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第五十五話 塔の守護者
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轟音。閃光。そして、無数の機械が断末魔を上げるかのような甲高い破壊音。
俺が放った広範囲殲滅用スライム爆弾。その効果は絶大だった。
黒い粘液が付着したゴーレムたちは、まずその装甲をアシッド成分によって溶かされ、次いで内部のコアが爆発成分によって誘爆を起こした。一体の爆発が隣のゴーレムを巻き込み、それがさらに次のゴーレムへと連鎖していく。
闘技場は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
数分後、爆発が完全に収まった時、あれほどひしめき合っていたゴーレム軍団は、そのほとんどが黒焦げの残骸と化して沈黙していた。
「……うそでしょ」
リオが、その信じられない光景を前に呆然と呟いた。
「あんなにいたゴーレムが……一瞬で……」
「……お前というやつは、本当に私の常識を破壊してくれる」
カエデもレイピアを握りしめたまま、言葉を失っていた。
俺は少しだけ顔を引きつらせていた。自分でも、ここまで派手な結果になるとは思っていなかったのだ。
「い、一掃、完了です」
俺たちが辛くも勝利を確信した、その時だった。
闘技場の奥。今まで閉ざされていた巨大な扉が、ギギギ…と重い音を立ててゆっくりと開き始めた。
『……見事だ、知恵ある者たちよ。その力、確かに認めよう』
大賢者の声が頭の中に響く。
『だが、汝らが本当に我が叡智を受け継ぐに値するか。最後に見極めさせてもらう』
『第二階層の主にして、我が知識を守りし塔の守護者。その試練を、乗り越えてみせよ』
扉の奥から、冷たく禍々しい気配が霧のように流れ出してきた。それは今まで戦ってきたどのモンスターとも違う、死そのものを凝縮したかのような絶対的な負のオーラ。
「マスター、これは……!」
ゴブが怯えたように俺のローブにすがりつく。
やがて闇の奥から、一つの人影がゆっくりと姿を現した。
それは、かつては高貴な魔術師だったであろう豪奢なローブを纏った、一体の骸骨だった。その空ろな眼窩には青白い鬼火が妖しく燃え盛っている。その手には髑髏が飾られた黒檀の杖。
【アークリッチ Lv.55】
アンデッドの王。死してなお生前の強大な魔力を留め、さらなる邪悪な力を手に入れた最上位の亡者。そのレベルはグリフォンをも上回っていた。
「……ついに大物のお出まし、か」
カエデの表情に緊張が走る。
アークリッチは何も語らない。ただ、その黒檀の杖を静かにこちらへと向けた。
すると、俺たちが先ほど破壊したゴーレムの残骸が、ガタガタと音を立てて動き始めた。残骸に邪悪な紫色の光が宿り、それらは新たな命を得て再び立ち上がる。
ネクロマンシー。死者を操る禁断の魔法。
ゴーレムたちは、もはや機械の兵士ではない。アークリッチに魂を縛られたアンデッド軍団へと変貌を遂げていた。
「死者を操るだと!? なんて忌まわしい!」
聖騎士であるカエデが嫌悪に顔を歪める。
「マスター、ゴーレムの数がさっきよりも多いです!」
ゴブの言う通り、破壊された残骸だけでなく闘技場の壁や床からも、新たなアンデッドモンスターたちが次々と湧き出してくる。スケルトン兵士、ゾンビ、そして宙を舞う亡霊レイス。その数は瞬く間に百を超えた。
「これは……!」
俺たちは再び、数の暴力の前に立たされていた。しかも今度の敵はアンデッド。生半可な攻撃では、倒してもすぐに再生してしまう厄介な相手だ。
「私が前に出る! ユー、リオ、ゴブ! 本体のアークリッチを叩け! あいつを倒さない限り、この軍団は無限に湧き続けるぞ!」
カエデが叫び、アンデッドの津波へと一人で突っ込んでいく。
その剣技は聖なる光を纏い、アンデッドたちを次々と浄化していく。だが、倒しても倒しても敵の数は減らない。
「ゴブ、アークリッチに魔法を!」
「はい! ファイアボール!」
ゴブの火球がアークリッチへと飛んでいく。
だが、アークリッチは杖を軽く一振りしただけ。その前に黒い霧の壁が出現し、火球をいともたやすく吸収してしまった。
「魔法障壁か! なら!」
俺は物理攻撃を得意とするスライムを召喚し、アークリッチへと向かわせる。
だが、スライムたちがアークリッチにたどり着く前に、地面から突き出した無数の骨の槍がスライムたちを串刺しにしてしまった。
「くそっ、近づけない!」
アークリッチは自らは一歩も動かず、アンデッド軍団と防御魔法だけで俺たちの攻撃を完璧に捌いている。
その間にもカエデは無数のアンデッドに囲まれ、徐々に消耗していく。その鎧には生々しい爪痕や噛み跡が、刻一刻と増えていた。
「カエデさん!」
「心配するな! だが、長くは持たんぞ!」
このままではカエデがやられてしまう。
どうする。どうすれば、あの鉄壁の守りを崩せる?
アンデッド。死せる者たち。彼らの弱点は聖なる力。
俺のホーリー・スライムは確かに有効だ。だが、一体一体の光は弱く、あのアークリッチを浄化するには程遠い。
もっと強い光を。
もっと純粋な聖なる力を。
俺はアイテムボックスを探った。
リオがこのダンジョンに入る前に用意してくれた対アンデッド用のアイテム。その中に一つの小瓶があった。
【アステリア大聖堂の聖水】
効果:アンデッドに対し、絶大なダメージを与える。
これだ。
だが、これをどうやってあのアークリッチに届ける? 投げつけたところで、魔法障壁に阻まれるのがオチだ。
いや、違う。
届けるのではない。
この聖なる力そのものを、俺のモンスターに取り込むんだ。
俺は最後の希望を懸けて、新たな創造に挑んだ。
それは今までで最も神聖で、そして冒涜的とも言える奇跡の配合。
俺はホーリー・スライムのコアを、その聖水の小瓶の中に直接浸した。
そして、祈るように創造の光をそこに注ぎ込む。
聖と生。
浄化と創造。
相反する二つの力が俺の手の中で激しくぶつかり合い、そして一つの新たな存在へと昇華されていく。
俺の全身から魔力がごっそりと吸い取られていくのを感じた。
だが、俺は歯を食いしばって耐えた。
仲間を守るために。
この絶望的な状況を覆すために。
創造の光が今までになく白く、清浄な輝きを放った。
そして光が収まった時。
俺の手の中には、もはやスライムではなかった。
それは、まるで小さな天使。
光そのものが形を成したかのような聖なる創造物が、静かにそこに佇んでいた。
俺が放った広範囲殲滅用スライム爆弾。その効果は絶大だった。
黒い粘液が付着したゴーレムたちは、まずその装甲をアシッド成分によって溶かされ、次いで内部のコアが爆発成分によって誘爆を起こした。一体の爆発が隣のゴーレムを巻き込み、それがさらに次のゴーレムへと連鎖していく。
闘技場は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
数分後、爆発が完全に収まった時、あれほどひしめき合っていたゴーレム軍団は、そのほとんどが黒焦げの残骸と化して沈黙していた。
「……うそでしょ」
リオが、その信じられない光景を前に呆然と呟いた。
「あんなにいたゴーレムが……一瞬で……」
「……お前というやつは、本当に私の常識を破壊してくれる」
カエデもレイピアを握りしめたまま、言葉を失っていた。
俺は少しだけ顔を引きつらせていた。自分でも、ここまで派手な結果になるとは思っていなかったのだ。
「い、一掃、完了です」
俺たちが辛くも勝利を確信した、その時だった。
闘技場の奥。今まで閉ざされていた巨大な扉が、ギギギ…と重い音を立ててゆっくりと開き始めた。
『……見事だ、知恵ある者たちよ。その力、確かに認めよう』
大賢者の声が頭の中に響く。
『だが、汝らが本当に我が叡智を受け継ぐに値するか。最後に見極めさせてもらう』
『第二階層の主にして、我が知識を守りし塔の守護者。その試練を、乗り越えてみせよ』
扉の奥から、冷たく禍々しい気配が霧のように流れ出してきた。それは今まで戦ってきたどのモンスターとも違う、死そのものを凝縮したかのような絶対的な負のオーラ。
「マスター、これは……!」
ゴブが怯えたように俺のローブにすがりつく。
やがて闇の奥から、一つの人影がゆっくりと姿を現した。
それは、かつては高貴な魔術師だったであろう豪奢なローブを纏った、一体の骸骨だった。その空ろな眼窩には青白い鬼火が妖しく燃え盛っている。その手には髑髏が飾られた黒檀の杖。
【アークリッチ Lv.55】
アンデッドの王。死してなお生前の強大な魔力を留め、さらなる邪悪な力を手に入れた最上位の亡者。そのレベルはグリフォンをも上回っていた。
「……ついに大物のお出まし、か」
カエデの表情に緊張が走る。
アークリッチは何も語らない。ただ、その黒檀の杖を静かにこちらへと向けた。
すると、俺たちが先ほど破壊したゴーレムの残骸が、ガタガタと音を立てて動き始めた。残骸に邪悪な紫色の光が宿り、それらは新たな命を得て再び立ち上がる。
ネクロマンシー。死者を操る禁断の魔法。
ゴーレムたちは、もはや機械の兵士ではない。アークリッチに魂を縛られたアンデッド軍団へと変貌を遂げていた。
「死者を操るだと!? なんて忌まわしい!」
聖騎士であるカエデが嫌悪に顔を歪める。
「マスター、ゴーレムの数がさっきよりも多いです!」
ゴブの言う通り、破壊された残骸だけでなく闘技場の壁や床からも、新たなアンデッドモンスターたちが次々と湧き出してくる。スケルトン兵士、ゾンビ、そして宙を舞う亡霊レイス。その数は瞬く間に百を超えた。
「これは……!」
俺たちは再び、数の暴力の前に立たされていた。しかも今度の敵はアンデッド。生半可な攻撃では、倒してもすぐに再生してしまう厄介な相手だ。
「私が前に出る! ユー、リオ、ゴブ! 本体のアークリッチを叩け! あいつを倒さない限り、この軍団は無限に湧き続けるぞ!」
カエデが叫び、アンデッドの津波へと一人で突っ込んでいく。
その剣技は聖なる光を纏い、アンデッドたちを次々と浄化していく。だが、倒しても倒しても敵の数は減らない。
「ゴブ、アークリッチに魔法を!」
「はい! ファイアボール!」
ゴブの火球がアークリッチへと飛んでいく。
だが、アークリッチは杖を軽く一振りしただけ。その前に黒い霧の壁が出現し、火球をいともたやすく吸収してしまった。
「魔法障壁か! なら!」
俺は物理攻撃を得意とするスライムを召喚し、アークリッチへと向かわせる。
だが、スライムたちがアークリッチにたどり着く前に、地面から突き出した無数の骨の槍がスライムたちを串刺しにしてしまった。
「くそっ、近づけない!」
アークリッチは自らは一歩も動かず、アンデッド軍団と防御魔法だけで俺たちの攻撃を完璧に捌いている。
その間にもカエデは無数のアンデッドに囲まれ、徐々に消耗していく。その鎧には生々しい爪痕や噛み跡が、刻一刻と増えていた。
「カエデさん!」
「心配するな! だが、長くは持たんぞ!」
このままではカエデがやられてしまう。
どうする。どうすれば、あの鉄壁の守りを崩せる?
アンデッド。死せる者たち。彼らの弱点は聖なる力。
俺のホーリー・スライムは確かに有効だ。だが、一体一体の光は弱く、あのアークリッチを浄化するには程遠い。
もっと強い光を。
もっと純粋な聖なる力を。
俺はアイテムボックスを探った。
リオがこのダンジョンに入る前に用意してくれた対アンデッド用のアイテム。その中に一つの小瓶があった。
【アステリア大聖堂の聖水】
効果:アンデッドに対し、絶大なダメージを与える。
これだ。
だが、これをどうやってあのアークリッチに届ける? 投げつけたところで、魔法障壁に阻まれるのがオチだ。
いや、違う。
届けるのではない。
この聖なる力そのものを、俺のモンスターに取り込むんだ。
俺は最後の希望を懸けて、新たな創造に挑んだ。
それは今までで最も神聖で、そして冒涜的とも言える奇跡の配合。
俺はホーリー・スライムのコアを、その聖水の小瓶の中に直接浸した。
そして、祈るように創造の光をそこに注ぎ込む。
聖と生。
浄化と創造。
相反する二つの力が俺の手の中で激しくぶつかり合い、そして一つの新たな存在へと昇華されていく。
俺の全身から魔力がごっそりと吸い取られていくのを感じた。
だが、俺は歯を食いしばって耐えた。
仲間を守るために。
この絶望的な状況を覆すために。
創造の光が今までになく白く、清浄な輝きを放った。
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俺の手の中には、もはやスライムではなかった。
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