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第四話 ゴミは宝
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一夜明け、俺は再びフロンティアの街に立っていた。昨日の興奮はまだ冷めていない。今日の目標は明確だ。ロック・スライムの防御性能を極限まで高めること。そのためには、より優れた素材が必要になる。
手始めに、情報収集からだ。街の広場でプレイヤーたちの会話に耳をすませる。
「西の鉱山、もう行ったか?鉄鉱石がザクザク掘れるらしいぜ」
「でもあそこ、ゴブリンが出るだろ?レベル5じゃまだキツいって」
「だよな。まずは草原でレベルを10まで上げてからだな」
鉱石。確かに、硬い素材の代表格だ。しかし、彼らの会話から察するに、採掘場所には相応のモンスターが出現するらしい。レベル1の俺と、貧弱なスライムでは門前払いだろう。鍛冶屋のNPCにも話を聞いてみたが、売られている鉱石はどれも高価で、今の俺の財産では一つ買うのがやっとだった。
金策とレベル上げ。結局、普通のプレイヤーと同じ壁にぶつかっている。だが、俺は普通のプレイヤーではない。モンスターメイカーだ。道がないのなら、自分で創ればいい。
俺はプレイヤーたちで賑わう大通りを離れ、再び街の外へと向かった。目指すのは、誰も見向きもしないようなフィールドの片隅。そこに、俺だけの宝が眠っているはずだ。
昨日と同じ草原。しかし、今日の俺は視点が違った。ただ闇雲に素材を集めるのではない。「硬さ」というテーマに沿って、世界を観察する。
まず目をつけたのは、岩肌にびっしりと張り付いている苔だった。鑑定スキルを使う。
【岩苔:湿った岩場に生える苔。特に使い道はない】
相変わらず素っ気ない説明文。普通のプレイヤーなら見向きもしないだろう。だが俺は違った。なぜ、この苔は岩に生えている?それは、岩という過酷な環境に根を張り、生き抜く力があるからだ。この「固着性」と「生命力」が、スライムに何らかの影響を与えるのではないか。俺は慎重に、岩苔をナイフで剥がして採取した。
次に、森の中へ入る。地面に落ちている折れた枝を拾い集めた。昨日も集めた素材だが、今日は選び方が違う。手で折り、その硬さを確かめる。簡単に折れる脆い枝は捨て、かなりの力を込めないと折れない、密度の高い枝だけを選別していく。
【硬い木の枝:材質の硬い木から折れた枝。普通の枝より燃えにくい】
鑑定結果もわずかに違う。これも有望な素材だ。
そんな地道な作業を繰り返していると、後ろからくすくす笑う声が聞こえた。振り返ると、昨日俺を馬鹿にしてきた三人組のパーティが立っていた。
「うわ、またあのメイカーだ。今日もゴミ拾いしてんの?」
「レベル上げもしないで、何が楽しいんだか。時間の無駄じゃね?」
「見てみろよ、アイテムボックスの中身。苔とか枝とか石ころだぜ。ププッ」
彼らは俺を珍獣でも見るかのような目で見ている。リーダー格の剣士が、哀れむような口調で言った。
「おい、あんた。そんなことしてないで、さっさと職業変えたらどうだ?今ならまだ間に合うぜ。そんな産廃職にこだわってても、惨めになるだけだ」
悔しさがこみ上げる。だが、言い返す言葉もなかった。今の俺がやっていることは、彼らの言う通りただのゴミ拾いにしか見えないだろう。俺は何も言わず、彼らに背を向けた。背後から「やーい、意気地なしー」という嘲笑が飛んでくる。
俺は唇を噛み締め、黙々と素材集めを続けた。見ていろ。お前たちがゴミと切り捨てたもので、お前たちの常識を覆してやる。その思いだけが、俺を突き動かしていた。
数時間後、俺のアイテムボックスは多種多様な「ガラクタ」で満杯になった。岩苔、硬い木の枝、川底で拾った滑らかな石、亀裂の入った岩石。金銭的な価値はゼロに等しいだろう。だが俺にとっては、どれもが一級品の素材だった。
モンスターメイカー協会に戻ると、ゲッペトが俺のただならぬ気配に気づいたようだ。
「ほう。また何か面白いものを見つけてきたようじゃな。その顔、まるで大発見をした科学者のようじゃぞ」
「ええ。最高の壁を創るための、最高の素材が手に入りました」
俺は作業台に、昨日創造したロック・スライムと、今日集めてきた素材を並べる。ここからが本番だ。
まずは、単純な強化を試みる。ロック・スライムの素材である『硬そうな石』を、より硬い『亀裂の入った岩石』に置き換えて創造してみた。
光が収まり、現れたのは体の表面にひび割れが走ったスライムだった。鑑定する。
【クラック・スライム】
HP: 55
MP: 5
攻撃力: 2
防御力: 18
スキル: 体当たり
【ユニーク特性:物理耐性(微小)】
【隠しステータス】
硬度: B+
脆性: C
防御力は確かに上がった。硬度もBからB+に上昇している。しかし、HPは60から55に減少。そして、『脆性』という新たなマイナスの隠しステータスが出現してしまった。おそらく、一定以上のダメージを受けると砕けやすいという特性だろう。これでは壁役は務まらない。
「うーむ。硬さだけを求めると、脆くなるか。まるでガラスのようじゃな」
ゲッペトの言う通りだ。ただ硬い素材を混ぜるだけではダメらしい。ここで、俺は新たな仮説に至った。「素材同士の相性」だ。異なる特性を持つ素材を組み合わせることで、互いの欠点を補い、長所を伸ばせるのではないか。
俺は次に、『亀裂の入った岩石』に、森で集めた『岩苔』を混ぜてみることにした。岩石の硬さに、苔の生命力と固着性をプラスするイメージだ。配合比率は、岩石を7、岩苔を3に設定する。
「創造!」
三度、光が作業台を包む。生まれたスライムは、灰色の体にうっすらと緑色の模様が浮かんでいた。
【モスロック・スライム】
HP: 70
MP: 5
攻撃力: 3
防御力: 20
スキル: 体当たり
【ユニーク特性:物理耐性(小)、自己修復(極微)】
【隠しステータス】
硬度: B+
脆性: D-
「おおっ!」
思わず声が出た。HPが70に増加。防御力も20の大台に乗った。マイナス特性だった脆性はD-まで低下し、ほとんど無視できるレベルになっている。そして何より、ユニーク特性に『自己修復(極微)』が追加された。苔の生命力が、微弱ながらも回復能力として発現したのだ。これは大きな進歩だ。
だが、まだ満足はできない。俺の目指すのは、絶対的な壁。さらなる高みを目指す。
最後に試すのは、昨日採取した『粘つく樹液』だ。硬い岩に、粘性のある樹液を混ぜる。相反する性質を持つ素材。普通に考えれば、混ざり合うはずがない。だが、ゲームの世界ならどうだ?岩の硬さが衝撃を受け止め、樹液の粘性がその衝撃を吸収・分散させる。そんな理想的な防御機構が生まれるかもしれない。
俺は深呼吸し、最後の創造に挑んだ。
ベースはモスロック・スライム。そこに『粘つく樹液』を隠し味のように、ほんの少しだけ加える。配合比率は、岩石6、岩苔3、樹液1。この絶妙なバランスが、きっと鍵になるはずだ。
「頼む……!」
祈るような気持ちで、創造スキルを発動させる。今までで一番強い光が工房を満たした。光が収まった時、作業台の上にいたのは、もはやただのスライムではなかった。
大きさは一回り大きくなり、表面は磨かれた黒曜石のように滑らかで、鈍い光を放っている。所々にモスロック・スライムの名残である緑色の模様が、まるで紋様のように浮かび上がっていた。
ゴクリと唾を飲む。震える指で、鑑定ウィンドウを開いた。
【オブシダン・スライム】
ランク: レア
HP: 100
MP: 10
攻撃力: 5
防御力: 35
スキル: ハードン、ボディプレス
【ユニーク特性:物理耐性(中)、衝撃吸収】
【隠しステータス】
硬度: A-
靭性: B
そのステータスを見た瞬間、俺は全身の力が抜けるのを感じた。防御力35。これは、初期装備の剣士が持つ盾の性能を遥かに上回る数値だ。スキルには、自身の防御力を一時的に上昇させる『ハードン』まで追加されている。マイナス特性だった脆性は消え、代わりに衝撃への強さを示す『靭性』というプラスのステータスが現れていた。
そして、ランク。初めて見る『レア』の称号。ゴミ同然の素材から、希少なモンスターが生まれてしまった。
「やった……やったぞ!」
俺は拳を握りしめ、天を仰いだ。後ろで見ていたゲッペトも、興奮した様子で俺の肩を強く叩いた。
「すごい、すごいぞユー君!君は本当にやり遂げた!ただのガラクタから、これほどのモンスターを創り出すとは!わしは今、歴史的瞬間に立ち会っておるのかもしれん!」
作業台の上で、オブシダン・スライムが静かに佇んでいる。それは、俺の探求心と、常識に屈しなかった執念の結晶だった。
あの三人組に、見せてやりたい。お前たちがゴミと笑ったものが、今、ここに宝として存在している。いや、そんなことはどうでもいい。今はただ、この手で生み出した最高の相棒を、誇らしく思うだけだ。
次は、このオブシダン・スライムの実力を試す番だ。あのホーンドラビットに、今度こそリベンジを果たしてやる。俺の戦いは、ここからが本当の始まりだ。
手始めに、情報収集からだ。街の広場でプレイヤーたちの会話に耳をすませる。
「西の鉱山、もう行ったか?鉄鉱石がザクザク掘れるらしいぜ」
「でもあそこ、ゴブリンが出るだろ?レベル5じゃまだキツいって」
「だよな。まずは草原でレベルを10まで上げてからだな」
鉱石。確かに、硬い素材の代表格だ。しかし、彼らの会話から察するに、採掘場所には相応のモンスターが出現するらしい。レベル1の俺と、貧弱なスライムでは門前払いだろう。鍛冶屋のNPCにも話を聞いてみたが、売られている鉱石はどれも高価で、今の俺の財産では一つ買うのがやっとだった。
金策とレベル上げ。結局、普通のプレイヤーと同じ壁にぶつかっている。だが、俺は普通のプレイヤーではない。モンスターメイカーだ。道がないのなら、自分で創ればいい。
俺はプレイヤーたちで賑わう大通りを離れ、再び街の外へと向かった。目指すのは、誰も見向きもしないようなフィールドの片隅。そこに、俺だけの宝が眠っているはずだ。
昨日と同じ草原。しかし、今日の俺は視点が違った。ただ闇雲に素材を集めるのではない。「硬さ」というテーマに沿って、世界を観察する。
まず目をつけたのは、岩肌にびっしりと張り付いている苔だった。鑑定スキルを使う。
【岩苔:湿った岩場に生える苔。特に使い道はない】
相変わらず素っ気ない説明文。普通のプレイヤーなら見向きもしないだろう。だが俺は違った。なぜ、この苔は岩に生えている?それは、岩という過酷な環境に根を張り、生き抜く力があるからだ。この「固着性」と「生命力」が、スライムに何らかの影響を与えるのではないか。俺は慎重に、岩苔をナイフで剥がして採取した。
次に、森の中へ入る。地面に落ちている折れた枝を拾い集めた。昨日も集めた素材だが、今日は選び方が違う。手で折り、その硬さを確かめる。簡単に折れる脆い枝は捨て、かなりの力を込めないと折れない、密度の高い枝だけを選別していく。
【硬い木の枝:材質の硬い木から折れた枝。普通の枝より燃えにくい】
鑑定結果もわずかに違う。これも有望な素材だ。
そんな地道な作業を繰り返していると、後ろからくすくす笑う声が聞こえた。振り返ると、昨日俺を馬鹿にしてきた三人組のパーティが立っていた。
「うわ、またあのメイカーだ。今日もゴミ拾いしてんの?」
「レベル上げもしないで、何が楽しいんだか。時間の無駄じゃね?」
「見てみろよ、アイテムボックスの中身。苔とか枝とか石ころだぜ。ププッ」
彼らは俺を珍獣でも見るかのような目で見ている。リーダー格の剣士が、哀れむような口調で言った。
「おい、あんた。そんなことしてないで、さっさと職業変えたらどうだ?今ならまだ間に合うぜ。そんな産廃職にこだわってても、惨めになるだけだ」
悔しさがこみ上げる。だが、言い返す言葉もなかった。今の俺がやっていることは、彼らの言う通りただのゴミ拾いにしか見えないだろう。俺は何も言わず、彼らに背を向けた。背後から「やーい、意気地なしー」という嘲笑が飛んでくる。
俺は唇を噛み締め、黙々と素材集めを続けた。見ていろ。お前たちがゴミと切り捨てたもので、お前たちの常識を覆してやる。その思いだけが、俺を突き動かしていた。
数時間後、俺のアイテムボックスは多種多様な「ガラクタ」で満杯になった。岩苔、硬い木の枝、川底で拾った滑らかな石、亀裂の入った岩石。金銭的な価値はゼロに等しいだろう。だが俺にとっては、どれもが一級品の素材だった。
モンスターメイカー協会に戻ると、ゲッペトが俺のただならぬ気配に気づいたようだ。
「ほう。また何か面白いものを見つけてきたようじゃな。その顔、まるで大発見をした科学者のようじゃぞ」
「ええ。最高の壁を創るための、最高の素材が手に入りました」
俺は作業台に、昨日創造したロック・スライムと、今日集めてきた素材を並べる。ここからが本番だ。
まずは、単純な強化を試みる。ロック・スライムの素材である『硬そうな石』を、より硬い『亀裂の入った岩石』に置き換えて創造してみた。
光が収まり、現れたのは体の表面にひび割れが走ったスライムだった。鑑定する。
【クラック・スライム】
HP: 55
MP: 5
攻撃力: 2
防御力: 18
スキル: 体当たり
【ユニーク特性:物理耐性(微小)】
【隠しステータス】
硬度: B+
脆性: C
防御力は確かに上がった。硬度もBからB+に上昇している。しかし、HPは60から55に減少。そして、『脆性』という新たなマイナスの隠しステータスが出現してしまった。おそらく、一定以上のダメージを受けると砕けやすいという特性だろう。これでは壁役は務まらない。
「うーむ。硬さだけを求めると、脆くなるか。まるでガラスのようじゃな」
ゲッペトの言う通りだ。ただ硬い素材を混ぜるだけではダメらしい。ここで、俺は新たな仮説に至った。「素材同士の相性」だ。異なる特性を持つ素材を組み合わせることで、互いの欠点を補い、長所を伸ばせるのではないか。
俺は次に、『亀裂の入った岩石』に、森で集めた『岩苔』を混ぜてみることにした。岩石の硬さに、苔の生命力と固着性をプラスするイメージだ。配合比率は、岩石を7、岩苔を3に設定する。
「創造!」
三度、光が作業台を包む。生まれたスライムは、灰色の体にうっすらと緑色の模様が浮かんでいた。
【モスロック・スライム】
HP: 70
MP: 5
攻撃力: 3
防御力: 20
スキル: 体当たり
【ユニーク特性:物理耐性(小)、自己修復(極微)】
【隠しステータス】
硬度: B+
脆性: D-
「おおっ!」
思わず声が出た。HPが70に増加。防御力も20の大台に乗った。マイナス特性だった脆性はD-まで低下し、ほとんど無視できるレベルになっている。そして何より、ユニーク特性に『自己修復(極微)』が追加された。苔の生命力が、微弱ながらも回復能力として発現したのだ。これは大きな進歩だ。
だが、まだ満足はできない。俺の目指すのは、絶対的な壁。さらなる高みを目指す。
最後に試すのは、昨日採取した『粘つく樹液』だ。硬い岩に、粘性のある樹液を混ぜる。相反する性質を持つ素材。普通に考えれば、混ざり合うはずがない。だが、ゲームの世界ならどうだ?岩の硬さが衝撃を受け止め、樹液の粘性がその衝撃を吸収・分散させる。そんな理想的な防御機構が生まれるかもしれない。
俺は深呼吸し、最後の創造に挑んだ。
ベースはモスロック・スライム。そこに『粘つく樹液』を隠し味のように、ほんの少しだけ加える。配合比率は、岩石6、岩苔3、樹液1。この絶妙なバランスが、きっと鍵になるはずだ。
「頼む……!」
祈るような気持ちで、創造スキルを発動させる。今までで一番強い光が工房を満たした。光が収まった時、作業台の上にいたのは、もはやただのスライムではなかった。
大きさは一回り大きくなり、表面は磨かれた黒曜石のように滑らかで、鈍い光を放っている。所々にモスロック・スライムの名残である緑色の模様が、まるで紋様のように浮かび上がっていた。
ゴクリと唾を飲む。震える指で、鑑定ウィンドウを開いた。
【オブシダン・スライム】
ランク: レア
HP: 100
MP: 10
攻撃力: 5
防御力: 35
スキル: ハードン、ボディプレス
【ユニーク特性:物理耐性(中)、衝撃吸収】
【隠しステータス】
硬度: A-
靭性: B
そのステータスを見た瞬間、俺は全身の力が抜けるのを感じた。防御力35。これは、初期装備の剣士が持つ盾の性能を遥かに上回る数値だ。スキルには、自身の防御力を一時的に上昇させる『ハードン』まで追加されている。マイナス特性だった脆性は消え、代わりに衝撃への強さを示す『靭性』というプラスのステータスが現れていた。
そして、ランク。初めて見る『レア』の称号。ゴミ同然の素材から、希少なモンスターが生まれてしまった。
「やった……やったぞ!」
俺は拳を握りしめ、天を仰いだ。後ろで見ていたゲッペトも、興奮した様子で俺の肩を強く叩いた。
「すごい、すごいぞユー君!君は本当にやり遂げた!ただのガラクタから、これほどのモンスターを創り出すとは!わしは今、歴史的瞬間に立ち会っておるのかもしれん!」
作業台の上で、オブシダン・スライムが静かに佇んでいる。それは、俺の探求心と、常識に屈しなかった執念の結晶だった。
あの三人組に、見せてやりたい。お前たちがゴミと笑ったものが、今、ここに宝として存在している。いや、そんなことはどうでもいい。今はただ、この手で生み出した最高の相棒を、誇らしく思うだけだ。
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