俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ

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第3章 章 デレ期、来たかもしれません。(ただしツン付き)

27 午後の決意

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昼過ぎ。
体育祭の喧騒も少し落ち着いて、校庭の空気には昼下がりの陽射しが満ちていた。
午前中のリレーの熱気が嘘みたいに、みんな芝生の上でだらけている。
俺もその一人だった。

「お前、完全に燃え尽きた顔してるな」
佐伯がジュースを片手に笑ってくる。

「いや、リレーで全力出しすぎた。足が棒」
「でも、黒瀬さん、けっこう嬉しそうだったぞ? “悪くなかったわね”って」
「聞いてたのかよ」
「めちゃくちゃ聞こえてたし。あれ、もう半分告白みたいなもんだろ」
「どこがだよ」
「いやー、鈍感にもほどがあるなぁ」

そう言って佐伯は寝転び、空を仰いだ。
雲が風に流れていく。
騒がしかった午前とは違って、妙に穏やかな午後だった。

 

しばらくして、放送が流れる。
「午後の部、障害物競走の選手は集合してください」
「じゃ、俺そろそろ行くわ。お前、見に来いよ」
「うん、あとでな」

佐伯が走り去ったあと、ふと視線の先に見えた。
グラウンドの端、木陰に座ってる黒瀬葵。
膝の上で手を組んで、風に揺れる髪がきれいだった。

……行こうか、どうしようか。
少し迷ってから、結局足が勝手に動いていた。

「なあ」
声をかけると、黒瀬は小さく顔を上げた。
その目は、午前中よりもずっと静かで、少しだけ柔らかい。

「……さっきの、ありがと」
「え?」
「リレー。あんたがいて、よかったから」

一瞬、言葉が詰まった。
黒瀬が自分から感謝を口にするなんて、ほとんど初めてだ。

「どういたしまして、かな」
「別に、褒めてるわけじゃない」
「そういう言い方、もう慣れたけどな」

黒瀬は小さくため息をついて、それでもほんの少しだけ口元を緩めた。
「……ほんと、変な人」
「お互い様だろ」

短いやりとりなのに、不思議と心が温かい。
風が二人の間を抜けていく。
そのとき、黒瀬の手の中で、キーホルダーの金具が光った。

彼女はそっとそれを握りしめた。
「……大事なもの、だから」
その声は小さく、ほとんど風に溶けた。

「知ってる。誰にも見せたくないやつなんだろ?」
そう言うと、黒瀬は驚いたように目を瞬かせた。
けれど、すぐに「……そういうことにしといて」とだけ返した。

 

放課後。
体育祭が終わる頃には空が橙色に染まっていた。
グラウンドを見下ろす坂道で、俺は後ろを振り返る。

遠くで、黒瀬が一人、テントをたたむ手伝いをしている。
その背中は、どこかいつもより軽く見えた。

「……頑張ってんな」
小さくつぶやくと、風がまた吹いた。
あのキーホルダーの金属音が、耳の奥で鳴った気がした。

きっと、まだ知らないことがたくさんある。
けど、その全部を少しずつ知っていきたい。
そんな気持ちが、胸の奥でゆっくり膨らんでいった。

 

そのころ、黒瀬は誰もいないグラウンドの隅で立ち止まり、
夕陽を見上げながら、静かに呟いた。

「……やっぱり、ありがとう」

誰にも聞こえない声。
けれどそれは、たしかに風の中に溶けていった。
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