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2章 再会
16.報告書
しおりを挟むピリリとした空気を感じた。
先程までのアラン様と変わって、騎士団団長または英雄騎士様の重いものを背負った厳しい顔になる。
「邪魔しちゃいけないとは、思いましたけどね」
アラン様の横からテーブルに紙の束を置いた。仕事の書類だろうか。
「例の報告書か」
アラン様は書類……報告書を手に取り、読み始めた。
パラパラと書類をめくって目を通していく。
「わかった。ご苦労」
ふう……とアラン様は息を大きく吐いた。
お仕事があるなら、僕は邪魔になるかな。
「あの。お仕事でしたら僕はお邪魔ですから、失礼します」
ガタッ! ガタン!
アラン様とニールさんが慌てて、椅子から立ち上がった。
「いや! 大丈夫だ!」
「駄目です! せっかくお茶会に来てくれたのに!」
ほとんど同時に叫んだ。仲良しさんだ。
ピピッ! ピピピ……!
木にとまっていた小鳥がびっくりして逃げていった。
「そう、ですか?」
でもお仕事の話で、聞いたりしては駄目な事もあるよね? いいのかな。
「……実はルカにも関わっている話なんだ」
「え」
アラン様は真剣な顔をして僕に言った。ニールさんも先程のふざけた感じがなくなっていた。
ドキリと嫌な予感がした。
「せっかく楽しく、お茶会をしていたのにすまん」
僕に申しわけなさそうに話を続けた。
「いえ……。僕に関わっている話とは、どんな話ですか?」
アラン様とニールさんがチラと顔を見合わせた。
「噴水広場で騒動があったときにいた男達が、暴行されて裏道で発見された」
お肉屋さんの奥さまが話していたことだ。
「その噂は聞きました。男達はよその国の者で獣人を捕まえて売る、売人だとか……」
二人は僕の話を聞いて少し驚いていた。
「詳しいな。どこでその話を聞いた?」
ちょっとアラン様の顔が怖くなった。正直に話したほうがいいな。
「商店街のお肉屋さんの奥さんに聞きました。あの奥さんは情報通な方で、色々僕に教えてくれます」
「……情報通か。街の女性の情報網は侮れない。接触できるか? ニール」
「おまかせ下さい」
あっ……。僕が、スカウトしたみたいになってしまったかな? でも近い人の悪口は言わないし、おしゃべりというわけじゃないから……いいかな?
お肉屋さんの奥さんは嫌なことは断れる人だし。
「それでだ。ルカ」
「は、はい!」
緊張してしまう。アラン様はお仕事モードになると、圧倒的な英雄のオーラが凄い。
「男達を手当てし、話せるようになったので尋問……いや、話を聞いた」
「はい……」
ニールさんはテーブルの上に両手を重ねて置いた。
「男達を雇った貴族は、誰だか分からない。身なりから貴族と思ったそうだ。金で繋がった関係だ。獣人の子供は逃げたと言ったが、一部の人が君が連れて逃げたのを目撃したそうだ」
カチャン! 僕は動揺して、ティーカップに手を当ててしまった。
「それを聞いた雇い主の貴族が、君を探している……と。別の人を雇い、探し始めたと男達が話した」
アラン様は眉間にシワを寄せた。
僕を探し始めた? 何のために?
「理由は分からない。が、君の身の危険が考えられる」
どうして……。報復するためだろうか? 身の危険は常にあるけど、ハッキリと悪意を向けられると恐ろしい。
「僕は、だ、大丈夫です。防犯魔法器具がありますから……」
防犯魔法器具とは、家のドアと窓の施錠の更に結界が張れる器具の事。入口のドアの内側、鍵穴近くに貼り付ければ結界が張れる、小さなプレート状の物だ。防犯用に僕が作った。
だけど僕は自分の魔法でもっと強力な結界を張れるから、それは必要ない。けど誤魔化すのに貼っている。
「大丈夫じゃない。相手はプロを雇う」
アラン様は怖いことを言った。僕はどうしたら……。
するとニールさんが僕に話しかけてきた。
「怖がらせてすみません。でも団長が言っていることは嘘偽りは無いです。もっと優しく包んで話して欲しかったのですが」
……でも狙われているのは事実だ。いくら僕が魔法を使えるとはいえ、相手はプロだ。敵わない。
「……君に護衛をつけたい」
報告書から、視線を僕に向けてアラン様は苦い顔をした。その報告書は僕は部外者だから読めないけれど、もしかしたらもっと深刻かもしれない。
だけど。
「いえ。そこまでは……。逆に商店街の皆さんに、不安と迷惑をかけてしまいそうです」
う――む、と二人は悩んでいるようだ。
「僕が獣人の子供を助けた事は伏せます。最近怪しげな人を見かけるので、騎士団の方に相談したら見回りを強化してくださる……ということを商店街の皆さんにお話します。それで駄目でしょうか?」
僕は平民だし、護衛される身分ではない。僕が護衛されて無事で、商店街の皆さんに害が及んだとしたら申し訳ない。だったら商店街の見回りを強化してくださったほうが、広く防犯意識が高まって全体的に良い。
それに僕を護衛して下さるのは心強いけど、ずっと一緒にいて本当の姿を知られたら……。
「分かった……。商店街の見回りを強化は、する」
「そうですね。まずそこからですね」
アラン様とニールさんは納得してくれた。
僕に護衛をつけるなんて、不相応だし。ホッとして紅茶を飲もうとしたが、ティーカップは空っぽだった。
アラン様が気がつき、メイドさんを呼んでくれて新しく温かい紅茶を淹れてもらった。
僕は深刻な話に喉が乾いたので、少し冷ましてから紅茶を飲んだ。
「だが君が心配だ。俺の友人として、君を守らせて欲しい」
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