異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~

夏見ナイ

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第38話:バグ・ストレージVer.0.2と広がる波紋

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シャロンとの共同任務――古代ゴーレムの起動――を成功させたことで、俺の懐はさらに温かくなり、そしてリューンの一部では「奇跡の解決屋ユズル」なんていう、少しばかり気恥ずかしい噂まで囁かれ始めていた。もちろん、その噂の多くはシャロンの手腕によるものと認識されているだろうし、俺自身が表立って何かをしたわけではない。だが、水面下で俺の特異な能力への注目度が高まっているのは間違いないだろう。

(あまり目立ちすぎるのは本意ではないが……まあ、利用できるものは利用するか)

俺は気持ちを切り替え、本来の目的――リリアとの「バグ利用魔道具」開発へと意識を戻した。最初の目標である「無限収納バッグ」、改め『バグ・ストレージ』の試作品Ver.0.1は、驚異的な収納容量を示したものの、安定性や魔力効率、そして取り出し精度に課題を残していた。これらの問題を解決し、より実用的なVer.0.2を完成させることが、当面の最優先事項だ。

「ユズルさん、お帰りー! ゴーレム、本当に動いたんだってね! すごいすごい!」
地下工房に戻ると、リリアが興奮した様子で駆け寄ってきた。どうやら、魔道具ギルドのマスターから、既に話を聞いていたらしい。

「ええ、まあ……色々と『バグ』がありまして」俺は苦笑する。「それよりも、バグ・ストレージの方ですが、改良の目処は立ちましたか?」

「もちろん!」リリアは胸を張る。「ユズルさんが解析してくれた情報と、あの後、私なりにVer.0.1を再調査して、問題点は大体洗い出せたよ! やっぱり、一番の問題は『空間の安定性』だね。容量オーバーフローで無理やり空間を拡張してるから、その歪みに構造が耐えきれてないんだ」

彼女は、羊皮紙に描かれた複雑な図面を指し示しながら説明を続ける。
「だから、Ver.0.2では、この『空間安定化の術式』をもっと強化する必要がある。そのためには、やっぱり『時空結晶の欠片』みたいな、空間座標に強く干渉できる素材が欲しいところなんだけど……」

「時空結晶の欠片……」希少素材だ。入手は容易ではないだろう。

「それと、取り出し時の座標ズレの問題ね」リリアは別の図面を指す。「これも、空間の歪みが原因だと思うんだけど、ユズルさんのスキルで、もっと詳しく原因を特定できないかな? 例えば、アイテムを取り出す時の『座標指定ロジック』とかに、バグはない?」

(取り出し時の座標指定ロジック……なるほど、そこか)
Ver.0.1では、アイテムを「取り出す」際に、目的の物がすぐに出てこなかったり、あるいは全く関係ない物が出てきたりすることが稀にあったのだ。これも、実用性を考えれば、解決すべき重要な課題だ。

俺は、リリアの言葉を受け、再びバグ・ストレージ(Ver.0.1)に向き合い、【デバッガー】スキルで内部システムを詳細に解析し始めた。特に、アイテムの格納・取り出しに関わる「データ管理システム」と「座標指定ロジック」に焦点を当てる。

(……アイテムID、格納座標、取り出し要求……この一連の処理フローの中に、ボトルネックやエラーは……? あった! 取り出し時の座標計算、ここで僅かな遅延と誤差が発生している。これが原因で、目的のアイテムとは違う座標のデータが参照されることがあるのか……)

『……バグ検出:1件
 内容:【アイテム取り出し時の座標インデックス参照遅延バグ】
  詳細:格納アイテムリストから特定のアイテムを取り出す際、対象アイテムの座標情報を参照するプロセスに、高負荷時(大量のアイテムが格納されている場合など)に僅かな遅延が発生する。この遅延中に、インデックスがずれ、誤った座標情報(隣接するアイテムなど)を参照してしまうことがある。
 影響:目的と違うアイテムが取り出される、または取り出しに失敗する。容量が増えるほど発生確率上昇。』

「見つけました、リリアさん」俺は解析結果を伝える。「アイテムを取り出す際の、座標データの参照プロセスに遅延バグがあるようです。これが、座標ズレの原因かと」

「座標インデックス参照遅延……! なるほどね!」リリアは目を輝かせる。「それなら、対処法はあるかも! 参照プロセスを最適化するような補助回路を追加するか、あるいは、遅延が発生しても正しいインデックスを保持できるような、バッファ機構を組み込むとか……!」
彼女は、すぐに具体的な解決策をいくつか思いついたようだ。さすがは天才技師だ。

「そのためには、やっぱり、より高度な魔道具素材が必要になるわね……特に、処理速度を上げるための『エーテル銀線』とか、魔力バッファとして機能する『高純度魔晶石』とか……」

「エーテル銀線、高純度魔晶石……どちらも、市場では滅多に見かけない希少品ですね」俺は眉をひそめる。

「うん……困ったなぁ……」リリアも、さすがに素材の壁には悩んでいるようだ。

その時だった。
ふと、俺はシャロンとの最後の会話を思い出した。「もし何か必要な物があれば、相談に乗るわよ」と。彼女の情報網と裏ルートを使えば、これらの希少素材も手に入れられるかもしれない。

(……シャロンに頼るか? リスクはあるが、背に腹は代えられないか……)

俺はリリアに提案した。
「リリアさん、その素材の入手ですが、俺に一つ、心当たりがあります。少し『裏』のルートになりますが、もしかしたら手に入れられるかもしれません」

「え? 本当に!? でも、裏ルートって、危なくないの?」

「大丈夫です。信頼できる……とは言い切れませんが、利害が一致している相手です。俺が交渉してみます」

俺は、シャロンに連絡を取る方法(彼女から密かに渡されていた、特殊な伝達用の魔石を使った)で、必要な素材リストを伝えた。報酬は、開発した魔道具の利益の一部、あるいは別の情報提供という形で支払う、という条件で。

数時間後。シャロンから返信があった。「手配可能。ただし、少し『厄介な品』も混じっているから、受け取りには注意が必要よ」と。具体的な受け渡し方法と場所が指定されており、俺は一人でそこへ向かうことになった。



指定された場所は、リューンの港近くにある、寂れた倉庫街の一角だった。夜陰に紛れてたどり着くと、そこにはシャロン本人が待っていた。

「早かったわね、ユズル」彼女は、闇の中から音もなく現れた。「頼まれたブツは、これよ」
彼女が差し出したのは、黒い布に包まれた、ずっしりと重い包みだった。

中身を確認する。時空結晶の欠片、エーテル銀線、高純度魔晶石……リリアが求めていた希少素材が、確かにそこにあった。どれも、素人目にも分かるほど、質の高いものだ。

「……ありがとうございます、シャロンさん。報酬は……」

「報酬は、後でいいわ」シャロンは、俺の言葉を遮る。「それよりも、少し『おまけ』の情報があるのだけど、聞きたい?」

「おまけの情報?」

「ええ。あなたが探している素材……特に『時空結晶』は、最近、ある場所で大量に産出したという噂があるわ。それは、リューンから北へ数日行った先にある、古代遺跡……『忘れられた神殿』よ」

「忘れられた神殿……」

「ギルドも存在は把握しているけれど、内部は危険な罠と強力な守護者(ゴーレムなど)によって守られており、未だ完全には攻略されていない。でも、最深部には、時空結晶だけでなく、古代文明の貴重な遺物が眠っている可能性が高いわ」
シャロンの赤い瞳が、意味深に光る。
「あなたのスキルなら、あるいは、その神殿の謎を解き明かせるかもしれないわね……まあ、これはただの独り言よ」

彼女は、明らかに俺を焚きつけている。古代遺跡、希少素材、失われた技術。俺の好奇心を刺激するキーワードばかりだ。

(忘れられた神殿……か。いずれ、挑戦してみる価値はあるかもしれないな)

俺は、シャロンに礼を言い、素材の包みを受け取って工房へと戻った。



希少素材が手に入ったことで、バグ・ストレージ Ver.0.2の開発は一気に加速した。リリアは、水を得た魚のように、新たな素材と技術を駆使し、設計図を形にしていく。俺も、【デバッガー】スキルで微調整を加え、バグの再発防止策を組み込んでいく。

そして、さらに数日後。
俺たちの努力は、ついに結実した。

「できた……! 今度こそ完璧だよ! 『バグ・ストレージ Ver.0.2』!!」
リリアが、完成したばかりのポーチを高々と掲げる。見た目はVer.0.1とほとんど変わらないが、表面に施された刺繍はより複雑になり、内部からは安定した、それでいて強力な魔力が感じられる。

『対象:バグ・ストレージ Ver.0.2(改良試作品)
 分類:魔道具>収納具(改造品)
 状態:安定
 容量:測定不能(Ver.0.1の数倍以上の安定容量を確保、限界値は未知数)
 特性:超々収納容量、軽量、魔力効率向上(Ver.0.1比)、取り出し精度大幅向上
 備考:Ver.0.1の課題点を大幅に改善。空間安定化術式の強化、魔力供給の最適化、座標インデックス参照バグの修正(バッファ機構搭載)により、実用性が飛躍的に向上。ただし、依然として未知のバグが存在する可能性あり。』

(容量測定不能……! 安定性も確保され、取り出し精度も向上……!)
性能は、Ver.0.1とは比較にならないほど向上しているようだ。まさに、俺たちが目指した「実用的な無限収納バッグ」に近いものが完成したと言えるだろう。

「やった……! やりましたね、リリアさん!」
俺も、思わずリリアとハイタッチを交わしていた。徹夜続きの疲労も吹き飛ぶような、達成感と興奮が込み上げてくる。

この『バグ・ストレージ Ver.0.2』は、今後の俺たちの活動において、間違いなく強力な武器となるだろう。

そして、俺たちの成功は、別の形で波紋を広げ始めていた。
古代ゴーレムの起動に加え、「どんなものでも収納できる魔法の鞄」の噂……。
「奇跡の解決屋ユズル」の名は、もはや単なる噂話ではなく、確かな実績を持つ存在として、リューンの特定の人々の間で認識され始めていた。

貴族、富豪、学者、そして、他の冒険者たち……。
俺の元には、様々な筋から、新たな相談や依頼が舞い込み始めていた。解析不能な古代の石版の解読依頼、原因不明の呪いに悩む村からの調査依頼、さらには、強力な武具にかけられた「呪い(バグ?)」の解除依頼まで。

(……いよいよ、本格的に『解決屋』としての活動が始まるのか)

それは、俺が望んだ道なのかどうか、まだ分からない。だが、これらの依頼の中には、この世界の謎や、俺自身のスキルに関わるヒントが隠されているかもしれない。

俺は、完成したばかりの『バグ・ストレージ Ver.0.2』を手に、次なる「デバッグ」対象へと目を向ける。
リリア、シャロン、そしてクラウス……。頼れる(かもしれない)仲間たちと共に、俺は、この世界の深淵へと、さらに足を踏み入れていくことになるだろう。

広がる波紋の中心で、元SEの異世界デバッグは、新たな章へと進み始めていた。
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