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第120話(最終話):21世紀へのプレリュード
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ばれた、あの穏やかな一日からさらに十年という歳月が流れた。
王国は、もはやかつての面影をどこにも残してはいなかった。
王都のメインストリートは滑らかなアスファルトで舗装され、その上を、馬の姿を完全に過去のものとした静かで高性能な蒸気自動車と、市民の足である路面電車が軽快に行き交っている。
空を見上げれば、定期航空便である複葉機が白い飛行機雲を描きながら遠くの都市へと飛び立っていく。
夜になれば街は色とりどりのネオンサインと、ショーウィンドウの柔らかな光で幻のように彩られる。ラジオからは絶えず新しい音楽が流れ、映画館の前には最新作の恋愛映画を観ようとする若い男女の長い列ができていた。
かつて剣と魔法が支配した王国は、今や鉄と電気と、そして情報が織りなす近代的な文明国家へと完全に生まれ変わっていたのだ。
その変わり果てた王都の景色を一望できる場所があった。
新しく建設された、王都で最も高い百階建ての超高層ビル『アシュフォード・タワー』の屋上展望台。
俺は一人、手すりに寄りかかり、眼下に広がる光の海を静かに見下ろしていた。
それは、俺がこの世界に来てからずっと夢見てきた光景。
俺が仲間たちと共に、その全てを捧げて創り上げてきた未来の姿だった。
「……また一人で悪い顔をしているわね、リオ」
不意に背後から、懐かしく愛しい声がした。
振り返ると、そこにいたのはエリアーナだった。
宰相としての激務は彼女の美しさにさらに深い知性と気品を与えていた。彼女はもはやこの国の誰からも尊敬される、偉大な国母のような存在となっていた。
「悪い顔じゃないさ。未来の顔だ」
俺がそう言って笑うと、彼女は呆れたように、しかし優しく微笑んだ。
次々と馴染み深い顔が屋上に姿を現す。
「リオ様、相変わらず高いところがお好きですな」
白髪が増え顔には深い皺が刻まれているが、その眼光は少しも衰えていないバルガス。彼は士官学校の校長を退き、今は王国の軍事顧問として静かな余生を送っている。
「リオ! ここのエレベーター、すっごく速いのね! 耳がキーンってなったよ!」
全く歳を取らない、美しい姿のままのシルフィ。彼女は魔導物理学の世界的な権威として、大学で新しい世代の天才たちを育てていた。
「お兄様、また何か途方もないことを考えているのでしょう?」
白衣を脱ぎ美しいドレスに身を包んだリリアナ。彼女は王立病院の院長として、その聖女のような慈愛で今も多くの命を救い続けていた。
かけがえのない、俺の仲間たち。
俺の家族。
彼らは俺の隣に並び、同じように眼下に広がる美しい夜景を見つめた。
「……すごいな」
バルガスが心の底から感嘆の声を漏らした。「わしがあなた様に初めてお会いした頃の、あのアシュフォード領がまるで遠い昔の夢のようだ」
「ええ」とエリアーナが頷いた。「あの頃は明日のパンを心配するのが当たり前だった。でも今では、人々は明日の夢を語り合っているわ」
シルフィが俺の袖をくいくいと引っぱった。
「ねえ、リオ。私たちの仕事、もう全部終わったのかな?」
その純粋な問いに、皆が俺の顔を見た。
俺はゆっくりと首を横に振った。
「いや」
俺は静かに、そして新しい夢を語る子供のような輝きを目に宿して言った。
「俺たちの仕事は、まだ始まったばかりだ」
俺は空を指差した。
漆黒の闇の向こうで、無数の星々がダイヤモンドのように瞬いている。
「見てみろよ。俺たちは確かにこの地上の夜をなくした。だが、空にはまだあんなにも広大な未知の世界が広がっている」
俺は仲間たちの顔を一人ずつ見渡した。
「次は、宇宙へ行く」
そのあまりにも突飛な言葉に、誰もが瞬きを忘れた。
「この星々の海へ、俺たちの新しい船を浮かべるんだ。そしていつか、あの月に俺たちの旗を立ててみせる」
宇宙への挑戦。
そして、俺は眼下の光の海を指し示した。
「そして、もう一つ。エーテルネットが繋いだこの情報の光。これはまだか細い小川に過ぎない。俺はこれを、世界中の全ての知性を飲み込む巨大な情報の『海』へと育て上げる」
誰もが自由にその海を旅し、新しい知識を見つけ、そして自らが新しい島となる世界。
「次は、宇宙へ。そして、情報の海へ」
俺は高らかに宣言した。
「この世界の全ての可能性を、この手で解き放ってみせるさ」
その途方もない、しかしいかにもリオ・アシュフォードらしい夢の言葉に。
エリアーナは呆れたように深いため息をついた後、心の底から楽しそうに笑った。
バルガスも、シルフィも、リリアナも、皆、同じ顔で笑っていた。
彼らは知っていた。
この男ならきっと、それすらも実現させてしまうのだろう、と。
俺はそんなかけがえのない仲間たちの笑顔に包まれながら、眼下に広がる俺たちが創り上げた美しい世界を見下ろした。
胸の中には計り知れないほどの満足感と、そしてこれから始まる新しい冒険への無限の期待が満ち溢れていた。
物語は、ここで一つの幕を下ろす。
だが、彼らの創世の物語は、まだ始まったばかりだった。
この星々のプレリュード(前奏曲)の先に、どのような壮大な交響曲が待っているのか。
それはまだ、神のみぞ知る物語。
【完】
王国は、もはやかつての面影をどこにも残してはいなかった。
王都のメインストリートは滑らかなアスファルトで舗装され、その上を、馬の姿を完全に過去のものとした静かで高性能な蒸気自動車と、市民の足である路面電車が軽快に行き交っている。
空を見上げれば、定期航空便である複葉機が白い飛行機雲を描きながら遠くの都市へと飛び立っていく。
夜になれば街は色とりどりのネオンサインと、ショーウィンドウの柔らかな光で幻のように彩られる。ラジオからは絶えず新しい音楽が流れ、映画館の前には最新作の恋愛映画を観ようとする若い男女の長い列ができていた。
かつて剣と魔法が支配した王国は、今や鉄と電気と、そして情報が織りなす近代的な文明国家へと完全に生まれ変わっていたのだ。
その変わり果てた王都の景色を一望できる場所があった。
新しく建設された、王都で最も高い百階建ての超高層ビル『アシュフォード・タワー』の屋上展望台。
俺は一人、手すりに寄りかかり、眼下に広がる光の海を静かに見下ろしていた。
それは、俺がこの世界に来てからずっと夢見てきた光景。
俺が仲間たちと共に、その全てを捧げて創り上げてきた未来の姿だった。
「……また一人で悪い顔をしているわね、リオ」
不意に背後から、懐かしく愛しい声がした。
振り返ると、そこにいたのはエリアーナだった。
宰相としての激務は彼女の美しさにさらに深い知性と気品を与えていた。彼女はもはやこの国の誰からも尊敬される、偉大な国母のような存在となっていた。
「悪い顔じゃないさ。未来の顔だ」
俺がそう言って笑うと、彼女は呆れたように、しかし優しく微笑んだ。
次々と馴染み深い顔が屋上に姿を現す。
「リオ様、相変わらず高いところがお好きですな」
白髪が増え顔には深い皺が刻まれているが、その眼光は少しも衰えていないバルガス。彼は士官学校の校長を退き、今は王国の軍事顧問として静かな余生を送っている。
「リオ! ここのエレベーター、すっごく速いのね! 耳がキーンってなったよ!」
全く歳を取らない、美しい姿のままのシルフィ。彼女は魔導物理学の世界的な権威として、大学で新しい世代の天才たちを育てていた。
「お兄様、また何か途方もないことを考えているのでしょう?」
白衣を脱ぎ美しいドレスに身を包んだリリアナ。彼女は王立病院の院長として、その聖女のような慈愛で今も多くの命を救い続けていた。
かけがえのない、俺の仲間たち。
俺の家族。
彼らは俺の隣に並び、同じように眼下に広がる美しい夜景を見つめた。
「……すごいな」
バルガスが心の底から感嘆の声を漏らした。「わしがあなた様に初めてお会いした頃の、あのアシュフォード領がまるで遠い昔の夢のようだ」
「ええ」とエリアーナが頷いた。「あの頃は明日のパンを心配するのが当たり前だった。でも今では、人々は明日の夢を語り合っているわ」
シルフィが俺の袖をくいくいと引っぱった。
「ねえ、リオ。私たちの仕事、もう全部終わったのかな?」
その純粋な問いに、皆が俺の顔を見た。
俺はゆっくりと首を横に振った。
「いや」
俺は静かに、そして新しい夢を語る子供のような輝きを目に宿して言った。
「俺たちの仕事は、まだ始まったばかりだ」
俺は空を指差した。
漆黒の闇の向こうで、無数の星々がダイヤモンドのように瞬いている。
「見てみろよ。俺たちは確かにこの地上の夜をなくした。だが、空にはまだあんなにも広大な未知の世界が広がっている」
俺は仲間たちの顔を一人ずつ見渡した。
「次は、宇宙へ行く」
そのあまりにも突飛な言葉に、誰もが瞬きを忘れた。
「この星々の海へ、俺たちの新しい船を浮かべるんだ。そしていつか、あの月に俺たちの旗を立ててみせる」
宇宙への挑戦。
そして、俺は眼下の光の海を指し示した。
「そして、もう一つ。エーテルネットが繋いだこの情報の光。これはまだか細い小川に過ぎない。俺はこれを、世界中の全ての知性を飲み込む巨大な情報の『海』へと育て上げる」
誰もが自由にその海を旅し、新しい知識を見つけ、そして自らが新しい島となる世界。
「次は、宇宙へ。そして、情報の海へ」
俺は高らかに宣言した。
「この世界の全ての可能性を、この手で解き放ってみせるさ」
その途方もない、しかしいかにもリオ・アシュフォードらしい夢の言葉に。
エリアーナは呆れたように深いため息をついた後、心の底から楽しそうに笑った。
バルガスも、シルフィも、リリアナも、皆、同じ顔で笑っていた。
彼らは知っていた。
この男ならきっと、それすらも実現させてしまうのだろう、と。
俺はそんなかけがえのない仲間たちの笑顔に包まれながら、眼下に広がる俺たちが創り上げた美しい世界を見下ろした。
胸の中には計り知れないほどの満足感と、そしてこれから始まる新しい冒険への無限の期待が満ち溢れていた。
物語は、ここで一つの幕を下ろす。
だが、彼らの創世の物語は、まだ始まったばかりだった。
この星々のプレリュード(前奏曲)の先に、どのような壮大な交響曲が待っているのか。
それはまだ、神のみぞ知る物語。
【完】
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