リスタート 〜嫌いな隣人に構われています〜

黒崎サトウ

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タイミングってやつ(13)

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 そして、九月十日。今日はなんとか無事に迎えることができた、英司の誕生日だ。

「柳瀬さん、おはようございます!」

 千秋は気合が入っていた。

「ちょっと待って、今行く」

 英司の家の玄関に入れられると、そこで彼を待つ。

 なんてたって、今日は初めてちゃんとした外出デートなるものをするからだ。

 最初はサプライズしなきゃと構えていたが、英司の誕生日を祝おうとしていることは、予定を聞いた時すでにバレていたらしい。

 でも、デートは全て千秋が計画したものだ。といっても、どこか一風変わってるわけでもなく、普通のデートと相違ない定番なものなのだが、英司と、が付くだけでそれは特別なものになる。

 英司にはこだわりや趣味がないため、挑戦するより、無難なところで楽しんだ方がいいだろうというのが千秋の精一杯であった。

「お待たせ、じゃあ行くか」

 準備を終えた英司が玄関に来て、靴を履こうとする。

「あ、その前に……」

「ん?」

 千秋はカバンから一つの紙袋を取り出した。

「誕生日、おめでとうございます」

 少し頬を赤くして千秋は言うと、ずいっと紙袋を渡した。

「まじか……今開けてもいい?」

 千秋からのプレゼントに感激しているようだった。照れくさいので、どうぞお好きに、と返す。

「これ……」

「何が好きかわからなかったので、色々見てみたんですけど……」

 アクセサリー類は普段しないし……と悩んだ末行きついたのが、今英司が手に持っているマグカップだった。結局、定番尽くしになってしまったのだ。

「お、二つあるな」

「どうせなら使えるものがいいと思って、柳瀬さんちに一つと、俺の家に一つでどうかなって……」

 本来はペアで二人用だけど……と思いながら、しどろもどろになりながら説明する。頻繁に来るのだから、うちにも英司用のコップがあってもいいと思ったのだ。

「それ、俺専用ってこと?」

「う……」

 そう言われると恥ずかしさが増した。こういうの重いかな?と思えてきた。

 でもだってその方がわかりやすいし、あくまで機能性、効率重視なんで!と言い訳したくなる。そりゃ、当然、それだけじゃないけど……。

 ちゃんと答えなかった千秋だが、しっかり肯定と受け取った英司は、

「ありがとうな、千秋。すげえ嬉しい」

 と久しぶりに屈託のない笑顔を見せた。

「あ……いえ」

 千秋は不意のそんな英司に見とれる。おかげで、返事が腑抜けになってしまった。

「じゃあ、これ一旦部屋に置いとくな?」

 一度丁寧にマグカップをしまうと、ニコニコと上機嫌に部屋に置きに行った。

 ハッと我に帰って、ぶんぶんと頭を振る。

 ……とりあえず、喜んでもらえたのか?

 ほっとすると同時に、千秋は嬉しそうな英司につられて、一人笑みを漏らした。



 それから少しおしゃれなカフェで昼ごはんを食べて、映画を見て、色々を店を見て……とそんな具合にデートは進んでいった。

 英司はどこに行っても上機嫌そうだったので、本当によかったのかはわからないが、まあよしとしよう。

 そして、現在はすでに午後六時。おしゃれなレストランではなく、千秋たちは家に戻ってきていた。

 そう。千秋は英司のためにいつもより豪華な食事を振る舞うつもりなのだ。自分の得意分野で攻める、というのはまさにこれのことだった。

 夜は家でもいいか、という千秋の質問に二つ返事で頷いた英司を、家につくなり奥の部屋に押し込むと、抗議の声が上がってくる。

「おい、なんだよ。千秋が俺のためにつくってるところ見たいのに」

「や、やですよっ。とりあえず、ちょっと待っててください」

 しぶる英司を抑えて、キッチンに向かう。

 さて、下準備はすでに終えている。あとは無駄なく調理するだけだ。




「すげえ……」

 テーブルに並んだ料理の品々を見て、英司はそう漏らした。

 今まで英司にご飯をつくってきて、好物だと思われるものをたくさん入れたのだ。

「これ全部、俺のために?」

 どっかのドラマのようなセリフに、少し笑いそうになる。

「今日で食べきれないかもしれないですけど」

「いや、全部食べる」

 飲み物も用意すると、乾杯した。英司はあまり酒を飲まないし、千秋は年齢的に飲めないので、ちょっといいジュースだ。

「改めて、誕生日おめでとうございます」

「ありがとうな。千秋のおかげで最高の誕生日だ」

 そんな大袈裟な、と思ったが、英司は案外本気で思ってくれているようだった。

 美味しい美味しいと言ってたくさん食べてくれる姿に、千秋の食べる手も進んだ。

 そして、談笑しながらも、あんなに多かった料理を本当に平らげてしまった。

 普段ほっといたら何も食べないというのに、胃袋どうなってるんだ。でも、つくる側としては、やはりすごく嬉しいことだった。

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