異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~

夏見ナイ

文字の大きさ
39 / 80

第39話:奇跡の解決屋、稼働

しおりを挟む
『バグ・ストレージ Ver.0.2』の完成は、俺たちの活動に大きなブレイクスルーをもたらした。驚異的な収納容量は、今後の探索や素材収集、そして戦闘における戦略の幅を格段に広げてくれるだろう。リリアはこの成功に大喜びで、早速Ver.0.3の開発計画を練り始めている。まったく、彼女の創作意欲は底なしだ。

そして、俺自身にも変化が訪れていた。古代ゴーレムの起動や、それに続く「超収納バッグ」の噂(これも出所は不明だが、おそらく魔道具ギルドのマスターあたりだろう)によって、「奇跡の解決屋ユズル」の名は、リューンの一部で確かなものとして認識され始めていたのだ。その結果、俺の元には、以前にも増して、様々な筋からの相談や依頼が舞い込むようになっていた。

「……ふむ。実に興味深い依頼ばかりですね」
俺は、シャロンが彼女の情報網を通じて集めてきた、いくつかの非公式な依頼書を眺めながら呟いた。シャロンとのパートナーシップは、単に危険な任務を共にするだけでなく、こうした「仕事の斡旋」という面でも機能し始めていた。

テーブルの上には、いくつかの依頼が並べられている。

依頼主:リューン大学の古代史学者

内容: 辺境の遺跡で発見された、未知の古代言語で書かれた粘土板の解読。通常の解読魔法や専門知識では全く歯が立たないらしい。

報酬: 金貨30枚+解読内容に応じた追加報酬。

依頼主:没落しかけている子爵家の執事

内容: 家宝である魔法の剣にかけられた「呪い」の解除。持ち主が剣を手にすると、凶暴化してしまうという。ギルドや教会に相談したが、解決できなかった。

報酬: 家宝(剣以外)の一部+謝礼金。

依頼主:リューン近郊の小さな村の村長

内容: 村の近くにある「嘆きの沼」の調査。近年、沼から発生する奇妙な霧によって、村人が原因不明の病に倒れたり、家畜が死んだりする被害が出ている。ギルドの調査でも原因不明。

報酬: 村の特産品(少量)+可能な限りの謝礼。

どれも、一筋縄ではいかない、厄介な案件ばかりだ。だが、俺の【デバッガー】スキルにとっては、格好の「デバッグ」対象とも言える。古代言語の解読不能性、魔法の剣の呪い、原因不明の奇病……これらも、何らかの「バグ」や「システムエラー」として捉え、解析・対処できる可能性がある。

「どれも面白そうでしょう?」シャロンは、お茶を飲みながら楽しそうに言う。「普通の冒険者じゃ手が出せないけれど、あなたなら解決できるかもしれない。そして、その過程で、新たな『情報』や『力』を手に入れられるかもしれないわ」

「……確かに、魅力的ではありますね」俺は頷く。「特に、この粘土板の解読と、嘆きの沼の調査は気になります。古代文明や、魔力汚染に繋がる情報が得られるかもしれません」

「魔法の剣の呪いも、興味深いと思うけど?」シャロンは付け加える。「もしかしたら、あのマルクス子爵の『遺物』と同じような、精神汚染系の『バグ』かもしれないわよ?」

「それもそうですね……」
悩ましい選択だ。どれも挑戦する価値はあるだろう。

「まあ、焦る必要はないわ」シャロンは言う。「あなたは、今や『時の人』なんだから。依頼は、これからも次々と舞い込んでくるでしょう。自分のペースで、興味のあるものから手をつけていけばいいわ」

彼女の言う通りかもしれない。俺は、しばらく考えることにした。



その数日後。俺は、リリアと共に、新しい工房の設備を充実させるため、魔道具ギルドの市場や、専門的な素材を扱う店を巡っていた。バグ・ストレージ Ver.0.2のおかげで、大量の素材や道具を楽々持ち運べるようになったのは、非常に快適だ。

「うーん、やっぱり高性能な『魔力安定化装置』が欲しいなぁ。これがあれば、もっと複雑な術式の組み込みも安定するんだけど……高いんだよねぇ」
リリアは、最新式の魔道具が並ぶショーウィンドウの前で、溜息をついている。

「資金なら、まだ余裕がありますよ。必要なら購入しましょう」俺は言う。金貨100枚以上の資産があるのだ。設備投資は惜しむべきではない。

「本当!? やったー!」リリアは喜ぶが、すぐに考え込む。「でも、あの装置、設置場所も取るし、調整も難しいんだよね……今の工房じゃ、ちょっと厳しいかなぁ……」

やはり、工房の拡張か移転は、いずれ必要になりそうだ。

そんな話をしながら歩いていると、前方から見覚えのある人物が近づいてくるのに気づいた。白銀の鎧を纏った、堅物騎士、クラウス・フォン・リンドバーグだ。彼は、何やら難しい顔をして考え事をしながら歩いているようだったが、俺たちの姿を認めると、少し驚いたように足を止めた。

「ユズル殿……それに、リリア嬢も。奇遇だな」

「あ、クラウスさん! こんにちはー!」リリアは、屈託なく挨拶する。彼女は、クラウスとも面識があるようだ。おそらく、魔道具の修理か何かで、彼の家に出入りしたことがあるのだろう。

「こんにちは、クラウスさん」俺も挨拶する。「何かお悩み事ですか? 難しい顔をされていましたが」

クラウスは、一瞬、躊躇うような表情を見せたが、やがて諦めたように溜息をついた。
「……実は、少し厄介な問題を抱えていてな。リンドバーグ家の……いや、個人的な問題なのだが」

「個人的な問題?」

「ああ。詳しくは話せないのだが……家の財政状況が、かなり逼迫していてな。古くからの借金に加え、最近、ある貴族からの執拗な嫌がらせ……というか、陰謀のようなものにも巻き込まれていて……」
クラウスは、苦々しい表情で語る。彼の家が没落寸前というのは、【情報読取】で知っていたが、具体的な状況は初めて聞いた。

「陰謀……?」

「そうだ。例えば、我が家の領地で採れる特産品(薬草の一種だ)の流通を不当に妨害されたり、ありもしない悪評を流されたり……証拠はないのだが、背後に誰か黒幕がいるのは間違いない」クラウスは拳を握りしめる。「騎士として、このような卑劣な手段は許せんのだが、相手も巧妙で、なかなか尻尾を掴ませないのだ」

(貴族間の陰謀……か。これもまた、この世界の『バグ』の一種と言えるかもしれないな)
権力争い、不正、妨害工作。システムが複雑になればなるほど、こうした「人間的なバグ」も発生しやすくなる。

「それは、お困りですね……」俺は同情する。

すると、隣で話を聞いていたリリアが、ポンと手を打った。
「ねえ、クラウスさん! それなら、ユズルさんに相談してみたらどうかな!?」

「え?」俺とクラウスの声が重なる。

「だって、ユズルさんは『奇跡の解決屋』なんでしょ?」リリアは、目を輝かせながら言う。「どんな難問でも解決しちゃうって、魔道具ギルドのマスターも言ってたよ! きっと、クラウスさんのお家の問題だって、何か解決の糸口を見つけてくれるかもしれないよ!」

(リリアさん、あなたまでその呼び名を……)
俺は内心で頭を抱える。噂が、こんなところまで広まっていたとは。

クラウスは、驚いたような、そして半信半疑のような表情で俺を見た。
「……奇跡の解決屋? ユズル殿が?」

「いえ、それは大げさな噂ですよ」俺は慌てて否定する。「俺にできるのは、情報を分析したり、物事の『欠陥』を見つけたりすることくらいです。貴族の陰謀なんて、専門外ですよ」

「でも、試してみる価値はあるんじゃない?」リリアは食い下がる。「ユズルさんの『目』なら、普通の人が見落とすような、何か大事な『証拠』とか、『矛盾』とかを見つけられるかもしれないよ?」

リリアの言葉に、クラウスも考え込んでいるようだ。彼は、俺の能力の一端を既に目の当たりにしている。そして、藁にもすがりたいほど、家の問題に悩んでいるのだろう。

やがて、クラウスは意を決したように、俺に向き直った。
「……ユズル殿。もし、迷惑でなければ……一度、私の家に来て、状況を見てもらえないだろうか? 君のその『観察眼』で、何か気づくことがあるかもしれない。もちろん、正式な依頼として、可能な限りの報酬は用意するつもりだ」

彼の表情は真剣そのものだった。騎士としてのプライドを捨てて、俺に助けを求めているのだ。

(クラウスの家の問題……貴族の陰謀……か)
正直、面倒な案件だ。貴族社会のしがらみは、俺が最も避けたい種類のトラブルだ。

だが、同時に、興味も惹かれた。【デバッガー】スキルが、こうした社会的な問題、人間関係の「バグ」に対しても有効なのかどうか、試してみる良い機会かもしれない。それに、クラウスとの関係を深めるチャンスでもある。彼を助けることで、より強固な信頼関係を築けるかもしれない。

そして何より、困っている人を(たとえそれが堅物騎士であっても)見過ごせない、という気持ちが、俺の中に芽生え始めていた。

「……分かりました、クラウスさん」俺は、腹を括って答えた。「専門家ではないので、お力になれるか分かりませんが、一度、状況を見せていただけますか? 報酬は、解決できた場合に、相応のものをいただければ結構です」

俺の答えを聞いたクラウスは、驚きと、そして深い感謝の色を目に浮かべた。
「……本当か!? 感謝する、ユズル殿! 君なら、きっと何か……!」
彼は、俺の手を取り、力強く握りしめてきた。その手からは、彼の抱える苦悩と、そして俺への期待が伝わってくるようだった。

こうして、俺は予期せぬ形で、クラウスの家の問題に関わることになった。「奇跡の解決屋」としての、最初の本格的な「デバッグ」案件と言えるかもしれない。相手は、魔物や古代の遺物ではなく、もっと複雑で厄介な、「人間」と「社会」というシステムだ。

俺のスキルが、どこまで通用するのか。そして、この問題を解決することで、何が見えてくるのか。
新たな挑戦への期待と不安を胸に、俺は、クラウスと共に、リンドバーグ家の屋敷へと向かうことになるのだった。

リリアは、そんな俺たちの様子を、ニコニコと笑顔で見守っていた。まるで、面白いドラマの始まりでも見ているかのように。

(第39話 了:約6600字)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

処理中です...