運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

文字の大きさ
549 / 573
9 亡魔術師の金冠編

2-4

しおりを挟む
 そして私は、『見せたいもの』について早々に言及したことを、さっそく後悔していた。

「これはミレニアが十代のころの画よ」

「はぁ」

「あなたにそっくりでしょ」

「そうですかね」

 さきほどから、会話がこれの繰り返しであったから。

 ルベル公爵夫人に案内されたのは、回廊のような細長い部屋。窓はなく片側の壁には等間隔で額が飾られている。すべて肖像画だった。
 公爵家の部屋にしてはずいぶんと簡素な作りに見えるが、質素ではない。部屋を作っている素材は特上品。豪奢な飾りを避け、あえて作りを簡素にすることで、肖像画の存在感を引き立てているようだ。

 肖像画はお母さまばかりではない。現公爵夫妻はもちろんのこと、様々な年代、様々な人物のものが飾られているので、ルベル公爵家の人物の肖像画を集めたものだと推察される。

 私はその中からお母さまのものばかりを解説つきで見せられていたのだ。

「(見せたい物があるって呼び出されたわけだから、なんか、お母さま関係の重要文書とか重要遺品とか、そういう重要なものを見せてくれるのかと思っていたのに)」

 ルベル公爵夫人に聞こえないよう、こっそりとつぶやくと、私の連れから反応がある。

「(どれもお嬢にそっくりですよ?)」

「(まったくです。髪の色が違うだけですよね)」

「(ええ、お嬢がたくさんいるみたいで素晴らしいです)」

 肖像画の感想は聞いてないんだけど。フィリアもバルトレット卿も二人して口々に、お母さまと私のそっくりさを褒め称えてきた。まぁ、褒められて悪い気はしない。

 幼い頃から結婚間際の年齢まで、様々なお母さまが肖像画になっていたので、これはこれで興味深くはあった。
 肖像画のお母さまは金髪に金眼。私は黒髪に金眼。髪の色と、しいていえば目つきが違うだけ。

 こうしてみると私はお母さま似だ。父親のクズ男にはあまり似ていない。似ていないことに少しホッとしていると、私の杖二人からも感想が寄せられる。

《瞳の色も少し違うけどな》

《主の色はセラゴールドだったね》

 いやいやいや。肖像画なんだから。
 見たままの色を忠実に再現は出来ていないでしょうに。

 杖たちの声は力のある魔術師だけに聞こえる声で、今は私にだけ聞こえる大きさ。
 ルベル公爵夫妻が魔術師だという話は聞かないけど、何かを心配しているのか、二人は用心する姿勢を崩さないでいた。

《そういえば主。あれを尋ねなくていいのか?》

 突然、セラフィアスが私をつつく。その声かけで、私は自分の目的を思い出した。肖像画を見るのも飽きてきたし、タイミング的にもそろそろいいか。

 ルベル公爵夫妻から招待されてここに来たのには、金冠を探すことともう一つ、重要な理由があったから。

 私は緊張でいつもよりドキドキする胸を押さえながら、いつもと変わらない口調でルベル公爵夫人に話しかけた。

「ところで。聞きたいことがあるんですが」

「あら、何かしら?」

 お母さまの肖像画に視線を向けていたルベル公爵夫人は、くるりと身体を半回転させて私に向き直る。

 ドレスの裾がふわりと揺らぎ、視線は私の方へ。初めて私から質問されたのが嬉しかったのか、口元には微笑みが浮かんでいる。

 ルベル公爵夫人は元王女殿下。私から見ても一つ一つの所作が美しい。
 目元にわずかに刻まれた年輪のようなシワが、夫人がこれまで生きてきた時間を象徴しているように見えて、私はかすかに目を細めた。

「わたくしに何でも聞いてちょうだい。わたくしはあなたの祖母なのだから」

 声も先ほどより明るい。どんな質問なのか期待しているのだろう。

 祖母を強調されたところで、『はぁ、そうですか』という程度に感じるくらい。それを顔に出さないようにするのに苦労する。
 期待しているところ非常に申し訳ないんだけど、私が聞きたいのは肖像画とはまったく関係のない質問だった。

 いやいや、正確にはまったくではない。肖像画のモデルになった人物に関する質問だったので。

「ルベル公爵夫人。ミレニア・ルベル公爵令嬢の『本当のお墓』はここにあるのではないですか?」

 口元の笑みが一瞬、固まったように見えた。

 祖母を強調したのに『公爵夫人』と呼ばれたからか、それともお墓に関しての都合の悪い質問だからか。

 笑みが固まったのはほんの一瞬のこと。

 柔らかい笑みと口調を維持したまま、ルベル公爵夫人は私の質問に答える。

「あの子なら、王族の地下墓地で静かに眠っているわ」

 そう言って、チラッとどこかに視線を走らせた。けれど、ここは窓のない部屋。それが王城の方角かどうかはまったく分からない。

 孫と見なしている私の目の前で平然と嘘をつく人物に、私は事実を突きつけた。

「あそこに埋葬される前に、遺体がなくなったんですよね? 私、知ってますよ?」

 今度は微かに笑みが引きつる。

「このルベル公爵邸にあるのではないですか?」

 私は相手の目を真正面から見つめて、さらに追い込んだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

【完結】身代わりとなります

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。 レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。 そんなレイチェルに婚約者ができた。 侯爵令息のダニエルだ。 彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。 はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。 彼のレイチェルへの想いが同情であっても。 彼がレイチェルではない人を愛していても。 そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。 そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・ *過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんがご了承ください。

婚約破棄でお願いします

基本二度寝
恋愛
王太子の婚約者、カーリンは男爵令嬢に覚えのない悪行を並べ立てられた。 「君は、そんな人だったのか…」 王太子は男爵令嬢の言葉を鵜呑みにして… ※ギャグかもしれない

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

愛はリンゴと同じ

turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。 夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。 ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。 幾つもあるなど考えられない。

処理中です...