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第七十八話 極東の火山列島
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【シーサーペント号改め、ノアの箱舟号】と船乗りたちに勝手に名付けられた呪いの船は、大海原を順調に進み続けた。カイの水の力は航海に絶大な効果を発揮した。彼は海の機嫌を読み、最も安全で速い航路を見つけ出し、時にはイルカの群れを呼び寄せて、船を先導させることさえあった。
一月以上の航海の末、一行の視界に、黒い煙を上げる島々の連なりが見えてきた。
「あれが、極東火山列島『アーク・イグニス』だ」
ルナが、海図を指し示しながら告げた。その名の通り、大小様々な火山が活動を続ける、灼熱の島々。海は熱水で湯気を立て、空気には硫黄の匂いが満ちている。
「すごい熱気ですね……」
風を操るミオが、額の汗を拭う。彼女の風ですら、ここでは熱風にしかならない。
「火の呪いの気配を、強く感じます。まるで、この列島全体が、一つの巨大な心臓のように脈打っているかのようです」
カイが、目を閉じて魔力の流れを探る。
船は、列島で最も大きな島にある、唯一の港町「カグツチ」に入港した。カグツチの街は、黒い火山岩を切り出して作られており、家々の屋根からは常に蒸気が立ち上っている。人々は、日に焼けた屈強な体つきで、その目には炎のような力強い光が宿っていた。
だが、街の様子はどこかおかしい。人々は皆、何かを恐れるように足早に行き交い、その表情は硬く、こわばっていた。
「どうやら、ここも問題を抱えているようだな」
ルナは、早速情報収集を開始した。酒場で話を聞くと、この街の事情が少しずつ見えてきた。
カグツチの街は、代々、火山の噴火を鎮める『火の巫女』によって守られてきたという。だが、数ヶ月前から、島の中心にある活火山『ゴウエンザン』の活動が、異常なほど活発化している。
「今の火の巫女様は、まだお若い。先代様が急に亡くなられてな。まだ、山の怒りを鎮めるだけの力が足りんのかもしれん」
酒場の主人が、不安げに語った。
「毎日のように、地面が揺れる。山の頂からは、不気味な赤い光が見える。このままでは、大噴火が起きて、この街も島も、全て溶岩に飲み込まれちまう」
街の人々は、大噴火の恐怖に怯えていたのだ。
「火の巫女……。おそらく、彼女が『火の呪い』の継承者だろう」
エリオが結論づけた。
「力を制御できずに、火山を活性化させてしまっている。風霊山脈のミオと、同じパターンだな」
「だったら、話は早いじゃないですか! 私が、また行って話をつけてきます!」
クロエが、意気揚々と名乗りを上げる。だが、ノアは静かに首を振った。
「待って、クロエ。今回は、少し様子が違う気がする」
ノアは、街の中心にある、ひときわ大きな屋敷を見つめていた。その屋敷からは、他の場所とは比較にならないほど、整然とした、しかしどこか冷たい魔力の流れを感じる。
「あの屋敷は?」
「ああ、あれは、この島を治めるシノノメ家のお屋敷だ。火の巫女も、代々シノノメ家から選ばれるんだとよ」
酒場の主人の言葉に、ルナが眉をひそめた。
「一族で、力を継承しているのか。厄介だな。閉鎖的で、プライドが高い連中が多い。外部の人間が、簡単に介入できるとは思えん」
その時、宿屋の扉が乱暴に開かれ、鎧をまとった数人の兵士たちが踏み込んできた。彼らの鎧には、炎と刀を象った、シノノメ家の家紋が刻まれている。
「貴様らか。よそ者の冒険者というのは」
隊長らしき男が、威圧的な態度でノアたちを見下した。
「我が主、シノノメ・リョウマ様が、お前たちに会いたいと仰せだ。ついて来い」
その口調は、招待ではなく、命令だった。
一行は、シノノメ家の屋敷へと案内された。屋敷の中は、質実剛健ながらも、厳格な空気に満ちていた。案内された道場で待っていたのは、鋭い目つきをした、壮年の侍だった。彼が、この島を治める当主、シノノメ・リョウマだった。
「お前たちが、【ノアの箱舟】か。王都での噂は、こちらにも届いている」
リョウマは、値踏みするように、ノアたち一人一人を見つめた。
「単刀直入に言おう。この島から、即刻立ち去れ」
「……それは、どういう意味でしょうか」
ルナが、冷静に問い返す。
「言葉通りの意味だ。この島の問題は、我らシノノメ家の問題。外部の者の助けは、一切必要ない。特に、得体の知れない呪術師など、論外だ」
リョウマの言葉は、硬く、そして揺るぎない拒絶の意志に満ちていた。
「山の怒りは、いずれ我が娘、アカリが鎮める。彼女は、次代の火の巫女として、日々厳しい修行に励んでおる。お前たちの出る幕はない」
「ですが、このままでは街が!」
クロエが反論しようとするが、リョウ-マはそれを一喝した。
「黙れ! これは、我らの誇りの問題だ! 恥を雪ぐ機会を、よそ者にくれてやるつもりはない!」
交渉は、決裂だった。リョウマは、頑ななまでに、ノアたちの介入を拒んだ。
屋敷を追い出された一行は、重い足取りで宿屋へと戻った。
「どうするんだ、ノア。あの石頭、話し合いでどうにかなる相手じゃないぞ」
ルナが、頭を抱える。
ノアは、黙って、煙を上げるゴウエンザンの山頂を見つめていた。リョウマの屋敷から感じた、冷たく硬い魔力。そして、あの山頂から感じる、抑えきれないほどの、熱く、そして悲しい力の奔流。
「……会いに行こう」
ノアは、静かに言った。
「シノノメ・リョウマじゃない。彼の娘、火の巫女アカリに」
リョウマの言う『厳しい修行』。それが、彼女を苦しめ、山の怒りを増幅させている原因に違いない。父親の誇りと、娘の苦しみ。その歪みが、この島全体を破滅へと導こうとしていた。
ノアは、父親の歪んだ愛情が生み出す呪いを、この旅で何度も見てきた。だからこそ、彼は行かなければならないと思った。
今度の相手は、魔王軍でも、刺客でもない。一族の誇りと伝統という、最も厄介で、そして根深い、人の心の壁だった。
一月以上の航海の末、一行の視界に、黒い煙を上げる島々の連なりが見えてきた。
「あれが、極東火山列島『アーク・イグニス』だ」
ルナが、海図を指し示しながら告げた。その名の通り、大小様々な火山が活動を続ける、灼熱の島々。海は熱水で湯気を立て、空気には硫黄の匂いが満ちている。
「すごい熱気ですね……」
風を操るミオが、額の汗を拭う。彼女の風ですら、ここでは熱風にしかならない。
「火の呪いの気配を、強く感じます。まるで、この列島全体が、一つの巨大な心臓のように脈打っているかのようです」
カイが、目を閉じて魔力の流れを探る。
船は、列島で最も大きな島にある、唯一の港町「カグツチ」に入港した。カグツチの街は、黒い火山岩を切り出して作られており、家々の屋根からは常に蒸気が立ち上っている。人々は、日に焼けた屈強な体つきで、その目には炎のような力強い光が宿っていた。
だが、街の様子はどこかおかしい。人々は皆、何かを恐れるように足早に行き交い、その表情は硬く、こわばっていた。
「どうやら、ここも問題を抱えているようだな」
ルナは、早速情報収集を開始した。酒場で話を聞くと、この街の事情が少しずつ見えてきた。
カグツチの街は、代々、火山の噴火を鎮める『火の巫女』によって守られてきたという。だが、数ヶ月前から、島の中心にある活火山『ゴウエンザン』の活動が、異常なほど活発化している。
「今の火の巫女様は、まだお若い。先代様が急に亡くなられてな。まだ、山の怒りを鎮めるだけの力が足りんのかもしれん」
酒場の主人が、不安げに語った。
「毎日のように、地面が揺れる。山の頂からは、不気味な赤い光が見える。このままでは、大噴火が起きて、この街も島も、全て溶岩に飲み込まれちまう」
街の人々は、大噴火の恐怖に怯えていたのだ。
「火の巫女……。おそらく、彼女が『火の呪い』の継承者だろう」
エリオが結論づけた。
「力を制御できずに、火山を活性化させてしまっている。風霊山脈のミオと、同じパターンだな」
「だったら、話は早いじゃないですか! 私が、また行って話をつけてきます!」
クロエが、意気揚々と名乗りを上げる。だが、ノアは静かに首を振った。
「待って、クロエ。今回は、少し様子が違う気がする」
ノアは、街の中心にある、ひときわ大きな屋敷を見つめていた。その屋敷からは、他の場所とは比較にならないほど、整然とした、しかしどこか冷たい魔力の流れを感じる。
「あの屋敷は?」
「ああ、あれは、この島を治めるシノノメ家のお屋敷だ。火の巫女も、代々シノノメ家から選ばれるんだとよ」
酒場の主人の言葉に、ルナが眉をひそめた。
「一族で、力を継承しているのか。厄介だな。閉鎖的で、プライドが高い連中が多い。外部の人間が、簡単に介入できるとは思えん」
その時、宿屋の扉が乱暴に開かれ、鎧をまとった数人の兵士たちが踏み込んできた。彼らの鎧には、炎と刀を象った、シノノメ家の家紋が刻まれている。
「貴様らか。よそ者の冒険者というのは」
隊長らしき男が、威圧的な態度でノアたちを見下した。
「我が主、シノノメ・リョウマ様が、お前たちに会いたいと仰せだ。ついて来い」
その口調は、招待ではなく、命令だった。
一行は、シノノメ家の屋敷へと案内された。屋敷の中は、質実剛健ながらも、厳格な空気に満ちていた。案内された道場で待っていたのは、鋭い目つきをした、壮年の侍だった。彼が、この島を治める当主、シノノメ・リョウマだった。
「お前たちが、【ノアの箱舟】か。王都での噂は、こちらにも届いている」
リョウマは、値踏みするように、ノアたち一人一人を見つめた。
「単刀直入に言おう。この島から、即刻立ち去れ」
「……それは、どういう意味でしょうか」
ルナが、冷静に問い返す。
「言葉通りの意味だ。この島の問題は、我らシノノメ家の問題。外部の者の助けは、一切必要ない。特に、得体の知れない呪術師など、論外だ」
リョウマの言葉は、硬く、そして揺るぎない拒絶の意志に満ちていた。
「山の怒りは、いずれ我が娘、アカリが鎮める。彼女は、次代の火の巫女として、日々厳しい修行に励んでおる。お前たちの出る幕はない」
「ですが、このままでは街が!」
クロエが反論しようとするが、リョウ-マはそれを一喝した。
「黙れ! これは、我らの誇りの問題だ! 恥を雪ぐ機会を、よそ者にくれてやるつもりはない!」
交渉は、決裂だった。リョウマは、頑ななまでに、ノアたちの介入を拒んだ。
屋敷を追い出された一行は、重い足取りで宿屋へと戻った。
「どうするんだ、ノア。あの石頭、話し合いでどうにかなる相手じゃないぞ」
ルナが、頭を抱える。
ノアは、黙って、煙を上げるゴウエンザンの山頂を見つめていた。リョウマの屋敷から感じた、冷たく硬い魔力。そして、あの山頂から感じる、抑えきれないほどの、熱く、そして悲しい力の奔流。
「……会いに行こう」
ノアは、静かに言った。
「シノノメ・リョウマじゃない。彼の娘、火の巫女アカリに」
リョウマの言う『厳しい修行』。それが、彼女を苦しめ、山の怒りを増幅させている原因に違いない。父親の誇りと、娘の苦しみ。その歪みが、この島全体を破滅へと導こうとしていた。
ノアは、父親の歪んだ愛情が生み出す呪いを、この旅で何度も見てきた。だからこそ、彼は行かなければならないと思った。
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