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第40話:デバッグされる貴族の陰謀
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「こちらです、ユズル殿。……お見苦しいところをお見せしますが」
クラウスは、硬い表情で俺をリンドバーグ家の屋敷へと案内した。彼の言葉通り、屋敷は貴族街の中でも一際古びており、かつての栄華を偲ばせるものの、壁にはひびが入り、庭の手入れも行き届いていない様子が見て取れた。没落寸前、という噂は、どうやら真実らしい。
屋敷の中に入ると、使用人の数も少なく、どこか活気がない。すれ違う数少ない使用人たちも、疲れた表情を浮かべていた。クラウスの父親である現当主(男爵)は病床に伏せっており、母親は心労でやつれているという。家の実質的な運営と、山積する問題への対処は、若き騎士であるクラウスが一手に引き受けている状況のようだった。
「……ひどい状況ですね」俺は率直な感想を漏らす。
「面目ない……」クラウスは、悔しそうに唇を噛む。「父の代からの借金に加え、最近になって、隣接する領地を持つベルンハルト子爵家からの嫌がらせが激しくなって……」
応接室に通され、クラウスから詳しい話を聞く。ベルンハルト子爵は、リンドバーグ家の領地(特に、薬草が採れる豊かな森)を狙っており、様々な手段でリンドバーグ家を追い詰めようとしているらしい。特産品の流通妨害、悪評の流布、そして、法外な利子を要求する悪徳商人(おそらく子爵と繋がっている)からの借金問題。まさに、四面楚歌の状態だ。
「借金の契約書や、これまでの取引記録など、関連する書類は全てここにあります」クラウスは、テーブルの上に山積みになった羊皮紙の束を示す。「何度も見返したのですが、法的に不備な点は見つけられず……」
「なるほど……」俺は羊皮紙の束に目をやる。「少し、拝見してもよろしいですか?」
「ああ、頼む」
俺は、クラウスが見守る中、一枚一枚、書類に目を通し始めた。同時に、【デバッガー】スキルを発動させ、紙の質、インクの種類、筆跡、そして何より、契約内容や数値データに「矛盾」や「異常」がないかをスキャンしていく。
(……契約書の文面は、確かに巧妙に作られているな。一見すると、合法的に見える。だが……)
通常の鑑定スキルや法律知識だけでは見抜けない、システムの「穴」を探す。まるで、複雑なプログラムコードの中から、セキュリティホールを探し出すような作業だ。
数十分が経過しただろうか。膨大な書類の山を調べ終えた俺は、いくつかの「違和感」を発見していた。
「クラウスさん、いくつか気になる点があります」俺は、特定の書類を抜き出して示す。
「まず、この悪徳商人との借金契約書ですが……」俺は、契約書の一箇所を指差す。「この利子の計算方法、一見複雑に見えますが、特定の条件下で計算すると、複利計算のロジックに僅かな『バグ』があります。具体的には、返済期日を一日でも過ぎた場合、ペナルティとして加算される利子が、本来定められた利率よりも不当に高く計算される可能性がある。これは、おそらく意図的に仕込まれた『罠』でしょう」
「なっ……!? そんなことが……」クラウスは、驚愕の表情で契約書を見つめる。
「次に、特産品の流通妨害についてですが……」俺は別の書類を示す。「ベルンハルト子爵領を経由する際の『通行税』の請求書です。この請求額、時期によって不自然に変動しています。特に、リンドバーグ家の薬草の収穫期に合わせて、税率が異常に引き上げられている記録がある。これは、明確な嫌がらせであり、不当な取引制限に該当する可能性があります。証拠としては弱いかもしれませんが、他の妨害工作と合わせれば……」
「……卑劣な!」クラウスは、怒りに顔を赤く染める。
「そして、もう一つ……これが決定打になるかもしれません」俺は、最後に、一見何の変哲もない、古い取引台帳のようなものを取り出した。「これは、数年前に、リンドバーグ家とベルンハルト子爵家が共同で行った、ある土地開発事業に関する会計記録のようですが……」
俺は、【バグ発見】で見つけた、会計記録上の不自然な金の流れを指摘する。
「この時期、ベルンハルト子爵家からリンドバーグ家へ、多額の『協力金』が支払われたことになっています。しかし、その後の資金の流れを追っていくと、その協力金の大部分が、子爵家と繋がりのあるダミー会社(と思われるペーパーカンパニー)を経由して、最終的にベルンハルト子爵個人の懐に還流している形跡がある。これは……横領、あるいは詐欺にあたる可能性が極めて高い」
「……なんだと?」クラウスは、信じられないといった顔で会計記録を凝視する。「父は、この事業で大きな損失を被ったと聞いている……まさか、騙されていたというのか……!?」
「断定はできませんが、その可能性は非常に高いかと」俺は冷静に告げる。「この会計記録の『バグ』を詳細に調査し、金の流れを証明できれば、ベルンハルト子爵の不正を暴き、現在の苦境を覆す強力なカードになるはずです」
俺の指摘を聞き終えたクラウスは、しばし呆然としていた。だが、やがてその目に、怒りと共に、強い決意の光が宿った。
「……ユズル殿。君は、やはり……ただ者ではなかったな」彼は、俺に向き直り、深く頭を下げた。「感謝する。君のおかげで、我々が気づかなかった真実が見えた。そして、戦うための武器を見つけることができた」
「いえ、俺はただ、情報を提供しただけです。これからどうするかは、クラウスさん、あなた次第ですよ」
「ああ、分かっている」クラウスは力強く頷く。「まずは、この会計記録の不正を徹底的に調査し、確たる証拠を掴む。それから、借金の契約書の不備を突き、悪徳商人と、その背後にいるベルンハルト子爵に然るべき対応を取らせる。流通妨害についても、証拠を揃えて正式に抗議する」
彼の声には、迷いはなかった。騎士としての誇りと、家を守るという強い意志が、彼を突き動かしている。
「……しかし、相手は子爵家だ。一筋縄ではいかないだろう。証拠隠滅や、さらなる妨害工作も予想される。私一人では……」クラウスの表情が、再び曇る。
「心配いりませんよ、クラウスさん」俺は微笑む。「あなたには、俺という『協力者』がいますから」
俺は、今後の具体的な行動計画を提案した。
会計記録のさらなる調査と証拠固めには、俺の【デバッガー】スキルによる情報解析能力が役立つだろう。金の流れを追跡し、ダミー会社の正体を暴く。
悪徳商人との交渉、あるいはベルンハルト子爵への抗議の際には、俺が発見した契約書の「バグ」が強力な武器になる。論理的に相手の不正を突き、有利な条件を引き出す。
そして、もし相手が物理的な妨害や脅迫に出てきた場合には……
「……その時は、俺も戦いますよ。Eランク冒険者として、ね」
俺は、腰の魔鋼のダガーに手をかけ、静かに告げた。
俺の言葉に、クラウスは目を見開いた。そして、深く頷いた。
「……恩に着る、ユズル殿。君となら、この苦境を乗り越えられるかもしれん」
彼の目に宿る信頼は、もはや疑念の欠片もない、確かなものへと変わっていた。
◆
それからの数日間、俺とクラウスは、リンドバーグ家の問題解決に向けて奔走した。
俺は、【デバッガー】スキルを駆使し、膨大な会計記録の中から、ベルンハルト子爵の不正を示す決定的な証拠を次々と発見していった。金の流れ、偽造された署名、裏取引の記録……まさに、システムの「ログ」を解析するように、隠された真実を暴き出していく。
一方、クラウスは、俺が提供した情報を元に、悪徳商人やベルンハルト子爵家の関係者と、粘り強く交渉を続けた。騎士としての実直さと、俺が指摘した契約上の「バグ」という武器を手に、彼は徐々に相手を追い詰めていった。
時には、脅迫や妨害工作を受けることもあった。屋敷に石が投げ込まれたり、クラウス自身がチンピラに襲われかけたり。だが、そんな時は、俺が陰からサポートした。【デバッガー】で事前に危険を察知し、あるいは、シャロンから教わった(あるいは盗み見た)隠密行動で相手の動きを封じたりした。直接戦闘になる場面もあったが、クラウスの剣技と俺のダガー、そしてバグを利用した奇襲で、どうにか切り抜けることができた。
そして、ついに決定的な瞬間が訪れた。
俺たちが掴んだベルンハルト子爵の横領の確たる証拠。それを突きつけられた子爵は、観念したかのように全ての不正を認め、リンドバーグ家への妨害工作の中止と、これまでの損害に対する賠償を約束せざるを得なくなった。悪徳商人との借金問題も、契約書の不備を理由に、大幅な減額と返済猶予を勝ち取ることができた。
リンドバーグ家は、完全な安泰とは言えないまでも、破滅の危機を脱し、再建への道を歩み始めることができたのだ。
「……本当に、何と言って礼を言えばいいのか……」
問題が一段落した日、クラウスは、応接室で俺に向かい、改めて深々と頭を下げた。「君がいなければ、我が家は……いや、私自身も、どうなっていたことか」
「気にしないでください。俺も、良い経験になりましたから」俺は微笑む。「それに、約束通り、報酬はきっちりいただきますよ?」
「ああ、もちろんだ!」クラウスは、少し困ったような、しかし嬉しそうな顔で笑った。「家の財政はまだ厳しいが、必ず約束の報酬は用意する。……いや、それ以上のものを、君に提供したいと思っている」
「それ以上のもの?」
「そうだ」クラウスは、真剣な表情になる。「ユズル殿。君は、私の、そしてリンドバーグ家の恩人だ。もし君が望むなら……これからは、私の『仲間』として、共に歩んではくれないだろうか?」
彼からの、正式な「仲間」としての申し出。それは、単なる協力者や一時的なパートナーではなく、もっと深く、互いを支え合い、同じ目的(あるいは、まだ見ぬ未来)を目指して進む、真の「パーティー」への誘いだった。
俺は、クラウスの真っ直ぐな瞳を見つめ返す。
堅物で、融通が利かないところもある。だが、誰よりも強く、正義を信じ、仲間を守ろうとする騎士。彼となら、きっと……。
「……ええ、喜んで。クラウスさん」
俺は、迷うことなく、その手を取った。
この瞬間、俺たちの間に、確かな絆が結ばれた。
元SEのデバッガーと、没落貴族の騎士。異色のコンビによる、新たな冒険が、今、本格的に始まろうとしていた。
そして、この一件――「奇跡の解決屋ユズルが、リンドバーグ家の危機を救った」という噂は、これまでのどんな噂よりも大きく、そして具体的に、リューンの街に広まっていくことになるのだった。
俺たちの存在は、もはや、水面下の注目ではなく、表舞台へと引きずり出されようとしていたのかもしれない。
クラウスは、硬い表情で俺をリンドバーグ家の屋敷へと案内した。彼の言葉通り、屋敷は貴族街の中でも一際古びており、かつての栄華を偲ばせるものの、壁にはひびが入り、庭の手入れも行き届いていない様子が見て取れた。没落寸前、という噂は、どうやら真実らしい。
屋敷の中に入ると、使用人の数も少なく、どこか活気がない。すれ違う数少ない使用人たちも、疲れた表情を浮かべていた。クラウスの父親である現当主(男爵)は病床に伏せっており、母親は心労でやつれているという。家の実質的な運営と、山積する問題への対処は、若き騎士であるクラウスが一手に引き受けている状況のようだった。
「……ひどい状況ですね」俺は率直な感想を漏らす。
「面目ない……」クラウスは、悔しそうに唇を噛む。「父の代からの借金に加え、最近になって、隣接する領地を持つベルンハルト子爵家からの嫌がらせが激しくなって……」
応接室に通され、クラウスから詳しい話を聞く。ベルンハルト子爵は、リンドバーグ家の領地(特に、薬草が採れる豊かな森)を狙っており、様々な手段でリンドバーグ家を追い詰めようとしているらしい。特産品の流通妨害、悪評の流布、そして、法外な利子を要求する悪徳商人(おそらく子爵と繋がっている)からの借金問題。まさに、四面楚歌の状態だ。
「借金の契約書や、これまでの取引記録など、関連する書類は全てここにあります」クラウスは、テーブルの上に山積みになった羊皮紙の束を示す。「何度も見返したのですが、法的に不備な点は見つけられず……」
「なるほど……」俺は羊皮紙の束に目をやる。「少し、拝見してもよろしいですか?」
「ああ、頼む」
俺は、クラウスが見守る中、一枚一枚、書類に目を通し始めた。同時に、【デバッガー】スキルを発動させ、紙の質、インクの種類、筆跡、そして何より、契約内容や数値データに「矛盾」や「異常」がないかをスキャンしていく。
(……契約書の文面は、確かに巧妙に作られているな。一見すると、合法的に見える。だが……)
通常の鑑定スキルや法律知識だけでは見抜けない、システムの「穴」を探す。まるで、複雑なプログラムコードの中から、セキュリティホールを探し出すような作業だ。
数十分が経過しただろうか。膨大な書類の山を調べ終えた俺は、いくつかの「違和感」を発見していた。
「クラウスさん、いくつか気になる点があります」俺は、特定の書類を抜き出して示す。
「まず、この悪徳商人との借金契約書ですが……」俺は、契約書の一箇所を指差す。「この利子の計算方法、一見複雑に見えますが、特定の条件下で計算すると、複利計算のロジックに僅かな『バグ』があります。具体的には、返済期日を一日でも過ぎた場合、ペナルティとして加算される利子が、本来定められた利率よりも不当に高く計算される可能性がある。これは、おそらく意図的に仕込まれた『罠』でしょう」
「なっ……!? そんなことが……」クラウスは、驚愕の表情で契約書を見つめる。
「次に、特産品の流通妨害についてですが……」俺は別の書類を示す。「ベルンハルト子爵領を経由する際の『通行税』の請求書です。この請求額、時期によって不自然に変動しています。特に、リンドバーグ家の薬草の収穫期に合わせて、税率が異常に引き上げられている記録がある。これは、明確な嫌がらせであり、不当な取引制限に該当する可能性があります。証拠としては弱いかもしれませんが、他の妨害工作と合わせれば……」
「……卑劣な!」クラウスは、怒りに顔を赤く染める。
「そして、もう一つ……これが決定打になるかもしれません」俺は、最後に、一見何の変哲もない、古い取引台帳のようなものを取り出した。「これは、数年前に、リンドバーグ家とベルンハルト子爵家が共同で行った、ある土地開発事業に関する会計記録のようですが……」
俺は、【バグ発見】で見つけた、会計記録上の不自然な金の流れを指摘する。
「この時期、ベルンハルト子爵家からリンドバーグ家へ、多額の『協力金』が支払われたことになっています。しかし、その後の資金の流れを追っていくと、その協力金の大部分が、子爵家と繋がりのあるダミー会社(と思われるペーパーカンパニー)を経由して、最終的にベルンハルト子爵個人の懐に還流している形跡がある。これは……横領、あるいは詐欺にあたる可能性が極めて高い」
「……なんだと?」クラウスは、信じられないといった顔で会計記録を凝視する。「父は、この事業で大きな損失を被ったと聞いている……まさか、騙されていたというのか……!?」
「断定はできませんが、その可能性は非常に高いかと」俺は冷静に告げる。「この会計記録の『バグ』を詳細に調査し、金の流れを証明できれば、ベルンハルト子爵の不正を暴き、現在の苦境を覆す強力なカードになるはずです」
俺の指摘を聞き終えたクラウスは、しばし呆然としていた。だが、やがてその目に、怒りと共に、強い決意の光が宿った。
「……ユズル殿。君は、やはり……ただ者ではなかったな」彼は、俺に向き直り、深く頭を下げた。「感謝する。君のおかげで、我々が気づかなかった真実が見えた。そして、戦うための武器を見つけることができた」
「いえ、俺はただ、情報を提供しただけです。これからどうするかは、クラウスさん、あなた次第ですよ」
「ああ、分かっている」クラウスは力強く頷く。「まずは、この会計記録の不正を徹底的に調査し、確たる証拠を掴む。それから、借金の契約書の不備を突き、悪徳商人と、その背後にいるベルンハルト子爵に然るべき対応を取らせる。流通妨害についても、証拠を揃えて正式に抗議する」
彼の声には、迷いはなかった。騎士としての誇りと、家を守るという強い意志が、彼を突き動かしている。
「……しかし、相手は子爵家だ。一筋縄ではいかないだろう。証拠隠滅や、さらなる妨害工作も予想される。私一人では……」クラウスの表情が、再び曇る。
「心配いりませんよ、クラウスさん」俺は微笑む。「あなたには、俺という『協力者』がいますから」
俺は、今後の具体的な行動計画を提案した。
会計記録のさらなる調査と証拠固めには、俺の【デバッガー】スキルによる情報解析能力が役立つだろう。金の流れを追跡し、ダミー会社の正体を暴く。
悪徳商人との交渉、あるいはベルンハルト子爵への抗議の際には、俺が発見した契約書の「バグ」が強力な武器になる。論理的に相手の不正を突き、有利な条件を引き出す。
そして、もし相手が物理的な妨害や脅迫に出てきた場合には……
「……その時は、俺も戦いますよ。Eランク冒険者として、ね」
俺は、腰の魔鋼のダガーに手をかけ、静かに告げた。
俺の言葉に、クラウスは目を見開いた。そして、深く頷いた。
「……恩に着る、ユズル殿。君となら、この苦境を乗り越えられるかもしれん」
彼の目に宿る信頼は、もはや疑念の欠片もない、確かなものへと変わっていた。
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それからの数日間、俺とクラウスは、リンドバーグ家の問題解決に向けて奔走した。
俺は、【デバッガー】スキルを駆使し、膨大な会計記録の中から、ベルンハルト子爵の不正を示す決定的な証拠を次々と発見していった。金の流れ、偽造された署名、裏取引の記録……まさに、システムの「ログ」を解析するように、隠された真実を暴き出していく。
一方、クラウスは、俺が提供した情報を元に、悪徳商人やベルンハルト子爵家の関係者と、粘り強く交渉を続けた。騎士としての実直さと、俺が指摘した契約上の「バグ」という武器を手に、彼は徐々に相手を追い詰めていった。
時には、脅迫や妨害工作を受けることもあった。屋敷に石が投げ込まれたり、クラウス自身がチンピラに襲われかけたり。だが、そんな時は、俺が陰からサポートした。【デバッガー】で事前に危険を察知し、あるいは、シャロンから教わった(あるいは盗み見た)隠密行動で相手の動きを封じたりした。直接戦闘になる場面もあったが、クラウスの剣技と俺のダガー、そしてバグを利用した奇襲で、どうにか切り抜けることができた。
そして、ついに決定的な瞬間が訪れた。
俺たちが掴んだベルンハルト子爵の横領の確たる証拠。それを突きつけられた子爵は、観念したかのように全ての不正を認め、リンドバーグ家への妨害工作の中止と、これまでの損害に対する賠償を約束せざるを得なくなった。悪徳商人との借金問題も、契約書の不備を理由に、大幅な減額と返済猶予を勝ち取ることができた。
リンドバーグ家は、完全な安泰とは言えないまでも、破滅の危機を脱し、再建への道を歩み始めることができたのだ。
「……本当に、何と言って礼を言えばいいのか……」
問題が一段落した日、クラウスは、応接室で俺に向かい、改めて深々と頭を下げた。「君がいなければ、我が家は……いや、私自身も、どうなっていたことか」
「気にしないでください。俺も、良い経験になりましたから」俺は微笑む。「それに、約束通り、報酬はきっちりいただきますよ?」
「ああ、もちろんだ!」クラウスは、少し困ったような、しかし嬉しそうな顔で笑った。「家の財政はまだ厳しいが、必ず約束の報酬は用意する。……いや、それ以上のものを、君に提供したいと思っている」
「それ以上のもの?」
「そうだ」クラウスは、真剣な表情になる。「ユズル殿。君は、私の、そしてリンドバーグ家の恩人だ。もし君が望むなら……これからは、私の『仲間』として、共に歩んではくれないだろうか?」
彼からの、正式な「仲間」としての申し出。それは、単なる協力者や一時的なパートナーではなく、もっと深く、互いを支え合い、同じ目的(あるいは、まだ見ぬ未来)を目指して進む、真の「パーティー」への誘いだった。
俺は、クラウスの真っ直ぐな瞳を見つめ返す。
堅物で、融通が利かないところもある。だが、誰よりも強く、正義を信じ、仲間を守ろうとする騎士。彼となら、きっと……。
「……ええ、喜んで。クラウスさん」
俺は、迷うことなく、その手を取った。
この瞬間、俺たちの間に、確かな絆が結ばれた。
元SEのデバッガーと、没落貴族の騎士。異色のコンビによる、新たな冒険が、今、本格的に始まろうとしていた。
そして、この一件――「奇跡の解決屋ユズルが、リンドバーグ家の危機を救った」という噂は、これまでのどんな噂よりも大きく、そして具体的に、リューンの街に広まっていくことになるのだった。
俺たちの存在は、もはや、水面下の注目ではなく、表舞台へと引きずり出されようとしていたのかもしれない。
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