【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成！辺境で最強領主に成り上がる。

第32話：恵みの水路と新たな畑

幾日もの間、アークライト共同体の住民たちは、一つの目標に向かって力を合わせてきた。それは、生命の源である水を拠点全体に行き渡らせるための水路建設。リアムの《概念創造》による資材供給、ドルガンの技術指導、ルナの精密な測量と魔法による補助、セレスティアの計画立案と現場管理、そしてミリアや難民たちの懸命な労働。それぞれの力が結集し、ついにその日は訪れた。

水源から拠点までの約数百メートルに及ぶ水路が、ついに完成したのだ。石で補強された水路は、緩やかな傾斜を保ちながら、畑エリア、生活用水エリア、そしてドルガンの工房へと分岐し、それぞれの目的地へと繋がっていた。

「よし、水門を開けるぞ！」
ドルガンが、水源の近くに設置された頑丈な木製の水門（これも彼の設計だ）のハンドルを、力強く回した。ギギギ……という重々しい音と共に水門がゆっくりと開くと、リアムが創造した水源から溢れ出る清らかな水が、勢いよく水路へと流れ込み始めた。

ゴオオオ……という水の流れる音が、辺りに響き渡る。見守っていたコミュニティのメンバーたち――リアム、ルナ、セレスティア、ミリア、そして難民たち――から、歓声が上がった。
「水が来たぞ！」
「やった！ これで水汲みが楽になる！」
「畑にも水が！」

水は、設計通りに水路を満たし、勢いを保ったまま拠点へと流れていく。最初に到達したのは、拡張・整備された畑エリアだ。水路から分岐した細い溝を通って、水が畑全体に効率よく行き渡るように設計されている。乾いていた土が、みるみるうちに潤っていく光景は、農作業の経験がある者たちにとっては感動的ですらあった。

次に、生活用水エリア。ここでは、水路の水を一時的に溜めておくための貯水槽と、洗濯や水浴び（まだ簡素なものだが）ができるスペースが設けられていた。常に新鮮な水が供給されるようになり、衛生環境は格段に向上するだろう。

そして最後に、ドルガンの工房。工房の脇を流れる水路は、将来的に水車などを設置し、動力源として利用することも想定されていた。ドルガンは、勢いよく流れる水を見ながら、「うむ、これならワシの新しい発明にも使えそうじゃわい」と満足げに頷いていた。

水路の完成は、コミュニティ全体の生活レベルを飛躍的に向上させる、画期的な出来事だった。誰もがその恩恵を実感し、共に汗を流した達成感を分かち合っていた。

だが、リアムたちの計画はこれで終わりではない。次なるステップは、この豊富な水を利用した、本格的な農地の改良と拡張だった。
「水は確保できた。次は、この土地を、もっと豊かな恵みをもたらす大地に変える」
リアムは、拡張された畑エリアの中心に立ち、宣言した。

これまでの畑は、リアムが《概念創造》で「果実が育つ畑」として創り出したものだったが、土壌そのものの質は、この辺境の森の平均的なものだった。しかし、今度は違う。
「創造する概念は、『多様な作物が、それぞれの生育に適した栄養バランスで豊かに実る、生命力に満ちた土壌』だ」

リアムは、再び《概念創造》を発動した。今度は、水源創造ほどではないが、広範囲の土壌に複雑な特性を付与するための、繊細かつ大規模な魔力操作が必要だった。彼は、ルナの助言（植物が好む土壌成分や微生物のバランスなど）と、ドルガンの知識（土壌改良に関するドワーフの古い知恵）も参考にしながら、理想的な土壌のイメージを固めた。

リアムの手から放たれた魔力の光が、広大な畑エリア全体に降り注ぐ。すると、土の色がみるみるうちに変化し、ただの茶色い土から、栄養分を豊富に含んだ、黒々とした肥沃な土壌へと変わっていったのだ。手で触れてみると、ふかふかと柔らかく、生命力を感じさせるような温かみすらあった。

「すごい……土の質が、全く違う……！」農夫経験のある難民が、驚きの声を上げる。
「これなら、どんな作物でも元気に育ちそうですわね」ルナも感心したように言った。

土壌改良が完了すると、次は種まきだ。リアムは、これまでに集めた食用の野草や木の実の種に加え、《概念創造》でいくつかの基本的な穀物（小麦や米に似たもの）や野菜の種を創り出した。さらに、ルナが古代魔法の知識から、「薬効があり、育てやすいハーブ」の種もいくつか用意した。
セレスティアは、どの区画にどの作物を植えるか、日当たりや水はけ、連作障害などを考慮した栽培計画を立て、作業を指示した。

ミリアも、持ち前の手先の器用さ（意外な一面だ）を活かして、小さな種を丁寧に蒔いていく。他の難民たちも、自分たちの食料を自分たちの手で育てるという希望に満ちて、熱心に作業に取り組んだ。

数日後には、広大な畑エリア全体に、様々な種類の作物の種が蒔かれ、新しい生命が芽吹く準備が整った。
セレスティアは、完成した畑と水路を見渡しながら、満足げにリアムに報告した。
「これで、食料自給率の向上に、大きな目処が立ちましたわ。計画通りに収穫できれば、当面の間、食料の心配はなくなるでしょう。将来的には、余剰作物を保存食に加工したり、あるいは外部との交易品として利用することも視野に入れられますわね」
彼女の目は、既にコミュニティの未来を見据えていた。

水路の完成と新たな畑の誕生。それは、アークライト共同体が、単なる避難場所から、持続可能な生活基盤を持つコミュニティへと大きく前進したことを意味していた。
その夜、リアムたちはささやかな祝宴を開いた。リアムが創造した果実酒（アルコール度数は低い）と、ミリアが腕を振るった魔力野菜たっぷりのシチューが振る舞われ、皆で完成を祝い、労をねぎらった。

身分も種族も異なる人々が、一つの目標に向かって力を合わせ、それを成し遂げた喜びを分かち合う。その光景は、リアムにとって、何よりも価値のあるものに思えた。
「みんな、ありがとう。これからも、力を合わせて、この場所をもっと良くしていこう」
リアムの言葉に、皆が力強く頷いた。

大地に刻まれた水路は、生命の水を運び、肥沃な大地は、豊かな恵みを約束する。辺境の地に根付いた彼らの暮らしは、確かな希望と共に、未来へと続いていく。インフラ整備の第一段階を終え、コミュニティには新たな活力がみなぎっていた。それは、次なる発展への確かな予兆だった。