実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice

文字の大きさ
15 / 69

1-13.重なる嘘

しおりを挟む
「ここが私の工房よ」

 ミラは工房内を見回して、見た目の大人っぽいイメージから真逆の、愛くるしい少女趣味のような内装インテリアに驚く。
 窓のそばにはクマのぬいぐるみがおいてあり、部屋の中は外と同じピンク調だった。

 工房とは言っても、ここで暮らしている以上は、生活圏となる自室も丸見えだ。
 メリエラの部屋はさらにすごかった。メリエラの他人に見せられないような、生活力の低さが垣間見える、その辺りには、物があれやこれやがあった。

 薬師は普通、依頼を受けるとそれをギルドに納品するため、客が工房まで来ることはない。そんな油断が垣間見える。

 メリエラが立ち位置を変えて、さっと、手の動きでミラの視線を遮った。
 工房の方にミラの目を向けさせたのだ。
 気をそらすかのようにメリエラは話し始める。

「あなたは調合について初心者なのよね?」
「はい、さきほど、ルーベック様に見せてもらったのが初めてです」
「じゃあ、魔法の調合工程を教えてあげるわ」
「いいんですか?」

 ルーベックはあまり魔法を使わなかった。ミラはあのまま帰らなくてよかったと笑みを浮かべた。

「まあ、もともとそのつもりだったから。調合って、薬師1人ひとりでやり方が微妙に違うのよ。これは同じ師匠に付いていても違いが出たりするわ」

 メリエラは薬師の違いについて続けて説明する。

「なぜかというと、薬師の得意なことが魔法の場合、ある程度の工程を魔法で代替することができるからよ。ルーベックのように極力魔法に頼らない、器用に手作業で調合する工程を見てきたはずだけど、あなたは『彼の調合の仕方』だけしかまだ知らないの」

 メリエラは外から工房内を見ていたため、ルーベックがどんな工程を教えたか知っている。だが、なぜか見ていない体でミラに「そのはずよね?」というニュアンスを込めて話すのだった。
 そこは恥ずかしいのか、詳しく観察していたことを悟られたくないのだろう。

「そういえば、魔法の工程省略についてそのような記述がありました。あれってそういうことだったのですね」
「え? ああ、『調合基礎』の本を読んだのね」

「はい、そのときに、機材を使って原始的に調合する工程と魔法の工程があることは分かったんですけど、その違いが厳密にどういうものかは知りませんでした」

「それにしても、あなた面白いわね。あんなマニアックな本の、あんな細かい記述を覚えているなんて。ちなみに、あれ、私が書いたのよ」

 ミラは著者を記憶から想起して、メリエラの名前があったことを思い出す。

「そういえば、メリエラ様の名前と同じ著者でしたね。説明の仕方もどこかにていますし。あの箇所なんかは――」

 ミラは事細かに文章を記憶から取り出して読み上げ、類似点を上げていく。

 その様子を見て、メリエラは驚く。

「まさかあなた……あの本の内容を全部覚えているの?」
「はい、覚えています。ソフィアさんが言うには、本の読む速さが普通の人とは違うと言われましたけど……覚えているのって、一般庶民の普通ではないんですか?」

「あはは。あなた変わってるわね。それに一般庶民って……まるで貴族みたい」

 手を口に当てておかしそうに笑うメリエラは、微笑びしょうが収まると、そのまま話を続けた。

「あら、ごめんなさい。けど、それが普通なら薬師のギルド認定試験で必要な知識の記憶も要らなくなるわ。おそらく、その記憶力は天賦の才能ね。少なくとも私は、あなた以外にそんな記憶の仕方ができる人を見たことないわ」

「そう、なんですね……」
「あまり嬉しそうではないのね? 知識が大事な薬師を目指すならすごくラッキーよ」
「いえ、嬉しいんですけど、ちょっと」

 気づかなかっただけで、姉がずっと嘘をついていた。

 庶民でも『見たもの・聞いたものすべてを記憶できる』なんてことはなく、特別なことだった。
 またしても姉の嘘だった。
 いまだに、姉が言ったことのどれがどのくらい嘘かはわからない。だが、姉から聞いた常識の多くが嘘である可能性が浮上した。

(私のいまある常識の大部分を、疑ったほうが良いのかしら……)

 姉が嘘を隠すために、さらなる嘘を重ねて上塗りしていたのだ。
 それがどこまでの常識に及んでいるのかは計り知れなかった。

 嘘かどうか知るためには他人に指摘してもらわないとわからない、というのがミラは少し怖かった。
 なぜなら、大事なところで大きな失敗をするかも知れないからだ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。 2025/9/29 追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

夏灯みかん
ファンタジー
生まれながらに強大な魔力を持ち、聖女として大神殿に閉じ込められてきたレイラ。 けれど王太子に「身元不明だから」と婚約を破棄され、あっさり国外追放されてしまう。 「……え、もうお肉食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?」 追放の道中出会った剣士ステファンと狼男ライガに拾われ、冒険者デビュー。おいしいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 一方、魔物が出るようになった王国では大司教がレイラの回収を画策。レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。 【2025.09.02 全体的にリライトしたものを、再度公開いたします。】

処理中です...