M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

文字の大きさ
57 / 100

第五十七話 幻霧の森のエルフ

しおりを挟む
賢者の塔、最上階。そこは星空に手が届きそうな、瑠璃色の水晶でできたドームだった。
中央には、静かに佇む一つの玉座。アークリッチを浄化したことで、螺旋階段は最上階へと続いていた。

俺たちが足を踏み入れると、玉座から柔らかな光が放たれ、一人の老人の幻影が姿を現した。長く白い髭をたくわえ、その瞳には宇宙の全ての知識が宿っているかのような深遠な光。
『――よくぞ、ここまでたどり着いた。知恵と力、そして仲間との絆。汝らは、我が遺産を受け継ぐにふさわしい』

古の大賢者アルバス。その声は、塔の試練の時に響いてきたものと同じだった。
『賢者の石は汝らに託そう。だが、忘れるでない。大いなる力には、大いなる責任が伴う。その力を何のために使うのか。常に自問自答せよ』

幻影はそれだけ言うと、満足げに微笑み、光の中へと溶けるように消えていった。
後に残されたのは、静寂と俺たちの手の中にある『賢者の石』だけだった。

俺たちは塔の頂上にあった転移魔法陣を使い、一瞬でアステリアの街へと帰還した。
その夜、俺たちは宿屋でささやかな祝勝会を開いた。手に入れた賢者の石をテーブルの中央に置き、その神秘的な輝きを眺めながら。

「やったね、私たち! 伝説級素材、一個目ゲットだよ!」
リオがエール(もちろんノンアルコールだ)のジョッキを高々と掲げる。
「ああ。だが、試練は想像以上に過酷だった。一人でも欠けていたら、決してクリアできなかっただろう」
カエデも安堵の表情でジョッキを合わせた。

「マスター、ゴブ、頑張りました!」
ゴブは自分の取り分であるフルーツジュースを、誇らしげに飲んでいる。

仲間たちの笑顔に、俺は胸が熱くなるのを感じた。
「皆さんのおかげです。本当に、ありがとうございました」

俺たちはこの勝利を噛みしめると同時に、次なる目標へと視線を移していた。
伝説級素材、二つ目。『世界樹の枝』。

「『世界樹』なんて、まさにおとぎ話の中の存在だよね。どこにあるのかなんて、見当もつかないよ」
リオはそう言いながらも、その手はすでに商人ギルドから取り寄せた古地図や文献をめくっていた。彼女の情報収集能力は、今や俺たちの冒険に不可欠な武器だ。

数日後。リオはついに一つの有力な情報を突き止めてきた。
「見つけたよ! 『世界樹の枝』のありか!」
彼女がテーブルに広げたのは、一枚の美しい手描きの地図だった。

「アステリアの遥か西。人間たちの国境を越えた先に、エルフ族が守護する『幻霧の森』と呼ばれる広大な樹海がある。その森の最深部、エルフたちの聖地にある世界樹の、最も天に近い枝。それが私たちが探す『世界樹の枝』に違いないよ!」

「エルフの森……」
カエデがごくりと喉を鳴らした。
エルフ。神話の時代から生きる、気高く誇り高い種族。彼らは人間とは比べ物にならないほどの長い寿命と、強大な魔力を持つと言われている。

「ただし、問題がある」
リオは深刻な表情で続けた。
「幻霧の森は、エルフ以外の全ての種族の立ち入りを固く禁じているらしいんだ。特に人間に対しては極端なまでに排他的で、もし侵入者が見つかれば問答無用で矢を射かけられるって噂だよ」

「人間嫌いのエルフか。古典的だが、厄介だな」
カエデが腕を組む。
「何か過去に人間との間で、大きな遺恨があったのかもしれん」

「どうする、ユーさん? 交渉の余地、あるかな?」
リオが不安そうに俺を見る。

正直、分からない。だが、行ってみなければ何も始まらない。
「正面から、正直に目的を話してみましょう。俺たちは森を荒らしに来たわけじゃない。世界を救うための力を求めているんだと」

俺のどこか楽観的な提案に、仲間たちは少し呆れたような、それでいて納得したような顔をした。
俺たちは新たな冒険への準備を整え、アステリアの西門からエルフの森を目指して旅立った。

ロックバードの背に乗り、数日間飛び続けた。
やがて俺たちの眼下に、どこまでも続く深い緑の海が広がった。一本一本の木々が、アステリアの塔に匹敵するほどの巨木。そして、森全体が淡い翠色の魔力の霧に包まれている。あれが幻霧の森。

俺たちは森の入り口付近にある開けた草原に降り立った。
空気が違う。アステリア周辺とは比べ物にならないほど清浄で、生命力に満ち溢れていた。

「すごい……。いるだけでHPが回復していくみたいだ」
リオが深呼吸しながら言う。

だが、その神聖な雰囲気とは裏腹に、森は俺たちを拒絶しているかのようだった。
俺たちが森へと第一歩を踏み入れようとした、その瞬間。

ヒュンッ!
鋭い風切り音と共に、一本の矢が俺の足元、数センチ手前の地面に突き刺さった。

「!?」
俺たちは弾かれたように後退した。
見れば、周囲の木々の上から、いつの間にか十数人の人影が俺たちを包囲していた。

緑衣を纏い、しなやかな長弓を構えた美しい狩人たち。尖った耳、整いすぎた顔立ち。エルフだ。
その瞳は氷のように冷たく、俺たち人間を汚物でも見るかのような、あからさまな敵意に満ちていた。

一人のリーダー格らしきエルフが、枝から軽やかに飛び降り、俺たちの前に立った。彼は他のエルフよりもさらに美しく、そしてさらに冷たい瞳をしていた。

「――穢れた人間どもよ。ここは聖なるアルヴェンの森。汝らのような下劣な種族が足を踏み入れて良い場所ではない」
その声は、まるで冬の風のように冷え切っていた。

「待ってほしい。我々に敵意はない」
カエデが一歩前に出て、騎士としての礼を尽くした。
「我々は聖騎士のカエデ。こちらは商人のリオ、そしてモンスターメイカーのユー。ある目的のため、森の賢者であるあなた方の長にお会いしたい」

だが、エルフのリーダーは鼻で笑った。
「人間が我らの長に? 笑わせるな。お前たちの舌先三寸の嘘にはもううんざりだ。お前たちがこの森に求めるのは欲望。ただそれだけだろう」

彼の言葉には、人間という種族そのものへの根深い不信感がこびりついていた。
交渉は不可能。そう直感した。

「警告はした。今すぐその汚れた足でここから立ち去れ。さもなくば、次はその心臓を射抜くことになるぞ」

エルフたちが一斉に弓を引き絞る。矢じりが俺たちの急所へと正確に向けられた。
一触即発。ここで戦闘になれば勝ち目はない。彼らの練度は、パンデモニウムの盗賊たちとは比較にならなかった。

俺はどうすべきか、必死に頭を回転させた。
この絶望的な状況を覆す手は。

俺が何かを言おうと口を開いた、その時だった。
森の奥から、静かで、それでいて森全体に響き渡るような威厳のある声が聞こえてきた。

「――待ちなさい、アーロン」

その声に、アーロンと呼ばれたリーダー格のエルフははっとしたように森の奥へと振り返った。
他のエルフたちも一斉にその場で膝をつき、頭を垂れる。

霧の奥から、ゆっくりと一人の老婆が姿を現した。
皺だらけの顔。だが、その瞳には千年を生きたというエルフ族の深い叡智と慈愛の光が宿っていた。

「……長老様」
アーロンが恭しく呟いた。

エルフの長老は俺たちの前に立つと、その深い瞳で俺たち一人一人を見定めるようにゆっくりと見つめた。
そして、その視線は俺の隣に立つ小さな相棒、ゴブの上でぴたりと止まった。

「……ほう。これは珍しい。人間のパーティに、ゴブリンの魔術師とはな」
その声には、わずかな、しかし確かな興味の色が浮かんでいた。

俺たちの運命は、このエルフの長老の一存に委ねられることになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本国 召喚獣管理省 関東庁 召喚獣総合事案即応科。

wakaba1890
ファンタジー
召喚獣。 それは向こう側とされる所から、10歳を迎えた日本人の子供の下に召喚されるモンスターのことである。 初代天皇・神武天皇が日本を建国した際に書かれた絵画には彼は金鵄と呼ばれる金色に輝く鵄(とび)と契約したのが原初となっている。 そして、縄文、弥生、古墳、飛鳥、平安、戦国時代から近代から今に至るまで、時代を動かしてきた人物の側には確かに召喚獣は介在していた。 また、奇妙な事に、日本国に限り、齢10歳を迎えた日本在住の日本人にのみ体のどこかから多種多様な紋章が発現し、当人が念じると任意の場所から召喚陣が現れ、人ならざるモンスターを召喚される。 そして、彼らモンスターは主人である当人や心を許した者に対して忠実であった。 そのため、古来の日本から、彼ら召喚獣は農耕、治水、土木、科学技術、エネルギー、政治、経済、金融、戦争など国家の基盤となる柱から、ありとあらゆる分野において、今日に至るまで日本国とアジアの繁栄に寄与してきた。 そして、建国から今まで、国益の基盤たる彼ら数万種類以上をも及ぶ召喚獣を取り締まり管理し、2600年以上と脈々と受け継がれてきた名誉ある国家職がーーーーー国家召喚獣管理官である。

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

 神典日月神示 真実の物語

蔵屋
歴史・時代
 私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。 この方たちのお名前は 大本開祖•出口なお(でぐちなお)、 神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。  この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。  昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。 その書物を纏めた書類です。  この書類は神国日本の未来の預言書なのだ。 私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。  日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。 殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。 本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。 日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。 そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。 なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。 縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。 日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。 この小説は真実の物語です。 「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」 どうぞ、お楽しみ下さい。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』

処理中です...