が、この島を治める当主、シノノメ・リョウマだった。

「お前たちが、【ノアの箱舟】か。王都での噂は、こちらにも届いている」

リョウマは、値踏みするように、ノアたち一人一人を見つめた。

「単刀直入に言おう。この島から、即刻立ち去れ」
「……それは、どういう意味でしょうか」

ルナが、冷静に問い返す。

「言葉通りの意味だ。この島の問題は、我らシノノメ家の問題。外部の者の助けは、一切必要ない。特に、得体の知れない呪術師など、論外だ」

リョウマの言葉は、硬く、そして揺るぎない拒絶の意志に満ちていた。

「山の怒りは、いずれ我が娘、アカリが鎮める。彼女は、次代の火の巫女として、日々厳しい修行に励んでおる。お前たちの出る幕はない」
「ですが、このままでは街が!」

クロエが反論しようとするが、リョウ-マはそれを一喝した。

「黙れ! これは、我らの誇りの問題だ! 恥を雪ぐ機会を、よそ者にくれてやるつもりはない!」

交渉は、決裂だった。リョウマは、頑ななまでに、ノアたちの介入を拒んだ。

屋敷を追い出された一行は、重い足取りで宿屋へと戻った。

「どうするんだ、ノア。あの石頭、話し合いでどうにかなる相手じゃないぞ」

ルナが、頭を抱える。

ノアは、黙って、煙を上げるゴウエンザンの山頂を見つめていた。リョウマの屋敷から感じた、冷たく硬い魔力。そして、あの山頂から感じる、抑えきれないほどの、熱く、そして悲しい力の奔流。

「……会いに行こう」

ノアは、静かに言った。

「シノノメ・リョウマじゃない。彼の娘、火の巫女アカリに」

リョウマの言う『厳しい修行』。それが、彼女を苦しめ、山の怒りを増幅させている原因に違いない。父親の誇りと、娘の苦しみ。その歪みが、この島全体を破滅へと導こうとしていた。

ノアは、父親の歪んだ愛情が生み出す呪いを、この旅で何度も見てきた。だからこそ、彼は行かなければならないと思った。

今度の相手は、魔王軍でも、刺客でもない。一族の誇りと伝統という、最も厄介で、そして根深い、人の心の壁だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

処理中です...