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第九章 2日前
82 誰(た)がために
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フェイロンは走った。
一目散に、走った。
これから繁華街で夜を愉しもうとするお気楽なヤツらを掻き分け、可愛い女の子や旨そうな料理屋やアイスクリームの店にも目もくれず、ジャマな荷車を蹴散らすようにしながら、ただひたすら、駆けた。
チナのアルムにいたころはよく走ったものだ。
商店の店先に並んだ餅や果物を、目にもとまらぬ速さでかっさらう!
「ど、ドロボーッ! 」
その後は、ただひたすらに、走った。
捕まると牢屋にぶち込まれ、ヒドイ時には棒で叩かれる。
幸いにも、フェイロンはそうした経験をせずに済んだが。
あらかじめ決めておいたせまい路地に全速力で逃げ込み、そこで待っていたコンイェンやユーシェンに得物を投げる。そして仲間はそそくさと人ごみに紛れて消える。
そこでやっと、息が吐ける。
たとえ捕まっても、商品を持っていなければ突き出されることはなかった。
そうやって、フェイロンは生き延びてきた。
走るのは、生きるためだった。
だが今、フェイロンが走るのは、獲物のためではなかった。
では何のために?
ひょっとして、Verantwortungsgefüh ?
覚えたての帝国語。フェラントヴォルトゥングスゲフュー 責任感?
いや、違うな。
もしかして、Patriotismus?
パトリオテスモス 愛国心?
ふと気づいたら、繁華街とフォルム街とを隔てるハオプトシュラッセ、大通りに出ていた。
ふと、美しい宝石のような、眩(まばゆ)い音の連なりが聴こえてきた。思わず立ち止まった。
あれは、なんだ?
あれが、ピアノとかいうヤツか?
なんて美しい音色なんだろう・・・。
次の瞬間。
ヒヒーンッ!
甲高い馬の嘶き。
フェイロンの身体は、荷馬車の馬格の大きな馬に蹴られ、宙を飛んだ。
「あっ! ちくしょう! やっちまった! 」
荷馬車の馭者らしき男の悪態が聞こえたが、フェイロンの意識は、そこで、途切れた。
ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27-2 『幻想曲風ソナタ』Sonata quasi una Fantasia 。
別名『ムーントリヒト』、『月の光』
フォルム街に響き渡っていた第一楽章の、緩やかな、それでいて厳かな冷たさを秘めた曲が途切れた。
「ねえ、ルッカ。何か聴こえた? 」
「いいや。お前のピアノしか聴こえちゃいなかったぜ」
グランドピアノに手を置き、タオの演奏に聴き惚れていた、ヘルメットに二式アサルトライフル装備の、憲兵隊の気のいい兵長が応えた。
「そう・・・」
「しっかし、ピアノってな、いいもんだなあ。
小学校でも幼年学校でも、オレぁこんななあ聴いたことがなかったぜ・・・。
さ、もう晩飯時だぜ。
マーサさんのところへでも行って、あったかいスープとHähnchen anbraten鶏のソテーでも食って来い。お前が戻るまで、お前の大事なピアノはオレが見張っててやる! 」
「うん、そうするよ」
タオはぱたん、とフタを閉じた。
「じゃ、すぐ戻るね。頼むね、ルッカ! 」
「気にしねえで、ゆっくりしてこい! 」
「うん、ありがとう! 」
言うが早いか、まだ小学生のピアニストは、官庁街の方に向かって駆け出して行った。彼の美しい音楽のために気を取られた少年が荷馬車に轢かれたことなどは、もちろんタオにも知る由はない。
テルマエ、公衆浴場で着替え、馬を御しながら、フェルディナントの頭脳はフル回転した。
フル回転せざるを得なかった。
当局に知られた!
というよりも、すでにかなりな以前から察知されていたのだ!
だから、スパイを送り込んできた。しかも、空挺部隊挙げて、だ。
規模も、目標も、蹶起日も全て知られた!
グールド大佐は大丈夫か? 信用できるか?
でも彼はバウマン大尉マターだから・・・。
とにかく、何よりも、一刻も早くこのことを知らせねば!
だがどうやって連絡する?
第一や第二十三の仲間たちや、大佐や教授、バウマン大尉にどうやって、なんと伝える?
伝書バトじゃ無理だ! 時間が、無さ過ぎる!
そして、我が部下たちには、なんと言う?!
そして、それよりもなによりも!
このまま行くか?
それとも、引き返すか? だ!
そもそも、俺たちはなんのために蹶起(た)つか、だ。
愛国心? それとも、意地か?
くそ! 処理せねばならない情報量が多すぎる!
薄暮の街を、馬を走らせつつ、考えた。
考え終えた時、フェルディナントはもう、第二十三連隊の営門前に着いていた。
ふたりの歩哨に捧げ銃で出迎えられた彼は、
「ごくろう! 」
落ち着いた声音で答礼し、駐屯地に入った。
連隊司令部に帰営を報告。大隊長不在だったのでそのまま週番司令室へ。
念のために銃を携え、帝都内に自宅のある高級士官たちが帰宅するのを、黒く冷たい銃身の滑らかな感触を愛でながら待った。もし、憲兵隊が踏み込んでくるなら、ズドン、と。自らを葬るつもりで。
やがて、就寝前の自由時間を知らせるラッパが聴こえた。
受話器を取った。
電話線の向こうの交換手が出た。
「交換です」
「第一連隊を頼む」
もう、盗聴されようが構わなかった。
もはや、実行あるのみ、だった。
アサシン・ヤヨイシリーズ ひとくちメモ
89 日本軍の将軍・提督たちについて(その12)
石原莞爾中将(その4)
1905年。日露戦争で辛うじて勝った後締結された『ポーツマス条約』により、日本はロシアが敷設した旅順―長春間の「東清鉄道南満州支線」の経営権を得ました。
そのころの満州はどんな土地だったのでしょうか。
もちろん、無人の荒野ではなく、人は住んでいました。
後に満州国が成立した折、『五族協和』というスローガンが提唱されました。
この時の『五族』とは、日本人を含め次の4の民族のことを言います。すなわち、
朝鮮人
漢人
満州人
モンゴル(蒙古)人
このうち人口比で最も大きかったのが漢族で、その次に多かった満州人は、12~13世紀に勃興した「金」の女真族を祖先とした民族。後に清を起こすことになる民族であり、あの『ラスト・エンペラー』である清朝第12代にして最後の皇帝、愛新覚羅 溥儀(あいしんかくら ふぎ、アイシンギョロ・プーイー)の民族ですね。
また、「五族」以外にもごく少数ながら回教徒(イスラム教徒)までいました。要するに、多人種、多言語、かつ多宗教。人種と文化のるつぼのようなところでした。
1689年、ロシアのピョートル1世と清朝の康熙帝との間で交わされたネルチンスク条約が締結されるまでは、度々領有をめぐって紛争が起きた土地であり、
「1858年5月28日のアイグン条約、1860年11月14日の北京条約の2つの不平等条約によって、満洲地域の黒竜江以北及びウスリー川以東のいわゆる外満洲地域はロシアに割譲されることとなった。」ウィキペディア
1900年に「義和団の乱」が起こると、ロシアはまるで「火事場泥棒」のように満洲を軍事占領しました。
太い赤線がネルチンスク条約(1689年)での国境線。
黄土色部分はアイグン条約での、朱色部分は北京条約でのロシア獲得地。
戦後、北京議定書(1901年9月7日に清国とイギリス、フランス、アメリカ、ロシア、日本など11カ国との間で結ばれた、義和団事件(北清事変)の講和条約)が結ばれ、日本は北京と天津に清国駐屯軍(後に支那駐屯軍)を置く権利を得ました。
これはロシアを除く西欧諸列強から歓迎されたんですね。
映画『北京の55日』で描かれた義和団の乱で、北京に利権を持ち居留地を持っていた諸列強は、この、「本国からはるかに遠い植民地」の防衛要員として日本を利用したかったわけです。現に義和団の乱の鎮圧にあたっては、日本は諸列強に比べケタ違いに大きな2000という兵力を派兵しましたからね。
ところが、ロシアは乱後も満洲駐留を継続したので、他の列強や清国から大きな批判を受け、仕方なく清国との間で満洲還付条約(1902年)を結び、満州から完全に撤兵。満州を巡る問題は全部解決したかに見えました。
ですが、しつこいロシアはなおも満州に居残り、朝鮮まで食指を伸ばそうとしてきたので日本と衝突、日露戦争が起きました。
その結果、満州における権益を失ったロシアは今度こそ撤退、続くロシア革命によって満州どころではなくなり、今度こそ手を引くことになります。
ポーツマス条約の骨子は、以下の通り
① 日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
② 日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満洲から撤退する。
③ ロシアは樺太の北緯50度以南の領土を永久に日本へ譲渡する。
④ ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
⑤ ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
⑥ ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
日本は1905年10月10日に、ロシアは10月14日に条約を批准し、発効しました。
問題の満州に関する部分は④と⑤になりますが、これはそれまでの間にロシアが清国から得ていたものです。なので条約文の中にも「清朝の同意を得る」のが条件となっていました。
なので、同年に、
「1905年12月、『満洲善後条約』が北京において結ばれ、ポーツマス条約によってロシアから日本に譲渡された満洲利権の移動を清国が了承し、加えて新たな利権が日本に対し付与された。
すなわち、南満洲鉄道の吉林までの延伸および同鉄道守備のための日本軍常駐権ないし沿線鉱山の採掘権の保障、また、同鉄道に併行する鉄道建設の禁止、安奉鉄道の使用権継続と日清両国の共同事業化、営口・安東および奉天における日本人居留地の設置、さらに、鴨緑江右岸の森林伐採合弁権獲得など」ウィキペディア
が同意されたのです。
この、日英仏米露他全11か国の間で調印された「北京議定書」で日本は北京と天津に清国駐屯軍(支那駐屯軍)が認められたこと、
そして、清朝との間で結ばれた「満洲善後条約」の中で、「鉄道守備のための日本軍常駐権」が認められたこと、の2点には注目すべきですね。
ここまでのところで「日本が支那を侵略した」という人はいるんでしょうかね。やっぱいるかもしれませんね。
でも、事実のみを並べると、こうなるんです。
19世紀から20世紀初頭の世界の強国たちの弱肉強食の世界に、21世紀のヒューマニズムを持ち込むのはハゲしく愚かだと思いますがね。日清も日露も、日本の存亡をかけた戦いであり、そこには背に腹代えられない大義がありました。やらなければやられる!それに、なんとかして満州朝鮮そして日本を植民地にしたい西欧列強の思惑がからんでいたのです。
満州は、その西欧列強のパワーバランスと日本の存亡とがせめぎ合う、文字通りの焦点だったわけです。
Notable Manchu people, primarily using on Japanese Wikipedia because some people do not have articles in all languages
UnknownUnknownUnknownUnknownGiuseppe CastiglioneUnknownUnknownUnknownUnknownUnknownUnknownUnknownUnknownUnknownScreenshot by Gram123 (en:User:Gram123)Chancellery of the President of the Republic of PolandComposed by:Šolon - File:清 佚名 《清太祖天命皇帝朝服像》.jpgFile:清 佚名 《清太宗崇德皇帝朝服像》.jpgFile:40_years_old_Kangxi.jpg[1]File:清 郎世宁绘《清高宗乾隆帝朝服像》.jpgFile:The_Ci-Xi_Imperial_Dowager_Empress_(5).JPGFile:Postcard of Emperor Guangxu.jpgFile:Aisin-Gioro Puyi 01.jpgFile:Dorgon,_the_Prince_Rui_(17th_century).jpgFile:Oboi.jpgFile:Heshen 2.jpgFile:Aisin-Gioro Pǔjié and Lady Hiro Saga.jpgFile:Laoshe.jpgFile:Gen Yoshiko Kawashima.jpg[2]File:Chopin Year in Poland - Lang Lang 01.jpg, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18601474による
Manchuria-U.S.S.R. boundary
CIA - Library of Congress Geography and Map Division Washington, D.C. 20540-4650 USADIGITAL ID g7822m ct002999 http://hdl.loc.gov/loc.gmd/g7822m.ct002999, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=31290239による
一目散に、走った。
これから繁華街で夜を愉しもうとするお気楽なヤツらを掻き分け、可愛い女の子や旨そうな料理屋やアイスクリームの店にも目もくれず、ジャマな荷車を蹴散らすようにしながら、ただひたすら、駆けた。
チナのアルムにいたころはよく走ったものだ。
商店の店先に並んだ餅や果物を、目にもとまらぬ速さでかっさらう!
「ど、ドロボーッ! 」
その後は、ただひたすらに、走った。
捕まると牢屋にぶち込まれ、ヒドイ時には棒で叩かれる。
幸いにも、フェイロンはそうした経験をせずに済んだが。
あらかじめ決めておいたせまい路地に全速力で逃げ込み、そこで待っていたコンイェンやユーシェンに得物を投げる。そして仲間はそそくさと人ごみに紛れて消える。
そこでやっと、息が吐ける。
たとえ捕まっても、商品を持っていなければ突き出されることはなかった。
そうやって、フェイロンは生き延びてきた。
走るのは、生きるためだった。
だが今、フェイロンが走るのは、獲物のためではなかった。
では何のために?
ひょっとして、Verantwortungsgefüh ?
覚えたての帝国語。フェラントヴォルトゥングスゲフュー 責任感?
いや、違うな。
もしかして、Patriotismus?
パトリオテスモス 愛国心?
ふと気づいたら、繁華街とフォルム街とを隔てるハオプトシュラッセ、大通りに出ていた。
ふと、美しい宝石のような、眩(まばゆ)い音の連なりが聴こえてきた。思わず立ち止まった。
あれは、なんだ?
あれが、ピアノとかいうヤツか?
なんて美しい音色なんだろう・・・。
次の瞬間。
ヒヒーンッ!
甲高い馬の嘶き。
フェイロンの身体は、荷馬車の馬格の大きな馬に蹴られ、宙を飛んだ。
「あっ! ちくしょう! やっちまった! 」
荷馬車の馭者らしき男の悪態が聞こえたが、フェイロンの意識は、そこで、途切れた。
ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27-2 『幻想曲風ソナタ』Sonata quasi una Fantasia 。
別名『ムーントリヒト』、『月の光』
フォルム街に響き渡っていた第一楽章の、緩やかな、それでいて厳かな冷たさを秘めた曲が途切れた。
「ねえ、ルッカ。何か聴こえた? 」
「いいや。お前のピアノしか聴こえちゃいなかったぜ」
グランドピアノに手を置き、タオの演奏に聴き惚れていた、ヘルメットに二式アサルトライフル装備の、憲兵隊の気のいい兵長が応えた。
「そう・・・」
「しっかし、ピアノってな、いいもんだなあ。
小学校でも幼年学校でも、オレぁこんななあ聴いたことがなかったぜ・・・。
さ、もう晩飯時だぜ。
マーサさんのところへでも行って、あったかいスープとHähnchen anbraten鶏のソテーでも食って来い。お前が戻るまで、お前の大事なピアノはオレが見張っててやる! 」
「うん、そうするよ」
タオはぱたん、とフタを閉じた。
「じゃ、すぐ戻るね。頼むね、ルッカ! 」
「気にしねえで、ゆっくりしてこい! 」
「うん、ありがとう! 」
言うが早いか、まだ小学生のピアニストは、官庁街の方に向かって駆け出して行った。彼の美しい音楽のために気を取られた少年が荷馬車に轢かれたことなどは、もちろんタオにも知る由はない。
テルマエ、公衆浴場で着替え、馬を御しながら、フェルディナントの頭脳はフル回転した。
フル回転せざるを得なかった。
当局に知られた!
というよりも、すでにかなりな以前から察知されていたのだ!
だから、スパイを送り込んできた。しかも、空挺部隊挙げて、だ。
規模も、目標も、蹶起日も全て知られた!
グールド大佐は大丈夫か? 信用できるか?
でも彼はバウマン大尉マターだから・・・。
とにかく、何よりも、一刻も早くこのことを知らせねば!
だがどうやって連絡する?
第一や第二十三の仲間たちや、大佐や教授、バウマン大尉にどうやって、なんと伝える?
伝書バトじゃ無理だ! 時間が、無さ過ぎる!
そして、我が部下たちには、なんと言う?!
そして、それよりもなによりも!
このまま行くか?
それとも、引き返すか? だ!
そもそも、俺たちはなんのために蹶起(た)つか、だ。
愛国心? それとも、意地か?
くそ! 処理せねばならない情報量が多すぎる!
薄暮の街を、馬を走らせつつ、考えた。
考え終えた時、フェルディナントはもう、第二十三連隊の営門前に着いていた。
ふたりの歩哨に捧げ銃で出迎えられた彼は、
「ごくろう! 」
落ち着いた声音で答礼し、駐屯地に入った。
連隊司令部に帰営を報告。大隊長不在だったのでそのまま週番司令室へ。
念のために銃を携え、帝都内に自宅のある高級士官たちが帰宅するのを、黒く冷たい銃身の滑らかな感触を愛でながら待った。もし、憲兵隊が踏み込んでくるなら、ズドン、と。自らを葬るつもりで。
やがて、就寝前の自由時間を知らせるラッパが聴こえた。
受話器を取った。
電話線の向こうの交換手が出た。
「交換です」
「第一連隊を頼む」
もう、盗聴されようが構わなかった。
もはや、実行あるのみ、だった。
アサシン・ヤヨイシリーズ ひとくちメモ
89 日本軍の将軍・提督たちについて(その12)
石原莞爾中将(その4)
1905年。日露戦争で辛うじて勝った後締結された『ポーツマス条約』により、日本はロシアが敷設した旅順―長春間の「東清鉄道南満州支線」の経営権を得ました。
そのころの満州はどんな土地だったのでしょうか。
もちろん、無人の荒野ではなく、人は住んでいました。
後に満州国が成立した折、『五族協和』というスローガンが提唱されました。
この時の『五族』とは、日本人を含め次の4の民族のことを言います。すなわち、
朝鮮人
漢人
満州人
モンゴル(蒙古)人
このうち人口比で最も大きかったのが漢族で、その次に多かった満州人は、12~13世紀に勃興した「金」の女真族を祖先とした民族。後に清を起こすことになる民族であり、あの『ラスト・エンペラー』である清朝第12代にして最後の皇帝、愛新覚羅 溥儀(あいしんかくら ふぎ、アイシンギョロ・プーイー)の民族ですね。
また、「五族」以外にもごく少数ながら回教徒(イスラム教徒)までいました。要するに、多人種、多言語、かつ多宗教。人種と文化のるつぼのようなところでした。
1689年、ロシアのピョートル1世と清朝の康熙帝との間で交わされたネルチンスク条約が締結されるまでは、度々領有をめぐって紛争が起きた土地であり、
「1858年5月28日のアイグン条約、1860年11月14日の北京条約の2つの不平等条約によって、満洲地域の黒竜江以北及びウスリー川以東のいわゆる外満洲地域はロシアに割譲されることとなった。」ウィキペディア
1900年に「義和団の乱」が起こると、ロシアはまるで「火事場泥棒」のように満洲を軍事占領しました。
太い赤線がネルチンスク条約(1689年)での国境線。
黄土色部分はアイグン条約での、朱色部分は北京条約でのロシア獲得地。
戦後、北京議定書(1901年9月7日に清国とイギリス、フランス、アメリカ、ロシア、日本など11カ国との間で結ばれた、義和団事件(北清事変)の講和条約)が結ばれ、日本は北京と天津に清国駐屯軍(後に支那駐屯軍)を置く権利を得ました。
これはロシアを除く西欧諸列強から歓迎されたんですね。
映画『北京の55日』で描かれた義和団の乱で、北京に利権を持ち居留地を持っていた諸列強は、この、「本国からはるかに遠い植民地」の防衛要員として日本を利用したかったわけです。現に義和団の乱の鎮圧にあたっては、日本は諸列強に比べケタ違いに大きな2000という兵力を派兵しましたからね。
ところが、ロシアは乱後も満洲駐留を継続したので、他の列強や清国から大きな批判を受け、仕方なく清国との間で満洲還付条約(1902年)を結び、満州から完全に撤兵。満州を巡る問題は全部解決したかに見えました。
ですが、しつこいロシアはなおも満州に居残り、朝鮮まで食指を伸ばそうとしてきたので日本と衝突、日露戦争が起きました。
その結果、満州における権益を失ったロシアは今度こそ撤退、続くロシア革命によって満州どころではなくなり、今度こそ手を引くことになります。
ポーツマス条約の骨子は、以下の通り
① 日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
② 日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満洲から撤退する。
③ ロシアは樺太の北緯50度以南の領土を永久に日本へ譲渡する。
④ ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
⑤ ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
⑥ ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
日本は1905年10月10日に、ロシアは10月14日に条約を批准し、発効しました。
問題の満州に関する部分は④と⑤になりますが、これはそれまでの間にロシアが清国から得ていたものです。なので条約文の中にも「清朝の同意を得る」のが条件となっていました。
なので、同年に、
「1905年12月、『満洲善後条約』が北京において結ばれ、ポーツマス条約によってロシアから日本に譲渡された満洲利権の移動を清国が了承し、加えて新たな利権が日本に対し付与された。
すなわち、南満洲鉄道の吉林までの延伸および同鉄道守備のための日本軍常駐権ないし沿線鉱山の採掘権の保障、また、同鉄道に併行する鉄道建設の禁止、安奉鉄道の使用権継続と日清両国の共同事業化、営口・安東および奉天における日本人居留地の設置、さらに、鴨緑江右岸の森林伐採合弁権獲得など」ウィキペディア
が同意されたのです。
この、日英仏米露他全11か国の間で調印された「北京議定書」で日本は北京と天津に清国駐屯軍(支那駐屯軍)が認められたこと、
そして、清朝との間で結ばれた「満洲善後条約」の中で、「鉄道守備のための日本軍常駐権」が認められたこと、の2点には注目すべきですね。
ここまでのところで「日本が支那を侵略した」という人はいるんでしょうかね。やっぱいるかもしれませんね。
でも、事実のみを並べると、こうなるんです。
19世紀から20世紀初頭の世界の強国たちの弱肉強食の世界に、21世紀のヒューマニズムを持ち込むのはハゲしく愚かだと思いますがね。日清も日露も、日本の存亡をかけた戦いであり、そこには背に腹代えられない大義がありました。やらなければやられる!それに、なんとかして満州朝鮮そして日本を植民地にしたい西欧列強の思惑がからんでいたのです。
満州は、その西欧列強のパワーバランスと日本の存亡とがせめぎ合う、文字通りの焦点だったわけです。
Notable Manchu people, primarily using on Japanese Wikipedia because some people do not have articles in all languages
UnknownUnknownUnknownUnknownGiuseppe CastiglioneUnknownUnknownUnknownUnknownUnknownUnknownUnknownUnknownUnknownScreenshot by Gram123 (en:User:Gram123)Chancellery of the President of the Republic of PolandComposed by:Šolon - File:清 佚名 《清太祖天命皇帝朝服像》.jpgFile:清 佚名 《清太宗崇德皇帝朝服像》.jpgFile:40_years_old_Kangxi.jpg[1]File:清 郎世宁绘《清高宗乾隆帝朝服像》.jpgFile:The_Ci-Xi_Imperial_Dowager_Empress_(5).JPGFile:Postcard of Emperor Guangxu.jpgFile:Aisin-Gioro Puyi 01.jpgFile:Dorgon,_the_Prince_Rui_(17th_century).jpgFile:Oboi.jpgFile:Heshen 2.jpgFile:Aisin-Gioro Pǔjié and Lady Hiro Saga.jpgFile:Laoshe.jpgFile:Gen Yoshiko Kawashima.jpg[2]File:Chopin Year in Poland - Lang Lang 01.jpg, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=18601474による
Manchuria-U.S.S.R. boundary
CIA - Library of Congress Geography and Map Division Washington, D.C. 20540-4650 USADIGITAL ID g7822m ct002999 http://hdl.loc.gov/loc.gmd/g7822m.ct002999, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=31290239による
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旅する書斎(☆ほしい)
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞(読者投票1位)受賞】
文化文政の江戸・深川。
人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。
暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。
家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、
「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。
常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!?
変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。
鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋……
その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。
涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。
これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。
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