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第9話:ルナの秘密と魔法回路
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リアムがルナを助けてから数日が過ぎた。ルナの傷は《概念創造》による治癒のおかげで完全に癒え、体力も日に日に回復していった。リアムが創造した小屋での共同生活は、最初はぎこちなさもあったものの、次第に打ち解けたものになっていった。
リアムは日中、小屋の周辺を探索したり、畑の手入れをしたり、《概念創造》の実験をしたりして過ごした。ルナは小屋の中で静かに過ごすことが多かったが、リアムが持ち帰った森の植物について、それが薬草か毒草か、あるいは食用になるのかを教えてくれることもあった。ハイエルフである彼女は、森の知識に非常に詳しかったのだ。
「これは『月見草』。夜にだけ花が開くの。根は薬になるわ」
「そっちの赤いキノコはダメよ。『死招きの傘』って呼ばれてる猛毒キノコだから」
彼女の知識は、リアムにとって非常に有益だった。おかげで、安全に食料のバリエーションを増やすことができたし、いざという時のための薬草も集めることができた。
二人の会話も、少しずつ増えていった。リアムは自分の追放された経緯や、《概念創造》についてもう少し詳しく話した。ルナは相変わらず自分の過去については口を閉ざしていたが、リアムの話には興味深そうに耳を傾け、時折、鋭い質問をすることもあった。
「《概念創造》……本当に不思議な力ね。魔力の流れが、普通の魔法とは全く違うように感じるわ」
「ルナは魔法に詳しいのか?」
「ええ、まあ……少しだけ」
ルナはそう言って口ごもった。彼女が魔法について何かを知っているのは明らかだったが、それ以上は語ろうとしなかった。
ある日のこと、リアムが畑の手入れをしていると、小屋の中からルナの苦しげな声が聞こえてきた。慌てて駆けつけると、ルナが床に座り込み、頭を押さえて苦悶の表情を浮かべていた。彼女の周囲の空間が、わずかに歪んでいるように見える。魔力が不安定に揺らめいているのが、魔力感知能力を持たないリアムにも感じ取れた。
「ルナ、どうしたんだ!?」
「……っ、大丈夫……いつもの、ことだから……」
ルナは額に汗を浮かべ、荒い息をつきながら答える。しかし、その様子は明らかに「大丈夫」ではなかった。彼女の体から溢れ出す魔力が制御を失い、暴走しかけているように見えた。
「いつものことって……まさか、これが君があの森で倒れていた原因か?」
リアムの問いに、ルナは苦しげに頷いた。
「……私は……うまく、魔法を制御できないの……。少し大きな魔法を使おうとすると、魔力が暴走して……自分を傷つけてしまう……」
ようやく、彼女が抱える秘密の一端が明かされた。ルナは高い魔力を持っている。それはリアムにも感じ取れた。しかし、その膨大な魔力を制御する回路――魔法回路に、何らかの問題があるらしかった。
「以前は、こんなことなかった……。でも、ある出来事がきっかけで……」ルナはそこまで言うと、辛そうに唇を噛んだ。過去のトラウマが関係しているのかもしれない。
魔力の暴走は、非常に危険だ。下手をすれば、術者自身だけでなく、周囲にも甚大な被害を及ぼしかねない。ルナが森で負っていた傷も、魔物によるものではなく、自身の魔力暴走によるものだった可能性が高い。
リアムは、苦しむルナを見て、何とかしてやりたいと思った。彼女は自分の命の恩人であり、この辺境での初めての仲間だ。
(魔力を制御できない……魔法回路の問題……)
リアムは思考を巡らせる。《概念創造》で、何かできないだろうか?
(そうだ、魔法回路を補助するようなものを創れないか?)
魔法回路は、体内に存在する魔力の通り道だ。それが損傷していたり、うまく機能していなかったりするのなら、外部からその流れを整え、制御を助けるような装置――あるいは装飾品のようなものがあれば、問題を解決できるかもしれない。
「ルナ、少し試してみたいことがある」リアムは決意を固め、ルナに告げた。「君の魔力制御を助けるようなものを、俺の力で創ってみる」
「……そんなこと、できるの……?」ルナが、驚きと期待の入り混じった目でリアムを見る。
「やってみないと分からない。でも、可能性があるなら試したい」
リアムは、ルナの魔力の流れをイメージしようと試みた。直接見ることはできないが、彼女の周囲に揺らめく魔力の気配から、その流れが乱れ、滞っている部分があることを感じ取る。
(この乱れた流れを、整えてやる……過剰な魔力を一時的に受け止め、スムーズに流すための、補助的な回路……)
彼は、「ルナの魔力特性に適合し、魔力の流れを安定させ、暴走を防ぐための魔法回路補助具」という概念を構築した。素材は、魔力伝導率の高い金属と、魔力を貯蔵・安定化させる性質を持つ宝石を組み合わせたものがいいだろう。形は、常に身につけていられるように、シンプルなブレスレットがいいかもしれない。
意識を集中し、《概念創造》を発動する。治癒の時ほどではないが、これもかなり精密な創造だ。相応の魔力が消費されていく。
リアムの手のひらに、銀色の金属と、淡い青色の宝石が組み合わされた、美しいブレスレットが現れた。それは微かに魔力の光を帯びており、見るからに特別な品であることが分かる。
「これを着けてみてくれ」リアムは、息を整えながらブレスレットをルナに差し出した。
ルナは、恐る恐るそれを受け取り、震える手で手首に着けた。
ブレスレットが彼女の肌に触れた瞬間、ふわりと柔らかな光を放った。そして、先ほどまで不安定に揺らめいていたルナの周囲の魔力が、急速に落ち着いていくのが分かった。
「……あ……」ルナが、信じられないといった表情で自分の手首と、そして自身の体内の感覚を確かめている。「魔力の流れが……穏やかに……苦しくない……!」
彼女の顔から苦悶の色が消え、驚きと喜びに満ちた表情へと変わっていく。
「成功したみたいだな」リアムは、ほっと胸を撫で下ろした。
ルナは、何度もブレスレットを撫でながら、感極まった様子でリアムを見つめた。
「リアム……ありがとう……! 本当に、ありがとう……!」
彼女の瞳には、涙が浮かんでいた。それは、長年の苦しみから解放された安堵と、リアムへの深い感謝の涙だった。
「これで、君も安心して魔法が使えるようになるかもしれない」
「……ええ。試してみたいわ」
ルナは立ち上がり、小屋の外に出た。そして、深呼吸を一つすると、両手を前にかざし、呪文を唱え始めた。それは、リアムには聞き取れない、古の響きを持つ言葉だった。
彼女の手に、眩い光が集まっていく。以前のような不安定さはなく、魔力は完全に制御され、美しい光の球へと形を変えていった。
「――【光弾(ライトバレット)】!」
ルナが叫ぶと、光の球が近くの木に向かって放たれた。それは正確に幹を捉え、閃光と共に炸裂し、木の表面を抉り取った。威力はそれほど高く調整されていなかったが、見事な魔法制御だった。
「……できた……! 魔法が、使えた……!」
ルナは、自分の手を見つめ、感無量の面持ちで呟いた。彼女にとって、それは何年ぶりかの、自由に魔法を使えた瞬間だったのかもしれない。
リアムも、その光景を見て心から嬉しく思った。自分の力が、また一つ、大切な仲間を助けることができたのだ。
ルナは振り返り、輝くような笑顔をリアムに向けた。それは、リアムが彼女と出会ってから初めて見る、心からの笑顔だった。
「リアム、あなたのおかげよ。本当に、言葉にならないくらい感謝してる」
「どういたしまして。役に立てて嬉しいよ」リアムも笑顔で応えた。
魔法回路補助具の創造。それは、ルナの長年の悩みを解決しただけでなく、二人の間の信頼関係を、より一層深いものにした出来事だった。ルナは、リアムに対して絶対的な信頼を寄せるようになり、リアムもまた、彼女という頼もしい仲間を得たことで、この辺境で生きていく自信を深めていた。
二人の生活は、新たな段階へと進もうとしていた。
リアムは日中、小屋の周辺を探索したり、畑の手入れをしたり、《概念創造》の実験をしたりして過ごした。ルナは小屋の中で静かに過ごすことが多かったが、リアムが持ち帰った森の植物について、それが薬草か毒草か、あるいは食用になるのかを教えてくれることもあった。ハイエルフである彼女は、森の知識に非常に詳しかったのだ。
「これは『月見草』。夜にだけ花が開くの。根は薬になるわ」
「そっちの赤いキノコはダメよ。『死招きの傘』って呼ばれてる猛毒キノコだから」
彼女の知識は、リアムにとって非常に有益だった。おかげで、安全に食料のバリエーションを増やすことができたし、いざという時のための薬草も集めることができた。
二人の会話も、少しずつ増えていった。リアムは自分の追放された経緯や、《概念創造》についてもう少し詳しく話した。ルナは相変わらず自分の過去については口を閉ざしていたが、リアムの話には興味深そうに耳を傾け、時折、鋭い質問をすることもあった。
「《概念創造》……本当に不思議な力ね。魔力の流れが、普通の魔法とは全く違うように感じるわ」
「ルナは魔法に詳しいのか?」
「ええ、まあ……少しだけ」
ルナはそう言って口ごもった。彼女が魔法について何かを知っているのは明らかだったが、それ以上は語ろうとしなかった。
ある日のこと、リアムが畑の手入れをしていると、小屋の中からルナの苦しげな声が聞こえてきた。慌てて駆けつけると、ルナが床に座り込み、頭を押さえて苦悶の表情を浮かべていた。彼女の周囲の空間が、わずかに歪んでいるように見える。魔力が不安定に揺らめいているのが、魔力感知能力を持たないリアムにも感じ取れた。
「ルナ、どうしたんだ!?」
「……っ、大丈夫……いつもの、ことだから……」
ルナは額に汗を浮かべ、荒い息をつきながら答える。しかし、その様子は明らかに「大丈夫」ではなかった。彼女の体から溢れ出す魔力が制御を失い、暴走しかけているように見えた。
「いつものことって……まさか、これが君があの森で倒れていた原因か?」
リアムの問いに、ルナは苦しげに頷いた。
「……私は……うまく、魔法を制御できないの……。少し大きな魔法を使おうとすると、魔力が暴走して……自分を傷つけてしまう……」
ようやく、彼女が抱える秘密の一端が明かされた。ルナは高い魔力を持っている。それはリアムにも感じ取れた。しかし、その膨大な魔力を制御する回路――魔法回路に、何らかの問題があるらしかった。
「以前は、こんなことなかった……。でも、ある出来事がきっかけで……」ルナはそこまで言うと、辛そうに唇を噛んだ。過去のトラウマが関係しているのかもしれない。
魔力の暴走は、非常に危険だ。下手をすれば、術者自身だけでなく、周囲にも甚大な被害を及ぼしかねない。ルナが森で負っていた傷も、魔物によるものではなく、自身の魔力暴走によるものだった可能性が高い。
リアムは、苦しむルナを見て、何とかしてやりたいと思った。彼女は自分の命の恩人であり、この辺境での初めての仲間だ。
(魔力を制御できない……魔法回路の問題……)
リアムは思考を巡らせる。《概念創造》で、何かできないだろうか?
(そうだ、魔法回路を補助するようなものを創れないか?)
魔法回路は、体内に存在する魔力の通り道だ。それが損傷していたり、うまく機能していなかったりするのなら、外部からその流れを整え、制御を助けるような装置――あるいは装飾品のようなものがあれば、問題を解決できるかもしれない。
「ルナ、少し試してみたいことがある」リアムは決意を固め、ルナに告げた。「君の魔力制御を助けるようなものを、俺の力で創ってみる」
「……そんなこと、できるの……?」ルナが、驚きと期待の入り混じった目でリアムを見る。
「やってみないと分からない。でも、可能性があるなら試したい」
リアムは、ルナの魔力の流れをイメージしようと試みた。直接見ることはできないが、彼女の周囲に揺らめく魔力の気配から、その流れが乱れ、滞っている部分があることを感じ取る。
(この乱れた流れを、整えてやる……過剰な魔力を一時的に受け止め、スムーズに流すための、補助的な回路……)
彼は、「ルナの魔力特性に適合し、魔力の流れを安定させ、暴走を防ぐための魔法回路補助具」という概念を構築した。素材は、魔力伝導率の高い金属と、魔力を貯蔵・安定化させる性質を持つ宝石を組み合わせたものがいいだろう。形は、常に身につけていられるように、シンプルなブレスレットがいいかもしれない。
意識を集中し、《概念創造》を発動する。治癒の時ほどではないが、これもかなり精密な創造だ。相応の魔力が消費されていく。
リアムの手のひらに、銀色の金属と、淡い青色の宝石が組み合わされた、美しいブレスレットが現れた。それは微かに魔力の光を帯びており、見るからに特別な品であることが分かる。
「これを着けてみてくれ」リアムは、息を整えながらブレスレットをルナに差し出した。
ルナは、恐る恐るそれを受け取り、震える手で手首に着けた。
ブレスレットが彼女の肌に触れた瞬間、ふわりと柔らかな光を放った。そして、先ほどまで不安定に揺らめいていたルナの周囲の魔力が、急速に落ち着いていくのが分かった。
「……あ……」ルナが、信じられないといった表情で自分の手首と、そして自身の体内の感覚を確かめている。「魔力の流れが……穏やかに……苦しくない……!」
彼女の顔から苦悶の色が消え、驚きと喜びに満ちた表情へと変わっていく。
「成功したみたいだな」リアムは、ほっと胸を撫で下ろした。
ルナは、何度もブレスレットを撫でながら、感極まった様子でリアムを見つめた。
「リアム……ありがとう……! 本当に、ありがとう……!」
彼女の瞳には、涙が浮かんでいた。それは、長年の苦しみから解放された安堵と、リアムへの深い感謝の涙だった。
「これで、君も安心して魔法が使えるようになるかもしれない」
「……ええ。試してみたいわ」
ルナは立ち上がり、小屋の外に出た。そして、深呼吸を一つすると、両手を前にかざし、呪文を唱え始めた。それは、リアムには聞き取れない、古の響きを持つ言葉だった。
彼女の手に、眩い光が集まっていく。以前のような不安定さはなく、魔力は完全に制御され、美しい光の球へと形を変えていった。
「――【光弾(ライトバレット)】!」
ルナが叫ぶと、光の球が近くの木に向かって放たれた。それは正確に幹を捉え、閃光と共に炸裂し、木の表面を抉り取った。威力はそれほど高く調整されていなかったが、見事な魔法制御だった。
「……できた……! 魔法が、使えた……!」
ルナは、自分の手を見つめ、感無量の面持ちで呟いた。彼女にとって、それは何年ぶりかの、自由に魔法を使えた瞬間だったのかもしれない。
リアムも、その光景を見て心から嬉しく思った。自分の力が、また一つ、大切な仲間を助けることができたのだ。
ルナは振り返り、輝くような笑顔をリアムに向けた。それは、リアムが彼女と出会ってから初めて見る、心からの笑顔だった。
「リアム、あなたのおかげよ。本当に、言葉にならないくらい感謝してる」
「どういたしまして。役に立てて嬉しいよ」リアムも笑顔で応えた。
魔法回路補助具の創造。それは、ルナの長年の悩みを解決しただけでなく、二人の間の信頼関係を、より一層深いものにした出来事だった。ルナは、リアムに対して絶対的な信頼を寄せるようになり、リアムもまた、彼女という頼もしい仲間を得たことで、この辺境で生きていく自信を深めていた。
二人の生活は、新たな段階へと進もうとしていた。
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