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第四章 半月前
54 西の訛りの落下傘兵
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「Hi! 落下傘連隊のエマニュエル Emmanuel 中尉ですぅ!
ねえ、いったいぜんたい、何があったん? 」
思い悩んでいる自分がバカバカしくなるほどにバカ明るい女だ。
それが第一印象だった。
「第二十四連隊のシュタルケ中尉です。今月末で近衛第二と第二十三軍団がなくなります。きっとそのせいでしょう」
もしかすると先任、つまり先輩かもしれないと思い、キチンと敬礼し言葉を選んだ。もちろん、事件のこともあえて言わなかった。他連隊の雰囲気がわからなかったからだ。無用なことは口にしない。昇進の速い者はみな同じだ。
「馬が病気ではお困りでしょうね。ひとまず診させましょう。連隊の厩を案内します」
「おおきに! 」
落下傘連隊の将校は、正式ではない、北の偵察部隊風の略式なバウで応えた。
第一落下傘連隊は同じ近衛第一軍団所属。まだ行ったことはないが、落下傘の連隊駐屯地はここから馬で半日以上かかる山の中にあると聞いたことがある。たぶん連絡事務かなんかでやってきたのだろう。
エマニュエル中尉の馬を連隊の厩当番兵に預け、診させた。
獣医の資格を持っているという厩番の兵によれば、馬は思ったほど重症ではなさそうで一晩休ませれば、という診たてだった。もう陽が落ちていたので中尉を連隊の将校宿舎に連れて行った。
「どないしょ思うてたんで助かりましたわ! ついで言うたらなんですけど、食事できますか? あと、部屋あります? 」
あまりにもあけっぴろげ。エマニュエル中尉のざっくばらんな雰囲気が、束の間、フェルディナントを和ませた。
一度兵営に行き、下士官たちに第二中隊の様子を聞いた。
「兵たちは大丈夫です。旅団長閣下の訓示のおかげでしょう」
信頼する第一小隊の古参の曹長が教えてくれた。少し、安心した。
小隊長たちを集め、必要な指示をして士官宿舎の週番司令室に戻った。
そこに、エマニュエル中尉がいた。
石炭のストーブで手を炙り、まるで自分の部屋のようにまったりと寛いでいた。
「あ、お帰りなさい。食事と部屋、おおきに! やっと人心地着きましたわ! 灯り点いてたん、この部屋だけだったんで勝手に入らしてもろてました。まだ寝るのは早いな思いまして・・・ 」
「それは、よかったです」
「あ、小官、お邪魔ですか? 」
「いいえ。週番ですから。夜はヒマなんですよ。それなのに、起きてなきゃいけない。むしろ話し相手していただいて助かります! 」
「ほなら、も少しええですか? 」
美人なのにオツに澄ましたところがない。なんというか、他人の心のスキマにスルッと入ってくるような人だ。それでいて、少しもイヤミがない。空挺部隊に居ると皆こうなるんだろうか?
片隅のデスクに着き、日誌を書き込みながら、落下傘の女性士官に尋ねた。
「機甲部隊の方も第二が削減されるらしいですが、空挺部隊の方はどうですか? 」
「そうですねえ・・・。チナ戦の時は1、000ほど、3個大隊居ましたけど、半分になるそうですわ。ウチとこはほとんどが志願兵ですのにね」
「そうですか・・・。その連絡事務でいらしたんですね」
「まあ、そんなトコですわ」
それまで明るく話していた中尉が少しトーンを落とし、しみじみし始めたのに少し、同情した。
「あの、小官は150期ですが、失礼ですが・・・」
「ああ、さいでっか。ウチ、147期! 」
後輩と知ったからか、エマニュエル中尉はさらに寛いだ雰囲気で笑った。
「最初は北の第十五におったんです。チナ戦で志願したんですわ」
147期というと、ヴェリンガー大尉の一期上だ。それでまだ中尉か・・・。いろいろと、察した。
あまりその話題を引き摺るのもどうかと思い、今朝の事件の話をフッた。
「ところで、今朝の事件、お聞きになりましたか? 」
「ウチとこは『陸の孤島』ですよって! 」
ブルネットの美人はカラカラとまた笑った。よく笑う人だ。
「連隊出たんが日の出前だったんですわ。さっき聞いて腰抜かしましたわ。エラいことになってまって・・・」
「旅団長閣下の御指示で兵たちは喪に服してます。ですが、我々士官はそうもいきません。今後どのような影響が出てくるか・・・」
我ながら少しカタ過ぎるとは思ったが、これが地なのだ。
フェルディナントのタイドに、空挺部隊の士官は少しトーンを落とした。
「さいでんな・・・」
たぶん、西のマルセイユかボルドーあたりのフランス訛りだろうと思うが、この落下傘の士官と話をしていると深刻になりたくてもなれないような、気安さを感じてしまう。
今の自分には、ちょうどいいのかもしれない。
「軍人ですよって。命令があればいつどこにでも飛び降りるだけですわ。それ以外は、あまり考えんようにしてます。でも・・・」
言いかけて、あまりにも沈黙が長かった。ブルネットの下の長い睫毛が一定の感覚で瞬いた。美しいブラウンの瞳がストーブの炎に揺れていた。
「でも? 」
焦れてしまい、エマニュエル中尉の言葉の続きを促した。
「事件のおかげで、今の陸軍に不満を持っとるモンはウチとこの連隊だけではない、いうのがわかりましたわ・・・」
フェルディナントの中で、暗い閃きが放たれた。
ねえ、いったいぜんたい、何があったん? 」
思い悩んでいる自分がバカバカしくなるほどにバカ明るい女だ。
それが第一印象だった。
「第二十四連隊のシュタルケ中尉です。今月末で近衛第二と第二十三軍団がなくなります。きっとそのせいでしょう」
もしかすると先任、つまり先輩かもしれないと思い、キチンと敬礼し言葉を選んだ。もちろん、事件のこともあえて言わなかった。他連隊の雰囲気がわからなかったからだ。無用なことは口にしない。昇進の速い者はみな同じだ。
「馬が病気ではお困りでしょうね。ひとまず診させましょう。連隊の厩を案内します」
「おおきに! 」
落下傘連隊の将校は、正式ではない、北の偵察部隊風の略式なバウで応えた。
第一落下傘連隊は同じ近衛第一軍団所属。まだ行ったことはないが、落下傘の連隊駐屯地はここから馬で半日以上かかる山の中にあると聞いたことがある。たぶん連絡事務かなんかでやってきたのだろう。
エマニュエル中尉の馬を連隊の厩当番兵に預け、診させた。
獣医の資格を持っているという厩番の兵によれば、馬は思ったほど重症ではなさそうで一晩休ませれば、という診たてだった。もう陽が落ちていたので中尉を連隊の将校宿舎に連れて行った。
「どないしょ思うてたんで助かりましたわ! ついで言うたらなんですけど、食事できますか? あと、部屋あります? 」
あまりにもあけっぴろげ。エマニュエル中尉のざっくばらんな雰囲気が、束の間、フェルディナントを和ませた。
一度兵営に行き、下士官たちに第二中隊の様子を聞いた。
「兵たちは大丈夫です。旅団長閣下の訓示のおかげでしょう」
信頼する第一小隊の古参の曹長が教えてくれた。少し、安心した。
小隊長たちを集め、必要な指示をして士官宿舎の週番司令室に戻った。
そこに、エマニュエル中尉がいた。
石炭のストーブで手を炙り、まるで自分の部屋のようにまったりと寛いでいた。
「あ、お帰りなさい。食事と部屋、おおきに! やっと人心地着きましたわ! 灯り点いてたん、この部屋だけだったんで勝手に入らしてもろてました。まだ寝るのは早いな思いまして・・・ 」
「それは、よかったです」
「あ、小官、お邪魔ですか? 」
「いいえ。週番ですから。夜はヒマなんですよ。それなのに、起きてなきゃいけない。むしろ話し相手していただいて助かります! 」
「ほなら、も少しええですか? 」
美人なのにオツに澄ましたところがない。なんというか、他人の心のスキマにスルッと入ってくるような人だ。それでいて、少しもイヤミがない。空挺部隊に居ると皆こうなるんだろうか?
片隅のデスクに着き、日誌を書き込みながら、落下傘の女性士官に尋ねた。
「機甲部隊の方も第二が削減されるらしいですが、空挺部隊の方はどうですか? 」
「そうですねえ・・・。チナ戦の時は1、000ほど、3個大隊居ましたけど、半分になるそうですわ。ウチとこはほとんどが志願兵ですのにね」
「そうですか・・・。その連絡事務でいらしたんですね」
「まあ、そんなトコですわ」
それまで明るく話していた中尉が少しトーンを落とし、しみじみし始めたのに少し、同情した。
「あの、小官は150期ですが、失礼ですが・・・」
「ああ、さいでっか。ウチ、147期! 」
後輩と知ったからか、エマニュエル中尉はさらに寛いだ雰囲気で笑った。
「最初は北の第十五におったんです。チナ戦で志願したんですわ」
147期というと、ヴェリンガー大尉の一期上だ。それでまだ中尉か・・・。いろいろと、察した。
あまりその話題を引き摺るのもどうかと思い、今朝の事件の話をフッた。
「ところで、今朝の事件、お聞きになりましたか? 」
「ウチとこは『陸の孤島』ですよって! 」
ブルネットの美人はカラカラとまた笑った。よく笑う人だ。
「連隊出たんが日の出前だったんですわ。さっき聞いて腰抜かしましたわ。エラいことになってまって・・・」
「旅団長閣下の御指示で兵たちは喪に服してます。ですが、我々士官はそうもいきません。今後どのような影響が出てくるか・・・」
我ながら少しカタ過ぎるとは思ったが、これが地なのだ。
フェルディナントのタイドに、空挺部隊の士官は少しトーンを落とした。
「さいでんな・・・」
たぶん、西のマルセイユかボルドーあたりのフランス訛りだろうと思うが、この落下傘の士官と話をしていると深刻になりたくてもなれないような、気安さを感じてしまう。
今の自分には、ちょうどいいのかもしれない。
「軍人ですよって。命令があればいつどこにでも飛び降りるだけですわ。それ以外は、あまり考えんようにしてます。でも・・・」
言いかけて、あまりにも沈黙が長かった。ブルネットの下の長い睫毛が一定の感覚で瞬いた。美しいブラウンの瞳がストーブの炎に揺れていた。
「でも? 」
焦れてしまい、エマニュエル中尉の言葉の続きを促した。
「事件のおかげで、今の陸軍に不満を持っとるモンはウチとこの連隊だけではない、いうのがわかりましたわ・・・」
フェルディナントの中で、暗い閃きが放たれた。
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