運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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8 騎士一族と黒鉄編

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 その日の夜。

 私たちはニグラートのタウンハウスにある一室に集まっていた。

 もちろん、フィリアも無事だ。

 けっきょく、フィリアはエンデバート卿とフェリクス副隊長、二人をボコボコにして戻ってきたとのこと。

「あたしにかかれば、あの程度は問題ありませんから」

 フィリアはそう言っていたけど、それはそれで問題だらけだろう。そもそも、二人をボコボコにして、本当に何のお咎めもなく大丈夫だったのかは疑わしい。
 グレイなんて、入城禁止を食らっているぐらいだし。これでフィリアまで入城禁止になったら大変だ。

 心配する私に、

「闘技会前の『手合わせ』という形でボコったみたいなので、大丈夫そうですよ」

 とバルトレット卿。

 いったいどこから聞いてきたのかと思ったら、発信源はユースカペル副団長だった。

 うん、フィリアとエンデバート卿の手合わせでも審判をやってたもんね。

 バルトレット卿が言うには、こうやってフィリアのデータを取っているのだろうと。
 そういう魂胆があるのだとすれば、ユースカペル副団長もなかなか食えない人物だということになる。

「あの副団長。見た目は完全に、頭でっかちな騎士タイプなのにね」

 うん、フィリア。それは悪口だから。




 さてさて。

 私は集まったメンバーをぐるっと見回した。

「へー。ニグラートも戦略会議、みたいなのをやるんだ」

「どこの騎士団も事前準備は念入りに行いますよね」

 私の呑気な発言に対しては、すぐさま、しかもすぐ隣から突っ込みが入る。

「リザルト、私に対してキツくない?」

「そう思うなら、平素から、キツい態度を取られないような言動と行動をお願いしますよ、お嬢」

 チクチクと針でつつくような口撃を、隣から繰り出してきたのは、殲滅隊の若き副官、リザルト・マウンタ。
 金髪を短くした(殲滅隊にしては)小柄な体格で、今回の闘技会では参謀長のポジションについている。

 年齢は十七歳。私と同い年だ。

 なのに、なぜ、そんな重要なポジションにいるのかというのを、最初から話すととてつもなく長くなる。しかも、話はかなり複雑で面倒。私のせいじゃないけど。

 バルザード卿やバルトレット卿が同い年でも新人なのに対して、リザルトは私と同じ年に殲滅隊に配属されていた。

 魔剣士になれるほどの魔力はなかったけど、とにかく、幼い頃から頭が切れて、情報の扱いもうまかった。

 それに加えて年齢だ。

 私と同年齢。
 そこがベイオス閣下の目に留まったのだ。

 最初、ベイオス閣下は、グレイと私の婚約を『後ろ盾を得るための便宜上のもの』と思っていたらしい。
 正直なところを言うと、私も含め、グレイ以外の全員がそう思っていた。

 後ろ盾を得るための便宜上の婚約というのは、後ろ盾が必要なくなったら解消される。
 私の場合、完全に保護者がいらない十八歳で婚約は解消することが出来た。

 でも、私は鎮圧のセラ。

 辺境の統治にはとても心強い戦力だったわけで。

 グレイとの婚約解消後を睨んで、ベイオス閣下は、私と同年齢で良さげな人物を、あらかじめ私のそばに配置していたのだ。グレイの後に婚約するちょうど良い相手として。

 結果的に、グレイが本気だったのに加えて、切れ者のリザルトがグレイの本気を早めに察知していたために、「大事故には繋がらなかった」そうだ。

 ちなみに、大事故云々を語っていたのは、リザルト本人。大事故の中身については、ちょっと察したくない。

 そんなわけで、私が辺境伯家にやってきてほどなくして、リザルトも私と一緒に殲滅隊見習いになっていた。そして、鍛えられて今に至る。
 それゆえ、リザルトは、私同様、他の同年代の新人たちとは経験も実力も大きくかけ離れていたのだ。

 私にとっても、あらゆる苦境を乗り越えてきた、仲間であり友である。
 この辺が、バルザード卿やバルレット卿と、リザルトとの大きな違いでもあった。

 今回、十七歳ながら、参謀長に抜擢されたのはそういった経験と実力を買われてのこと。

 だと私は思っている。

 その新進気鋭の参謀長、リザルトから事前準備の話を持ち出された上、チクチク突き刺されて、私の気分は最悪だった。

「事前準備? 団体戦の訓練以外に?」

 私が不機嫌な調子で言い返すと、

「いいですか、お嬢。闘技会は特殊なんです。戦略会議や模擬戦も重要ですが、情報戦でもあるので、情報収集は大事なんですよ?」

 しかめっ面でガーーーーーッと一気にまくし立てられる。
 そんな、言い方しなくてもいいのに。
 気分はさらに落ちる。

 でも、ちょっと待って?

 情報収集と言えば、ユリンナ先輩、なんか言ってたよね?

「そういえば、ユリンナ先輩になんかいろいろ聞かれたかも」

「なんか、喋ったんですね、お嬢」

 食いつき気味のリザルト。目が怖い。口調も怖い。

「私の信頼が低すぎる」

 落ち込む私に思わぬところから救いの手が。

「大丈夫ですよ、マウンタ副官」

「お嬢から情報を巻き上げよう、というよりは、呑気すぎるお嬢を心配してるような感じだったわね」

 フィリアにバルレット卿だ。
 いいタイミングで私を弁護してくれる。

「それなら、いいですが」

 この二人の発言で、リザルトは渋々と矛を収めた。

 私に信頼はなくても、フィリアやバルレット卿には信頼があるところが、モヤモヤしてくる。

 まぁ、それはいい。

 良くないのは、私が、何にも分かっていないことだ。

 おかしい。

 研修生として去年も一年、王都の騎士団にはいたはずなのに。
 そもそも、婚約してからニグラートにはずっと関わっているはずなのに。

 なんで、私は闘技会の知識が空っぽなんだろう。

 リザルトに食いつかれるのを覚悟して、恐る恐る尋ねてみる。

「ニグラートも、他の騎士団の情報収集してるんだよね?」

「当然ですね」

「他のところは、続々と王都に集まって、それから探りを入れてる感じでしょ?」

 私は知りうる限りの話を持ち出した。

「私設騎士団同士で模擬戦を行ったりもしてるんでしょ? ニグラートは?」

「準備の仕方も戦い方も、それぞれなんで」

 ナイショかよ。

 しれっと返事をごまかすリザルト。
 こういう態度がムカつくんだけど、闘技会においては向こうの方が立場も上だし、知識も情報も握ってるし、言い返したくても言い返せない。
 そのことが余計に私をムカムカさせていた。

 ところで。

「私って、闘技会について具体的な説明をされたことがないんだけど」

 ムカつきついでにボソッとこぼすと、私の周りだけでなく、部屋全体が静まり返る。

「嘘ですよね、お嬢」

 みんなからの問いかけに、私は乾いた笑いをもらすしかなかった。
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