異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~

夏見ナイ

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第41話:王都への道標

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リンドバーグ家の危機を救った一件は、俺、ユズルの名を(本人の意図とは裏腹に)リューンに広く知らしめる結果となった。「奇跡の解決屋ユズル」。そんな大層な呼び名と共に、俺の元には様々な相談や依頼が舞い込むようになった。その多くは、通常の冒険者やギルドでは解決困難な、いわゆる「訳あり」の案件だ。

俺は、シャロンの情報網も活用しながら、それらの依頼を選別し、解決していく日々を送っていた。古代遺跡の罠の解除、呪われた武具の「バグ」特定と対処、原因不明の現象の調査……。それらは、俺の【デバッガー】スキルと【コード・ライティング】の能力を試し、向上させる絶好の機会となった。もちろん、報酬も良く、俺の懐はますます潤沢になっていった。

クラウスとの関係も、大きく変化した。彼は、もはや俺を単なる「協力者」ではなく、対等な「仲間」として認識し、絶対的な信頼を寄せてくれるようになった。家の問題解決に奔走する傍ら、時間を見つけては俺と共に訓練に励んだり(彼の騎士流剣術は、俺の【剣術(基礎)】スキル向上に大いに役立った)、時には酒場で互いの身の上話(俺は当たり障りのない範囲でだが)をしたりするようにもなった。堅物な性格は変わらないが、以前よりも表情が柔らかくなり、冗談を言うことすらある。彼の中で、何かが吹っ切れたのだろう。

リリアとの「バグ利用魔道具」開発も、順調に進んでいた。俺が持ち込む様々な「バグ情報」と、彼女の天才的な技術が融合し、これまでにない発想の魔道具のアイデアが次々と生まれていた。無限収納バッグ『バグ・ストレージ Ver.0.2』は、その安定性と容量から、一部の富裕層や高ランク冒険者の間で密かに話題となり始めており、リリアの工房(兼治療院)には、時折、物珍しげな客が訪れるようにもなっていた。

シャロンとは、依然として付かず離れずの、ビジネスライクなパートナーシップを続けていた。彼女は俺に有益な情報や「面白い依頼」を提供し、俺は彼女の目的(夜蛇関連や、世界の歪みの調査)に協力する。互いに利用し合い、同時に警戒し合う。そんな緊張感のある関係だ。彼女が追う「本当の目的」の全貌は、まだ見えてこない。

充実した日々。リューンでの活動は、俺に多くの経験と、確かな成果をもたらしてくれた。しかし、同時に、俺の中で新たな欲求が芽生え始めていた。

(もっと知りたい……)

ゴブリンキング(変異体)を生み出した魔力汚染の正体。ホログラフ・キューブが示した古代文明の断片。シャロンが語った「世界のシステム」と「管理者」の存在。そして、俺自身の【デバッガー】スキルと「転生者」としての意味。

これらの大きな謎の答えは、このリューンという一地方都市に留まっているだけでは、決して見つけられないだろう。より大きな情報が集まる場所、世界の中心へと、足を運ぶ必要がある。

(……王都、か)

リューンから東へ数週間ほどの距離にあるという、この国の首都。政治、経済、文化、そして魔法技術の中心地。そこに行けば、俺が求める情報や、あるいは新たな「デバッグ」対象が見つかるかもしれない。

俺が王都行きを考え始めたのと、ほぼ時を同じくして、仲間たち(まだ正式なパーティーとは言えないかもしれないが)も、それぞれの理由で王都への関心を高めていた。

クラウスは、家の財政状況が改善し、ベルンハルト子爵の妨害も収まったことで、ようやく自身の将来について考える余裕ができたようだった。彼は元々、王都の騎士団に所属していたが、家の事情でリューンに戻っていた経緯がある。家の再興を確実なものにし、そして騎士としてのキャリアを再び歩むためには、王都での活動が不可欠だと考えていた。
「ユズル殿と共に、王都で新たな道を切り開きたい。それが、今の私の願いだ」彼は、真剣な表情で俺にそう語った。

リリアは、俺との魔道具開発を通じて、自身の技術の限界と、新たな知識への渇望を感じ始めていた。
「ねえ、ユズルさん! 王都には、すごい魔道具技師とか、研究機関とかがたくさんあるんだって! 私、もっともっと勉強して、新しい技術を身につけたい! それに、王都なら、『時空結晶』みたいな珍しい素材も手に入るかもしれないし!」
彼女の好奇心は、既にリューンの枠を超え、王都へと向かっていた。

そして、シャロン。彼女は、元々、特定の場所に留まることを好まない。情報と、そして「獲物」を追って、常に動き続けるのが彼女のスタイルだ。
「王都……面白いわね。夜蛇の動きも、あそこならもっと活発かもしれない。それに、あなたが王都に行けば、きっと、さらに大きな『波紋』が起こるでしょう。それを間近で見るのも、悪くないわ」
彼女は、俺たちの王都行きを、むしろ歓迎しているようだった。彼女自身の目的のためにも、俺たちが王都で注目を集めることは、都合が良いのかもしれない。

それぞれの思いと目的が、奇しくも「王都」という一点で交差した。
俺たちは、自然な流れで、共に王都へ向かうことを決めた。それは、単なる移動ではなく、新たなステージへの「旅立ち」を意味していた。



王都行きが決まると、俺たちは早速、その準備に取り掛かった。

まずは、資金の確認と準備。これまでの依頼報酬や、バグ・ストレージ(試作品)の限定販売(リリアがこっそり行っていたらしい)などで、俺たちの懐はかなり潤沢になっていた。王都での活動には、相応の資金が必要になるだろう。念のため、一部を換金性の高い宝石などに変え、バグ・ストレージに安全に保管することにした。

次に、装備の再点検と強化。俺は、硬化レザーアーマー一式と魔鋼のダガーに加え、シャロンのルートで手に入れた、隠密性を高める特殊なマントや、毒耐性のあるアミュレットなどを追加した。クラウスは、家の宝物庫に残っていた、古いが質の良い騎士鎧と盾を修復し、装備を一新した。リリアは、自作の防御機能付き作業エプロンや、様々な効果を持つ小型魔道具を開発し、護身用として携帯することにした(戦闘能力は皆無だが、サポート能力は格段に向上した)。シャロンは……彼女の装備は元々最高級のものばかりで、特に変更はないようだった。

旅のルートと期間の計画も立てた。リューンから王都までは、主要街道を使っても馬車で二週間以上、徒歩なら一ヶ月近くかかる長旅だ。道中には、盗賊や魔物が出没する危険な区間もある。俺の【デバッガー】による索敵と危険予知、クラウスとボルガン(彼はリューンに残るが、餞別として護衛術を教えてくれた)仕込みの戦闘能力、ジンの斥候技術(これも餞別に色々と教わった)、そしてシャロンの隠密・罠解除スキルを駆使し、安全かつ効率的なルートを選択する必要がある。

リリアの工房については、彼女の遠縁にあたるという、信頼できる老夫婦に留守番を頼むことになった。治療院の機能は維持しつつ、地下の工房は厳重に封印する。クラウス家の運営も、彼が信頼できる執事や領民に任せる手はずを整えた。

そして、最も重要なのが、パーティーとしての意識の共有と、役割分担の明確化だ。
俺たちは、もはや単なる協力者ではなく、一つの目的(王都での活動、そしてそれぞれの目標達成)に向かって進む「パーティー」なのだ。

リーダーは、経験と状況判断能力から、当面は俺、ユズルが務めることになった(やや不本意ではあったが、クラウスやシャロンからの推薦もあり、断れなかった)。
クラウスは、パーティーの主戦力であり、盾となる前衛。彼の騎士としての規律と正義感は、パーティーの良心としても機能するだろう。
リリアは、魔道具開発と技術サポート、そしてアイテム管理(バグ・ストレージ担当)と、持ち前の明るさでパーティーのムードメーカー役も担う。
シャロンは、情報収集、隠密行動、裏社会との交渉、そして奇襲・暗殺といった「影」の役割を担当する。彼女の存在は、パーティーの生存能力と活動範囲を大きく広げてくれるはずだ。

それぞれの能力と個性を活かし、互いを補い合う。理想的なパーティー構成と言えるかもしれない。もちろん、俺(デバッガー)、クラウス(堅物騎士)、リリア(天才技師)、シャロン(元暗殺者)という、あまりにも異質なメンバー構成が、今後どのような化学反応(あるいは衝突)を起こすのかは未知数だが。



出発の日。
俺たちは、全ての準備を整え、リューンの東門の前に立っていた。朝日が、これから始まる長い旅路を照らし出している。

見送りには、ボルガン、アルト、そして魔道具ギルドのマスターや、リリアの工房の常連客などが来てくれた。
「ユズル君、クラウス様、リリア嬢、シャロン殿、道中気をつけてな。王都での活躍、期待しているぞ!」ボルガンが、力強く励ましてくれる。
「皆さん、どうかご無事で。お祈りしています」アルトが、穏やかな笑顔で手を振る。
「ユズルの旦那! 例の鞄の量産、王都からでも連絡くれよな!」マスターが叫ぶ。

「はい、行ってきます!」
「皆さんも、お元気で!」
「またねー!」
「……世話になったわね」

それぞれの別れの言葉を交わし、俺たちは、リューンの街に背を向け、王都へと続く街道へと足を踏み出した。

目指すは、王都。
そこには、新たな出会い、新たな冒険、そして、俺たちが解き明かすべき、さらに多くの「バグ」が待ち受けているはずだ。

パーティーとしての本格始動。
世界の歪みと陰謀の影が色濃くなる、第二部の幕開けだ。
俺たちの、本当の戦いは、これから始まるのかもしれない。

希望と、そして一抹の不安を胸に、俺たちのキャラバンは、東へと進み始めた。
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