Millennium226 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 6】 ― 皇帝のいない如月 ―

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第六章 5日前

67 戦闘開始!

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 帝都随一、ということは帝国随一の高級ホテル、クーロン飯店。
 そのいくつかあるバンケットルームの中でも中程度の広間の入り口には、
「帝国経済同友会様御席」
 という、いかにもありそうな催し名が掲げられていた。
 たかが尉官風情の薄給連中が! 
 自分も同じ中尉に過ぎないリヨンは、いったい誰がカネを出しているのか、と訝(いぶか)った。
 もちろん、ウラを取った。帝国にそのような名前の組織は存在しない。
 そしてもちろん、総支配人にも質した。
「当ホテルでは施設をご利用になるお客様の代表の方のご住所などはお尋ねいたしますが、ご会合を催されるお客様の実態については特に調査などを行っておりません」
 目の細い東洋風の無表情が淡々と答えた。
「では、仮に帝国に弓引く反逆者にもカネさえもらえばホイホイ部屋を貸すのか? 」
 リヨンの詰問に対し、総支配人は慇懃無礼に宣(のたも)うた。
「当ホテルのオーナーも私も忠実かつ愛国的な帝国臣民でございます。
 現にこのように当局様にご協力を差し上げておりますし・・・」
 暖簾に腕押し。箸にも棒にも掛からぬ、とはこのことだ。
 さすがチナ人。拝金主義もここに極まれり、だ。
 しかし、どのような主義主張を持つ者であろうとも、どのような言語を話そうとも、帝国は全てを受け入れて来た。これまでも、これからも。
 帝国に忠誠を誓い、税を納め、臣民の義務を全うする者ならば、誰であれ帝国人になれる。
 それが、帝国なのである。

 念のため中年の商人風に変装し、グランドフロアのロビーで出入りする者たちを観察した。「帝都新聞」を広げ、顔を隠した。
 ベルボーイがハンドベルを鳴らしながらプラカードを掲げてロビーを行き来していた。
「帝国経済同友会様御席は3階『エルメスの間』」という文言が書いてある。
 そのベルボーイだけではない。
 ドアマンも、フロントのひとりも、バンケットルームに料理を運ぶウェイターの内何人かも、ホテルマンに扮した憲兵隊員である。
 手配は万全。
 あとは、敵が集まるのを待つだけとなった。
 と。
 エントランスから、浅葱色のトーガに身を包んだ若い紳士が入ってきたのがリヨンの目を惹いた。
 近衛のシュタルケ中尉だ!
 その後ろには、同じく紺のトーガ姿のバウマン予備役大尉。そして、第一軍団のヴェリンガー大尉らも私服姿で続いた。
 そして、『ヴィーナス』も。
 鮮やかなワインレッドの長い丈のテュニカ風ドレスに、ヒールの付いたサンダル。豊かなブルネットを靡かせて大ぶりの茶色い革カバンを肩に下げて入ってきた。
 リヨンと目が合ったが会釈するでなく、スッと無視してエレベーターホールに消えた。

 どれ。
 戦闘開始、と行きますか! 
 リヨンもまた、新聞を畳んで立ち上がり、エレベーターではなく階段のホールに向かった。

 バンケットルームのある3階のすぐ上、4階の407号室のドアを叩いた。
「マーキュリー」
 ドアが開いた。
 最も安いツインルームのデスクには野戦用の通信機が置かれ、階下の「エルメスの間」に隠された収音マイクと有線で繋がれていた。
 通信機の前には男女ふたりの憲兵隊員がレシーバーを掛けて席に着いていた。
 
 その通信機の別のチャンネルには予(あらかじ)め今回の作戦のために打ち合わせた周波数が設定されていた。
 会合に「空挺部隊のエマニュエル中尉」として出席するエマール中尉が携えたカバンの中にポータブルの通信機が入っていて、そちらでも音を拾っているのだ。

 リヨンもまた、椅子を引っ張って来て彼らの隣に着いた。

 さあ、頼むぞお! せめて決行日は喋ってくれよ!

 そして、彼もまたレシーバーをかけた。















 アサシン・ヤヨイシリーズ ひとくちメモ

 81 日本軍の将軍・提督たちについて(その7)



 栗林忠道中将(陸軍)

 
 この「日本軍の将軍・提督たちについて」は、筆者の独断と偏見によって「いい将軍・提督」とは何かを論じさせていただいております。
 前半では、「悪い将軍・提督」の例を、悪い順から挙げさせていただきましたが、
「日本軍の将軍・提督たちについて(その3~5)の、阿南是親大将、(その6)の井上成美大将からは、「良き指揮官」の例として、順不同で書き連ねさせていただいております。

 では、「良き指揮官」とはどんな指揮官か。
 
「よき軍人とは、与えられた状況の中で最善を尽くし、任務を全うする者」
 と書きました。
 加えて、よき指揮官とは「矜持」「義侠心」のある者を言うんじゃないか。
 すでに挙げた2人にはそれがあると思ったのです。

 AIによれば、
「矜持(きょうじ)」とは、自身の能力や価値を誇りに思う気持ち、つまりプライドや自尊心を意味する言葉です。単なる自信ではなく、自己の尊厳を守るための強い意識を伴います」
「義侠心(ぎきょうしん)とは、正義を重んじ、弱者を助け、強者をくじき、また、義のために命を惜しまないという気性や心の持ち方のことを指します。強い正義感と、困っている人を放っておけないという思い、そして、男らしさ、侠気などが含まれます」
 ふたつとも、今の政治家やエライ人たちから失われてしまった、かつて武士が持っていた心のことです。
 
 指揮官は任務の達成のためには敵兵もコロしますが、部下もコロします。戦闘を行って味方に死傷ゼロなんて、古今東西全部の統計を取ったわけじゃないので知りませんが、まず、あり得ないでしょう。
 ましてや、
「〇✖地点を死守せよ! 絶対に敵に渡すな! 退却の二文字は、これを抹消せよ! 」
 日露戦争ではそんな命令が頻繁に出されました。大東亜戦争に至っては、さらに多かったでしょう。
 どちらの戦争でも日本軍は最初から劣勢ですので、そうした命令を出された部隊の中には全滅した部隊もありました。
 結果だけを見れば爆弾を抱いて敵艦に体当たりする「特攻」と変わりません。
 むしろ、いつ死ぬのかわからないが確実に死が迫って来る恐怖に直面するという意味では「特攻」よりもひどかったかも。
 でも、指揮官に「矜持」と「義侠心」を持った者を頂いた部隊は途方もなく強い。
 指揮官を信頼する兵が恐怖を克服し、それこそ「捨て身で」奮闘するからです。

 昭和20年2月から3月の「硫黄島の戦い」で最後まで奮闘して戦死した栗林 忠道中将も間違いなくその一人だったと思います。艦船や航空機の掩護も皆無。孤立無援。島を死守せよとの過酷な命令を受け、戦地に赴き、戦死した指揮官です。



「栗林 忠道(くりばやし ただみち、1891年〈明治24年〉- 1945年〈昭和20年〉)は、日本の陸軍軍人。最終階級は陸軍大将。位階勲等は従四位勲一等(旭日大綬章)。陸士26期・陸大35期。長野県埴科郡西条村(現:長野市松代町)出身。戦国時代以来の旧松代藩郷士の家に生まれる。陸大次席卒業の秀才であり、「大東亜戦争屈指の名将」と讃えられている。
 戦争末期の硫黄島の戦いにおける、日本軍守備隊の最高指揮官(小笠原兵団長。小笠原方面陸海軍最高指揮官)であり、その戦闘指揮によって敵であったアメリカ軍から「アメリカ人が戦争で直面した最も手ごわい敵の一人であった」と評された。」

「1944年(昭和19年)5月27日、小笠原方面の防衛のために新たに編成された第109師団長に親補され、6月8日、硫黄島に着任。以後、1945年(昭和20年)3月に戦死するまで硫黄島から一度も出なかった。
 周囲からは、小笠原諸島全域の作戦指導の任にある以上は、兵団司令部を設備の整った父島に置くべきとの意見もあったが、アメリカ軍上陸後には最前線になると考えられた硫黄島に司令部を移した。
 その理由としては、サイパンの戦いにおいて、第31軍司令官小畑英良中将が、司令部のあるサイパン島から部隊視察のためパラオ諸島に行っていたときにアメリカ軍が上陸し、ついに小畑はサイパン島に帰ることができないまま守備隊が玉砕してしまったという先例があることや、父島と比較すると硫黄島の生活条件は劣悪であり、自分だけ快適な環境にいることなく部下将兵と苦難を共にしたいという想いがあったからという。栗林はその人柄から部下将兵からの人気も高かった。」
「栗林の着任当時、硫黄島には約1,000人の住民が居住しており、当時の格式では、閣僚クラスの社会的地位のある中将の来島に色めきたったが、栗林は島民に配慮して一般島民とは離れた場所に居住することとしている。栗林が司令部ができるまで居住していた民家は「硫黄島産業」という会社の桜井直作常務の居宅で、桜井は栗林と接した数少ない島民となったが、栗林は食事の席で桜井に「我々の力が足りなくて、皆さまに迷惑をかけてすまない」と謝罪し桜井を驚かせている」
「栗林の島民に対する配慮はまだ続き、アメリカ軍による空襲が激しくなると、島民も将兵と同じ防空壕に避難するようになったが、薄手の着物姿の女性が避難しているのを見た栗林は、将兵からの性被害を抑止するために女性にモンペの着用を要請し、また防空壕も可能な限り軍民を分けるよう指示した」
「栗林は住民の疎開を命じ、生存していた住民は7月12日まで数回に分けて父島を経由して日本本土に疎開した。栗林の方針によって硫黄島には慰安所は設置されておらず、硫黄島は男だけの島となったが、結果的に早期に住民を疎開させるという判断が、島民の犠牲を出さなかったことにつながった」
「敵上陸軍の撃退は不可能と考えていた栗林は、堅牢な地下陣地を構築しての長期間の持久戦・遊撃戦(ゲリラ)を計画・着手する。
 アメリカ軍爆撃機の空襲にも耐え、上陸直前までに全長18kmにわたる坑道および地下陣地を建設した。陣地の構築については軍司令官である栗林が自ら島内をくまなく巡回し、ときには大地に腹ばいになって、目盛りのついた指揮棒で自ら目視して作業する兵士たちに
「この砂嚢の高さをあと25cm上げよ」
「こっちに機銃陣地を作って死角をなくすようにせよ」
「トーチカにもっと砂をかけて隠すようにせよ」
などの具体的で詳細な指示を行うこともあったという。」
「隷下兵士に対しては陣地撤退・万歳突撃・自決を強く戒め、全将兵に配布した『敢闘ノ誓』や『膽兵ノ戦闘心得』に代表されるように、あくまで陣地防御やゲリラ戦をもっての長期抵抗を徹底させた。」
「栗林は兵士に対して、作業中や訓練中には自分も含め上官に敬礼は不要と徹底し、部下から上官に対する苦情が寄せられた場合は容赦なく上官を処罰した。
 食事についても栗林自らも含め、将校が兵士より豪華な食事をとることを厳禁した。
 栗林は、平時から階級上下での待遇差が激しい軍内で根強い“食べ物の恨み”が蔓延していることを認識しており、水不足、食料不足の硫黄島においては、さらにその“食べ物の恨み”が増幅する懸念が大きく、戦闘時の上下の信頼関係を損なって、戦力に悪影響を及ぼすという分析をしていた。そのため、自らも兵士と同じ粗食を食し、水も同じ量しか使用しなかった。この姿勢が兵士から感銘を受けて、栗林への信頼が高まっていった。」

 戦闘の詳細は省きます。



 陸軍13,586名、海軍7,347名、合計20,933名が守る硫黄島に対し、
 アメリカ軍は、陸海合計で25万人。航空母艦16隻、艦載機1,200機、戦艦8隻、巡洋艦15隻、駆逐艦77隻、他艦艇含め合計800隻の大部隊で襲い掛かり、栗林指揮の守備隊は戦死 1万7千から9千の損害を出し、全滅します。

「(アメリカ)上陸部隊指揮官のホーランド・スミス海兵隊中将は、その夜、前線部隊からの報告によって硫黄島守備隊が無謀な突撃をまったく行なわないことを知って驚き、取材の記者たちに「誰かは知らんがこの戦いを指揮している日本の将軍は頭の切れるやつ(one smart bastard)だ」と語った。」
「圧倒的な劣勢の中、アメリカ軍の予想を遥かに上回り粘り強く戦闘を続け、多大な損害をアメリカに与えたものの、3月7日、栗林は最後の戦訓電報となる「膽参電第三五一号」を大本営陸軍部、および侍従武官長の蓮沼蕃大将に打電。さらに組織的戦闘の最末期となった16日16時には、玉砕を意味する訣別電報を大本営に対し打電(硫黄島の戦い#組織的戦闘の終結・#訣別の電文)。」

(新聞に掲載された電文)
 戦局遂に最後の関頭に直面せり

 十七日夜半を期し小官自ら陣頭に立ち、皇国の必勝と安泰とを祈念しつ、全員壮烈なる総攻撃を敢行す
 敵来攻以来想像に余る物量的優勢を以て陸海空よりする敵の攻撃に対し克く健闘を続けた事は小職の聊か自ら悦びとする所にして部下将兵の勇戦は真に鬼神をも哭かしむるものあり
 然れども執拗なる敵の猛攻に将兵相次いで斃れ為に御期待に反し、この要地を敵手に委ねるのやむなきに至れるは誠に恐懼に堪へず、幾重にも御詫び申し上ぐ
 特に本島を奪還せざる限り皇土永遠に安からざるを思ひ、たとひ魂魄となるも誓つて皇軍の捲土重来の魁たらんことを期す、今や弾尽き水涸れ戦い残れる者全員いよく最後の敢闘を行はんとするに方り熟々皇恩の忝さを思ひ粉骨砕身亦悔ゆる所にあらず
 茲に将兵一同と共に謹んで聖寿の万歳を奉唱しつつ永へ御別れ申上ぐ
 終りに左記駄作、御笑覧に供す。

 国の為重きつとめを果たし得で 矢弾尽き果て散るぞ口惜し
 仇討たで 野辺には朽ちじ 吾は又 七度生れて 矛を執らむぞ
 醜草(しこぐさ)の 島に蔓る 其の時の 皇国の行手 一途に思ふ


「硫黄島から次女たか子(「たこちゃん」と呼んでいた)に送った手紙では、軍人らしさが薄く一人の父親としての面が強く出た内容になっている。硫黄島着任直後に送った手紙には次のようなものがある。実際の手紙は、防衛省に保管されている。

『お父さんは、お家に帰って、お母さんとたこちゃんを連れて町を歩いている夢などを時々見ますが、それはなかなか出来ない事です。
 たこちゃん。お父さんはたこちゃんが大きくなって、お母さんの力になれる人になることばかりを思っています。
 からだを丈夫にし、勉強もし、お母さんの言いつけをよく守り、お父さんに安心させるようにして下さい。

 戦地のお父さんより』



 クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』(いおうじまからのてがみ、2006 Letters from Iwo Jima)では、渡辺謙が栗林中将を好演していました。同じ戦いをアメリカ側の視点から描いた、同じイーストウッド監督の『父親たちの星条旗』の姉妹作。




 1945年(昭和20年)3月17日 - 戦死と認定され、特旨をもって陸軍大将に親任される。53歳没。







 栗林忠道陸軍中将。写真は留守第二近衛師団長時代のもの。
 photographer is unknown - 1. 7thfighter.com [1], 2. Sandiego.edu [2], パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=44387による

 硫黄島のトンネル
 US Navy - http://www.ibiblio.org/hyperwar/USMC/USMC-M-IwoJima/USMC-M-IwoJima-7.html, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3756179による

 Flag Raising on Iwo Jima.
 ジョー・ローゼンタール - File:Photograph of Flag Raising on Iwo Jima - NARA - 520748.tif, パブリック・ドメイン,  https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=71825086による
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