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第2章 ツンデレが本気でムカついてると思ったら、どうやら恋らしい。
17 葵の、初めてのモヤモヤ
しおりを挟む別に、気になってるわけじゃない。
……うん。たぶん。きっと。絶対。
黒瀬葵は、そう心の中で何度も言い聞かせていた。
窓際の席から、相沢蓮と白川咲が笑い合っているのが見える。
教室の空気はいつも通りなのに、
自分だけ、ちょっとだけ違う世界にいるような気がした。
「ねぇ葵、これ見て」
咲がスマホを見せてくる。
画面には、蓮が昼休みに寝落ちしている写真。
机に突っ伏して、寝ぐせがぴょこんと立ってる。
「可愛いでしょ?」
「……どこが」
「ほら、こういうの撮ると和むじゃん。癒しってやつ」
「勝手に撮らないであげたら?」
「ふふっ、嫉妬?」
「ち、違う!」
否定した瞬間、自分でも声が大きかったと気づいて、
慌てて顔をそむけた。
咲はにやにや笑いながら口に人差し指を当てる。
「なるほどねぇ、分かりやすいなぁ黒瀬は」
「……分かりやすくない!」
「ううん、超分かりやすい」
黒瀬は何も言い返せず、鞄の中から無意味に教科書を取り出した。
(なんなのよ、もう……!)
◇
放課後。
机の上に置かれた蓮のシャーペンが目に入った。
キャップが外れかけてて、なんだか不格好。
……つい手が伸びる。
キャップを直して、芯を少し補充して。
それだけのことなのに、心臓が変にドキドキしていた。
「何やってるの?」
後ろから咲の声。
「っ!」
「いや、その、落ちてたから……」
「へぇ。優しいんだね」
「違う!」
咲は小さく笑って、
「ねぇ、相沢くんってさ、そういう小さい気づきがある人、好きだと思うよ」
とだけ言い残して教室を出ていった。
黒瀬はその場に立ち尽くす。
(なにそれ。……そんなの、知らない)
◇
帰り道。
イヤホンをして歩いていても、音楽が頭に入ってこない。
咲と蓮が仲良く話していた光景ばかりが浮かぶ。
(別に、相沢のことが好きとか……そういうのじゃなくて)
(ただ、ちょっと……からかわれるのがムカつくだけで)
そう思おうとしても、胸の奥がきゅっと痛む。
「なんなのよ、もう……!」
夜風にまぎれて、思わず声が漏れる。
歩道の向こう側に、蓮の姿が見えた。
彼はイヤホンを外して、こちらに気づき、笑った。
「黒瀬? 偶然だな」
「っ……なんでいちいち遭遇するのよ」
「いや、道が同じなんだって」
「言い訳っぽい」
「いや、マジで!」
自然に並んで歩く。
言葉がなくても、なぜか落ち着く距離。
(ほんと、ムカつく)
だけど──
その横顔を見て、
小さく、息を吸い込む。
(……なんで、こんなにドキドキするのよ)
風が少し冷たくて、
頬の赤さをごまかすには、ちょうどよかった。
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