運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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1 王女殿下の魔猫編

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「えーっと、これ。どういう状況?」

「王宮魔術管理部が酷いことになってないか?」

「いやいやいや、何かの間違いだ。例年通りなら建物にはそんなに被害は出ないはずだ」

「でも、建物がガタガタだぞ」

 私たちが王宮魔術管理部のある建物に到着すると、そこは酷いありさまだった。

 綺麗に植えられていた周りの木々は、倒れて根元が持ち上がっているし、石畳で舗装された通路は、石が割れて凸凹している。
 通路に沿って咲いていたはずの花々は、どこからか飛んできた瓦礫の下敷きになっていてペタンコ、見ていて痛ましい。

 建物は言うまでもない。窓は割れ、外壁には亀裂が入り、大きく崩れている。あちこち黒く焦げて嫌な臭いがするのは、火や雷系の魔法の影響だろうか。
 そして、黒くなっている壁は濡れて湿っていた。まるで襲撃にでもあったかのような様相。どんよりした空模様とあいまって、私たちは言葉を失う。

「フェリクス、来たのか」

 驚く私たちに声をかけてきたのは、フェリクス副隊長の兄、ヴォードフェルム隊長だった。

 第一騎士団も来てたんだ。

 私はぼーっとしながら、ヴォードフェルム隊長とフェリクス副隊長のやりとりを眺める。

「第三騎士団にも出動命令が出たって言われたからな」

「ヴォードフェルム君、今はどういう状況かなぁ?」

 肩をすくめて兄に言葉を返すフェリクス副隊長の背後に突然現れたのは、ヴァンフェルム団長だ。

「「ヴァンフェルム団長!」」

 のほほんとした団長の声に、その場の全員が固まる。

 ヴァンフェルム団長の赤茶髪に赤眼は、クラウドにそっくり。
 髪と眼の色は魔力の特徴や性質に依存して決まるので、親兄弟でもまったく違うものではあるけど。団長とクラウドの場合は親戚関係、叔父と甥なので、顔もどこか似ているから、親子と言われても違和感はなかった。

 団長はのんびりとした口調はそのままで、ヴォードフェルム隊長に対して、言葉を続ける。

「うちにも経緯を報告してもらえない?」

「私からでよろしいのでしょうか?」

「向こうもなんか、大変そうだからねぇ」

 団長の視線の先は、ボロボロになった建物を囲む人、よれよれしながら建物から出てきた人、出てきた人を移動させる人、周りで走り回ってる人でごった返していた。


 

 ヴォードフェルム隊長は、どういうわけだか言いにくそうな様子。

「毎年恒例のアレが起きまして…………」

「それは分かってる。アキュシーザ殿と次席殿で魔術的な対処をして、近衛騎士団と第一騎士団で抑える手はずだろう?」

 うん、すでに手はずは整っていたってことだよね。なのに、手はず通りにいかなくて、第三騎士団が呼ばれてしまった。その理由を団長は確認しているわけか。

 ヴォードフェルム隊長は口ごもる。

「それが…………。今回、運悪く次席殿が体調不良で休んでいまして。代理の者ではうまく防ぎきれなかったんです」

「なんだい、それ」

 私が何かをやらかしたときも一切動じることなく、いつものんびりしているヴァンフェルム団長が、普段とは違う厳しい目をヴォードフェルム隊長に向けた。

 そばで話を聞いている隊長クラスの人や、フェリクス副隊長まで同じような顔つき。
 今回が初めての私やクラウドは訳が分からず、ただ話を聞くことしか出来ない。

「それが…………第二王子殿下からの推薦でしたので。断るわけにもいかず。おかげで、建物にも騎士にも被害が出ています」

「それで、逆に向こうに結界を張られちゃったというわけか」

 ヴァンフェルム団長は厳しい目を通り越して呆れた目になる。隊長クラスの人たちはザワザワし始めた。

 にしても、またあのカス王子か。

 なんでまた、あのカス王子の意見なんて通すんだろ。王宮魔術師団や騎士団に対して、王族であること以外になんか権限でも持っているんだろうか。

「うちの団長の命令で、第一騎士団は近衛騎士団と突入を試みたのですが。結界が防壁並みに堅くて、中へ入れませんでした」

「メタメタに壊れてるけど、それでも入れないの?」

 団長は目だけでなく、顔の表情まで呆れたものになった。

 結界が防壁並みって。何それ、引きこもり?

「本当に入れないのか、ヴァンフェルム団長に確認していただいても構いませんが」

「いや、止めておこう」

 呆れ顔にムッとしたのか、ヴォードフェルム隊長が嫌そうな顔を見せる。
 この人、元々、上から目線をする人だったわ。自分が上からなのはよくて、他人に上からされるのは嫌なんだ。へー。まぁ、あるあるなタイプだよね。

「今は、人的被害がこれ以上出ないよう、周りを囲んでいます。おそらく、今日が過ぎれば落ち着くのではないかと」

「周りを取り囲むなら、もっと協力し合わないとなぁ」

「非常に耳が痛いですね」

 団長と隊長たちは視線を建物の周りに向けると、頭を振ってため息をつき始めた。




 彼らの視線の先、というと。

 いるのは最初に出動になった近衛騎士団と第一騎士団。
 ヴォードフェルム隊長の話だと周りを囲んでいるってことだったけど。

 囲むのなら、建物に異常はないかと建物を見張るか、もしくは建物に誰かが近づかないよう建物を背にして見張るかの、どちらかだと思うのに。

「近衛騎士団と第一騎士団が見つめ合ってる」

 彼らは互いに互いを見ていたのだ。
 見張り方が斬新で、馴染めない。

「エルシア、あれは見つめ合ってるんじゃなくて。睨み合ってるんだよ」

「王宮魔術師団とソニアたちも見つめ合ってるけど?」

「そっちも睨み合ってるんだろ。あそこも仲が悪いからな」

 団長がわざわざ協力云々と口にしたのは、こういうことだったのか。

「うん、もっと平和に仕事がしたい」

「そもそも、現況が平和とはかけ離れているな」

 私とクラウドは同時にため息をついた。




 と、ヴァンフェルム団長たちがヴォードフェルム隊長との話を切り上げて、第三騎士団が集まっているところへ合流した。

「はいはい、お喋りしない。また反省文を書きたいのかな?」

「反省文は嫌です」

「なら、静かにする」

 喋っていたのは私だけじゃないのに、と思いつつ、代表して反省文と言われるのも嫌なので口をつぐむ。

「団長、どうするつもりだ?」

 隊長たちが集まる中、私を含めたその他の騎士たちがじっとヴァンフェルム団長の言葉を待つ。

「近衛騎士団、第一騎士団とともに、明日の朝までここを見守るか。
 もしくは、結界の中に入って原因をどうにかするか。だねぇ」

 呆れた様子をすっかり引っ込めて、いつもののんびり口調に戻る団長。
 団長がいつも通りだと、下の騎士たちも安心するし、安心すれば落ち着きも出てくる。

「結界をどうにかするなら、魔術師が必要ですよね」

 という誰かの発言に、別のところから返答があった。

「王宮魔術師団は魔力切れ状態だわ! 第一騎士団もかなり疲弊しているし。動けるのは第三騎士団の魔術師だけよ!」

「王女殿下」

 いやいや、王女殿下だって魔術師だよね。五強の杖の主でしょ。

 と言いたかったけど、我慢する。
 目立って良いことがあったためしがない。

「今はね、王宮魔術師と第一騎士団の魔術師で余力がある者が、アレの魔力余波をなんとか相殺させているの」

「リグヌム殿は?」

「もちろん、リグヌムにも手伝ってもらっているわ」

 王女殿下は建物近く、囲んでいる騎士の外側にいる魔術師の集団を指差した。

 睨み合う魔術師同士のちょうど中間に、人型に顕現したリグヌムが微妙な顔つきで立っている。あれは困り顔だ。こんなところに放置しないでくれっていう目もしているし。
 本当ならあの中間、リグヌムがいるところに、王女殿下がいるはずなんだろう。

「最後の望みは第三騎士団よ! ヴァンフェルム団長が言ってたように、第三騎士団で結界を崩して、中に入り、元凶をどうにかしてちょうだい!」

「確かに言ったが、第三騎士団でやるとは言ってないんだけどなぁ」

「つべこべ言わない! もう第三騎士団しか元気な魔術師が残ってないんだから!」

 ヴァンフェルム団長はリグヌムと同じ顔になった。困り顔だ。
 王女殿下がヴァンフェルム団長に命令する権限はないし、団長が命令に従う義務もない。

 それなのに、団長が困り顔をしている、ということは…………。

 私は嫌な予感がした。
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