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第78話 神の工房へようこそ
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エルフリーデンの町に、春が訪れた。
工房の窓から見える木々には、若葉が芽吹き、柔らかな陽光が、工房の中を暖かく満たしている。
俺は、この一年間の感謝を込めて、リリアとイグナのために、特別な贈り物を準備していた。
作業台の上には、二つの小さなアクセサリーが、静かな輝きを放っている。
それは、俺が持てる技術の全てと、そして、ありったけの想いを込めて作り上げた、お揃いのペンダントだった。
素材は、もちろん【神の涙】。
リリアのためには、彼女の聖なる力を象徴する、純白の百合の花をかたどったデザインを。
イグナのためには、彼女の竜王としての誇りを表す、気高い銀の竜をモチーフにしたデザインを。
二つは、異なる形をしていながらも、どこか対になるように、不思議な調和を保っていた。
その日の午後。
いつものように、三人でお茶を飲んでいる、穏やかな時間に、俺はその二つの小さな箱を、彼女たちの前にそっと置いた。
「リリア、イグナ。いつも、ありがとう」
俺が少し照れながら言うと、二人は不思議そうな顔で、箱を開けた。
そして、中から現れたペンダントを見て、二人とも、息をのんだ。
「まあ……アルトさん、これを、わたくしたちに……?」
リリアが、震える声で呟く。
「……我に、か? なぜだ?」
イグナが、戸惑ったように俺を見つめる。
俺は、二人の目を、まっすぐに見つめ返した。
「これは、感謝のしるしだ。君たちが、この工房に来てくれて、俺の隣にいてくれて、俺は、本当の幸せを見つけることができた」
「リリアが淹れてくれるお茶も、イグナの憎まれ口も、もう、俺の日常にはなくてはならないものなんだ」
俺は、立ち上がると、それぞれのペンダントを手に取り、彼女たちの首に、そっとかけてやった。
ひんやりとしたペンダントが、彼女たちの肌に触れる。
「だから、これからも、ずっと」
俺は、二人の手を、優しく握った。
「俺のそばに、いてほしい」
それは、不器用な、俺なりの、精一杯の告白だった。
俺の言葉に、二人は、顔を真っ赤にして、俯いてしまった。
長い、長い沈黙。
やがて、リリアが、涙で潤んだ瞳を上げた。
「……はい。喜んで。わたくしも、ずっと、アルトさんのそばにいたいです」
イグナも、そっぽを向きながら、小さな、しかしはっきりとした声で言った。
「……ふん。まあ、貴様がそこまで言うのならな。仕方ない。これからも、この我が、貴様の面倒を見てやらんでもない」
その耳は、リンゴのように赤く染まっていた。
俺は、その返事を聞いて、心の底から、安堵と喜びが込み上げてくるのを感じた。
思わず、二人のことを、ぎゅっと抱きしめてしまう。
「!?」
「きゃっ!」
突然のことに驚く二人だったが、やがて、その腕は、俺の背中に、そっと回された。
工房の窓から、春の優しい光が、そんな俺たち三人を、祝福するように、柔らかく照らしていた。
外れスキルと蔑まれ、全てを失ったあの日から、俺の物語は始まった。
辺境の町で、かけがえのない仲間と出会い、自分の本当の居場所を見つけた。
俺は、もう英雄じゃない。ただの、一人の職人だ。
だけど、俺の工房は、どんな伝説の武具よりも、もっとずっと尊いものを生み出す場所になった。
大切な人たちの、笑顔と、幸せを。
「さて、と」
俺は、名残惜しそうに二人から体を離すと、いつものように、金床の前に立った。
「依頼が溜まってるんだ。仕事をしなくちゃな」
その隣では、リリアが新しいお茶を淹れ始め、イグナが、今日手に入れたばかりのペンダントを、愛おしそうに撫でている。
いつもの、そして、最高の日常。
ようこそ、俺の工房へ。
ここには、神の素材と、聖女と、竜王と、そして、世界一の幸せがある。
俺の物語は、これからも、この温かい光の中で、ずっと、ずっと続いていく。
――了――
工房の窓から見える木々には、若葉が芽吹き、柔らかな陽光が、工房の中を暖かく満たしている。
俺は、この一年間の感謝を込めて、リリアとイグナのために、特別な贈り物を準備していた。
作業台の上には、二つの小さなアクセサリーが、静かな輝きを放っている。
それは、俺が持てる技術の全てと、そして、ありったけの想いを込めて作り上げた、お揃いのペンダントだった。
素材は、もちろん【神の涙】。
リリアのためには、彼女の聖なる力を象徴する、純白の百合の花をかたどったデザインを。
イグナのためには、彼女の竜王としての誇りを表す、気高い銀の竜をモチーフにしたデザインを。
二つは、異なる形をしていながらも、どこか対になるように、不思議な調和を保っていた。
その日の午後。
いつものように、三人でお茶を飲んでいる、穏やかな時間に、俺はその二つの小さな箱を、彼女たちの前にそっと置いた。
「リリア、イグナ。いつも、ありがとう」
俺が少し照れながら言うと、二人は不思議そうな顔で、箱を開けた。
そして、中から現れたペンダントを見て、二人とも、息をのんだ。
「まあ……アルトさん、これを、わたくしたちに……?」
リリアが、震える声で呟く。
「……我に、か? なぜだ?」
イグナが、戸惑ったように俺を見つめる。
俺は、二人の目を、まっすぐに見つめ返した。
「これは、感謝のしるしだ。君たちが、この工房に来てくれて、俺の隣にいてくれて、俺は、本当の幸せを見つけることができた」
「リリアが淹れてくれるお茶も、イグナの憎まれ口も、もう、俺の日常にはなくてはならないものなんだ」
俺は、立ち上がると、それぞれのペンダントを手に取り、彼女たちの首に、そっとかけてやった。
ひんやりとしたペンダントが、彼女たちの肌に触れる。
「だから、これからも、ずっと」
俺は、二人の手を、優しく握った。
「俺のそばに、いてほしい」
それは、不器用な、俺なりの、精一杯の告白だった。
俺の言葉に、二人は、顔を真っ赤にして、俯いてしまった。
長い、長い沈黙。
やがて、リリアが、涙で潤んだ瞳を上げた。
「……はい。喜んで。わたくしも、ずっと、アルトさんのそばにいたいです」
イグナも、そっぽを向きながら、小さな、しかしはっきりとした声で言った。
「……ふん。まあ、貴様がそこまで言うのならな。仕方ない。これからも、この我が、貴様の面倒を見てやらんでもない」
その耳は、リンゴのように赤く染まっていた。
俺は、その返事を聞いて、心の底から、安堵と喜びが込み上げてくるのを感じた。
思わず、二人のことを、ぎゅっと抱きしめてしまう。
「!?」
「きゃっ!」
突然のことに驚く二人だったが、やがて、その腕は、俺の背中に、そっと回された。
工房の窓から、春の優しい光が、そんな俺たち三人を、祝福するように、柔らかく照らしていた。
外れスキルと蔑まれ、全てを失ったあの日から、俺の物語は始まった。
辺境の町で、かけがえのない仲間と出会い、自分の本当の居場所を見つけた。
俺は、もう英雄じゃない。ただの、一人の職人だ。
だけど、俺の工房は、どんな伝説の武具よりも、もっとずっと尊いものを生み出す場所になった。
大切な人たちの、笑顔と、幸せを。
「さて、と」
俺は、名残惜しそうに二人から体を離すと、いつものように、金床の前に立った。
「依頼が溜まってるんだ。仕事をしなくちゃな」
その隣では、リリアが新しいお茶を淹れ始め、イグナが、今日手に入れたばかりのペンダントを、愛おしそうに撫でている。
いつもの、そして、最高の日常。
ようこそ、俺の工房へ。
ここには、神の素材と、聖女と、竜王と、そして、世界一の幸せがある。
俺の物語は、これからも、この温かい光の中で、ずっと、ずっと続いていく。
――了――
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