34 / 35
3.霧、もしくは雨、もしくは…
11
しおりを挟む
漸く食べ終わる頃にはリビングは静寂で満ちていた。
「……ご馳走様です」
「おう、洗っておくからそこ置いとけ」
そこ、と指を指されたキッチンの方へ食器を持っていき水につける。薬のゴミを捨てリビングを背に窓の外を見ていると、背後から声をかけられた。
「帰りたいか?」
「はい、と言ったら家まで送り届けてくれるんですか」
そんな訳ないだろ、と笑われた。じゃあ聞くなよ。
何も言わずに黙ってそのままで居ると、何故か向こうも静かに外を見続けた。
その様子をちらりと盗み見ると、微笑んでいた。懐かしむように、そこにはただの景色だけでなく他に何かあって…それを慈しむように。
僕の知らない感情だ。
紫ヶ崎はそ、と目を逸らした。
僕は帰りたいと思う。ここは僕が居るべき場所では無いから。日常に戻るべきだから。それが普通だから。
須磨が食器を洗い始めてから終わるまでの間もずっと外を見ていた。
やがてそれも飽きてきて、無言で部屋に戻る。フローリングの上を素足で歩くペタペタという音が妙に響いた気がした。
・・・
「そろそろ俺帰るわ。彼奴はお節介で煩いが決して悪い奴じゃねえから、仲良くしてやってくれ」
部屋に戻りぼんやりとどこかを見たり、SNSを眺めていた所に扉の向こうからそう声をかけられたのは、夕方の5時頃だった。
そうして須磨が帰り、リビングから外を眺めていた時ちょうどミースが帰ってきていた。何やらとても上機嫌な様子で、笑顔で鼻歌なんか歌っている。周りに花や妖精がふわふわ舞っていても可笑しくないくらいだ。
こいつもこいつで煩いんだよな…
「待って、紫ヶ崎くん」
とっとと部屋に戻ろうと歩き出したものの、呼び止められてしまった。
「…なんですか」
男の方を向くことなく、視線は与えられた部屋のまま冷たく返す。
「今日、あったこと教えて欲しいな」
は…?今日あったこと?
一瞬何を言っているのか理解できなかった。
「うん、君の事知りたくて。ああ特に深い意味は無いんだけれど」
「……須磨さんと、少し話をしました。それからご飯を食べて部屋でぼーっとしていました。話の詳細はあの人にどうぞ」
あの人とは勿論須磨の事だ。僕は彼の「まだまだ長いなあ…」という独り言を無視して、今度こそ部屋に戻り扉を閉める。1ミリの隙間も空けまいと、しっかり。
1人になれたと思ったけど結局夕食だとかお風呂、歯磨きだとかで部屋から出ないといけないのが何とも……
はぁ、とここに来て何度目になるか分からない溜息がまた零れた。ピシャリと言い放った手前すぐに部屋から出る気にはなれず、昨日よりも少し遅めの時間にすべきだと言われていることを済ませて横になった。
「……ご馳走様です」
「おう、洗っておくからそこ置いとけ」
そこ、と指を指されたキッチンの方へ食器を持っていき水につける。薬のゴミを捨てリビングを背に窓の外を見ていると、背後から声をかけられた。
「帰りたいか?」
「はい、と言ったら家まで送り届けてくれるんですか」
そんな訳ないだろ、と笑われた。じゃあ聞くなよ。
何も言わずに黙ってそのままで居ると、何故か向こうも静かに外を見続けた。
その様子をちらりと盗み見ると、微笑んでいた。懐かしむように、そこにはただの景色だけでなく他に何かあって…それを慈しむように。
僕の知らない感情だ。
紫ヶ崎はそ、と目を逸らした。
僕は帰りたいと思う。ここは僕が居るべき場所では無いから。日常に戻るべきだから。それが普通だから。
須磨が食器を洗い始めてから終わるまでの間もずっと外を見ていた。
やがてそれも飽きてきて、無言で部屋に戻る。フローリングの上を素足で歩くペタペタという音が妙に響いた気がした。
・・・
「そろそろ俺帰るわ。彼奴はお節介で煩いが決して悪い奴じゃねえから、仲良くしてやってくれ」
部屋に戻りぼんやりとどこかを見たり、SNSを眺めていた所に扉の向こうからそう声をかけられたのは、夕方の5時頃だった。
そうして須磨が帰り、リビングから外を眺めていた時ちょうどミースが帰ってきていた。何やらとても上機嫌な様子で、笑顔で鼻歌なんか歌っている。周りに花や妖精がふわふわ舞っていても可笑しくないくらいだ。
こいつもこいつで煩いんだよな…
「待って、紫ヶ崎くん」
とっとと部屋に戻ろうと歩き出したものの、呼び止められてしまった。
「…なんですか」
男の方を向くことなく、視線は与えられた部屋のまま冷たく返す。
「今日、あったこと教えて欲しいな」
は…?今日あったこと?
一瞬何を言っているのか理解できなかった。
「うん、君の事知りたくて。ああ特に深い意味は無いんだけれど」
「……須磨さんと、少し話をしました。それからご飯を食べて部屋でぼーっとしていました。話の詳細はあの人にどうぞ」
あの人とは勿論須磨の事だ。僕は彼の「まだまだ長いなあ…」という独り言を無視して、今度こそ部屋に戻り扉を閉める。1ミリの隙間も空けまいと、しっかり。
1人になれたと思ったけど結局夕食だとかお風呂、歯磨きだとかで部屋から出ないといけないのが何とも……
はぁ、とここに来て何度目になるか分からない溜息がまた零れた。ピシャリと言い放った手前すぐに部屋から出る気にはなれず、昨日よりも少し遅めの時間にすべきだと言われていることを済ませて横になった。
131
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された
あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると…
「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」
気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
初めましてです。お手柔らかにお願いします。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しております
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる