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第八十六話:地下祭壇の存在
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王宮の大広間に繰り広げられた激闘は、アッシュたちの完全勝利で幕を閉じた。だが、その場に勝利の余韻に浸る者はいなかった。捕らえられた司法卿アウグスト――『嫉妬の仮面』の口から、世界の運命を左右する恐るべき計画が語られようとしていたからだ。
「……殺せ」
床に倒れ伏し虫の息のアウグストは、虚ろな目でアッシュを見上げた。
「もはや全ては終わった。貴様らが何をしようと儀式は止められん……。奈落の扉は間もなく開かれる」
彼の心はもはや敗北の絶望ではなく、自らが信じる神の降臨を待つ狂信者の静けさに満ちていた。
「儀式、ね」
アッシュは彼の傍らに屈み込んだ。
「その儀式とやらを執り行う、お前たちの『聖域』。それはどこにある?」
アウグストは嘲笑うかのように口の端を歪めた。
「……貴様らに分かるものか。帝都の光の最も深い影。古の神々が眠る場所……。我らの祭壇はそこにある」
その言葉はアッシュが予測していた答えと完全に一致していた。
「帝都の地下遺跡、か」
アッシュの言葉に、アウグストの瞳が僅かに揺らいだ。
「な……ぜ、それを……」
「お前たちが思っているほど、俺は無知ではないということだ」
アッシュは冷静に続けた。
「だが、地下遺跡は広大だ。正確な場所を言え。祭壇はどこにある?」
アウグストは唇を固く結び、それ以上何も語ろうとはしなかった。情報を渡すくらいなら死を選ぶ。その瞳はそう語っていた。
「……そうか。ならば仕方がない」
アッシュは静かに立ち上がると、リリアに目配せをした。
リリアは無言でアウグストの前に進み出た。彼女の大きな瞳が、再び男の精神の深淵を覗き込もうとする。
「ひっ……!」
アウグストはあの精神破壊の恐怖を思い出し、体を痙攣させた。
「やめろ……! あれだけは……!」
「ならば話せ」
アッシュの冷たい声が響く。
肉体的な死よりも精神的な地獄を恐れたアウグストは、ついに屈した。彼の狂信的な忠誠心は、リリアという絶対的な恐怖の前で粉々に砕け散った。
「……わ、分かった。話す。話すからやめてくれ……」
彼は震える声で全てを白状し始めた。
「祭壇は……地下遺跡の最深部にある。『始まりの間』と呼ばれる場所だ……。そこには古代文明が遺した巨大な魔力増幅装置がある。我々はそれを『触媒』として儀式を行う……」
「そこへ行くにはどうすればいい?」
「入り口は……帝都に七つある。だが、その全てが我らの幹部しか知らぬ古の言葉で封印されている。そして、祭壇へと至る道は三つの試練によって守られている……」
アウグストは虚ろな目で、その試練の内容を語った。
侵入者の精神に干渉し仲間同士の不信感を煽る『疑心暗鬼の回廊』。
人々の絶望から生み出された巨大な魔獣が番をする『絶望の門』。
そして、祭壇を守る最後の番人、結社の指導者自身による『虚無の試練』。
その全てがただの力押しでは決して突破できない、精神と魂を試すための悪質な罠だった。
「……もう手遅れだ」
アウグ-ストは力なく笑った。
「儀式は今夜の新月の刻に始まる。お前たちが今から入り口を探し当て、三つの試練を乗り越えることなど不可能だ……。世界は終わる……」
彼はそこまで言うと、がくりと首を垂れ意識を失った。
アッシュはその貴重な情報を全て頭の中に叩き込んだ。
残された時間は数時間。絶望的な状況であることに変わりはなかった。
だが、アッシュの赤い瞳には焦りの色はなかった。むしろ、やるべきことが明確になったことでその光はさらに鋭さを増していた。
彼は傍らで待機していたセレスティアに向き直った。
「セレスティア殿。古の言葉による封印。それを解くことはできるか?」
セレスティアはアウグストの言葉を聞きながら、王家の禁書庫で読んだある文献を思い出していた。
「……おそらく、できるわ」
彼女は自信を持って頷いた。
「王家に伝わる古代語の解読法を使えば。入り口の場所さえ分かれば、封印は破れるはずよ」
「入り口の場所なら見当はついている」
アッシュは執務室から取り寄せた帝都の古地図を広げた。
「キルヒアイスの調査で、帝都内に存在する不自然な魔力の流れが七箇所特定されている。おそらくここが入り口だ」
アッシュの指は、大聖堂の地下、古い墓地、寂れた劇場の跡地など、帝都の歴史の影に隠された場所を次々と指し示していった。
全ての準備は整った。
敵の計画、儀式の場所、そしてそこへ至るための障害。
パズルのピースは全て揃ったのだ。
アッシュはその場にいる仲間たちを見回した。
隻腕の将軍、ガイウス。
銀閃の獣、リリア。
帝国の薔薇、セレスティア。
彼がこの世界で得た、最も信頼できる仲間たち。
「……行くぞ」
アッシュは静かに、しかし力強く言った。
「これから帝国の、いや、この世界の心臓部に巣食う本当の病巣を叩きに行く。失敗は許されない。生きて帰れる保証もない」
彼は仲間たちの顔を一人一人見つめた。
「だが、俺はお前たちとなら行けると思っている」
その言葉に、三人は力強く頷いた。
彼らの心は、これから始まる最後の戦いを前に、恐怖ではなく絶対的な信頼と揺るぎない覚悟で満ちていた。
王宮の喧騒を背に、四つの影は帝都の闇へと消えていった。
世界の運命を賭けた最後の決戦の舞台、帝都地下遺跡へ。
彼らの長い夜はまだ始まったばかりだった。
「……殺せ」
床に倒れ伏し虫の息のアウグストは、虚ろな目でアッシュを見上げた。
「もはや全ては終わった。貴様らが何をしようと儀式は止められん……。奈落の扉は間もなく開かれる」
彼の心はもはや敗北の絶望ではなく、自らが信じる神の降臨を待つ狂信者の静けさに満ちていた。
「儀式、ね」
アッシュは彼の傍らに屈み込んだ。
「その儀式とやらを執り行う、お前たちの『聖域』。それはどこにある?」
アウグストは嘲笑うかのように口の端を歪めた。
「……貴様らに分かるものか。帝都の光の最も深い影。古の神々が眠る場所……。我らの祭壇はそこにある」
その言葉はアッシュが予測していた答えと完全に一致していた。
「帝都の地下遺跡、か」
アッシュの言葉に、アウグストの瞳が僅かに揺らいだ。
「な……ぜ、それを……」
「お前たちが思っているほど、俺は無知ではないということだ」
アッシュは冷静に続けた。
「だが、地下遺跡は広大だ。正確な場所を言え。祭壇はどこにある?」
アウグストは唇を固く結び、それ以上何も語ろうとはしなかった。情報を渡すくらいなら死を選ぶ。その瞳はそう語っていた。
「……そうか。ならば仕方がない」
アッシュは静かに立ち上がると、リリアに目配せをした。
リリアは無言でアウグストの前に進み出た。彼女の大きな瞳が、再び男の精神の深淵を覗き込もうとする。
「ひっ……!」
アウグストはあの精神破壊の恐怖を思い出し、体を痙攣させた。
「やめろ……! あれだけは……!」
「ならば話せ」
アッシュの冷たい声が響く。
肉体的な死よりも精神的な地獄を恐れたアウグストは、ついに屈した。彼の狂信的な忠誠心は、リリアという絶対的な恐怖の前で粉々に砕け散った。
「……わ、分かった。話す。話すからやめてくれ……」
彼は震える声で全てを白状し始めた。
「祭壇は……地下遺跡の最深部にある。『始まりの間』と呼ばれる場所だ……。そこには古代文明が遺した巨大な魔力増幅装置がある。我々はそれを『触媒』として儀式を行う……」
「そこへ行くにはどうすればいい?」
「入り口は……帝都に七つある。だが、その全てが我らの幹部しか知らぬ古の言葉で封印されている。そして、祭壇へと至る道は三つの試練によって守られている……」
アウグストは虚ろな目で、その試練の内容を語った。
侵入者の精神に干渉し仲間同士の不信感を煽る『疑心暗鬼の回廊』。
人々の絶望から生み出された巨大な魔獣が番をする『絶望の門』。
そして、祭壇を守る最後の番人、結社の指導者自身による『虚無の試練』。
その全てがただの力押しでは決して突破できない、精神と魂を試すための悪質な罠だった。
「……もう手遅れだ」
アウグ-ストは力なく笑った。
「儀式は今夜の新月の刻に始まる。お前たちが今から入り口を探し当て、三つの試練を乗り越えることなど不可能だ……。世界は終わる……」
彼はそこまで言うと、がくりと首を垂れ意識を失った。
アッシュはその貴重な情報を全て頭の中に叩き込んだ。
残された時間は数時間。絶望的な状況であることに変わりはなかった。
だが、アッシュの赤い瞳には焦りの色はなかった。むしろ、やるべきことが明確になったことでその光はさらに鋭さを増していた。
彼は傍らで待機していたセレスティアに向き直った。
「セレスティア殿。古の言葉による封印。それを解くことはできるか?」
セレスティアはアウグストの言葉を聞きながら、王家の禁書庫で読んだある文献を思い出していた。
「……おそらく、できるわ」
彼女は自信を持って頷いた。
「王家に伝わる古代語の解読法を使えば。入り口の場所さえ分かれば、封印は破れるはずよ」
「入り口の場所なら見当はついている」
アッシュは執務室から取り寄せた帝都の古地図を広げた。
「キルヒアイスの調査で、帝都内に存在する不自然な魔力の流れが七箇所特定されている。おそらくここが入り口だ」
アッシュの指は、大聖堂の地下、古い墓地、寂れた劇場の跡地など、帝都の歴史の影に隠された場所を次々と指し示していった。
全ての準備は整った。
敵の計画、儀式の場所、そしてそこへ至るための障害。
パズルのピースは全て揃ったのだ。
アッシュはその場にいる仲間たちを見回した。
隻腕の将軍、ガイウス。
銀閃の獣、リリア。
帝国の薔薇、セレスティア。
彼がこの世界で得た、最も信頼できる仲間たち。
「……行くぞ」
アッシュは静かに、しかし力強く言った。
「これから帝国の、いや、この世界の心臓部に巣食う本当の病巣を叩きに行く。失敗は許されない。生きて帰れる保証もない」
彼は仲間たちの顔を一人一人見つめた。
「だが、俺はお前たちとなら行けると思っている」
その言葉に、三人は力強く頷いた。
彼らの心は、これから始まる最後の戦いを前に、恐怖ではなく絶対的な信頼と揺るぎない覚悟で満ちていた。
王宮の喧騒を背に、四つの影は帝都の闇へと消えていった。
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