運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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1 王女殿下の魔猫編

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「以上で、報告を終わります」

 私の報告が終わると一瞬、室内が静まり返る。

 しばらくしてから、低い落ち着いた声が私の報告に反応してくれた。

「事態収拾のためとはいえ、これまた、派手にやったねぇ」

「派手にやったねぇ、じゃありませんよ、団長! エルシア・ルベラス、これで何回目だと思ってるんだ!」

 続いて怒鳴り声とともに、バシンと手のひらが机に叩きつけられる。

 うっ。

 と、反射的に肩をすくめてしまったけど、呼び出されて怒鳴られるのも、もう三回目だからだいぶ慣れたし。元より怖いとは思っていない。

 私に怒鳴り声を、机に手のひらを叩きつけたのは、目の前に座っていた男性。
 顔も身体も厳つくて、普通のか弱いご令嬢なら視線が合っただけで倒れそう。

 良かったわ、私、か弱くなくて。

 こんなむさ苦しい場所で倒れたくなんてないわ。

 怒鳴り声を上げた男性は、最初は席についていたのが、怒鳴った拍子に腰を浮かせる状態になっていた。

「さぁ?」

 もちろん私はケロッとしながら、普通に言葉を返す。正直に返したら、もっと怒鳴られそうなので、適当に濁す。ついでに首も傾げてみる。

 傾げたちょうどその瞬間に、怒鳴ってカッカする男性の隣で静かにしている男性と目があった。

 やれやれといった感じの静かな男性は、頬杖をついて、口を開く。

「うーん、三回目だねぇ」

「そうでしたっけ」




 ここは第三騎士団の団長室。

 平然として静かな方が第三騎士団の団長、サイラス・ヴァンフェルム卿で、怒鳴って顔真っ赤な方が第五隊の隊長、私の上司の一人であるベルサリオ・クストス卿だった。

 ちなみに、どちらも顔も身体も厳つくて、令嬢受けどころか女子全般に受けなさそう。

 私はあの騒動の後、お風呂に入って汚れと疲れを落とし、ご飯を食べて満足し、気持ち良く展示室を修復してから、ここに呼び出されていた。

 三聖の部屋担当だった警備の騎士二人は、先に呼び出されて報告を行っていたようだ。私が団長室の扉を叩いたときに、入れ替わるようにして中から出てきたから。

 黙礼して、二人とすれ違う。

 次に私が入ろうとしたところに、クラウドもやってきて、今ここにいっしょにいるという。

「三回目、三回目だぞ、エルシア・ルベラス!」

 なのに、怒鳴られているのは私だけ。

 まぁ、三聖の祭壇を両断したのは私だからだけど。あれだって、ちゃんと直したし。だいたい、迷惑男と猫を捕縛できたのは私のおかげなのに。

「フルネームで怒鳴らなくても、私のことだって分かってますし。聞こえてますし」

「ならもっと反省しろ! 同じことを繰り返すな!」

 あー、うるさい。

 クストス隊長もクラウドも、どうしてこうもうるさい人に囲まれてるのかな、私。

「悪いことをしようとする人たちがいなければ、いいだけの話ですけど」

「どう考えたって、やり過ぎだろう! 加減しろ、加減!」

「やり過ぎですか? 本当に?」

 私はクストス隊長に言い返した。

 ヴァンフェルム団長は、私とクストス隊長のやり取りをおもしろそうな目をして眺めている。

「あの猫。魔獣でしたけど」

「魔獣?」

 報告書はこれから作るから、口頭での報告になるけど、あの猫は紛れもなく魔獣だったのだ。

 あれが魔獣となると、すべてのつじつまが合う。

 突然あの部屋に現れたこと。飼い猫の首輪をしてなかったこと。そして、魔力を発していたこと。

「はい、猫型の魔獣です」

「カタリグヌン、かな?」

「おそらく」

 ヴァンフェルム団長とクストス隊長、二人揃って動きを止めた。

 しかも、あの魔猫は、誰かに召喚された魔獣だったのだ。

「いったい、誰が召喚したんですかね、あれ」

 団長やクラウドはもとより、怒鳴っていた隊長も黙り込んでしまった。




 猫以外はとても単純なものだった。

「窃盗犯二名は、最初から盗むつもりはなく、下見でやってきたようでした」

 こちらの報告はクラウドが行った。私がお風呂と食事をしている間、尋問を行ったそうなので。まったく、よく働くヤツである。

「自分たち以外の見学会の参加者が、ちょうど都合が良かったため、急遽、実行に移したようです」

 計画が練れていなかったのは、そういった理由だったんだ。
 私はクラウドとは別行動だったので、この話は初めて聞く。

「下位貴族の子弟五人を焚きつけて剣を狙わせた隙に、自分たちは鞘を盗む。その後、高位貴族の令嬢を人質にして逃げる。という算段だったとのことです」

 練れていないどころか、行き当たりばったり感が凄い。
 それでも、剣ではなく鞘を狙うとは。狙いどころは申し分なかったかも。

「その計画を、魔猫とぶっ飛んだ魔術師に潰されたというわけかぁ」

「ウンウン頷いている場合ではありませんよ、団長!」

 サラッと私のことを、ぶっ飛んだなんて言わないでほしいわ。

「そうだけどなぁ。ルベラス君の言うように、問題を起こしたのは参加者だし。ルベラス君がぶっ潰してくれたわけだし」

「ついでに、三聖の部屋も潰しましたけど!」

「壊れたところは責任を持って、ルベラス君が修復してくれたじゃないか」

「それは当然でしょう! うちのエルシアは魔術師の腕だけは優秀ですから!」

 頑張ったのに酷い言われようだ。




「クストス隊長って、私のこと、嫌ってるよね」

 気まずい空気感の中、ひそひそと隣のクラウドに話しかける。もちろん、前は向いたまま。

「そうか? あぁ見えて、エルシアのことは大事にしていると思うけどな」

 前を向いたままのクラウドから、ひそひそ声が返ってきた。

 団長と隊長はなんか、揉めている。

「やたら、当たりが強くない?」

「配属半月で、すでに始末書が三回目、だからだろ?」

「……………………ふん」

 まぁ、それは事実なので、私は言葉に詰まり、サッと横を向く。

「そのケンカっ早い性格、なんとかしろ」

「煽るヤツが悪いんでしょ」

「我慢を覚えろって言ってるんだよ。クストス隊長じゃないけど、本当、放っておけないよな、お前」

 性格軽そうなやつに、説教されたり心配されるほど、私はダメな人間ではないんだけどな。

 そう思いながら、あれこれともめ続けている団長と隊長に、再び視線を向ける。二人の話し合いは、まだまだ終わりそうもなかった。

 


 しばらく経っても、二人は揉めたまま。
 私とクラウド、ここにいる必要ないよね。

 思い切って、話を切りだす。

「あの、それで、今日は定時で帰りたいんですが。保護者が襲来するんで」

「エルシア、襲来ってどういう表現だ。お前の親は自然災害か?」

 ビクッ

「親じゃないから。保護者だから」

 親という単語に身体が硬直した。視界が狭まる。顔から血の気が引いてるようにも感じもした。
 動揺したせいか、隊長に対して、とっさにタメ口を使ったことに後から気付く。

「おい、大丈夫か。真っ青だぞ」

 クラウドの心配そうな声。
 どうやら私の顔は周りから見て、かなりヤバいらしい。
 団長も隊長も驚いたような顔で、私を見ていた。

 慌てて言い繕う。

「私、平民なので。だから、後ろ盾というか身元引受人というか、そういうのが必要で。その役割をしてくれる人を『保護者』と呼んでるだけなので」

 一瞬の間があってから、

「なるほど。ってなるか! 保護者が来るから定時で帰るなんてあるか!」

「保護者って…………あぁ。それなら仕方ないね。ルベラス君、明日は休養日だよね。反省文は明後日、出して」

「って団長!」

 団長がさきほどと変わりない様子で応じてくれた。
 団長は親切にも、反省文という名の始末書を提出する期限を延ばしてくれる。うん、良い人だ。

「ルベラス君の保護者、冗談抜きで超災害級だから」

「だからって、甘くないですか?!」

「いや全然。災害の犠牲になるのはルベラス君だけで十分だから。第三騎士団まで被害を被りたくないから」

 うん、ちょっと違った。自分が実害を被りたくないだけだった。

 まぁ、暴風雪のような人だけど、基本的には団長のように大らかだ。隊長やクラウドの方がよほど厳しいし、口うるさい。

「それじゃ、良い休日を。保護者殿にもよろしく伝えてくれ」

 私とクラウドは一礼して、扉に向かった。

 扉にたどり着く前に、私たちの背中に、団長の思い出したかのような声がかけられる。

「それと、ルベラス君が捕らえたカタリグヌン。逃がしちゃったんだよ」

「はい?! 誰が逃がしたんです?!」

 二人揃ってくるっと振り返ると、ビクッと大げさに反応するクストス隊長の姿が、目に付いた。

「まさか、クストス隊長ですか?!」

「いや、その、ただの猫かと思って」

 いや、見た目はね。
 良いタイミングでクラウドが追撃してくれる。

「エルシアより、クストス隊長の方こそ始末書じゃないですか?」

「面目ない」

 シュンとなる隊長。自分の非を認めて謝れる人ではある。だから、怒る気も失せてしまった。

「まぁまぁ、そういうことだから。クストス君は今日、反省文を書いてね」

 こうして、呼び出しも無事終了。私は午後の業務を終えたら、休養日に突入となる。

 一日しっかり休んで、明後日からまたバリバリ働こう。

 そう、胸に誓った。
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