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9 亡魔術師の金冠編
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団長室での会話から一時間後。
「長生きはするものだな」
「まったくだ。他のヤツらに自慢できる」
私は好奇な視線に晒されていた。
正確には、私とグレイの二人が。
「生きているうちに、エルシアちゃんとグレイアドのツーショットをお目にかかれるとはな」
「あれがかの有名な北の最凶ペアか」
私とグレイに遠慮なく、好奇な、そして生暖かい視線を向けるおじさんたち。『北の最凶ペア』というありがたくもない二つ名まで付けられてるし。
しかしこのおじさんたち。当然だけど、ただのおじさんたちではない。
彼らはアルバヴェスペル。王宮勤めを引退した後、その実力を買われ、今もなお陰に日向に王国のために働いている人たちだ。
とくに、三聖の展示室に配属されてるおじさんは、現役時代は情報通で知られていた人たちが勢揃いしている。味方につければ心強いことこの上ないが、敵に回せば空恐ろしい。
そんなおじさんたちに好奇の目で見られているせいか、少し居心地が悪く感じる。
久しぶりの見学会担当で少し緊張しているという以上に、おじさんたちの視線が気になる私だった。
「ねぇ、グレイ。もの凄く見られてるんだけど」
「それはそうだろ。俺たちは誰もが見惚れるほどお似合いだからな」
「いや、そういう問題?」
もう一人の担当のグレイはぜんぜん気にならない様子だったけど。
地獄耳なんだから、絶対に『最凶』という言葉は聞こえているはずなのに。まさか『ペア』とか『ツーショット』とかいう言葉に惑わされているだけなのではなかろうか。
今、三聖の展示室に、私とグレイはやってきていた。
百戦錬磨のおじさんたちの視線を浴び、右も左も分かっていない一般人の見学者を引き連れて。
そう。
けっきょく、私は見学会の案内係を久しぶりに担当していたのだ。
以前、担当したときと大きく異なるのは、いっしょに担当する相方がクラウドではないということ。今の相方は、
「しかし、グレイアドが見学会の担当を務めるとはな」
「担当の誘導係というより、エルシアちゃんのボディーガードだな」
おじさんたちから訝しげな声があがるほど『案内係』という仕事が似合わない男、グレイ。
うん、頭が痛い。
確かに、おじさんたちの言うとおり。
誘導係というより、私のボディーガードと言った方がしっくりくるし、警備を担当した方がよほど似合ってるかも。
だがしかし。
頑なに私のそばを離れようとしないグレイ。
私の護衛として第三騎士団に来ているのだから当然と思うかもしれないけど、もう一人の私の護衛、バルトレット卿はそばにいない。いないどころか、三聖の展示室に来ていない。
どこにいるのかといえば、団長室。
団長室でパシアヌス様を手伝っての書類整理。
いいのか、それ。
私は自然と天井を仰ぎ見た。
三聖の展示室を囲って作られた建物の天井は、思いの外、高かった。
いやいや、現実に戻ろう私。
本物の三聖の展示室に入る前に、見学者はおじさんたちに手荷物を預ける。
その案内を行って、その隙に私はおじさんたちを少し落ち着かせることにした。このままではおじさんたちが暴走しそうだし。
それに、フォセル嬢が復帰するまでは、こうして私が案内係を行う感じのようなので、おじさんたちによろしくと挨拶でもしようと思って。
グレイの腕を引っ張って、いっしょにおじさんたちに挨拶すると、おじさんたちは少しだけ静かになった。
この時につい口にしてしまったのが、この話題。
「ツーショットとか言われてるけど、闘技会でも、グレイといっしょに出場していたはずなのに」
おじさんたちの会話で、この話題が、どうしても解せなかったので。
第三騎士団の中では、私は護衛二人を連れていたので、グレイと二人きり=ツーショットになることは滅多になかった。だから、あながち、おじさんたちの話は間違いではない。
ただし、これは闘技会以前の話。
闘技会のルール上、私とグレイがともに出場するとなると大幅にペナルティーを食らう。食らった結果、私とグレイ、二人だけでの出場となった試合があった。
アルバヴェスペルのおじさんたちも、あの試合はチェックしていたようなので、ツーショット云々の言葉が出るのがとても不思議に思ったわけだ。
私のつぶやきを聞いて、おじさんたちも首を傾げて、反対にいろいろ言ってくる。
「あれは戦いだろう、エルシアちゃん」
「戦いはツーショットとは言わんだろう、エルシアちゃん」
「ツーショットと言えばデートだろう、エルシアちゃん」
謎の三段論法で諭しにくるおじさんたち。
「今回はデートじゃなくて仕事だけど」
と反論しても、聞く耳を持たない。
「あのグレイアドが、エルシアちゃんをエスコートして鼻の下を伸ばしてるとはな」
「あのグレイアドが、エルシアちゃんをエスコート出来てにやけているとはな」
「聞いちゃいない」
おじさんたちは楽しんでいた。
「デートコースに選んだのが、三聖の展示室とはなかなか渋いの」
「まったくだ。おかげで間近で見物できるがな」
「だーかーらー、仕事なんだって! 三聖の展示室の見学会の!」
私はとうとうキレた。
これが私の我慢の限界だった。
「「は?!」」
聞き返す声がぴったり揃うのは、今も一時間前も同じか。
一時間前。グレイはあっさりと、三聖の展示室の案内係を引き受けた。その交換条件として出したのが、
「シアの相方は俺がやる」
という、グレイの案内係参戦宣言。
「俺が相方なら問題ないよな、シア」
呑気なグレイとは打って変わって、団長たちは慌て出す。
「それはそれで問題だらけだなぁ」
「おい、グレイアド。案内係が何をするのか分かってるのか?」
聞きようによってはかなり失礼な言い方だけれど、聞いてくるのも分かるような気がする。
「三聖の展示室の見学会だろ? 任せろ、得意分野だ」
無駄に胸を張って、威張るグレイ。
「お前の得意分野は戦闘と謀略だろうが」
「ダメだ。この世が終わる」
頭を抱える団長たちを横目で見ながら、私は深く考えずに答えを出してしまった。
「まぁ。グレイとペアで見学会をやってもいいじゃないですか」
「お前たちが良くても、見学会がメチャクチャになるだろうが」
即座に反対されたけど。
「グレイ。こう見えて意外と無害ですよ?」
「ルベラスにだけはな」
私もこの時点でもっと深く真剣に考えておけば良かったのに。
この時の私は、グレイがしでかすことをよく分かっていなかった。
「長生きはするものだな」
「まったくだ。他のヤツらに自慢できる」
私は好奇な視線に晒されていた。
正確には、私とグレイの二人が。
「生きているうちに、エルシアちゃんとグレイアドのツーショットをお目にかかれるとはな」
「あれがかの有名な北の最凶ペアか」
私とグレイに遠慮なく、好奇な、そして生暖かい視線を向けるおじさんたち。『北の最凶ペア』というありがたくもない二つ名まで付けられてるし。
しかしこのおじさんたち。当然だけど、ただのおじさんたちではない。
彼らはアルバヴェスペル。王宮勤めを引退した後、その実力を買われ、今もなお陰に日向に王国のために働いている人たちだ。
とくに、三聖の展示室に配属されてるおじさんは、現役時代は情報通で知られていた人たちが勢揃いしている。味方につければ心強いことこの上ないが、敵に回せば空恐ろしい。
そんなおじさんたちに好奇の目で見られているせいか、少し居心地が悪く感じる。
久しぶりの見学会担当で少し緊張しているという以上に、おじさんたちの視線が気になる私だった。
「ねぇ、グレイ。もの凄く見られてるんだけど」
「それはそうだろ。俺たちは誰もが見惚れるほどお似合いだからな」
「いや、そういう問題?」
もう一人の担当のグレイはぜんぜん気にならない様子だったけど。
地獄耳なんだから、絶対に『最凶』という言葉は聞こえているはずなのに。まさか『ペア』とか『ツーショット』とかいう言葉に惑わされているだけなのではなかろうか。
今、三聖の展示室に、私とグレイはやってきていた。
百戦錬磨のおじさんたちの視線を浴び、右も左も分かっていない一般人の見学者を引き連れて。
そう。
けっきょく、私は見学会の案内係を久しぶりに担当していたのだ。
以前、担当したときと大きく異なるのは、いっしょに担当する相方がクラウドではないということ。今の相方は、
「しかし、グレイアドが見学会の担当を務めるとはな」
「担当の誘導係というより、エルシアちゃんのボディーガードだな」
おじさんたちから訝しげな声があがるほど『案内係』という仕事が似合わない男、グレイ。
うん、頭が痛い。
確かに、おじさんたちの言うとおり。
誘導係というより、私のボディーガードと言った方がしっくりくるし、警備を担当した方がよほど似合ってるかも。
だがしかし。
頑なに私のそばを離れようとしないグレイ。
私の護衛として第三騎士団に来ているのだから当然と思うかもしれないけど、もう一人の私の護衛、バルトレット卿はそばにいない。いないどころか、三聖の展示室に来ていない。
どこにいるのかといえば、団長室。
団長室でパシアヌス様を手伝っての書類整理。
いいのか、それ。
私は自然と天井を仰ぎ見た。
三聖の展示室を囲って作られた建物の天井は、思いの外、高かった。
いやいや、現実に戻ろう私。
本物の三聖の展示室に入る前に、見学者はおじさんたちに手荷物を預ける。
その案内を行って、その隙に私はおじさんたちを少し落ち着かせることにした。このままではおじさんたちが暴走しそうだし。
それに、フォセル嬢が復帰するまでは、こうして私が案内係を行う感じのようなので、おじさんたちによろしくと挨拶でもしようと思って。
グレイの腕を引っ張って、いっしょにおじさんたちに挨拶すると、おじさんたちは少しだけ静かになった。
この時につい口にしてしまったのが、この話題。
「ツーショットとか言われてるけど、闘技会でも、グレイといっしょに出場していたはずなのに」
おじさんたちの会話で、この話題が、どうしても解せなかったので。
第三騎士団の中では、私は護衛二人を連れていたので、グレイと二人きり=ツーショットになることは滅多になかった。だから、あながち、おじさんたちの話は間違いではない。
ただし、これは闘技会以前の話。
闘技会のルール上、私とグレイがともに出場するとなると大幅にペナルティーを食らう。食らった結果、私とグレイ、二人だけでの出場となった試合があった。
アルバヴェスペルのおじさんたちも、あの試合はチェックしていたようなので、ツーショット云々の言葉が出るのがとても不思議に思ったわけだ。
私のつぶやきを聞いて、おじさんたちも首を傾げて、反対にいろいろ言ってくる。
「あれは戦いだろう、エルシアちゃん」
「戦いはツーショットとは言わんだろう、エルシアちゃん」
「ツーショットと言えばデートだろう、エルシアちゃん」
謎の三段論法で諭しにくるおじさんたち。
「今回はデートじゃなくて仕事だけど」
と反論しても、聞く耳を持たない。
「あのグレイアドが、エルシアちゃんをエスコートして鼻の下を伸ばしてるとはな」
「あのグレイアドが、エルシアちゃんをエスコート出来てにやけているとはな」
「聞いちゃいない」
おじさんたちは楽しんでいた。
「デートコースに選んだのが、三聖の展示室とはなかなか渋いの」
「まったくだ。おかげで間近で見物できるがな」
「だーかーらー、仕事なんだって! 三聖の展示室の見学会の!」
私はとうとうキレた。
これが私の我慢の限界だった。
「「は?!」」
聞き返す声がぴったり揃うのは、今も一時間前も同じか。
一時間前。グレイはあっさりと、三聖の展示室の案内係を引き受けた。その交換条件として出したのが、
「シアの相方は俺がやる」
という、グレイの案内係参戦宣言。
「俺が相方なら問題ないよな、シア」
呑気なグレイとは打って変わって、団長たちは慌て出す。
「それはそれで問題だらけだなぁ」
「おい、グレイアド。案内係が何をするのか分かってるのか?」
聞きようによってはかなり失礼な言い方だけれど、聞いてくるのも分かるような気がする。
「三聖の展示室の見学会だろ? 任せろ、得意分野だ」
無駄に胸を張って、威張るグレイ。
「お前の得意分野は戦闘と謀略だろうが」
「ダメだ。この世が終わる」
頭を抱える団長たちを横目で見ながら、私は深く考えずに答えを出してしまった。
「まぁ。グレイとペアで見学会をやってもいいじゃないですか」
「お前たちが良くても、見学会がメチャクチャになるだろうが」
即座に反対されたけど。
「グレイ。こう見えて意外と無害ですよ?」
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この時の私は、グレイがしでかすことをよく分かっていなかった。
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