M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第六十三話 空の共同戦線

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エンシェントドラゴンの巣、『灼熱の煉獄』。その巨大なドーム状の遺跡は、内部もまた地獄のような光景だった。
壁も床も全てが黒曜石のように黒光りし、足元には煮えたぎる溶岩の川が流れている。空気は肺を焼くかのような熱気に満ちていた。

俺の【耐熱スライム】がなければ、ここに立っていることすら困難だっただろう。
ドームの最奥。溶岩の海に浮かぶ巨大な岩の島。そこに、奴はいた。

エンシェントドラゴン。
その巨体はゼノンのワイバーンが子供に見えるほど圧倒的だった。全身を覆う黒曜石のような鱗は溶岩の赤い光を反射して、不気味な輝きを放っている。その背中には、まるで山脈のように鋭い背びれが連なっていた。そして、その瞳。悠久の時を生きてきたという、全てを見下すかのような冷徹な知性が宿っていた。

ドラゴンは俺たち侵入者を一瞥すると、興味なさげに大きなあくびをした。その口から灼熱の息が漏れ出し、周囲の岩を溶かす。

「……舐められたもんだな」
レイドパーティのリーダーに任命されていたドワーフの重戦士、バルガンが巨大な戦斧を肩に担ぎ、不敵に笑った.

「総員、作戦通りに展開しろ! タンク役は前へ! アタッカーは左右に散開! ヒーラーは中央で陣を組め!」
バルガンの号令一下、四十人のプレイヤーたちは即席とは思えないほど統率の取れた動きで陣形を組んでいく。

そして、その頭上。
ゼノンとイグニスが悠然と空を舞っていた。
「……フン。お遊びは、ここまでだ」

ゼノンが呟くと、イグニスは一声高く咆哮し、エンシェントドラゴンへと向かって急降下を開始した。
「喰らえ! 『ドラゴニック・バースト』!」

ワイバーンの口から螺旋を描く紅蓮のブレスが放たれる。ゼノンの最強のスキルだ。
ブレスはエンシェントドラゴンの巨大な横腹に直撃した。

轟音。
だが、信じられないことにエンシェントドラゴンは、そのブレスを浴びながらもびくともしない。その黒曜石の鱗はワイバーンのブレスすらも、いともたやすく弾き返していた。

『-1024』
表示されたダメージは確かに大きい。だが、エンシェントドラゴンの天文学的な数値を誇るであろうHPバーは、ほんの数ミリ動いただけだった。

「なっ……!?」
ゼノンが初めて焦りの表情を浮かべた。

「グオオオオオオオ……」
エンシェントドラゴンが初めて鬱陶しそうに、その巨大な首を動かした。そのターゲットはゼノン。
尻尾が鞭のようにしなって、イグニスを薙ぎ払った。

「ぐっ!」
イグニスはなすすべなく弾き飛ばされ、ドームの壁に叩きつけられる。ゼノンもその衝撃で一瞬体勢を崩した。

「今だ! 総攻撃!」
バルガンの号令が響く。
地上の部隊が一斉に攻撃を開始した。剣士の剣、魔術師の魔法、弓使いの矢。ありとあらゆる攻撃がエンシェントドラゴンへと降り注ぐ。

だが、その全てが硬い鱗に阻まれ、カン、カン、と虚しい音を立てるだけだった。
「ダメだ! 攻撃が全く通らねえ!」
「こいつ、化け物かよ!」

レイドメンバーに動揺が走る。
その、一瞬の隙。
エンシェントドラゴンが大きく息を吸い込んだ。

「まずい! ブレスが来るぞ!」
カエデが叫ぶ。

ドーム全体を焼き尽くさんばかりの終末の炎。
誰もが死を覚悟した。

その時、俺は叫んでいた。
「ロックバード、召喚!」

俺の呼びかけに応え、空中に魔法陣が展開される。そこから俺の相棒である岩の巨鳥が、翼を広げて飛び出した。

「ユー!? 何をする気だ!」
リオが叫ぶ。

俺はロックバードの背中に飛び乗ると、ゴブと、そして新たに創造しておいた数十体のスライムたちを乗せた。
「援護します! 皆さんは体勢を立て直してください!」

俺はロックバードを操り、エンシェントドラゴンの頭上へと急上昇した。
ドラゴンが鬱陶しそうに俺たちを見上げる。

「今だ! 『竜鱗溶解スライム』、投下!」

俺の号令で、ロックバードの背中から無数のアシッド・スライムの亜種が雨のように降り注いだ。
そのスライムたちがエンシェントドラゴンの硬い鱗に、べちゃり、べちゃりと付着していく。

ジュウウウウウッ!
強酸性の液体が黒曜石の鱗を溶かし始め、白い煙が立ち上る。

「グオオオオ!?」
エンシェントドラゴンが初めて意味のあるダメージを受けたかのように、苦痛の声を上げた。

「効いてる!」
地上の部隊から歓声が上がる。
「あの鳥とスライム使い! すげえ!」

だが、ドラゴンも黙ってはいない。
その巨大な口が、俺たちロックバードへと向けられる。

「まずい、ブレスが!」
俺が回避行動を取ろうとした、その時。
横から紅蓮の影が猛スピードで割り込んできた。

ゼノンとイグニス。
「……借りができたようだな。モンスターメイカー」
ゼノンが不敵に笑った。
「イグニス! 奴のブレスをブレスで相殺しろ!」

ワイバーンが咆哮を上げる。
二頭の竜が至近距離でブレスを撃ち合った。
紅蓮の炎と終末の炎。二つの破壊の力が激突し、凄まじいエネルギーの奔流となってドームの天井を吹き飛ばした。

天井が抜け、夜空が見える。
その星空の下。
俺のロックバードとゼノンのワイバーンが並んで飛んでいた。

「……フン。貴様の鳥、なかなか使えるではないか」
ゼノンが忌々しげに、それでいてどこか楽しそうに言った。

「あなたこそ。最高の援護、感謝します」
俺も笑いながら返した。

ライバル同士の夢の共闘。
空の共同戦線が、今、ここに結ばれた。

俺が上空からスライムでドラゴンの防御力を下げ、攪乱する。
ゼノンがその隙を突き、ワイバーンの圧倒的な機動力と火力でダメージを与える。
そして、地上の四十人の猛者たちが俺たちが作ったチャンスを最大限に活かして、総攻撃を仕掛ける。

不可能だと思われた伝説の竜の攻略。
その一筋の光明が、確かに見えていた。
戦いは、まだ始まったばかりだ。
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