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3章 二人の過去と今と未来へ
26.アラン様からのお世話
しおりを挟むアラン様はバスタオルの端を持って、僕の髪の毛をバスタオルで挟んで軽くポンポンと叩くように拭いた。
「髪は長かったのだな」
アラン様がそう言いながら髪の毛の先を拭いてくれてる。肩より長くなったけど、ひとまとめにしていれば邪魔にならなかったので切ってなかった。
優しくポンポンと拭いてくれるのでアラン様に甘えてしまっていた。我に返って慌ててアラン様に謝った。
「アラン様にやってもらってしまって、すみません! つい気持ち良くて……」
僕はアラン様から離れて、少し距離を取った。
「いつもタオルでゴシゴシと拭いてました。ありがとう御座います!」
パッとアラン様の顔を見ると、何だか寂しそうな顔をしていた。
「そうか。髪の毛はタオルで軽く、叩くように拭くと良い。あと、首の傷に塗り薬をつけよう。医師から預かっている」
「はい」
アラン様がポケットから、丸い小さな容れ物に入った塗り薬を出した。手のひらに乗せた容れ物は、大きな手のひらにとても小さく見えた。
大きくて傷だらけの手。この手で僕達……、この国を守ってくれたと思うと、とても愛しい。
それのフタをパカッと開けて、太い指で塗り薬をすくった。
「意外と首に、塗り薬を塗るのは難しい。塗ろう」
「え? あ、塗り薬……ですか?」
「首にケガをしたときに、塗り薬を傷にちゃんと塗るのが難しく、苦労したからな」
アラン様の指が近づく。
「ほら。顔を上げて」
言われた通りに顔を上げる。
「う」
アラン様の指につけた塗り薬が、僕の首の傷に塗られる。どろりとした塗り薬は、少し傷に染みた。
「痛むか?」
「いえ。大丈夫です」
アラン様の指が、僕の首を撫でる。
……撫でているわけじゃないけれど、優しく傷部分の皮膚を上下されると落ち着かない。顔を上げたまま、アラン様の顔をこっそり見てみると真剣な表情をしていて、かっこいいなと思った。
「あ……」
右から左に指が上下しながら、塗り薬が塗られた。
アラン様の指が僕の首に触れるたび、くすぐったいような むず痒いような……そんな感覚になった。
「……よし。これでいい」
指が僕から離れた。寂しいと感じてしまう。
「ありがとう御座います」
アラン様は塗り薬がついた指を布で拭き取り、立ち上がった。
「指を洗って、またこちらに来る」
そう言い、アラン様は部屋を出て行った。
「アラン様……」
急にアラン様から離れたのは、髪の毛全体を触られたら違和感に気づかれるから。
本当はアラン様に毛先だけじゃなくて、全部拭いてもらいたかった。ごめんなさい。
なんでこんなに、アラン様に甘えたくなるのかな。
被っていたバスタオルを頭から取って、手のひらを自分に向けた。小さな声で呪文を唱える。
キラキラと光り、暖かな風が吹く。髪の毛は一瞬で乾いた。
「ふう……」
トントントン。しばらくしてから扉が叩かれた。
「お食事を持ってきました。入ってもよろしいでしょうか?」
ネネさんが部屋の扉をノックして声をかけてきた。
「あ、はい!」
僕は乾いた髪の毛を、慌てて紐で1つに束ねた。
扉を開けて、ネネさんがワゴンを押して入ってきた。後ろからアラン様が続けて入ってきた。
ワゴンの上にはごちそうが乗っていた。……美味しそうな匂いがする。
「ルカ様の、お好みが分からなかったものですから色々ご用意しました。お嫌いなものがありましたら、おっしゃっ下さいね。アラン様の分も用意しました。足りないようでしたら、お申し付け下さい」
「ありがとう」
「ありがとう御座います」
ネネさんがワゴンからテーブルにお料理が盛り付けられたお皿を置いていく。
……テーブルに置かれた品々は、とても美味しそうだった。
「どれを食べたい?」
椅子に座ったけれど、アラン様との距離が近い。向かい合わせで座ると思っていたら、隣だった。
「そうですね、スープからいただこうかと」
「よし」
アラン様がスプーンを持って、お皿からスープをすくった。そして僕の口元まで近づけた。
「え」
「あらあら、アラン様! ルカ様が困るじゃないですか。お世話したいのはわかりますが、程々にしないと嫌われてしまいますよ?」
僕が突然のことで動けないでいたら、ネネさんがクスクスと笑いながらアラン様に言った。
「嫌われる……だと?」
スプーンを持つ手を宙でとめて、僕に悲しそうな表情を見せた。
「えっ! そんな! こんなお世話になっているのに、大好きなアラン様を嫌いになんてなりません!」
思わず大きな声で言ってしまった。
ネネさんは、まあ! と手を叩いた。僕は自分の言った事に気がついて赤面した。
「それでは、何かありましたらお呼びくださいね」
うふふ……とニコニコ微笑みながら、ワゴンを押して部屋から出て行った。
コホン。アラン様が咳払いをして、また僕の口にスプーンを近づけた。
「早く食べないと冷めてしまう」
「は、はい」
恥ずかしかったけれど、口を開けてスープを飲んだ。
「美味しいです」
じゃがいものスープだった。トロリとして美味しい。
アラン様にニコッと笑った。
「そうか。口に合ったようで良かった」
アラン様はそう言って、またスープをすくって僕の口に近づけた。
「これって、小さい子にやる『あーん』です……よね?」
僕はちょっと子供扱いされて、不満気な気持ちになった。
アラン様は、僕の顔を見てフッ……と笑った。
再びスープをすくって、口にスプーンを運んだ。
「小さい子にやるばかりじゃなく、親しい人や恋人同士にもやるぞ。ほら、あーん……」
「むぐ……」
親しい人や恋人同士?
僕はむせそうになったけど、こらえた。
何となくアラン様の耳が赤く見えたのは、気のせいだろうか?
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