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第七十四話 折れない心
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どれほどの時間が経ったのだろうか。俺が次に意識を取り戻した時、そこに広がっていたのは悪夢の続きだった。
処刑場はメフィストが放った『黒き太陽』によって、巨大なクレーターのように抉り取られていた。フロンティアの仲間たちの姿はどこにもない。おそらく、ほとんどのメンバーがあの一撃で強制的に街へと送還させられたのだろう。
「……ぐっ……」
俺は瓦礫の中から、呻きながら身を起こした。全身が軋むように痛む。HPゲージは辛うじて赤く点滅しているだけだった。
俺の隣ではカエデが盾を突き立て、なんとか立っていた。リオもゴブに庇われる形で奇跡的に生き残っていた。そして、少し離れた場所でゼノンがワイバーンの巨体を盾に、片膝をついている。
生き残ったのは俺たちだけ。
百人を超えた連合の軍勢は、たった一人の、たった一撃で壊滅させられたのだ。
「……ははっ。なんだ、これ」
俺の口から乾いた笑いが漏れた。
あまりにも圧倒的。あまりにも理不尽。これがギルドマスター。これがこの世界の闇の頂点に立つ者の力。
メフィストは処刑場の断頭台の上から、生き残った俺たちを値踏みするように見下ろしていた。
「ほう。まだ息のある者がいたか。流石は私の可愛いペットたちを退けただけはある」
その声には感心と、それ以上の愉悦が滲んでいた。
「特に君。ドラゴンテイマーのゼノン。君の力は本物だ。私のギルドに来ないか? ナンバー2の席を用意してやろう」
彼はゼノンに向かって甘い言葉を投げかける。
だが、ゼノンは血反吐を吐きながらも不敵に笑った。
「……断る。俺は貴様のような、他人を見下して喜ぶ三流の悪党の下につく趣味はない」
「……そうか。残念だよ」
メフィ-ストは心底残念そうに肩をすくめた。
「ならば、君たちにもここで消えてもらうとしよう。永遠に、ね」
彼の手のひらに再び黒い太陽が生まれようとしていた。
今度こそ終わりだ。誰もがそう思った。
だが。
「――まだだ!」
声が上がった。
それはバルガンだった。彼は瓦礫の山の中からボロボロの体を引きずるようにして立ち上がった。その手には折れた戦斧が固く握りしめられている。
「まだ俺たちは負けてねえ!」
彼の声に呼応するかのように、一人、また一人と生き残っていたフロンティアのメンバーたちが瓦礫の中から立ち上がってくる。
その誰もが満身創痍だった。だが、その瞳に絶望の色はなかった。そこにあるのは、理不-尽な力に対する決して屈しない反抗の炎だった。
「そうだ! 俺たちはまだここにいるぞ!」
「お前なんかに俺たちの誇りは折れねえ!」
十人、二十人。
壊滅したはずの連合の仲間たちが、再びメフィストの前に壁となって立ちはだかった。
「……ほう」
メフィストが初めて、わずかに眉をひそめた。
「愚かな。死に場所を選ばせてやろうというのに」
彼の黒い太陽がその輝きを増していく。
もう誰もが助からない。
だが、彼らは退かなかった。
バルガンが俺の方を振り返った。その顔には血と泥にまみれながらも、最高の笑顔が浮かんでいた。
「ユーの旦那!」
彼は叫んだ。
「俺たちはここで時間を稼ぐ! その間にあんたは、あんたのやるべきことをやれ!」
やるべきこと。
俺のやるべきこと。
それは伝説のモンスターを創造すること。
この絶望的な状況を覆しうる唯一の希望を、この手に生み出すこと。
「ですが!」
俺は叫び返した。
「そんなことをすれば、皆さんは!」
「分かってるさ!」
バルガンは豪快に笑った。
「だがな、俺たちはもう逃げねえって決めたんだ! あんたに俺たちの希望を全部託したんだよ!」
「そうだ! 俺たちの命、お前に預けたぜ、ユー!」
「頼む! この街を解放してくれ!」
仲間たちが口々に叫ぶ。
彼らは自らの命を犠牲にして、俺に未来を託そうとしていた。
「……っ!」
俺の胸に熱いものが込み上げてきた。
俺は、この人たちの想いを無駄にするわけにはいかない。
俺は隣に立つカエデを見た。彼女も同じ気持ちだった。
「……行け、ユー」
彼女はレイピアを抜き放った。
「ここは私とゼノン殿、そしてフロンティアの仲間たちで食い止める。お前は祭壇へ向かえ。そして、必ず私たちの希望を形にしろ」
ゼノンもふらつきながら立ち上がり、ワイバーンの背に跨った。
「……フン。紛い物使いに未来を託すなど反吐が出る。だが、今は貴様の奇跡に賭けてやるしかないようだな」
俺の背中を押す、仲間たちの熱い想い。
俺はもう迷わなかった。
「……必ず戻ります。必ず!」
俺はリオとゴブの手を取り、仲間たちに背を向けた。
そして、処刑場の奥、パンデモニウムの本拠地へと続く道へと駆け出した。
「行かせん!」
メフィストが俺たちに向かって黒い槍を放つ。
だが、その槍はバルガンの巨大な盾によって阻まれた。
「お前の相手は俺たちだぜ、ボス猿!」
「我らの屍を越えてみよ!」
背後で壮絶な、そして絶望的な戦いの火蓋が切って落とされた。
仲間たちの悲鳴と雄叫びが聞こえる。
俺は涙をこらえ、ただ前だけを見て走った。
これは逃走ではない。
仲間たちがその命を賭して繋いでくれた、希望への道だ。
その想いを、俺は絶対に裏切らない。
折れない心。
それが俺たちフロンティアの最後の、そして最強の武器だった。
俺は必ずこの奈落の底に夜明けをもたらす。
そう心に誓った。
処刑場はメフィストが放った『黒き太陽』によって、巨大なクレーターのように抉り取られていた。フロンティアの仲間たちの姿はどこにもない。おそらく、ほとんどのメンバーがあの一撃で強制的に街へと送還させられたのだろう。
「……ぐっ……」
俺は瓦礫の中から、呻きながら身を起こした。全身が軋むように痛む。HPゲージは辛うじて赤く点滅しているだけだった。
俺の隣ではカエデが盾を突き立て、なんとか立っていた。リオもゴブに庇われる形で奇跡的に生き残っていた。そして、少し離れた場所でゼノンがワイバーンの巨体を盾に、片膝をついている。
生き残ったのは俺たちだけ。
百人を超えた連合の軍勢は、たった一人の、たった一撃で壊滅させられたのだ。
「……ははっ。なんだ、これ」
俺の口から乾いた笑いが漏れた。
あまりにも圧倒的。あまりにも理不尽。これがギルドマスター。これがこの世界の闇の頂点に立つ者の力。
メフィストは処刑場の断頭台の上から、生き残った俺たちを値踏みするように見下ろしていた。
「ほう。まだ息のある者がいたか。流石は私の可愛いペットたちを退けただけはある」
その声には感心と、それ以上の愉悦が滲んでいた。
「特に君。ドラゴンテイマーのゼノン。君の力は本物だ。私のギルドに来ないか? ナンバー2の席を用意してやろう」
彼はゼノンに向かって甘い言葉を投げかける。
だが、ゼノンは血反吐を吐きながらも不敵に笑った。
「……断る。俺は貴様のような、他人を見下して喜ぶ三流の悪党の下につく趣味はない」
「……そうか。残念だよ」
メフィ-ストは心底残念そうに肩をすくめた。
「ならば、君たちにもここで消えてもらうとしよう。永遠に、ね」
彼の手のひらに再び黒い太陽が生まれようとしていた。
今度こそ終わりだ。誰もがそう思った。
だが。
「――まだだ!」
声が上がった。
それはバルガンだった。彼は瓦礫の山の中からボロボロの体を引きずるようにして立ち上がった。その手には折れた戦斧が固く握りしめられている。
「まだ俺たちは負けてねえ!」
彼の声に呼応するかのように、一人、また一人と生き残っていたフロンティアのメンバーたちが瓦礫の中から立ち上がってくる。
その誰もが満身創痍だった。だが、その瞳に絶望の色はなかった。そこにあるのは、理不-尽な力に対する決して屈しない反抗の炎だった。
「そうだ! 俺たちはまだここにいるぞ!」
「お前なんかに俺たちの誇りは折れねえ!」
十人、二十人。
壊滅したはずの連合の仲間たちが、再びメフィストの前に壁となって立ちはだかった。
「……ほう」
メフィストが初めて、わずかに眉をひそめた。
「愚かな。死に場所を選ばせてやろうというのに」
彼の黒い太陽がその輝きを増していく。
もう誰もが助からない。
だが、彼らは退かなかった。
バルガンが俺の方を振り返った。その顔には血と泥にまみれながらも、最高の笑顔が浮かんでいた。
「ユーの旦那!」
彼は叫んだ。
「俺たちはここで時間を稼ぐ! その間にあんたは、あんたのやるべきことをやれ!」
やるべきこと。
俺のやるべきこと。
それは伝説のモンスターを創造すること。
この絶望的な状況を覆しうる唯一の希望を、この手に生み出すこと。
「ですが!」
俺は叫び返した。
「そんなことをすれば、皆さんは!」
「分かってるさ!」
バルガンは豪快に笑った。
「だがな、俺たちはもう逃げねえって決めたんだ! あんたに俺たちの希望を全部託したんだよ!」
「そうだ! 俺たちの命、お前に預けたぜ、ユー!」
「頼む! この街を解放してくれ!」
仲間たちが口々に叫ぶ。
彼らは自らの命を犠牲にして、俺に未来を託そうとしていた。
「……っ!」
俺の胸に熱いものが込み上げてきた。
俺は、この人たちの想いを無駄にするわけにはいかない。
俺は隣に立つカエデを見た。彼女も同じ気持ちだった。
「……行け、ユー」
彼女はレイピアを抜き放った。
「ここは私とゼノン殿、そしてフロンティアの仲間たちで食い止める。お前は祭壇へ向かえ。そして、必ず私たちの希望を形にしろ」
ゼノンもふらつきながら立ち上がり、ワイバーンの背に跨った。
「……フン。紛い物使いに未来を託すなど反吐が出る。だが、今は貴様の奇跡に賭けてやるしかないようだな」
俺の背中を押す、仲間たちの熱い想い。
俺はもう迷わなかった。
「……必ず戻ります。必ず!」
俺はリオとゴブの手を取り、仲間たちに背を向けた。
そして、処刑場の奥、パンデモニウムの本拠地へと続く道へと駆け出した。
「行かせん!」
メフィストが俺たちに向かって黒い槍を放つ。
だが、その槍はバルガンの巨大な盾によって阻まれた。
「お前の相手は俺たちだぜ、ボス猿!」
「我らの屍を越えてみよ!」
背後で壮絶な、そして絶望的な戦いの火蓋が切って落とされた。
仲間たちの悲鳴と雄叫びが聞こえる。
俺は涙をこらえ、ただ前だけを見て走った。
これは逃走ではない。
仲間たちがその命を賭して繋いでくれた、希望への道だ。
その想いを、俺は絶対に裏切らない。
折れない心。
それが俺たちフロンティアの最後の、そして最強の武器だった。
俺は必ずこの奈落の底に夜明けをもたらす。
そう心に誓った。
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