運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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1 王女殿下の魔猫編

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 いやいや、私の呼び方なんてどうでも良かった。

「そんなことより、本当にそれ、魔猫なんだけど」

「すまん、エルシア。冗談だなんて決めつけて。兄貴は無礼なヤツなんだ」

「俺だって礼儀はわきまえている。その上で相応の扱いをしているだけだ。適正さに問題はない」

 私が二回も、魔猫を口にしているのに、今度は話題が礼儀問題にすり替わった。

 まぁ、ヴォードフェルム隊長が失礼なヤツなのも問題だけど、今の問題は標的が魔猫だということなのに。

 信じてもらえない様子を見かねたのか、ソニアが横から口を挟む。

「ヴォードフェルム隊長。それ、本当に魔猫ですわ」

「何?! それは本当なんだな、カエルレウス嬢!」

 だーかーらー

 私がそう言ってるのに!

 にしても、ヴォードフェルム隊長、なんだか必要以上に驚いているような気が。

「エルシアの言うとおり、ただの猫ではありませんわ。だからこそ、エルシアを呼んだわけですから」

「どういうことだ?!」

「隊長、大変です! 猫が!」

 ヴォードフェルム隊長が私たちとの会話に気を取られていた隙に、追い立てられていた魔猫がついに正体を現したようだ。

 第一騎士団の騎士が叫ぶように、ヴォードフェルム隊長を呼ぶ。

 騎士が騒いでいる方には、第一騎士団と第三騎士団の騎士たちが何重にも群がり、黒い大きな物体を取り囲んでいた。

 グルルルルルルルルル

 低いうなり声が辺りに響く。
 
「ほら、魔猫でしょ」

 うなり声とともに、むせるような魔力圧も感じた。

 巨大化した魔猫、正確には小型化していた魔猫が元の姿に戻っただけだろうけど。その巨大魔猫が金色の瞳を光らせて、おまけに毛を逆立てて、辺りを牽制している。 

「カタリグヌンですわね。…………でもまだ、契約できてない様子ですが」

 ソニアの発言の後半は、小さなつぶやくような声だった。

「契約? 何の話だ?」

 その小さなつぶやきを、フェリクス副隊長が拾い上げる。
 フェリクス副隊長は私たちを守ってくれているのか、まだ、すぐそばにいた。

「あの種類の魔猫は、通常、野生の魔猫じゃないの。誰かから召喚されて呼び出されるわけ」

「そして召喚された魔獣は、通常なら、すぐに召喚者と主従契約を結ぶものなのですが……」

「うん。この魔猫、未契約だわ」

 王女殿下に召喚されたなら、召喚されてすぐ、主従契約を結んでいるはずなのに。

 魔猫と召喚者を結ぶ糸が、どこにも見られない。

 落ち着いてよくよく考えてみると、おかしなことはもう一つあった。

「ソニア、最初から気づいてたんでしょ」

 私はソニアをチラッと見た。
 私の隣に立つソニアは、当然のごとく、落ち着き払っている。

 もっとも、魔猫くらいでソニアが慌てることはないけど。それにしたって、最初から分かっていた雰囲気だ。

 ソニアは私の方へ顔を向けると、肩をすくめる動作をする。

「第三騎士団のダイモス魔術師殿も同意見でしたわ。それで、エルシアを呼び出すことになったのですから」

「ユリンナ先輩。後輩に面倒なこと、させないで」

 はぁ。ため息しか出てこない。

 つまり、未契約の魔猫が相手になると、最初から分かっていたから、私を連れてきたってことだ。




 巨大魔猫の周りでは、隊長同士が言い争いを始めかねない様相になってきた。

「ヴォードフェルム、いったん退いて、作戦を練り直そう」

「何をバカなことを言ってる。後は捕まえるだけだろう」

「魔獣を無傷で捕獲するのが、どれだけ大変だと思ってるんだ!」

「王子殿下の話では、逃げだしたのは、ただの猫だと」

「すでに、そこから話が違ってきてるだろう。これ以上、魔猫を興奮させると、三聖の展示室にも被害が及ぶぞ!」

 うん? 王子殿下?
 王子殿下の話がなんでここに出てくるわけ?

 この魔猫逃亡騒動、まだまだ裏があるようだ。




 そこへ言い負けたのか、ヴォードフェルム隊長がケニス隊長とともに、戻ってきた。

「カエルレウス嬢、これはどういうことだか分かるか? 何か対策は?」

 巨大魔猫の周りは、今もなお、距離を取って騎士たちが囲んでいる。

 けっきょく、それ以上の手出しができず、かといってこのまま逃がすのも危険。そう判断してヴォードフェルム隊長が折れたようだ。

 ヴォードフェルム隊長も考えなしのバカではないってことだね。

 包囲はそのままで、隊長二人が魔術師の私たちの考えを聞くために戻ってきたようだ。

 フェリクス副隊長は私たちを守っているので、第一騎士団の方の副隊長が、巨大魔猫の周りの騎士たちをまとめている。

「王女殿下が召喚して契約に失敗した魔猫を、王女殿下の庭園に閉じこめていて、そこから魔猫が逃げ出した。
 というところでしょう。推測ではありますが」

「あの王女殿下にそんな力があるのか?」

 驚いたように聞き返すヴォードフェルム隊長。

 えっと。

 王女殿下って、王族の中では二番目に強い魔術師なんですけど。

 あぁ、これ。極秘情報か。

「不敬ですわ、ヴォードフェルム隊長」

「しかし」

 ソニアにたしなめられて、ヴォードフェルム隊長は不満げな声を上げた。

 負けずに言い募るソニア。

「王女殿下は名のある杖持ちで、召喚魔法を得意とされています」

「うむむむむ」

 うん、その辺の情報は、騎士団内には周知されてる。
 思い当たったようで、ヴォードフェルム隊長も黙り込んだ。

 黙り込むヴォードフェルム隊長に、ケニス隊長が声をかける。

「王女殿下を待った方が良くないか?」

「それはダメだ」

「しかし、お前が聞かされていた話と違うんだろう?」

 私がソニアに顔を向けると、ソニアは右手を顎に当て首を捻っていた。
 私の視線に気づくと、顎に手を当てたまま、ふるふると首を横に振る。

 ソニアも説明されてないのか。

「任務についての情報を、隊付きの魔術師に隠したまま任務を行うのって、ありなの?」

「通常なら、あり得ませんわね」

 ソニアの冷たい声が隊長たち、主としてヴォードフェルム隊長に突き刺さる。

 さらに私たちの視線まで加わった。

 ヴォードフェルム隊長は少し顔を赤らめると、顔に手を当てて下を向く。
 その姿勢のまま、言いにくそうに口を開いた。

「実は…………第二王子殿下からの、依頼なんだ」

 王子殿下って、第二王子殿下のことか。

 私はソニアの方をバッと見ると、ソニアも同じように私の方に顔を向ける。

「第二王子殿下が、勝手に王女殿下の庭園に入ったんだ」

 あいつ、綺麗なご令嬢連れて庭園でお茶会するの、大好きだったよねぇぇぇ。

 と、心の声が漏れそうだ。

「それで、閉じこめていた魔猫が逃げ出したんですわね」

 あの方、綺麗なご令嬢の前で良いところを見せようと、何かやらかしましたわね。

 と、ソニアの心の声が聞こえてきそう。

 ゴホン

 咳払いの主はもちろん、ヴォードフェルム隊長だ。

「ともかく。王女殿下がお戻りになる前に、猫を捕獲して庭園に戻したい」

「面倒くさ」

 あー、ヤバい。心の声が出た。
 まぁ、いいか。




「マズい! もう、もちません!」

「カニス隊長!」

 ヴォードフェルム隊長が隠し情報を吐いて、私たちの推測が事実だと察しがついたところで、騎士たちの方から、隊長たちを呼ぶ声が聞こえてくる。

 騎士たちの包囲は変わりないが、先ほどより、魔猫が一回り大きくなった。

 この調子だと、私が気になった、おかしなことのもう一つが、気のせいではなくなりそうだわ。

「エルシア。どうにかならないか? この前も魔猫を捕まえたんだろう?」

 ヴォードフェルム隊長に代わって、ケニス隊長が私にお願いを始めた。

「このままでは、騎士にも、三聖の展示室にも被害が出る。なるべく穏便な方法でなんとかならないか?」

 余計な一言がついてるのが気にくわないけど。

 でも、ケニス隊長の言うとおり、このままではいずれ被害が出そうだった。

 魔猫が完全に興奮している。

 さて、どうしようかな。準備はもう整ってはいるんだけど…………。


 グルルルルルァァァァァァァァ!


 突然、甲高いうなり声が響き渡った。

 そうでなくても、三聖の展示室の辺りは音が響きやすいのに。
 さきほどとは正反対な高音が、周囲にいた人間の耳を突き刺す。


 ガシャ バタン ドサドサッ


 様々な音を立てて、包囲の最前列にいた騎士たち全員、倒れ伏した。

 うなり声に魔力が乗ってる。

「倒れた騎士を連れて、ニメートル下がれ!」

「包囲が薄くなるが、仕方がないか」

 騎士たちがジリジリ下がるのを、体勢を低くしながら見つめる魔猫。

 包囲が薄くなるところを狙ってるんだ。

 かといって、下がらなければ咆哮の第二波がやってくるだろうし。

「マズいな」

 騎士たちがどうにもならない状況の中、事態は別の方向へ大きく動くことになる。

「あぁ、まったくだよ。予想以上にこれはマズそうだな」

 広場の奥、周囲に立つ建物の陰から現れたのは、私のよく知る人たちだった。
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