ヒーロー劣伝

山田結貴

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第七話 皇帝襲来! 外道ヒーローよ、永遠に

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 翌朝。美江がKTHに行ってみると、黒沢が厳しい表情でパソコンに向かっていた。
「黒沢さん、何かいつもよりも大変そうですね」
「そりゃあそうだよ。怪人の存在が世間に大っぴらになりかけて、えらいことになってるんだから。花咲君だって、今朝のニュースくらい目を通したよね」
「ええ、まあ」
 黒沢の言う『今朝のニュース』とは、皇帝が巻き起こした一件のことで間違いないだろう。最近パッとした話題もなかったせいか、朝っぱらからテレビをつけるなりニュースではこのことばかりが取り上げられていたので、嫌でも頭に情報は叩き込まれまくっている。
 あるところでは『火炎の魔術師』などというそれっぽい肩書きで呼ばれてみたり、またあるところでは『狂気の黒ビキニ男』と都市伝説の化け物みたく呼ばれたりと、果たして一晩でいくつの名称が作られたのやら。ただ、世間に怪人という概念がない以上、あの火の玉を飛ばす超能力は何らかのトリックによって発生させられたものであると推測している番組がほとんどであり、怪物説を唱えているのは一部の報道のみである。だが、それよりさらに恐ろしいものがこの世は存在していることが実に厄介なのであった。
「はあ。何で皇帝が手から火を出すところを撮影して動画サイトに投稿しちゃう奴がいるのかなあ。そのせいで、インターネットがお祭り状態になっちゃってるじゃないか。どうにかして、怪人の噂をもみ消さないと。でも、いくら本部の対策部門だけでどうにかできないからって、僕にまで手伝わせなくても」
 そう。スマートフォンやら何やらが普及しまくっている現代において、爆発的に情報が拡散してしまう事態は防ぎようがないのである。
 恐るべし、情報社会。頑張れ、KTHの対策部門の方々。
「それにしてもさ、まさか皇帝がこの地域に姿を見せるなんてね。ナーゾノ星から怪人を次々に派遣してきていた、張本人が」
「そうですね」
 不機嫌そうなしかめっ面を崩さないまま呟く黒沢に、美江は同調するように相槌を打つ。
 これが創作世界の話であれば、諸悪の根源である皇帝にヒーローが立ち向かい、ヒーローを支援する組織が陰ながらサポート。そして最後には地球の危機を救い、感動のフィナーレみたいな展開にでもなるのであろうが……。
「いやー……それにしても遅いなあ。さっきここに来るように、連絡を入れておいたはずなんだけど」
「え?」
 黒沢がさらにボソッと追加した一言に、美江は首をかしげた。それとほぼ同時に、階段の方からドタバタと乱暴な足音が聞こえてきた。
「何なんです、黒沢さん。怪人が出現したわけでもないのに、いきなり俺のことを呼びつけたりなんかして」
 KTHに入ってきたのは、無駄に整った顔立ちを存分に曇らせた永山であった。その格好はと言うと、美江が泣く泣く買わされたピカピカの赤ジャージ姿だった。
 以前までは高校時代から着回していたと考えられるボロジャージを数日に渡って身につけていた永山であったが、最近はよく赤ジャージを着て現れる。確かに値が張っただけあってそこそこ良い代物ではあるのだが、そんなに気に入ってるのだろうか。
「やーっと来てくれたみたいだね。ずいぶん遅かったじゃないか」
 しびれを切らしていたらしい黒沢は、永山に向かって嫌味ったらしく毒づいた。
 これがきっかけとなったのか、二人の視線の間にバチバチと火花が生じた。
「急に呼びつけておいて遅いとのたまうのはいかがなものかと。俺も暇じゃないんでね、さっきまでバイトしてたんですよ。今日はたまたまそれしかバイトが入ってなかったからおとなしくここに来ましたけど、普段だったら多額の特別手当をいただいているところですよ」
「君って奴は……KTHが大変なことになってるっていうのに、お金の話かい。来て早々それはないんじゃないかな」
「いや、ありでしょ。俺にとっては世間に怪人の存在が公になろうが、KTHが秘密組織じゃなくなろうが、知ったことじゃないんで」
「相変わらずヒーローらしさゼロなことを平然と……」
「おや、まだ俺にヒーローらしさとやらを求めることの方が間違っているということにお気づきになられていなかったのですか? 俺よりも長い長ーい月日を生きているにも関わらず、そのようなことも理解しておられなかったとは。いやはや、何のために幾多の戦を乗り越えてきたのやら」
「僕は化け物か! 君より年上だからって、戦国時代から生きてるわけじゃないからね」
「ふっ。こんな見え透いた冗談如きにムキになっちゃって。歳をとると考え方が固くなるという通説は本当だったんですねえ」
「またそうやって……うう、胃がっ!」
 勝負あり。軍配は、猛毒の嵐を凄まじい勢いで大量生産した永山に上がった。
 この外道はまだ何かを言おうと口を動かそうとしているが、このままでは話が一生先に進みそうにない。なので仕方なく、美江は嫌々ながらも場を取り持つことにした。
「あの、黒沢さん。胃が痛くなってしまったのはよくわかるんですけど、用があって永山を呼びつけたんでしたらさっさと本題に移った方がいいですよ。ほら、嫌なことはパパッと済ませるに限るってよく言いますし」
「おい、誰が嫌なことだって?」
「うう、そうだね。嫌なことは、パパッと済ませた方がいいよね」
「……ここぞとばかりに、言ってくれますよねえ」
 自身を嫌なこと呼ばわりされた永山は眼光を鋭くさせたが、そんなことなど尻目に黒沢はどうにか立ち直った。
「じゃ、率直に要件だけ伝えるよ。外道く……じゃなかった。永山君には、これからパトロールしてきてほしいんだ」
「は? パトロール? 何でそんな面倒なことを」
「当然、例の皇帝対策に決まってるじゃないか。短時間で集められたなけなしの情報によると、皇帝を名乗ったっていうその怪人は、気まぐれみたいにこの地域で出現と消失を繰り返しているらしいんだ。つまり、奴が現れたっていう情報がこっちに送られてからげど……じゃなくて、永山君に向かってもらったんじゃ、絶対に間に合わないってこと。そこで、げ……コホン。永山君には色々な場所を回ってみてもらいたいわけ」
「さっきから何回人の名前を間違えてるんですか。というかその作戦、めっちゃ行き当たりばったり感が強くないですか?」
「だって正直、行き当たりばったりなのをわかってて提案してるからね。適当にそこらをぐるぐる回ってて、皇帝に出くわしたらラッキー! みたいな。こっちだってね、もうやけのやんぱちなんだよ」
「やけのやんぱちとは、また古い……。こんな効率の悪いこと、本気でやらせようって言うんですか?」
「いや、いいんだよ? パトロールなんて効率の悪いことなんてやらなくったって。でも、その場合。永山君にはここで待機してもらって、連絡が入るなりすぐさまKTシーバーで変身してもらってから転送装置でひとっ飛びしてもらうけど」
「へ、変身?」
 実に聞き心地の悪いワードが耳に届くなり、永山の暴言発射口がピタリと止まった。
「俺の聞き間違いでなければ、今、変身とかおっしゃいました?」
「うん、言ったけど。いや、別に僕はそれでもいいんだよ? ただ、あのダサいヒーロースーツ姿を大衆の前に晒したくないって言ってたのは、どこの誰だったかなあ?」
「う、わ、わかりましたよ。パトロールに行きますよ」
 ヒーローよ、自分がボロクソに非難した作戦をあっさり受け入れるほど変身するのが嫌なのか。
 美江は馬鹿馬鹿しいやりとりにツッコミを入れたくてたまらなくなったのだが、ここで永山のやる気を削ぐようなことをしてはろくなことにならないのは目に見えていたので、あえて黙っておくことにした。
「言っておくけど、僕だってこんな指示を出したくて出してるんじゃないんだからね。怪人について出回ってる情報をもみ消すのに、本部その他もろもろの人員が総動員さえされてなければここまでひどいことには……。はっ! もしかして皇帝は、こうなることを予想してあんな騒動を引き起こしたのか⁉」
「あの、それは流石にないと思いますけど……」
 だが、黒沢が血迷った末に口走った一言については見逃さずにはいられなかった。一体どこの誰が、ヒーローを使って地球の平和を維持する組織が、世間に怪人の情報が出回らないように涙ぐましい努力をちまちまと行っていると考えるというのか。もし皇帝の行動がこの事態を推測して行っていたのだとしたら、奴は確実に人の上を行く天才的な発想の持ち主ということになってしまう。
 ……ただ、あの変態ルックを加味すると、人の斜め上を行く発想を持っている可能性は大いにあるが。
「はあ。何だかずいぶん面倒なことを押しつけられたような気が。ま、命令なら仕方ないですかね。後で特別手当でもふんだくるとして、さっさとパトロールとやらに行ってくるとしますか」
永山は嫌味をふんだんに織り交ぜた言葉を吐き捨てながら、KTHから出ていこうとした。しかしその直後、黒沢が「あ、ちょっとストップ」といきなり呼び止めたものだからガクッとつんのめってしまった。
「何なんですか。人が渋々ながらも行動に移そうとしていたのに」
「いや、このままだと一人で勝手に行っちゃいそうだったからさ。このパトロールには、君の監視役である花咲君にも同行してもらうんだからね」
「えっ!」
 やっぱり、付き合わなくちゃ駄目ですか? 高給をもらっている以上、監視役として非効率な任務に付き合わなくちゃ駄目ですか?
 直接口には出さないものの、美江は訴えるような眼差しで黒沢を見る。しかし。
「いや、別にここで待機しててもいいんだよ。ただ、ここに怪人が現れたっていう情報が入ったらすぐに変身してもらって、永山君の元にひとっ飛びしてもらうけど」
「う……」
 史上最強の脅し文句が飛び出した以上、抵抗する手段は奪われたも当然となった。
「はい、行きます。喜んでパトロールに同行させていただきますとも」
 美江はもちろん、一時の恥をさらすリスクよりも、しばしの苦労を選択した。
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