20 / 20
20.一期一会【最終回】
しおりを挟むお世話になった宿屋にご挨拶をして、ロバさんに少しだけ増えた荷物をくくりつけて、ヤギさん夫婦とニワトリさんも厩舎から出して、旅支度は完璧だ。
プラタは私の肩が定位置なので、いつもと変わらない。
イアンとは、この町の北門で待ち合わせしてる。
泊まっていた宿屋は、東門寄りだったので、北門までは遠い。待ち合わせは夕方だけど早起きして向かう。
「思ってたより遠いね」
町から出る前に既に疲れた。
これ、北門付近の宿屋に泊まれば良かったやつだ。
「イアンは待っててくれるかな?」
「ニャー」
お、待っててくれそうのニャーだね。良かった。
ようやく北門付近までたどり着くと、門の外が騒がしい。
ガチャガチャとか、ブルルンとか、ザワザワとか凄い。
「今日は門開いてるんだね」
「ニャー」
「イアンどこかな?」
キョロキョロしながら門の側へと歩いていく。
「ジルヴァラ遅い」
「あ、イアン、遅れてごめんなさい…え?」
いつものイアンの声が私を呼んだので、謝りながら声のした方へ顔を向けると、キラーっと、金属の鎧が夕日に反射して目に刺さった。
「まぶし」
「え、何その動物」
なぜか馬に乗っていたイアンが、馬から降りながらうちの子たちを凝視する。
「キャラバン隊だよ?」
「え?」
「それより、イアンの今日の服は鎧なの?重くない?」
「重いし暑いよ。この動物も連れていくの?砂漠だよ?」
「連れてくよ。え、砂漠なのに暑い鎧着るの?我慢大会?誰得?」
「そーなんだよー、やっぱりおかしいよね。脱ぎたいんだけど、これ荷物になるからさー」
「あー、かさばりそうだもんね」
「みんなも我慢してこれ着てるから、僕だけ着ないっていうのも示しがつかないっていうかー」
「みんなで脱げばいいんじゃない?ていうかみんなって?」
「門の外にいるよ。それでね、ジルヴァラは僕の馬に乗って貰おうと思ってるんだ」
「この子たちと離れたくないし、鎧の人と二人乗りなんて痛そうだしイヤだよ。お馬さん大人しいね」
「えー、乗りなよ。僕の馬カッコいいよ?」
イアンはお馬さんをなでなでして可愛がりながら言う。
たしかに可愛い。まつげもバサバサだ。
イアンのお馬さんと目でご挨拶していたら、イアンとお揃いの暑そうな鎧を着た大柄な人が近づいてきた。
どうやら門の外にいたらしい。この人が仲間なのかな?
「殿下!そろそろ出発しませんと」
「ああ、今行く」
「でんか…」
王国では殿下って呼ばれる人は王族だったよ。
「あ、僕、オズワルド帝国の第三王子なんだ。言ってなかった?」
「絶対聞いてない」
王子って呼ばれてる人で、クズじゃない人に会ったことないんだけど。
「一応、今回の派兵の総指揮官として来たんだよ」
「そうしきかん」
「ほら、戦後処理とか褒めてくれたでしょ?」
たしかに褒めたけど。
「なんか信じてたのに騙された気分」
「騙してないよ!言わなかっただけだよ!外国で会ったばかりの人に、僕王子なんだって言いたくないんだよ」
たしかに。私も元聖女なんだって言いたくないし、これからも言うつもりもない。む、おあいこか。むしろ私の方が秘密多いかも。
「わかった。赦す」
「良かった。じゃあ馬に乗って?」
「え、なんで?さっき乗らないって言ったよ」
「えー!この子可愛いくない?」
「可愛いけど」
「じゃあ乗りなよ」
「乗らないよ。暑いと金属熱くなるし、歩くとゴツゴツぶつかって痛くなると思うし」
「えー!」
「殿下!いい加減にして下さい。馬に乗せたい気持ちはわかりますが、そのお嬢さんは本気で嫌がってますよ。あと、時間もないので、話なら移動しながらにして貰えませんか」
イアンと私の押し問答を、ずっと眉間にシワを寄せたまま聞いていた仲間の人が我慢ならぬって感じで割り込んできた。
申し訳ない。でも悪いのはイアンですよ。
「あ、すまない。今行くから。ほらジルヴァラ、怒られたじゃないか」
「や、私のせいじゃないよね?」
「うん、まあ行こうよ、ほら乗って?」
しつこく馬に乗せようとするイアン。
人の都合をあまり考えないのは王族だからなの?やっぱりクズ?
まあでもプラタが仲良くしなさいねって言ってるし、王子だけどクズではないんだよね、きっと。
「私はこの子たちとゆっくり行く。イアンは先に行ってて」
「うーん、じゃあ人付けるからその人と一緒に行動してくれる?」
「気を使わなくていいよ。行列で行くんでしょ?後ろの方でついて行くから」
気にしてくれるのはありがたいけれど、殿下と呼ばれる人に気にされる生活とか、面倒くさい。
今だって、お揃いの鎧の人たちが遠巻きに見てるもの。
今のところ悪意は感じられないけれど、見せ物になるのは遠慮したい。
イアン、王子なんかじゃなければよかったのに。ただのイアンでいいのに。
「じゃあ夜に合流しようね!一緒にごはん食べよう!」
イアン殿下は、門の外のみんなの所に行ってしまった。
なんとなくついて行って門の外を見ると、想像していた以上に鎧を着た人がたくさんいて、きれいに整列している。
イアンがみんなの方を向いて、帰るぞーみたいなことを言ったら、みんながおーって叫んでびっくりした。
みんな元気だね。暑いのとか大丈夫そう。
みんなが動き出すのをぼんやり見る。
まず馬に乗ってる人たちが進み出して、その後ろに積荷を乗せた馬車が何台も続く。
馬も馬車も、思っていたよりゆっくりだ。このスピードならついていけるかも。
大勢の旅って凄い。これなら魔獣来ても安心なのかな。
結界張ってもいいけど、考えてみたら、自分の能力の話は誰にもしたことがないからきっと頼まれない。
コッソリかけてあげようかな。襲われるのも面倒だし。
「ジルヴァラ!元気そうで何よりだ」
こんな場所で私の名前を呼ぶ人がいるとは?
「うわぁ!門番の兵士さん!その節はどうもありがとうございました」
振り向くと、この国に最初に入れてくれた親切な門番の兵士さんだった。
フツメンさんなんだけど、親切さが滲み出ていて尊い。
「ラルフ・タルボットだ。ん?少し大きくなったか?」
門番の兵士さん改めラルフさんは、ニコニコしながら頭を撫でてくれた。
「ほんと?やっぱり?」
なんとなくそんな気はしてた。
関節とか成長痛みたいな痛みがあるし、お胸も少しふっくらしてきたんだよ。
「お、あの時の家畜もいるな。よし、こっちに来て荷馬車に乗れ」
ラルフさんは、頭を撫でていた手を下ろしてそのまま私の手を握り、まだ出発していない荷馬車の方へと歩き始めた。
「え?ラルフさん?」
「砂漠って言っても、岩場を選んで進むから速度はそれなりなんだ。うちは歩兵も移動の時は荷馬車に乗る。ジルヴァラが歩いてたら、俺たちと離れてしまうからな。ほら、乗れ」
ラルフさんは、地味めな顔をしているのに結構強引だった。でもなんていうか優しい強引だった。
家畜達は、大人しくラルフさんに持ち上げられて荷馬車に乗せられている。
プラタが目を光らせているからだろう。
荷馬車には、何かが詰まった袋がいくつか載せられているだけで、狭いということはなかった。
家畜たちは、それぞれ自分で少しでも居心地の良さげな場所をキープして座っている。
ロバさんは知らない兵隊さんの隣に座って撫でて貰っている。コミュ力高いな。
私は、何かが詰まった袋を椅子がわりにして座ることにした。なんだろこれ、小麦粉かなんかかな?
荷馬車には幌が付いていたので日陰になるのがありがたい。
「帝国へは一週間ほどで着く予定だ。ちょっと揺れるが我慢しろ」
「うん」
「揺らされてると腹が減るから、これ食っとけ」
隣に座ったラルフさんが、パンに腸詰肉を挟んだものをくれた。
「あ、この子たちの食べ物持ってくるの忘れた!」
困ったな。砂漠にこの子たちの食べ物なんてあるんだろうか。
「ん、馬用の飼い葉ならあるし、それが嫌なら、途中にオアシスもあるから大丈夫だろ」
「そか、良かった」
「夜は魔獣が出やすいから、普通は休むが、帝国軍はそれなりに強いから、涼しい夜に出来るだけ進むんだ。お前は寝てるといい」
ラルフさんの声は優しいなあ。
気がつくと、周りにいる兵士さんの目も柔らかい感じがする。
「ふふふ、なんか居心地良いね」
「ニャー」
プラタが、そうだねのニャーを言いながら、スリスリしてくれた。
いつもいつも寄り添ってくれて、体温を分けてくれる。
この温かさがあれば大丈夫。
「きっとこれから楽しいよ」
「ニャー」
砂漠にゆっくりと太陽が沈んでいく。
これから来る夜も、きっと怖くないだろう。
「あ、念のため結界張っておかないと」
王子のイアンが率いる軍隊だ。
お友達として少しくらいは何かしてあげないとね。
その瞬間、敵意を持つ何者からも護られるようになったことは、プラタ以外誰も気付くことはなかった。
おわり
***
この後、ジルヴァラは、念願のオズワルド帝国魔法学院に入学して悪役令嬢と呼ばれるほんとはすごく優しい公爵令嬢の婚約破棄ざまぁのお手伝いしたり、クラスメイトの男子に想いを寄せられたり、そこにイアンが割り込んだり、ずっと西にある島に魔大陸時代の遺跡を発見したりして、楽しい仲間に囲まれて冒険ありロマンスありのハッピーな時間を過ごすことになるんだけど、それはまた別の話。
最後までお読みくださりありがとうございました。
またいつかどこかで(*´∀`*)
428
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(118件)
あなたにおすすめの小説
醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした
きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。
顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。
しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——
婚約破棄された公爵令嬢は真の聖女でした ~偽りの妹を追放し、冷徹騎士団長に永遠を誓う~
鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アプリリア・フォン・ロズウェルは、王太子ルキノ・エドワードとの幸せな婚約生活を夢見ていた。
しかし、王宮のパーティーで突然、ルキノから公衆の面前で婚約破棄を宣告される。
理由は「性格が悪い」「王妃にふさわしくない」という、にわかには信じがたいもの。
さらに、新しい婚約者候補として名指しされたのは、アプリリアの異母妹エテルナだった。
絶望の淵に突き落とされたアプリリア。
破棄の儀式の最中、突如として前世の記憶が蘇り、
彼女の中に眠っていた「真の聖女の力」――強力な治癒魔法と予知能力が覚醒する。
王宮を追われ、辺境の荒れた領地へ左遷されたアプリリアは、
そこで自立を誓い、聖女の力で領民を癒し、土地を豊かにしていく。
そんな彼女の前に現れたのは、王国最強の冷徹騎士団長ガイア・ヴァルハルト。
魔物の脅威から領地を守る彼との出会いが、アプリリアの運命を大きく変えていく。
一方、王宮ではエテルナの「偽りの聖女の力」が露呈し始め、
ルキノの無能さが明るみに出る。
エテルナの陰謀――偽手紙、刺客、魔物の誘導――が次々と暴かれ、
王国は混乱の渦に巻き込まれる。
アプリリアはガイアの愛を得て、強くなっていく。
やがて王宮に招かれた彼女は、聖女の力で王国を救い、
エテルナを永久追放、ルキノを王位剥奪へと導く。
偽りの妹は孤独な追放生活へ、
元婚約者は権力を失い後悔の日々へ、
取り巻きの貴族令嬢は家を没落させ貧困に陥る。
そしてアプリリアは、愛するガイアと結婚。
辺境の領地は王国一の繁栄地となり、
二人は子に恵まれ、永遠の幸せを手にしていく――。
「僕より強い奴は気に入らない」と殿下に言われて力を抑えていたら婚約破棄されました。そろそろ本気出してもよろしいですよね?
今川幸乃
恋愛
ライツ王国の聖女イレーネは「もっといい聖女を見つけた」と言われ、王太子のボルグに聖女を解任されて婚約も破棄されてしまう。
しかしイレーネの力が弱かったのは依然王子が「僕より強い奴は気に入らない」と言ったせいで力を抑えていたせいであった。
その後賊に襲われたイレーネは辺境伯の嫡子オーウェンに助けられ、辺境伯の館に迎えられて伯爵一族並みの厚遇を受ける。
一方ボルグは当初は新しく迎えた聖女レイシャとしばらくは楽しく過ごすが、イレーネの加護を失った王国には綻びが出始め、隣国オーランド帝国の影が忍び寄るのであった。
妹のために犠牲になることを姉だから仕方ないで片付けないでください。
木山楽斗
恋愛
妹のリオーラは、幼い頃は病弱であった。両親はそんな妹を心配して、いつも甘やかしていた。
それはリオーラが健康体になってからも、続いていた。お医者様の言葉も聞かず、リオーラは病弱であると思い込んでいるのだ。
リオーラは、姉である私のことを侮っていた。
彼女は両親にわがままを言い、犠牲になるのはいつも私だった。妹はいつしか、私を苦しめることに重きを置くようになっていたのだ。
ある時私は、妹のわがままによって舞踏会に無理な日程で参加することになった。
そこで私は、クロード殿下と出会う。彼との出会いは、私の現状を変えていくことになるのだった。
あなたに婚約破棄されてから、幸運なことばかりです。本当に不思議ですね。
香木陽灯
恋愛
「今まではお前が一番美人だと思っていたけれど、もっと美人な女がいたんだ。だからお前はもういらない。婚約は破棄しておくから」
ヘンリー様にそう言われたのが、つい昨日のことのように思い出されます。別に思い出したくもないのですが、彼が我が家に押しかけてきたせいで思い出してしまいました。
婚約破棄されたのは半年も前ですのに、我が家に一体何の用があるのでしょうか。
「なんでお前なんかが……この数ヶ月の出来事は全て偶然なのか?どうしてお前ばかり良い目にあうんだ!」
「本当に不思議ですねー。あなたに婚約を破棄されてから、良いことばかり起きるんですの。ご存じの通り、我が領地は急激な発展を遂げ、私にも素敵な婚約話が来たのです。とてもありがたいですわ」
子爵令嬢のローラ・フィンレーは、第三王子のヘンリーに婚約を破棄されて以来、幸運なことばかり起きていた。
そして彼女が幸運になればなるほど、ヘンリーは追い詰められていくのだった。
婚約破棄が私を笑顔にした
夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」
学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。
そこに聖女であるアメリアがやってくる。
フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。
彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。
短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。
〖完結〗役立たずの聖女なので、あなた達を救うつもりはありません。
藍川みいな
恋愛
ある日私は、銀貨一枚でスコフィールド伯爵に買われた。母は私を、喜んで売り飛ばした。
伯爵は私を養子にし、仕えている公爵のご子息の治療をするように命じた。私には不思議な力があり、それは聖女の力だった。
セイバン公爵家のご子息であるオルガ様は、魔物に負わされた傷がもとでずっと寝たきり。
そんなオルガ様の傷の治療をしたことで、セイバン公爵に息子と結婚して欲しいと言われ、私は婚約者となったのだが……オルガ様は、他の令嬢に心を奪われ、婚約破棄をされてしまった。彼の傷は、完治していないのに……
婚約破棄をされた私は、役立たずだと言われ、スコフィールド伯爵に邸を追い出される。
そんな私を、必要だと言ってくれる方に出会い、聖女の力がどんどん強くなって行く。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
義妹が聖女を引き継ぎましたが無理だと思います
成行任世
恋愛
稀少な聖属性を持つ義妹が聖女の役も婚約者も引き継ぐ(奪う)というので聖女の祈りを義妹に託したら王都が壊滅の危機だそうですが、私はもう聖女ではないので知りません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
続編希望に1票、いや100票!
非常に続編が見たいのですが
楽しく拝見させていただきました。また別の話はいつですか?お待ちしております。