運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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8 騎士一族と黒鉄編

5-8

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「お嬢、いいですね」

 私はリザルトから、これでもかというくらい、しつこくしつこく言い聞かされていた。
 そんなにうるさく言わなくたって、私だって分かってるのに。

 今は模範試合前の緊張感が漂っていて。
 リザルトも周りもピリピリしている。

 なにしろ、グレイがやられたのだ。
 ピリピリしないはずがない。

「任せて。必ず、グレイの敵を取るから」

 私はリザルトに向かって大きく頷くと、これからの試合のことを考えながら、目を閉じる。

 目を閉じると、それまで聞こえてこなかったいろいろな物が耳から入ってくるようだった。

 例えば、やられたグレイの声とか。

「俺は死んでない」

 うん、知ってる。

 私は目を開けて、チラッとグレイを見た。

 死んではないけど、ケガはしている。
 左腕に添え木を当てられてぐるぐるに巻かれた白い包帯が痛々しい。

 応急処置ではあるけど、あの感じだと骨にヒビでも入っていそうだ。

 いくら、グレイだって、骨にヒビが入ったのだ。痛くないはずがない。それをグレイは表情も変えずにいる。我慢だ。我慢をしているんだ。

 模範試合直前、私に心配をかけてはいけないと、わざと、痛くない振りをしている。そうに違いない。

 グレイはなんて、健気なんだ。

 私は涙が出そうになるのをぐっとこらえた。グレイが私のために我慢をしているのに、私が泣いてはグレイに申し訳ないから。

「お嬢、やり過ぎはダメですからね」

「でも。三倍返しくらいはやらないと」

 そう言って、私はグレイの左腕をもう一度見た。

「グレイがそのくらいだとすると、三倍返しは木っ端微塵かな」

「だから、やり過ぎです」

 微塵はダメなのか。

 チッ、と私は舌打ちをした。

 そうだ、バレなければいいのでは?

 私の頭の中に降ってきたナイスな考えをリザルトが打ち砕いた。

「バレなければいいなんて、思わないでくださいね!」

 なぜ、バレた?

「だから、俺は死んでないし。ケガも問題ない」

 グレイはグレイで、わざと平気な振りを続けている。

 そんなグレイをチラリと目の端で捉えると、私とリザルトは同時にダメ出しをし始めた。

「ダメだよ」「ダメです」

 キッパリとグレイにダメを突きつける私たち。滅多にないくらい、リザルトと息が合っている。これはこれで気持ちがいい。

「グレイは大ケガをして動いちゃいけない身体なんだから、おとなしくしていないと」

「隊長はニグラートの守りの要なんです。手の内を見せすぎてはいけません」

 あれ?

 顔を見合わせる私とリザルト。

「話が食い違ってるな」

 グレイの指摘を受け、リザルトは私に念を押してきた。

「お嬢、本当に分かってますよね?」

「分かってるわよ、三倍返しでしょ?」

 ピタリと動きを止めるリザルト。言葉も止まった。

 黙り込んだリザルトの代わりに、私の脇で、杖たちが呑気な声を上げる。

「本当に大丈夫なのか、これ」

「ここで悩んでいても、なるようにしかならないと思うけどな」

「まぁ、そうだな」

 事の発端はもちろん、グレイが大ケガをしたことなんだけどね。

 私は少し前の私を振り返る。




 グレイのケガは、私が想像していた以上に大事になっていた。

「グレイのケガはどうなの?!」

「隊長にしては珍しくやられていますね。隊長、指は動かせますか?」

 殲滅隊の救護係がグレイの左腕をざっと診て、動きや痛み、腫れのある部分を注意深く見ていく。

 その様子を眺めていたら、全身から血が引いていく音がして、目の前はぼんやり白くなっていくし、身体はフラフラし始めるし。

 手袋を脱ぎ、上衣を脱ぐと、赤黒く腫れた腕が出てきた。痣になっているだけで、傷はなさそうだけれど、あまりにも惨いありさまに、とうとう私はその場にペタンと座り込んでしまう。

 私の様子を見た救護係の一人が、慌てて私の方にもやってきた。

「隊長、ふだんはやられること自体、ありませんからね」

「そうです。ケガも軽症の部類ですし」

「だからお嬢、落ち着いてください」

 慌ててる。救護係が全員で慌ててる。

 てことは、

「グレイ、死んじゃうの?!」

「シア、勝手に俺を殺すな」


 コツン


 いて。私の頭がグレイに小突かれた。

 グレイは小突いた右手を私の頭に乗せたまま、今度はグリグリとし始める。いてててててて。

「しかし、困りましたね」

「困ったどころじゃないでしょ! グレイがケガだなんて! いたっ」

 呑気な救護係に怒りをぶつけようとした私の頭が、ワシッと掴まれた。止めて。握力ヤバい。

 グレイの大きな手をどうにか私の頭から外そうと、両手で引っ張っていると、リザルトが救護係と話しながらグレイに質問を投げてきた。

「隊長、ケガを負った状態で、手加減できますか?」

 メシャ

「いたたたたたた」

「無理そうですね」

 もしかして、私の頭って手加減の練習台にされてるわけ?!

 涙目になりながら、グレイを睨む。ついでにリザルトも睨んであげた。

 グレイはブスッとした顔。リザルトは眉間にシワを寄せている。なんとも言えない雰囲気が漂う二人に、代わる代わる視線を向けていると、突然、

 パン

 とリザルトが手を打ち、私がピクッと跳びあがった。

 まぁ、頭をグレイに抑えつけられた状態なので、実際には一ミリも跳びあがってはないのだけど。

 リザルトは両手を打ちつけた姿勢のまま、私に視線だけ向けた。

 そして、

「お嬢」

「ええ?」

「出番です」

「出番?」

 リザルトは渋々、口を開く。

「待望の………………」

 リザルトの最後の作戦が明らかにされ、私は今度こそ、跳びあがった。もちろん、グレイの手を完全に振り切って。

 こうして、私は待望の『攻撃組』として出場することになったのだ。

 攻撃組として出るからには、私だってそれなりに覚悟をしている。
 なにより、グレイのケガの遠因となったフェルム侯爵とバイフェルムには、ガツンとやってやりたい気分だったのだ。

「百倍返しくらいは、したいところなんだけど」

「だから、止めてください。指示に従わないなら防御組に戻しますよ」

 なのに、私の、はやる気持ちをリザルトは冷たくあしらうのだった。
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