M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第八十六話 雷鳴の宿敵

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氷の宮殿を支配していた絶対零度の呪縛は、リオの知略と俺たちの連携によって完全に打ち破られた。
最強の武器を失った氷姫トリッシュは、ゼノンの前になすすべなく膝をついた。

「……私の負けですわね」
彼女は悔しさを滲ませながらも、どこか潔く敗北を認めた。
「まさか私の『絶対凍土』が内側から破られるとは……。お見事でしたわ、虫けらさんたち」

その言葉を最後に、彼女の体は光の粒子となって静かに消えていった。
後に残されたのは、氷が溶け始め水浸しになった広間と、疲労困憊の俺たちだけだった。

「やった……!やったんだ!」
フロンティアの仲間たちが、勝利の雄叫びを上げる。
俺たちはまたしても、パンデモニウムの強力な幹部を一人打ち破ったのだ。

「リオ、お前の千里眼がなければ勝てなかった。よくやったな」
カエデがリオの肩を力強く叩いた。
「う、うん……!私もみんなの役に立てて、嬉しい!」
リオは涙を浮かべながら満面の笑みを浮かべた。

俺たちの絆は、この過酷な戦いの中でさらに強く、そして深く結ばれていく。

俺たちはしばしの休息の後、要塞の第三層へと続く扉へと向かった。
扉は重々しい黒鉄でできており、その表面には無数の雷の紋様が刻まれている。

扉を開けた瞬間、俺たちの肌をビリビリとした静電気が走り抜けた。
その先は、どこまでも続く長い長い一本道。
そして、その道の両脇、そして天井からは絶えず紫電の雷が迸っていた。

「……ここは」
ゼノンが、その光景を見てごくりと喉を鳴らした。
その表情は今までにないほど険しい。

「雷鳴の間……。間違いない。この先にいるのは奴だ」
彼の声には、抑えきれない怒りと、そして憎しみの色が滲んでいた。

「奴?」
俺が尋ねると、ゼノンは忌々しげに吐き捨てた。
「……俺の宿敵だ」

彼の話によれば、この第三層を支配する幹部『雷帝のヴァイス』は、ゼノンと同じくドラゴンを使役するドラゴンテイマーなのだという。

「だが、奴はテイマーではない。ただのドラゴン使いだ」
ゼノンの声が低く唸る。
「奴はドラゴンを相棒としてではない。ただの力ある道具としてしか見ていない。服従しないドラゴンは禁断の呪具でその精神を破壊し、無理やり従わせる。そのやり方は俺の、そして全てのドラゴンテイマーの誇りを踏みにじるものだ」

ゼノンはかつてヴァイスとギルドの存亡を懸けて戦ったことがあったらしい。
その戦いでゼノンは辛くも勝利を収めた。だがヴァイスは敗北を認めず、禁断の力を使ってゼノンの、かけがえのない仲間であったもう一頭のドラゴンを殺害したのだという。

「……奴だけは、俺がこの手で倒さなければならない」
ゼノンの瞳に、復讐の炎が燃え盛っていた。

俺たちは、その雷が絶えず迸る一本道を進んでいった。
道の途中には雷をエネルギー源とする機械仕掛けのゴーレムや、雷の精霊が次々と襲いかかってきた。

だが、それらはもはやゼノンの敵ではなかった。
「――消えろ」
彼のワイバーン、イグニスが吐き出すブレスはもはやただの炎ではない。それは主の怒りに呼応するかのように、雷を纏った紅蓮の雷火と化していた。

敵は一瞬で焼き尽くされる。
俺たちの出番はほとんどなかった。ただ彼の怒りに満ちた背中を見守ることしかできなかった。

やがて一本道の先に、闘技場のような円形の広場が見えてきた。
そして、その中央。
巨大な黒い竜の上に、一人の男が玉座にでも座るかのように傲然と腰かけていた。

男はゼノンと同じく、竜の素材で作られたであろう漆黒の鎧を身に纏っていた。だが、その雰囲気はゼノンとは正反対だった。
ゼノンが王者の風格を持つならば、彼は全てを破壊する暴君のそれだった。

【雷帝のヴァイス Lv.68】

彼が従える黒竜は、イグニスに匹敵するほどの巨体を誇っていた。だが、その瞳には光がなかった。まるで魂を抜かれたただの人形のよう。その首には禍々しい紫色の光を放つ呪いの首輪が食い込んでいた。

「……来たか、ゼノン」
ヴァイスは俺たちを一瞥すると、心底楽しそうに唇を歪めた。
「あの時の負け犬が。まだその赤いトカゲと一緒にお遊戯を続けていたとはな」

「ヴァイス……!」
ゼノンが憎しみに歯を食いしばる。

「ちょうどいい。退屈していたところだ。もう一度教えてやろう。本当のドラゴンの力の使い方をな!」
ヴァイスが手を振り下ろす。
黒竜が咆哮を上げた。だがその声は悲痛な悲鳴のようにも聞こえた。

黒竜の口から漆黒の雷が迸る。
「イグニス!」
ゼノンのワイバーンも紅蓮の雷を吐き出し、それを相殺した。

二頭の竜が空へと舞い上がる。
紅と黒。
二つの巨大な影が、雷鳴の間で激しくぶつかり合った。
それはもはやただの戦闘ではなかった。
同じドラゴンを愛する者でありながら、決して相容れない二人のテイマーの信念と誇りを懸けた、宿命の対決だった。

爪が肉を裂き、牙が鱗を砕く。
ブレスと雷が空を焼き、空間を震わせる。

だが、戦いは徐々にヴァイスが優勢となっていった。
彼の黒竜は痛みを感じない。恐怖も感じない。ただ主の命令のままに、自らの命を削りながら破壊の限りを尽くす戦闘機械。

対するイグニスは生きている。痛みを感じ、傷つき、そして消耗していく。
「くそっ……!」
ゼノンは巧みな操竜技術で猛攻を凌ぐ。だがじりじりと追い詰められていく。

「どうしたゼノン!お前の絆ごっこはその程度か!」
ヴァイスが高笑いする。
「ドラゴンは道具だ!より強く、より効率的に敵を破壊するための最高の道具にすぎん!そこに心など不要なのだ!」

彼の歪んだ信念。
その言葉がゼノンの心の奥底にあった、最後の何かに火をつけた。

「……だまれ」
ゼノンが静かに呟いた。
その声は今まで聞いたこともないほど冷たく、そして怒りに満ちていた。

「……貴様のような男に、俺とイグニスの絆を語る資格はない」

ゼノンはイグニスの首筋を優しく撫でた。
「……行けるか、相棒」
イグニスは主の問いに、力強く一声咆哮した。

次の瞬間。
ゼノンとイグニスの二つの魂が、完全に一つになった。
ワイバーンの全身から、その魔力の限界を遥かに超えた紅蓮のオーラが太陽のように噴き出した。

それはテイマーとドラゴンが互いの魂を完全に共鳴させた時にのみ発現するという、究極の奥義。

『――竜魂共鳴(ドラゴン・ソウル)』

「……これが、俺たちの絆の力だ!」
ゼノンの絶叫が、雷鳴の間に響き渡った。
宿命の対決が、今、最終局面を迎えようとしていた。
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