M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第二十一話 呪術と光

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隠し通路を抜けた先は、それまでの通路とは雰囲気が一変していた。
天井はドーム状に高く、広大な空間が広がっている。地面は比較的乾いており、壁には奇妙な紋様がいくつも描かれていた。そして、あちこちに篝火が焚かれ、その炎が壁の紋様を不気味に照らし出している。

「なんだか、儀式場みたいだね……」
リオが不安そうに呟く。彼女の言う通り、ここはただの住処ではない。何かの祭壇のようなものが置かれ、獣の骨が山と積まれている。ゴブリンたちの、聖域のような場所なのかもしれない。

ソナー・スライムが映し出すマップには、多数の赤い光点が密集していた。その数は十を超える。
「敵が、大勢います。しかも、一箇所に固まっている」
俺の報告に、カエデの表情が引き締まった。

「待ち伏せか、あるいは何か儀式の最中か。どちらにせよ、まともに正面からぶつかるのは得策ではないな」
「どうする?一旦引き返す?」
リオの提案に、俺は首を横に振った。

「いえ、この密集具合は逆にチャンスかもしれません。うまく奇襲できれば、一網打尽にできる可能性が」
「危険すぎる。相手が何者かも分からんのに」
カエデが俺を諌める。彼女の判断は正しい。だが、俺には一つの確信があった。

「大丈夫です。俺の擬態スライムを使えば、気づかれずに接近できます。まずは、俺が単独で斥候に出て、相手の正体を探ってきます」
「なっ、一人でだと!?無茶だ!」
カエデが声を荒らげる。それは、俺を心配してくれているが故の言葉だった。

「俺自身は戦いません。見るだけです。何かあれば、すぐに引き返します。信じてください」
俺が真剣な目で言うと、カエデはしばらく逡巡していたが、やがて小さく頷いた。
「……分かった。だが、絶対に無理はするな。少しでも危険を感じたら、すぐに戻れ」
「ありがとうございます」

俺は全身を覆うように擬態スライムを一体張り付かせた。スライムは俺の体を包み込むと、周囲の岩壁と全く同じ色、同じ質感に変化する。完璧なステルス迷彩だ。

俺は呼吸を殺し、ゆっくりと広間の奥へと進んだ。カエデとリオは、入り口の影で息を潜めて待っている。

篝火が揺らめく広場の中央。そこに、奴らはいた。
十数体のゴブリン。だが、今まで見てきたような、棍棒を振り回すだけの雑兵ではない。全員がボロ布のローブを纏い、歪んだ木の杖を手にしている。その目は、知性のない獣のものではなく、狡猾で陰険な光を宿していた。

ゴブリンシャーマン。ゴブリン社会における、呪術師であり指導者階級。通常のゴブリンとは比較にならない、厄介な魔法を操る難敵だ。

彼らは円陣を組み、何かを詠唱していた。その中心には、一体だけ体格の大きなシャーマンがいる。おそらく、この集団の長だろう。

斥候は十分だ。俺は後退しようとした。
その時、リーダー格のシャーマンが、ぴたりと詠唱をやめた。そして、ギョロリとした目で、俺が隠れている方向を睨みつけた。

「……!?」
まずい。気づかれた。擬態は見破られていないはず。だというのに、どうやって。

シャーマンは杖を高く掲げると、甲高い声で何かを叫んだ。すると、他のシャーマンたちも一斉に杖を地面に突き立てる。壁に描かれた紋様が、禍々しい紫色の光を放ち始めた。

次の瞬間、俺の足元から、濃密な闇が霧のように湧き出してきた。それは凄まじい速さで広がり、あっという間に広間全体を飲み込んでいく。

「ユー!」
カエデの悲鳴が聞こえた。だが、もう遅い。
俺の視界は、完全に闇に閉ざされた。松明の光も、壁の紋様の光も、全てが漆黒に塗りつぶされる。自分の手すら見えない、絶対的な暗闇。

『状態異常:暗闇(強)になりました。視界が完全に失われます』

システムメッセージが無情に表示される。これは、ただの暗闇ではない。視覚情報を遮断する、強力な呪術だ。

「カエデさん!リオさん!大丈夫か!」
俺は叫んだ。
「大丈夫だ!だが、何も見えん!」
「私も!なにこれ、真っ暗だよ!」

二人の声がすぐ近くから聞こえる。どうやら、呪術の範囲は広間全体に及んでいるらしい。
その時、暗闇の中から、ヒュン、と風を切る音が響いた。

「くっ!」
カエデの短い呻き声。何かが彼女に命中したらしい。
続いて、俺のすぐ側にも小さな火の玉が飛んできて、壁に当たって弾けた。シャーマンたちが、闇の中から一方的に攻撃を仕掛けてきているのだ。

「まずい!奴らには、俺たちが見えているのか!」
「おそらく、呪術をかけた術者には、この闇の中でも関係ないのだろう!」

カエデが悔しそうに叫ぶ。状況は最悪だった。こちらは何も見えず、敵は一方的に攻撃できる。これでは、ただの的だ。

オブシダン・スライムを召喚し、俺とリオの前に盾として配置する。飛んでくる火球や石つぶてを、オブシダン・スライムが健気に受け止めてくれた。

カエデは音を頼りに、飛んでくる魔法をレイピアで弾き返している。その剣技は神業の域だが、正確な反撃はできず、防戦一方になるのがやっとだった。このままでは、じりじりと削り殺されるだけだ。

どうする。この呪術を破る方法は。
暗闇。光を遮断する呪い。ならば、答えは一つしかない。
呪術の効果を上回る、圧倒的な光で、この闇を吹き飛ばす。

俺はアイテムボックスを探った。何か、光を生み出す素材は。
あった。洞窟の壁に生えていた、『光る苔』。そして、鉱石を掘った際に出た、『水晶の欠片』。

苔の持つ生物発光の力と、水晶の持つ光を増幅させる性質。この二つを組み合わせれば、あるいは。

「カエデさん!リオ!俺の周りを固めてください!五分、いや三分だけ時間を稼いでほしい!」
俺は叫んだ。
「何を始める気だ!?」
「この闇を晴らすモンスターを創ります!」

俺の言葉に、カエデは一瞬絶句したようだった。だが、彼女の返答は早かった。
「……分かった。三分だな。死んでも守り抜いてやる!」

彼女の声には、俺への絶対的な信頼がこもっていた。
「リオ!ポーションの準備を!カエデのHPが減ったら、すぐに使え!」
「う、うん!分かった!」

カエデが、俺たちの前に立ちはだかる。闇の中で、彼女のレイピアが風を切る音だけが、頼りなく響いていた。

俺は、その背後にしゃがみ込み、創造に集中した。
スキル、創造。
ベースにするのは、エネルギー効率の良いスライムの核。そこに、光る苔を練り込み、中心部に水晶の欠片を埋め込む。

イメージするのは、闇を祓う太陽。凝縮された光の塊。
ただ光るだけじゃない。蓄えた光を一気に放出し、閃光となって敵の目を焼く、光の爆弾。

カエデの呻き声が聞こえる。攻撃が掠めたのだろう。リオが慌ててポーションを使う気配がした。時間は、ない。

「急げ……!」

俺はありったけの集中力を、創造の光に注ぎ込んだ。光が、今までになく眩しく輝く。暗闇の中でも、俺の手元だけが白く発光していた。

創造の光が、収束する。
「ユー様。闇を照らす希望の誕生です。ぴかー」

俺の手の中に生まれたのは、それ自体が小さな太陽のように、黄金色の光を放つスライムだった。

【ライト・スライム】
スキル:発光、フラッシュ

「できた!」
俺は完成したライト・スライムを高く掲げた。
「カエデさん、リオ!目を閉じて!」

二人が目を伏せるのを気配で感じ取り、俺はスキルを発動させた。
「行け!フラッシュ!」

俺の命令に応え、ライト・スライムがその身に蓄えた光エネルギーを、一気に解放した。

閃光。

世界が、白に染まった。
洞窟の闇が、まるで存在しなかったかのように消し飛ぶ。呪術によって作られた偽りの闇は、本物の圧倒的な光の前には、あまりにも無力だった。

「グギャアアアア!?」

ゴブリンシャーマンたちの、絶叫が響き渡った。
闇の中で目を開いていた彼らは、太陽のような閃光をまともに浴び、その視力を焼かれたのだ。杖を取り落とし、目を押さえて苦しみもがいている。

呪術は破られた。そして、敵は完全な無防備を晒している。

「――今です、カエデさん!」

俺の叫びは、もはや不要だったかもしれない。
目を開けたカエデの瞳には、静かな怒りの炎が宿っていた。彼女は、もがき苦しむシャーマンたちに向かって、音もなく駆け出した。

銀色の閃光が、闇を切り裂くように何度も走る。
それは、もはや戦闘ではなかった。一方的な、蹂躙。
カエデの神速の剣技が、全てのシャーマンを薙ぎ払うのに、十秒とかからなかった。

全てのシャーマンが光の粒子となって消え、洞窟に再び静寂が戻った。後には、俺のライト・スライムが放つ、穏やかな光だけが残されていた。

「……はぁ。助かった」
カエデが、レイピアを鞘に収めながら、深いため息をついた。

「すごい……すごいよ、ユーさん!本当に、闇を吹き飛ばしちゃった!」
リオが、興奮した様子で俺の周りをぴょんぴょんと跳ねている。

俺は、手の中で穏やかに光るライト・スライムを見つめた。また一体、俺の常識外れの仲間が生まれた。
俺たちのパーティは、どんな絶望的な状況でも、決して諦めない。誰かが窮地に陥れば、別の誰かが、必ず道を切り開く。

俺たちは、確かな手応えを感じながら、シャーマンたちの祭壇の奥へと続く、新たな通路へと足を踏み入れた。
洞窟の主が待つ、最深部はもうすぐそこだ。
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