運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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9 亡魔術師の金冠編

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 最高の夫宣言をしたグレイはダダダッと走り出したかと思うと、その勢いのまま金冠に突っ込んでいく。

 グレイに対峙する金冠=マリネは、マリネの姿ではあるけど、お母さまの使用人をしていた時のマリネとは雰囲気がまるで違っていた。
 口元は穏やかな慈愛の微笑みをたたえていても、目は冷え冷えとしていて極寒の視線をグレイに向けている。

「グレイ。私が金冠を殴ってボコボコにするんじゃないかと心配して、ここに来たのかなぁ」

 正体が金冠だとしても、私がマリネをボコボコするはずがないのに。

 王都にいるのに会いに来てくれなかったのは、正直、悲しく思ったけれど。きっとマリネにはマリネの事情があったと思う。

 て。

 もろもろのことを話してもらいたいのに、グレイとマリネの決着がつかないとダメなヤツ?

「そもそもどうして、マリネ、金冠とグレイがバチバチやってるわけ?!」

 グレイは勢いのままマリネに突っ込むのかと思いきや、マリネと距離を保って立ち止まっていた。

「資格云々って言っていただろ」

 マリネとは違う冷たい視線が私に向けられる。いつの間にか顕現していたのか、セラフィアスが私の右隣に立っていた。

「あれって私に言ったんじゃなかったの?」

 私の至って当然な質問に、セラフィアスがはぁぁぁとため息をつく。ため息は反対側からも聞こえてきた。

「クラティオンの魔力圧が、主じゃないところを狙っていた時点で違うって気づきなよ、主」

 左隣に顕現したクラヴィスが聞き慣れない名前を交えて説明する。クラティオン?

 すかさず、セラフィアスも説明をかぶせてきた。

「安寧のクラティオン。金冠の正式名称だ」

「魔導具としては僕らと同格だね」

 セラフィアスもクラヴィスも視線をマリネとグレイに向け、どこか寂しそうな顔をするのだった。




 見物している私の杖たちがしんみりとしている反面、対峙しているグレイとマリネは一触即発の雰囲気。

「ともかく。お母さまの話を私は聞きたいのに!」

 到底、聞ける雰囲気ではなくなっている。

 そういえば、この場には相変わらずルベル公爵夫人もいて、突然現れたグレイに警戒心を露わにしていた。

 視線が合うと、グレイのことだけでなく、セラフィアスやクラヴィスのことまで根掘り葉掘り。
 挙げ句の果てにはグレイのことが気に入らなかったのか、いらないことまで持ち出してきた。

「エルシアちゃん、婚約者を変えたらどうかしら。隣国に、エンデバードの血筋の素敵な男性がいるんだけれど」

「そいつ、寝ている女性の部屋に押し入ろうとして騒ぎを起こした人なんで。絶対に、ムリです」

 ズバッと告げ口する。

 当然、自分に不利な話(しかも罪をうやむやにした話)を公爵夫人にしているはずもなく。
 公爵夫人は「まさか」と言って目を白黒。それ以上、言葉が出てこなくなった。

 この人、招待に応じる前からグレイとの婚約に文句をつけていたので、きっと、エンデバード卿との婚約を考えていたに違いないけど。
 エンデバード卿の経歴がそんな残念なものだとは思ってもいなかったようだ。

 事前調査って重要だよね。

「その点、グレイは……」

 あれ? グレイはもっとヤバいことをしているような?

「そうね。ニグラート辺境伯令息は堅物という話ですものね」

 私が言葉に詰まっている様子を見て、なにやら、納得し始めた公爵夫人。

「魔物を相手にするかなり粗暴な男性だと聞いていたけれど、エルシアちゃんが慕っているのなら、安心できる方なのね」

 私の沈黙を勝手に解釈する公爵夫人に対して、「いえ。ある意味、一番危険な人物ですけど」と言いたいのをぐっと我慢する。

 そうだ。我慢だ、私。
 わざわざ、グレイのヤバいところを知らしめる必要はないわ。

 汗ばむ手を握りしめて、私は笑みを返した。私の笑顔に気を良くしたのか、公爵夫人は聞いてもいないことを語り始める。

「前アルゲン大公妃とわたくし、仲がよろしかったのよ。それもあって、ミレニアとアルゲン大公子との婚約が整ったのだから」

 これはお母さまの最初の婚約の話だ。クズ男と結婚する前の。この時のお母さまは幸せの山に登って、頂上を目指していた。

 そのお母さまは今、目を閉じて口も閉ざして、ガラスの棺に横たわるだけ。

 まるで生きているようにも見える。

 どんな力が働いているのかは、残念ながら私の金眼では分からなかった。

 だから、お母さまのことを早くマリネから聞きたいのに、マリネはグレイと睨み合っていて、私に話をする余裕もなさそうだった。

「それで、マリネの言う資格って何のことなの?」

「それは、この流れからすると、主の伴侶となる資格だろ」

「この流れって」

 私はマリネを見て、それからルベル公爵夫人を見た。

「ルベル公爵夫人はグレイのことが気に入らないから、反対してるんだよね?」

「ニグラートが北の果てだから、気に入らないんじゃない?」

「でも、グレイのお祖母さま、前アルゲン大公妃ってニグラート辺境伯家出身の人でしょ?」

 私の疑問にセラフィアスとクラヴィスが交互に答える。

「ニグラート辺境伯が嫌いなんじゃなくて、ニグラート辺境伯領が嫌いなんだろ」

「直系の孫娘が遠い辺境に行くってなると、心配になるよね」

「魔物と魔獣だらけだしな」

 あぁ。そういうことか。

 ニコニコと微笑みを浮かべてマリネとグレイを見る公爵夫人。うん、バチバチやってる人たちを見て微笑むっていう感覚は、私には理解できないけど。夫人が私のことを心配して、グレイとの婚約を反対したということは理解が出来た。

 そりゃ心配にもなるだろう。ニグラート辺境伯領は世界の穴が空く辺境の地。魔物や魔獣の脅威にさらされている場所なのだから。それに冬の寒さも厳しい。ニグラートは過酷な土地だった。

 そんな土地で、人々は強く生きている。

 そんな土地だから、私もグレイといっしょに守っていこうと思ったのだ。

 でも。

 王女として生まれ育ち、公爵夫人として生きているこの人にしてみれば、辺境の危険な土地としか思えないのだろう。

 私のことを心配しての、行動だったんだ。

 そして、マリネの様子からすると、ルベル公爵家がいまさら私に接触してきたのにも、何か理由があるみたいだし。

 うん。やっぱり早くマリネから話を聞かないと、分からないことだらけだわ。

 で。

 あの二人。グレイとマリネはいつまで対決しているつもりなわけ?

 私もそろそろ我慢が出来なくなってきた。
 元々、そんなに気は長くない。

「グレイもマリネもいい加減にして!」

 私の叫び声が辺りに響いた。

 次の瞬間。

 マリネの視線が私に向けられたかと思うと、間髪入れず、マリネから光る何かが飛び出す。

「「主!」」

 グレイと対峙していると見せかけて、狙いはやっぱり私だった?!

 でも、この程度、私なら問題はない。

 そう思って、右手を前に出す。

 が、

「魔法陣が出てこない?!」

「「主!」」

 あ。直撃する。

 目前に迫る光が世界を白く染めた。

 その中で私が最後に見たのは、大きな黒い影。私を守る黒い壁のような、グレイの背中だった。
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