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第二十二話 洞窟の王
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ゴブリンシャーマンの集団を退け、俺たちはしばしの休息を取っていた。手の中で穏やかな光を放ち続けるライト・スライムが、洞窟の暗闇を優しく照らしている。
「すごいね、これ。松明よりずっと明るくて、しかも可愛い!」
リオはライト・スライムを指でつつきながら、無邪気にはしゃいでいる。
「……光源としてだけでなく、敵の目を眩ませる武器にもなる。あなたの発想には、驚かされてばかりだ」
カエデも、その小さな光の塊を感心したように見つめていた。彼女の表情は、出会った頃の氷のような冷たさが嘘のように、柔らかい。
俺たちはポーションでHPとMPを回復させ、気持ちを新たにした。シャーマンたちの祭壇の奥には、さらに下へと続く通路が口を開けている。ここから先が、この洞窟の本当の最深部だろう。
通路を進むにつれて、空気が変わった。湿った匂いに加え、獣の体臭と鉄錆の匂いが混じった、むせ返るような悪臭。そして、奥から地響きのような重低音が、断続的に響いてくる。
「……来る」
カエデがレイピアを握り直し、低い声で呟いた。
俺のソナー・スライムも、マップの奥に巨大な反応を捉えていた。一つだけ、桁違いに大きな赤い光点。それが、この洞窟の主であること告げていた。
通路を抜けた先。そこは、巨大なドーム状の空洞だった。
シャーマンたちの儀式場よりも、さらに広い。中央には、無数の骨を積み上げて作られた、禍々しい玉座が鎮座していた。そして、その玉座に、奴はいた。
身長は三メートルはあろうかという、巨大なホブゴブリン。筋骨隆々とした体は傷だらけの鋼鉄の鎧で覆われ、その手には人の胴体ほどもある巨大なモーニングスターが握られている。醜く歪んだ顔には、残忍さと、そして確かな知性を宿した目が爛々と輝いていた。
【ホブゴブリン・キング Lv.45】
玉座の周りには、屈強なホブゴブリンの親衛隊が十体ほど控え、主の命令を今か今かと待ち構えている。
「……まずいな。噂以上の威圧感だ」
カエデですら、その額に緊張の汗を滲ませていた。フォレストゴーレムとはまた違う、生物としての圧倒的なプレッシャー。暴力と恐怖でゴブリンの軍勢を支配する、本物の王者の風格がそこにはあった。
「ユーさん、鑑定は?」
リオが小声で尋ねる。
「やりました。物理攻撃力と防御力が異常に高い。それに……スキル『王の号令』。嫌な名前のスキルです」
俺たちが息を潜めていると、キングはゆっくりと玉座から立ち上がった。その巨体が動くだけで、周囲の空気がビリビリと震える。
「グオオオオオ!」
咆哮。それは、侵入者に対する明確な敵意と、絶対的な自信の現れだった。
戦いは、避けられない。
「私が前に出る!キングの注意を引きつける!ユーは親衛隊の足止めを!リオは後方支援を頼む!」
カエデが瞬時に指示を飛ばし、誰よりも早く駆け出した。白銀の軌跡を描き、彼女は単身、ゴブリンの軍勢へと突っ込んでいく。
「グギャアア!」
親衛隊が、壁となって彼女の前に立ちはだかった。カエデのレイピアが閃き、親衛隊の硬い鎧と激しく火花を散らす。
「行け、スライム軍団!」
俺も後方からスライムを展開する。オブシダン・スライムが俺とリオを守る壁となり、スティッキー・スライムが親衛隊の足元にばら撒かれてその動きを阻害する。カッタースライムが、鎧の隙間を狙って飛びかかった。
「敵の弱点は関節部分!そこを狙って!」
リオが千里眼で得た情報を叫ぶ。
俺たちの連携は、もはや完璧だった。カエデが敵の攻撃を捌き、俺が動きを封じ、リオが的確な情報でそれを補佐する。親衛隊は手強かったが、一体、また一体と着実に数を減らしていく。
このままいけるか。そう思った、その時だった。
今まで悠然と戦いを見守っていたホブゴブリン・キングが、ついに動いた。
「グガアアア!」
地を蹴る。その巨体に似合わない、爆発的な突進。ターゲットは、最も厄介な前衛であるカエデではなく、後方にいる俺たちだった。敵の戦術家を先に潰す。その判断は、極めて冷静で的確だった。
モーニングスターが、轟音と共に振り下ろされる。
「オブシダン・スライム!」
俺の盾が、その一撃を正面から受け止めた。
ゴウッ!と、空気が破裂するような衝撃音。
オブシダン・スライムの体が、今まで見たこともないほど大きく歪み、後方へ弾き飛ばされた。そのHPゲージは、たった一撃で半分以上も削り取られている。
「なんてパワーだ……!」
フォレストゴーレムを遥かに凌駕する、純粋な破壊力。まともに受け止められるのは、あと一回が限度だろう。
キングは、俺たちに追撃を加えることなく、再び玉座の前まで戻った。そして、あのスキルを発動させる。
「スキル、『王の号令』!」
キングが、天に向かって咆哮を上げた。その声は洞窟全体に響き渡り、壁を震わせる。
すると、どうだ。
俺たちが入ってきた通路、そして空洞のあちこちにある横穴から、ゴブリンたちが、まるで蟻のように湧き出してきた。棍棒を持った雑兵、弓を構えた射手、そして、生き残りであろうシャーマンまで。その数は、瞬く間に三十を超え、まだ増え続けている。
「嘘でしょ!?」
リオが悲鳴を上げた。
親衛隊を倒したところで、意味がない。この王がいる限り、ゴブリンは無限に湧いてくるのだ。
俺たちは、完全に包囲された。
四方八方から、ゴブリンたちの攻撃が降り注ぐ。
「くっ!」
カエデは親衛隊の生き残りと、増援のゴブリンに囲まれ、完全に動きを封じられていた。彼女の剣技をもってしても、この数の暴力の前では身を守るのが精一杯だ。
俺のスライムたちも、次々とゴブリンの波に飲み込まれていく。オブシダン・スライムは、キングの一撃で受けたダメージが回復しきっておらず、もはや風前の灯火だった。
パーティは分断され、得意の連携も取れない。
これは、ただ強いだけのボスではない。圧倒的な個の武力と、軍勢を率いる統率力。その両方を兼ね備えた、本物の王だ。
「このままでは、全滅する……!」
カエデが、悔しそうに叫んだ。
その声に呼応するかのように、ホブゴブリン・キングが再び動く。今度の狙いは、敵軍の要であるカエデ。
キングは、周囲の雑魚ゴブリンを薙ぎ払いながら、一直線にカエデへと迫る。
カエデは親衛隊を振り払い、キングを迎え撃とうとする。だが、無数のゴブリンが彼女の足にまとわりつき、その動きを阻害する。
そして、ついに。
キングのモーニングスターが、回避しきれないタイミングで、カエデの頭上へと振り下ろされた。
「カエデさん!」
俺の絶叫が、洞窟に響き渡った。
彼女のHPゲージは、もう赤く点滅している。あの一撃を受ければ、間違いなく戦闘不能になる。
絶体絶命。
俺の脳が、猛烈な速度で回転を始める。この状況を、この圧倒的な戦力差を、覆す手は。
一つの、あまりにも無謀で、常識外れの作戦が、俺の脳裏に閃光のようにひらめいた。
成功率は、限りなく低い。失敗すれば、俺たちがここで全滅するだけだ。
だが、もう、これに賭けるしかない。
俺は、アイテムボックスに眠っていた、あのアイテムに手を伸ばした。
「すごいね、これ。松明よりずっと明るくて、しかも可愛い!」
リオはライト・スライムを指でつつきながら、無邪気にはしゃいでいる。
「……光源としてだけでなく、敵の目を眩ませる武器にもなる。あなたの発想には、驚かされてばかりだ」
カエデも、その小さな光の塊を感心したように見つめていた。彼女の表情は、出会った頃の氷のような冷たさが嘘のように、柔らかい。
俺たちはポーションでHPとMPを回復させ、気持ちを新たにした。シャーマンたちの祭壇の奥には、さらに下へと続く通路が口を開けている。ここから先が、この洞窟の本当の最深部だろう。
通路を進むにつれて、空気が変わった。湿った匂いに加え、獣の体臭と鉄錆の匂いが混じった、むせ返るような悪臭。そして、奥から地響きのような重低音が、断続的に響いてくる。
「……来る」
カエデがレイピアを握り直し、低い声で呟いた。
俺のソナー・スライムも、マップの奥に巨大な反応を捉えていた。一つだけ、桁違いに大きな赤い光点。それが、この洞窟の主であること告げていた。
通路を抜けた先。そこは、巨大なドーム状の空洞だった。
シャーマンたちの儀式場よりも、さらに広い。中央には、無数の骨を積み上げて作られた、禍々しい玉座が鎮座していた。そして、その玉座に、奴はいた。
身長は三メートルはあろうかという、巨大なホブゴブリン。筋骨隆々とした体は傷だらけの鋼鉄の鎧で覆われ、その手には人の胴体ほどもある巨大なモーニングスターが握られている。醜く歪んだ顔には、残忍さと、そして確かな知性を宿した目が爛々と輝いていた。
【ホブゴブリン・キング Lv.45】
玉座の周りには、屈強なホブゴブリンの親衛隊が十体ほど控え、主の命令を今か今かと待ち構えている。
「……まずいな。噂以上の威圧感だ」
カエデですら、その額に緊張の汗を滲ませていた。フォレストゴーレムとはまた違う、生物としての圧倒的なプレッシャー。暴力と恐怖でゴブリンの軍勢を支配する、本物の王者の風格がそこにはあった。
「ユーさん、鑑定は?」
リオが小声で尋ねる。
「やりました。物理攻撃力と防御力が異常に高い。それに……スキル『王の号令』。嫌な名前のスキルです」
俺たちが息を潜めていると、キングはゆっくりと玉座から立ち上がった。その巨体が動くだけで、周囲の空気がビリビリと震える。
「グオオオオオ!」
咆哮。それは、侵入者に対する明確な敵意と、絶対的な自信の現れだった。
戦いは、避けられない。
「私が前に出る!キングの注意を引きつける!ユーは親衛隊の足止めを!リオは後方支援を頼む!」
カエデが瞬時に指示を飛ばし、誰よりも早く駆け出した。白銀の軌跡を描き、彼女は単身、ゴブリンの軍勢へと突っ込んでいく。
「グギャアア!」
親衛隊が、壁となって彼女の前に立ちはだかった。カエデのレイピアが閃き、親衛隊の硬い鎧と激しく火花を散らす。
「行け、スライム軍団!」
俺も後方からスライムを展開する。オブシダン・スライムが俺とリオを守る壁となり、スティッキー・スライムが親衛隊の足元にばら撒かれてその動きを阻害する。カッタースライムが、鎧の隙間を狙って飛びかかった。
「敵の弱点は関節部分!そこを狙って!」
リオが千里眼で得た情報を叫ぶ。
俺たちの連携は、もはや完璧だった。カエデが敵の攻撃を捌き、俺が動きを封じ、リオが的確な情報でそれを補佐する。親衛隊は手強かったが、一体、また一体と着実に数を減らしていく。
このままいけるか。そう思った、その時だった。
今まで悠然と戦いを見守っていたホブゴブリン・キングが、ついに動いた。
「グガアアア!」
地を蹴る。その巨体に似合わない、爆発的な突進。ターゲットは、最も厄介な前衛であるカエデではなく、後方にいる俺たちだった。敵の戦術家を先に潰す。その判断は、極めて冷静で的確だった。
モーニングスターが、轟音と共に振り下ろされる。
「オブシダン・スライム!」
俺の盾が、その一撃を正面から受け止めた。
ゴウッ!と、空気が破裂するような衝撃音。
オブシダン・スライムの体が、今まで見たこともないほど大きく歪み、後方へ弾き飛ばされた。そのHPゲージは、たった一撃で半分以上も削り取られている。
「なんてパワーだ……!」
フォレストゴーレムを遥かに凌駕する、純粋な破壊力。まともに受け止められるのは、あと一回が限度だろう。
キングは、俺たちに追撃を加えることなく、再び玉座の前まで戻った。そして、あのスキルを発動させる。
「スキル、『王の号令』!」
キングが、天に向かって咆哮を上げた。その声は洞窟全体に響き渡り、壁を震わせる。
すると、どうだ。
俺たちが入ってきた通路、そして空洞のあちこちにある横穴から、ゴブリンたちが、まるで蟻のように湧き出してきた。棍棒を持った雑兵、弓を構えた射手、そして、生き残りであろうシャーマンまで。その数は、瞬く間に三十を超え、まだ増え続けている。
「嘘でしょ!?」
リオが悲鳴を上げた。
親衛隊を倒したところで、意味がない。この王がいる限り、ゴブリンは無限に湧いてくるのだ。
俺たちは、完全に包囲された。
四方八方から、ゴブリンたちの攻撃が降り注ぐ。
「くっ!」
カエデは親衛隊の生き残りと、増援のゴブリンに囲まれ、完全に動きを封じられていた。彼女の剣技をもってしても、この数の暴力の前では身を守るのが精一杯だ。
俺のスライムたちも、次々とゴブリンの波に飲み込まれていく。オブシダン・スライムは、キングの一撃で受けたダメージが回復しきっておらず、もはや風前の灯火だった。
パーティは分断され、得意の連携も取れない。
これは、ただ強いだけのボスではない。圧倒的な個の武力と、軍勢を率いる統率力。その両方を兼ね備えた、本物の王だ。
「このままでは、全滅する……!」
カエデが、悔しそうに叫んだ。
その声に呼応するかのように、ホブゴブリン・キングが再び動く。今度の狙いは、敵軍の要であるカエデ。
キングは、周囲の雑魚ゴブリンを薙ぎ払いながら、一直線にカエデへと迫る。
カエデは親衛隊を振り払い、キングを迎え撃とうとする。だが、無数のゴブリンが彼女の足にまとわりつき、その動きを阻害する。
そして、ついに。
キングのモーニングスターが、回避しきれないタイミングで、カエデの頭上へと振り下ろされた。
「カエデさん!」
俺の絶叫が、洞窟に響き渡った。
彼女のHPゲージは、もう赤く点滅している。あの一撃を受ければ、間違いなく戦闘不能になる。
絶体絶命。
俺の脳が、猛烈な速度で回転を始める。この状況を、この圧倒的な戦力差を、覆す手は。
一つの、あまりにも無謀で、常識外れの作戦が、俺の脳裏に閃光のようにひらめいた。
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