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9 亡魔術師の金冠編
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そして私は、『見せたいもの』について早々に言及したことを、さっそく後悔していた。
「これはミレニアが十代のころの画よ」
「はぁ」
「あなたにそっくりでしょ」
「そうですかね」
さきほどから、会話がこれの繰り返しであったから。
ルベル公爵夫人に案内されたのは、回廊のような細長い部屋。窓はなく片側の壁には等間隔で額が飾られている。すべて肖像画だった。
公爵家の部屋にしてはずいぶんと簡素な作りに見えるが、質素ではない。部屋を作っている素材は特上品。豪奢な飾りを避け、あえて作りを簡素にすることで、肖像画の存在感を引き立てているようだ。
肖像画はお母さまばかりではない。現公爵夫妻はもちろんのこと、様々な年代、様々な人物のものが飾られているので、ルベル公爵家の人物の肖像画を集めたものだと推察される。
私はその中からお母さまのものばかりを解説つきで見せられていたのだ。
「(見せたい物があるって呼び出されたわけだから、なんか、お母さま関係の重要文書とか重要遺品とか、そういう重要なものを見せてくれるのかと思っていたのに)」
ルベル公爵夫人に聞こえないよう、こっそりとつぶやくと、私の連れから反応がある。
「(どれもお嬢にそっくりですよ?)」
「(まったくです。髪の色が違うだけですよね)」
「(ええ、お嬢がたくさんいるみたいで素晴らしいです)」
肖像画の感想は聞いてないんだけど。フィリアもバルトレット卿も二人して口々に、お母さまと私のそっくりさを褒め称えてきた。まぁ、褒められて悪い気はしない。
幼い頃から結婚間際の年齢まで、様々なお母さまが肖像画になっていたので、これはこれで興味深くはあった。
肖像画のお母さまは金髪に金眼。私は黒髪に金眼。髪の色と、しいていえば目つきが違うだけ。
こうしてみると私はお母さま似だ。父親のクズ男にはあまり似ていない。似ていないことに少しホッとしていると、私の杖二人からも感想が寄せられる。
《瞳の色も少し違うけどな》
《主の色はセラゴールドだったね》
いやいやいや。肖像画なんだから。
見たままの色を忠実に再現は出来ていないでしょうに。
杖たちの声は力のある魔術師だけに聞こえる声で、今は私にだけ聞こえる大きさ。
ルベル公爵夫妻が魔術師だという話は聞かないけど、何かを心配しているのか、二人は用心する姿勢を崩さないでいた。
《そういえば主。あれを尋ねなくていいのか?》
突然、セラフィアスが私をつつく。その声かけで、私は自分の目的を思い出した。肖像画を見るのも飽きてきたし、タイミング的にもそろそろいいか。
ルベル公爵夫妻から招待されてここに来たのには、金冠を探すことともう一つ、重要な理由があったから。
私は緊張でいつもよりドキドキする胸を押さえながら、いつもと変わらない口調でルベル公爵夫人に話しかけた。
「ところで。聞きたいことがあるんですが」
「あら、何かしら?」
お母さまの肖像画に視線を向けていたルベル公爵夫人は、くるりと身体を半回転させて私に向き直る。
ドレスの裾がふわりと揺らぎ、視線は私の方へ。初めて私から質問されたのが嬉しかったのか、口元には微笑みが浮かんでいる。
ルベル公爵夫人は元王女殿下。私から見ても一つ一つの所作が美しい。
目元にわずかに刻まれた年輪のようなシワが、夫人がこれまで生きてきた時間を象徴しているように見えて、私はかすかに目を細めた。
「わたくしに何でも聞いてちょうだい。わたくしはあなたの祖母なのだから」
声も先ほどより明るい。どんな質問なのか期待しているのだろう。
祖母を強調されたところで、『はぁ、そうですか』という程度に感じるくらい。それを顔に出さないようにするのに苦労する。
期待しているところ非常に申し訳ないんだけど、私が聞きたいのは肖像画とはまったく関係のない質問だった。
いやいや、正確にはまったくではない。肖像画のモデルになった人物に関する質問だったので。
「ルベル公爵夫人。ミレニア・ルベル公爵令嬢の『本当のお墓』はここにあるのではないですか?」
口元の笑みが一瞬、固まったように見えた。
祖母を強調したのに『公爵夫人』と呼ばれたからか、それともお墓に関しての都合の悪い質問だからか。
笑みが固まったのはほんの一瞬のこと。
柔らかい笑みと口調を維持したまま、ルベル公爵夫人は私の質問に答える。
「あの子なら、王族の地下墓地で静かに眠っているわ」
そう言って、チラッとどこかに視線を走らせた。けれど、ここは窓のない部屋。それが王城の方角かどうかはまったく分からない。
孫と見なしている私の目の前で平然と嘘をつく人物に、私は事実を突きつけた。
「あそこに埋葬される前に、遺体がなくなったんですよね? 私、知ってますよ?」
今度は微かに笑みが引きつる。
「このルベル公爵邸にあるのではないですか?」
私は相手の目を真正面から見つめて、さらに追い込んだ。
「これはミレニアが十代のころの画よ」
「はぁ」
「あなたにそっくりでしょ」
「そうですかね」
さきほどから、会話がこれの繰り返しであったから。
ルベル公爵夫人に案内されたのは、回廊のような細長い部屋。窓はなく片側の壁には等間隔で額が飾られている。すべて肖像画だった。
公爵家の部屋にしてはずいぶんと簡素な作りに見えるが、質素ではない。部屋を作っている素材は特上品。豪奢な飾りを避け、あえて作りを簡素にすることで、肖像画の存在感を引き立てているようだ。
肖像画はお母さまばかりではない。現公爵夫妻はもちろんのこと、様々な年代、様々な人物のものが飾られているので、ルベル公爵家の人物の肖像画を集めたものだと推察される。
私はその中からお母さまのものばかりを解説つきで見せられていたのだ。
「(見せたい物があるって呼び出されたわけだから、なんか、お母さま関係の重要文書とか重要遺品とか、そういう重要なものを見せてくれるのかと思っていたのに)」
ルベル公爵夫人に聞こえないよう、こっそりとつぶやくと、私の連れから反応がある。
「(どれもお嬢にそっくりですよ?)」
「(まったくです。髪の色が違うだけですよね)」
「(ええ、お嬢がたくさんいるみたいで素晴らしいです)」
肖像画の感想は聞いてないんだけど。フィリアもバルトレット卿も二人して口々に、お母さまと私のそっくりさを褒め称えてきた。まぁ、褒められて悪い気はしない。
幼い頃から結婚間際の年齢まで、様々なお母さまが肖像画になっていたので、これはこれで興味深くはあった。
肖像画のお母さまは金髪に金眼。私は黒髪に金眼。髪の色と、しいていえば目つきが違うだけ。
こうしてみると私はお母さま似だ。父親のクズ男にはあまり似ていない。似ていないことに少しホッとしていると、私の杖二人からも感想が寄せられる。
《瞳の色も少し違うけどな》
《主の色はセラゴールドだったね》
いやいやいや。肖像画なんだから。
見たままの色を忠実に再現は出来ていないでしょうに。
杖たちの声は力のある魔術師だけに聞こえる声で、今は私にだけ聞こえる大きさ。
ルベル公爵夫妻が魔術師だという話は聞かないけど、何かを心配しているのか、二人は用心する姿勢を崩さないでいた。
《そういえば主。あれを尋ねなくていいのか?》
突然、セラフィアスが私をつつく。その声かけで、私は自分の目的を思い出した。肖像画を見るのも飽きてきたし、タイミング的にもそろそろいいか。
ルベル公爵夫妻から招待されてここに来たのには、金冠を探すことともう一つ、重要な理由があったから。
私は緊張でいつもよりドキドキする胸を押さえながら、いつもと変わらない口調でルベル公爵夫人に話しかけた。
「ところで。聞きたいことがあるんですが」
「あら、何かしら?」
お母さまの肖像画に視線を向けていたルベル公爵夫人は、くるりと身体を半回転させて私に向き直る。
ドレスの裾がふわりと揺らぎ、視線は私の方へ。初めて私から質問されたのが嬉しかったのか、口元には微笑みが浮かんでいる。
ルベル公爵夫人は元王女殿下。私から見ても一つ一つの所作が美しい。
目元にわずかに刻まれた年輪のようなシワが、夫人がこれまで生きてきた時間を象徴しているように見えて、私はかすかに目を細めた。
「わたくしに何でも聞いてちょうだい。わたくしはあなたの祖母なのだから」
声も先ほどより明るい。どんな質問なのか期待しているのだろう。
祖母を強調されたところで、『はぁ、そうですか』という程度に感じるくらい。それを顔に出さないようにするのに苦労する。
期待しているところ非常に申し訳ないんだけど、私が聞きたいのは肖像画とはまったく関係のない質問だった。
いやいや、正確にはまったくではない。肖像画のモデルになった人物に関する質問だったので。
「ルベル公爵夫人。ミレニア・ルベル公爵令嬢の『本当のお墓』はここにあるのではないですか?」
口元の笑みが一瞬、固まったように見えた。
祖母を強調したのに『公爵夫人』と呼ばれたからか、それともお墓に関しての都合の悪い質問だからか。
笑みが固まったのはほんの一瞬のこと。
柔らかい笑みと口調を維持したまま、ルベル公爵夫人は私の質問に答える。
「あの子なら、王族の地下墓地で静かに眠っているわ」
そう言って、チラッとどこかに視線を走らせた。けれど、ここは窓のない部屋。それが王城の方角かどうかはまったく分からない。
孫と見なしている私の目の前で平然と嘘をつく人物に、私は事実を突きつけた。
「あそこに埋葬される前に、遺体がなくなったんですよね? 私、知ってますよ?」
今度は微かに笑みが引きつる。
「このルベル公爵邸にあるのではないですか?」
私は相手の目を真正面から見つめて、さらに追い込んだ。
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