運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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1 王女殿下の魔猫編

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 で、けっきょく。

 第三騎士団の魔術師が先頭になって突入し筆頭魔術師を無力化して連れてくる、という指示が下った。

 近衛と第一で包囲とは言ってたけど、

「殿下方、近衛が待機場所を設営しましたので、そちらまでお下がりください」

 と王族に声がかかる。

 近衛は王宮や王族の警護が仕事。王族のいる場では、筆頭が立てこもっている建物の包囲は二の次。だから王族四人のために待機するところを作り、そこを守る。

 第一騎士団が建物を包囲する形となり、自然と睨み合いも消え去った。

 残るはダイアナ嬢と王宮魔術師団。こちらも、魔力が尽きたか尽きかけている状態なので、おとなしく安全な場所に移る。
 よって、王女殿下とダイアナ嬢の対立も、王宮魔術師団と第一騎士団魔術師の睨み合いもなくなった。

 そして、私はパシアヌス様とユリンナ先輩に挟まれて、ヴァンフェルム団長の後ろをチョコチョコ歩いていた。王太子殿下の元に向かって。私の後ろにはクストス隊長とクラウド。完全に囲まれている。くぅ。

 ところが。

「わたくしはここにいるわ! リグヌムが結界を張っているんだから!」

「デルティ、第三騎士団と交代だ」

 何やら、騒がしい。

「ユニー兄さま。わたくしだって役に立てるわ!」

「デルティ、それではあのセイクリウス嬢と大差ない」

 近くまでいくと、王太子殿下と王女殿下が対峙しているのが目に入る。

「あの傲慢魔術師といっしょにしないでほしいわ!」

「リグヌム、デルティを後方へ運べ」

「主、あちらへ行こう」

 この頑固に自分の意見を曲げないところは、誰に似たのかな。
 そう思いながら、私は王族の二人を見て、間に挟まれるリグヌムに少し同情した。




 近づくと、王太子殿下は気配を敏感に察知して、私に顔を向けた。

「ルベラス嬢、お願いする」

「…………はい」

 しぶしぶ返事をする私。

 その私の顔にポツッと冷たいものが落ちた。雨だ。

「エルシア、その嫌そうな顔、どうにかしろ」

 空を見上げようとして、クラウドの視線とぶち当たる。クラウドの顔は心配そのもの、私が王太子殿下の前で何かやらかすんじゃないかと思っているようだ。

「ルベラス君、王太子殿下もこうおしゃってるんだ。よろしく頼むよ」

「…………はい」

 ヴァンフェルム団長も念を押してくるので、いやいや返事をする私。

 仕方ないなと思って、軽く右手を振り、黄色い旗付きの棒を取り出す。

 ポツッ

 またもや、雨粒が顔に落ちた。

 本格的に降り出すのはもう少し先になりそうだけど。土砂降りになる前に終わらせて帰りたい。

 私は黄色い旗付きの棒を両手に持ち直す。そのとき、

「だからエルシア、その嫌そうな顔を……」

「まぁ、本当にその黄色い旗付きがエルシアの杖なのね!」

 再度、注意しようとしたクラウドの声が、明るい声にかき消された。

 ビックリするクラウド。驚いたのはクラウドだけじゃなく、団長や隊長、そして王太子殿下と私の周りにいる人全員。

 明るい声を上げて立っていたのは、下がったはずの王女殿下だったのだ。しかも、私の棒を見てニコニコしてるし。

「そうですが、何か?」

 私の声が辺りに低く響き、不機嫌そうに聞こえたとしても、仕方がないことだと思う。

「いえ、かわいらしいなぁ、と思って」

「思ってませんよね」

 どう見ても、私の棒をおもしろがっている。

「いえいえ、冗談みたいな杖だわ、と思ってるだけよ!」

 ほら、みろ。かわいらしいって思ってないでしょうに。

「それより! わたくしが手伝いますわ。こう見えてわたくし、五強の主ですし」

「結構です」

 面倒だし。

 キッパリ拒否。うん、すっきりする。

 私のすっきり感とは反対に、クラウドは慌て、クストス隊長は頭を抱え、ヴァンフェルム団長は遠い目をした。

「おい、エルシア。不敬だって。団長も何か言ってやってくださいよ」

「まぁ、この場はルベラス君に頑張ってもらわないといけないからなぁ」

 何なの、この人たち。




 そして。

「デルティ、下がれ」

「お兄さま! エルシアにはわたくしの助力が必要ですわ!」

「いい加減にしろ、デルティ。彼女を怒らせるな」

 兄妹ケンカは他でやってほしい。

 ポツッ

 また雨粒だ。間隔が短くなってるように感じる。そろそろ急がないとマズい。それにこれ以上、話を聞いていたくもない。

 私が黄色い旗付きの棒を振ろうとした瞬間、王女殿下が爆発した。

「だって事実じゃないの! ちょっと出来るとは言っても、エルシア嬢は普通の魔術師よ! 五強のわたくしが助けてさしあげないと!」

 あ、ヤバい。これは別の意味でマズい。




 グゥゥゥゥン




 そう思ったときには遅かった。私の周りにだけ、もの凄い魔力圧がかかる。

 私の周りの全員が、声を出すことも出来ずに呻いた。

 そこへ、怒りをはらんだ声。

《つけあがるな!》

 その怒りは真っ直ぐに王女殿下に向けられる。

「…………!」

《たかだか五強のくせに、さっきからギャンギャンと騒々しい。スロンの身内でなければ消してたぞ》

「も、申し訳ありません。主、下がろう」

「で、でも」

「すでにこちらの結界は解除済みだ。それより、主、マズい。本気で消される」

「え………………。」

 物騒なことを言って私たちを見るリグヌム。何かを感じ取ったのか王女殿下は言葉に詰まる。

 リグヌムは王女殿下の面前から脇にさっと移動した。そしてそのまま絶句する王女殿下を脇に抱えると、リグヌムは脇目も振らず、待機場所を目指して走っていった。




 王女殿下がいなくなると、私の杖も気が済んだようで、魔力圧がひっこんだ。同時に私の周りの人たちが大きく息を吸う音が聞こえ始める。

 そんな中、王太子殿下は何事もなかったように、私に話しかけてきた。

「第三の騎士や魔術師はどうする?」

「ここで待機ってことで」

 短く答えると、うむ、と王太子殿下も短く答える。

「だそうだ、ヴァンフェルム団長」

「ハッ」

 すぐさま、私の意向は王太子殿下の指示として、団長に伝えられる。

「じゃ、ここはよろしく」

「承知した」

 私は王太子殿下に後を任せると、トコトコと普通に歩いて、壊れかけた王宮魔術管理部の建物に近づいていった。

「エルシア!」

 クラウドに似た声が私を呼んでいたような気がした。




 私の背後からはさらに複数の声が、聞こえたような聞こえないような。

「ルベラス嬢は心配ない」

「あ、申し訳ありません」

「セラより強い魔導師など存在しないからな」

「え?」

「それより、自分らの心配をした方がよいな」

 最後に聞こえたのは、王太子殿下の警告の声だったかもしれない。

 ポツッポツッ

 とうとう雨が遠慮なく降り出した。
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